企業経営、組合活動はどうあるべきか

大事なのは高い理想と「信頼・安心」の日常的な積み重ね

■はじめに=15年11月現在、鉄スクラップ価格は04年のBRICSの登場以前に後退し、状況はさらに悪化している。供給過剰(鉄鉱石、原料炭鉱山の新規開拓)と消費過小(世界経済の混迷)から需給ギャップは鋏状的に拡大し、今後当面はその改善が見込めないためだ。H2炉前価格もBRICS登場以前の10,000~15,000円を覚悟する必要がある。▼以下の文章は14年7月、資源組合の講演会冒頭、講演にあたっての心構えとして語った内容要約を再掲載したものである。

■将来を生きるために=私は13年冬、「日本鉄スクラップ史集成」を出版した。これを読んだ地方在住の業者から、だが、それら(日本鉄スクラップ史集成)は過去の話だ。次は是非、我われが「未来に生きるために」、「いま必要なこと」を書いて欲しい、と指摘された。なるほど、と思った。では、「未来に生きるために」、「いま必要なこと」とは何か。言い換えれば、業の現在と未来をつなぐこと、とは・・・果たして何か。
▼それは「マーケットのなかでビジネスを行うこと」である。では、マーケットとは何か。それは「与えられた(共通の)現在そのもの」、所与の条件のすべて、である。参加者全員に与えられた現在・現実だからまことに平等、誰にとっても有利不利は無い。マーケットには、良いマーケットも、悪いマーケットもない。良くも悪くも与えられたマーケットしかない。それは、我々の天上に広がり、降りかかる天気と同じなのだ。
▼ではビジネスとは何か。それは与えられた現在(マーケット)のなかで、一人ひとりが「(未来を)選び取る」行為である。個人の自由選択だから、創意・工夫次第でどのような未来も可能である。ひたすらな努力、継続、挑戦が、現在制約(マーケット)を越え、将来を創造する。

■マーケットを一言でいえば=では、このマーケットは具体的にどう理解すべきか。私はそれを「成熟社会」、全体数量が増加する成長経済から、個々の品質が求められる社会に移行した、と考えている(あるキャッチフレーズに「満腹よりも満足」とあった)。それが軽自動車の新車・下取りが、リタイアから不要になったベンツを捨てる時代なのだ。▼単に数量を追うパワー時代は終わった。求められるのは品質・個性、満足。だからこそ他社とは違う、新たな「創意・工夫」、「存在感の創造」、「ビジネスの発見」が求められる。

■世間との交渉について=たかが鉄スクラップ。たかが古紙、たかがウエスとの感覚は無いか?自分の商売を、ないがしろにする考えは間違っている。▼この商売で生き続けるなら、「商品特性」、商売に「まとわる」あらゆる可能性(流通全体)を考え、「他社との違い」「使い勝手の良さ」を、世間に認めさせ無ければならない。そのためには世間との「接点」、「認知」の獲得が必要となる。▼まず最低限の条件として、パソコンを持ち、自社のHpを開設する必要がある。▼なぜなら、現在社会ではHpを持たない会社は、ネット空間では「存在しない」と扱われる。それは30年前なら、電話を持たない会社は、世間から使い物にならないと見られたのと同じ。ネットでアクセスは、直接アプローチの機会を提供する(Hpは「見える電話」。ネットでのチェックが遠距離電話をつなぐ)。その機会を自ら放棄するのは、最初の一歩の放棄(やる気の無さ)だからだ。

行政の対応は旧態依然だ。ゴミ屋としか見ない、と聞いた=人は固定観念に生きる。また稼ぐ必要も、収益査定も無い行政担当者にとって、仕事は少ないほどいい。相手が諦めて(黙って)帰って行く、窓口対応が望ましい(仕事が増えれば、彼は同僚に疎まれるだろう)。▼だから窓口が、どうしても対応せざるを得ない論理・資料などで武装し、切り込まなければならない。そうして自分たちの商売は21世紀の戦略産業。地上の資源、地上の鉱山主だ、と堂々と胸を張ればいいのだ。▼信念を持たない者は他者を説得できない。そのためには自分の社会的な存在理由、必要理由を掘り下げ、自信を信念に変えなければならない。

■廃棄物扱いとコンプライアンスについて=世間は、資源物であると同時に適法処理が求められる厄介物だと、一歩距離を引いて見ている。であれば、その世間の見方、発想を逆手にとって、自分たちに与えられた独自の商売として利用すればいい。▼資源物回収は排出者(市民)の協力義務だし、適法処理には費用が「当然」発生する。それが市民の協力義務であり、費用負担であると堂々と主張すればいい(その言葉を使いこなさなければならない)。▼その説得こそが、まさに「ビジネス」。その言葉に裏付けを与えるのが安心、信用、信頼の「コンプライアンス」(法令遵守)。▼廃棄物という厄介物をプロが扱う。だからその適法処理費用を請求する、コンプライアンス(信頼構築)こそがすべてである。

■信念の共有がすべて=大きく望めば大きくかなう、その信念に徹すること。企業とは大きい小さいはあっても人の集合。人を束ね、導くのがトップの仕事。だからトップは、将来を照らす松明を高く掲げ、その信念を社員と共有する作業(教育)を怠ってはならない。

■組合活動とメリット論について=組合とは本来、対外的な存在だ。つまり個々の企業では円滑にできない行政や市民などとの対外交渉を、外部に対し一体として発言し、市民権を得る活動のはずだ(仲間を過度に意識する組織は、最低速の船を守る護送船団の弊に陥りやすい)。▼組合などの参加要請に対し「組合に入れば、どんなメリットがあるのか」との質問に苦しむと聞いた。私は、その質問自体が間違っていると考える。なぜならメリットは他者から与えられるものではなく、自らの努力でかちとるものだからだ。あらゆる組織は信念を持つ少数者から出発した(キリスト教の始めはわずか13人でした)。であれば、数の大小に左右される必要はない。要は、この組織を使って何を為すべきか。その信念が人(他者、組織)を動かすのだ。