岐阜県の「使用済金属類営業条例」を考える

復活する金属屑営業条例

第八章 第四波 条例復活・新規制も登場より

1 岐阜県 使用済金属類営業条例を再制定

岐阜県は1957年(昭和32)金属屑の盗難多発を防止するため「金属くず営業条例」を制定したが、98年以降の世界的な金属相場の急落と金属屑の盗難事件の減少を受け2000年(平成12)4月、同条例を廃止した。 

その後、再び金属屑や自動車窃盗事件が急増したことから岐阜県は対応措置として「岐阜県使用済金属類営業条例」を改めて制定し、13年10月1日から再施行した。

新条例は、21世紀の資源環境や世界情勢、集荷・回収現場の変化を踏まえた最新版として登場したが、同時に朝鮮戦争さ中の金属屑条例登場(1950年)時の従業員条項や品触れの過失処罰条項も復活させた。最も原初(オリジナル)型に忠実な条例である。

■岐阜県が13年10月 バージョン・アップして復活

旧条例は、金属屑商は許可(3条)。行商は届出(20条)だったが、新条例はいずれも許可(3条)とした。許可証の掲示(6条)、名義貸しの禁止(11条)、行商証明書の携帯(12条)、取引相手の本人確認(14条)、不正品の申告(15条)、取引に関する記録(16条)、記録の保存(17条)や警察による品触れ(18条)、差止め(19条)、警察等の報告徴収・資料提出要求、営業所等への立入検査(22条)、指示(23条)、営業停止命令(24条)など旧条例を踏襲しつつ、新たに許可申請を排除する欠格条項の範囲を、遺失物横領を含む財産犯や盗品売買、粗暴犯など廃棄物処理法並に厳格化(4条)し、さらに営業場所の制限(13条)、従業者名簿の保存(20条)、防犯対策(21条)を新設した。また報告徴収の範囲も旧例の「盗品等又は遺失物に関し必要な報告を求める」から「使用済金属類取引業者に対し、使用済金属類営業に関し必要な報告又は資料の提出を求めることができる」(22条)と営業全般に拡大。道府県条例としては初の「品触れの過失」(34条)を処罰対象とした。

■家電リサイクル法、国際テロ対策として

新設の営業場所の制限(13条)は、取引業者は営業所又はこれに準ずる以外の場所で取引業者以外の者から使用済金属類を受取ってはならないと規定する。トラックなどで巡回し廃家電を無料回収するケースや所在地を転々と変える不定業者対策と見られ、この違反は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」である。また従業者名簿の保存(20条)は、使用済金属として廃自動車を明示した(2条)ことなどから、短期就労で出入りが頻繁な外国人従事者が多い自動車解体業の従業員動向把握(国際テロ対策)が目的かと推察できる。

■「公安法」へ先祖返りの一面も

▽従業員条項を新設=「公安委員会規則の定めるところにより、従業者の住居、氏名その他を記録した名簿を保存しておかなければならない」(20条)。これは旧条例にはない。新設条項である。他県でも最初期の金属条例は厳格な従業員条項(山口、福岡)を持ち、兵庫にも同条項はあった、その後の改正ですべて廃止されたものだ。

「従業員条項」は県レベルで制定第1号となった山口県条例(1956年条例28号。3条)が先例で朝鮮戦争さ中の敵性市民対策と目された(第二章参照)。13年の岐阜県条例では国際テロ対策の一環とも考えられる。ただし先例とは異なり処罰規定はない。努力規定である。

▽品触れの過失を処罰=「過失により第18条第5項(品触れ品の届出)の規定に違反した者は、拘留又は科料に処する」(34条)。これも旧条例にはない。他の道府県条例にも先例はなく、佐世保市条例(1950年佐世保市条例44号。25条)が唯一制定しただけである。

前記の従業員条項と合わせ、過失を処罰する13年の岐阜県條例は、60数年前のGHQ統治下の「治安」条例そのものの復活を思わせる極めて異例なものである。

岐阜県条例と「品触れの過失」を考える

 岐阜条例の特徴は、21世紀の鉄屑流通事情を踏まえ、かつ最も原初的な取締り規定を兼備していることだろう。いわば最先端の時代状況をキャッチアップしながら、タイムスリップ的な厳罰主義をまとっている。

なかでも最大の特徴は、他の道府県条例にも例がなく、刑法の原則に照らしても問題の多い「品触れの過失」を処罰対象に加えたことだ。

「品触れの過失」は朝鮮戦争下の佐世保市条例(50年12月)で登場したが、上級自治体である長崎県条例はこの条項は引き継がず、大阪の条例審議では明確に否定した(57年2月4日、大阪府警防犯部長「過失の犯罪は刑法の原則によって処分しない(注1)」金属屑営業条例に関する懇談会26p)。また1958年までに条例を制定した29道府県の全てが、この条項を採用していない。

それが2013年岐阜条例で、1950年の佐世保市に次ぐ第2号として突如、復活した。

なぜ問題なのか。「使用済金属類取引業者は、売買若しくは交換のため、又は売買若しくは交換の委託により、使用済金属類を受け取り、又は引き渡したときは、その都度、公安委員会規則事項の記録を作成しておかなければならない」(16条)。また「警察本部長等は、使用済金属類営業に関し必要な報告又は資料の提出を求めることができる」(22条第1項)し「使用済金属類取引業者の営業所、保管場所又は解体場所に立ち入り、使用済金属類及び第16条の記録その他の物件を検査し、関係者に質問することができる」(第2項)から「品触れ届出の過失」の嫌疑・摘発を理由とすれば解釈上、報告徴収・立入検査は(ほとんど自由に)可能となる。

法令は第一義的に警察が解釈する(注2)。その解釈可能性の故に29道府県全てが「品触れの過失処罰」規定の採用を抑制し、認めなかった歴史的経緯がある。

注1・改正刑法準備草案=法務省は60年、改正刑法準備草案(未定稿)を公表し、贓物(ぞうぶつ)規定に過失犯を罰する条項を新設した。即ち「営業に関し過失により事情を知らないで、盗品その他の財産に対する罪によって得たものを保管し有償で取得し又はその処分の周旋をした者は、30万円以下の罰金に処する」。「営業に関し」であるから、すべての商行為が対象。「過失により事情を知らないで」だから「事情を知らない」不注意(過失)が犯罪を構成する規定である。 

草案に対し、東京都古物商防犯連合会が63年6月草案撤回総決起大会を開いたのが反対運動の端緒となった。同年9月の日本再生資源回収組合連合会(日資連)第12回総会は草案反対を決議した。年を越した65年3月16日、日資連三千名、全古連(古物商)千五百名、全質連(質商)八百名、全金融(金融)二百名、4団体・計五千五百名の業者」(東資協二十年史)が日比谷公会堂に参集して総決起大会を開催。全国的な陳情・請願運動を各地で活発に繰りひろげた。

65年6月に開催された法制審議会第五小委員会の審議では同条項の削除が多数を占めた。65年10月、各小委員会の取りまとめを行った刑事法特別部会は「財産犯には過失犯を適用すべきでない」との意見を了解した。95年贓物規定は「盗品に関する罪」(256条)として改正されたが「過失犯」規定は登場しなかった。

 注2=「法律あるいは条例が一旦制定された以上、立法者の主観的な善意とは離れて独自の動きをするようになり、その法律に押しひしがれていく人間を作っていく」(57年2月5日、増永弁護士発言。金属くず営業条例に関する懇談会速記録79p)。

1 岐阜県使用済金属類営業条例

制定 平成25年3月26日 条例28号 (全文36条)

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