ウクライナクライシスと今後を考える(追加)

 

「ブロック経済・世界経済の対立」=1991年のソ連崩壊、世界は「グローバル経済」に一本化された。この間の30年間。世界の工場となった中国は急成長し、ロシアは旧東側諸国のNATO入りを見る屈辱を味わった。近年。米国は経済、軍事を脅かすまでに成長した中国との対立を深め、凋落したロシアは中国との関係を模索。今年2月。世界は一気にキナ臭くなった。米国・ロシアともに核兵器を戦略的に使えないが、技術の高度化から地域限定の局地戦争(戦術核)には可能となった。ウクライナに現に起きていることが、それだ。

 

対外投資、資源物流、需給構造も変化=ロシアのウクライナ侵攻とその後に予想される世界経済のブロック化と「地政学的なリスク」への警戒から、欧米各国からロシア、中国、台湾、さらに韓国、日本などへの外資投資が手控えられる可能性がでてきた(注1参照)。

旧東欧や中国など「地政学的なリスク」の警戒は、「世界の工場」の投資の見直し、原材料などを中心とする物流変化に直結し、世界的な需給構造の再編につながる可能性がでてきた。

 産業活動の始原材料である鉄鋼、鉄スクラップ産業も、この動きとは無縁ではない。

 

世界経済、破綻の危機=ロシアと中国は24日の首脳会談で、ウクライナ情勢と台湾問題で連携を強調。中国へ天然ガスを追加供給することでも合意した。その後のロシアのswift排除から、ロシアの中国依存はさらに高まった。ドルを基軸とする国際決済機関(swift)からのロシアの追放は「中国とロシア間の決済手段の新設」を促す可能性が高い。「一帯一路」などでアジア、資金供与でアフリカに影響力を持つ中国が、米国を主軸とする現在の金融決済、世界経済の枠組みに、新たな対抗軸を構築する可能性がでてきた。

また最悪のシナリオとしては、ロシア経済が破綻すれば、その対外債務支払い不能(デフォルト)の影響は、リーマンショックどころではないだろう(だからswiftからのロシアの追放は「金融の核兵器」の発動とされた)(注2参照)。

 

注1  21年粗鋼生産、ロシア・鉄鉱石・銑鉄・鉄スクラップ、データ

1  世界粗鋼=18億6,398万㌧。①中国105,300万㌧(▼銑鉄 ①88,752万㌧)。②インド9,957万㌧。③日本8,319万㌧。④ロシア7,340万㌧(▼銑鉄 ④5,168万㌧)。⑤米国7,269万㌧(▼銑鉄 ⑨1,836万㌧)。⑥韓国6,712万㌧。⑦トルコ3,576万㌧(▼銑鉄 ⑨997万㌧)。*ウクライナ=⑪粗鋼生産2,062万㌧。▼銑鉄⑥2,042万㌧

2  ロシア銑鉄輸出21年393.3万㌧=①米国183.9万㌧(46.8%)。②トルコ79.0万㌧(20.1%)。③中国39.5万㌧(10.0%)。④イタリア33.1万㌧(8.4%)。ほか。

3  ロシア鉄鉱石輸出21年1~11月2,203万㌧=①中国878.8万㌧、②独222.8万㌧、③スロバキア201.7万㌧、④ウクライナ151.6万㌧、⑤仏140.4万㌧、⑥トルコ125.4万㌧、⑦オランダ120.6万㌧。⑧フィンランド77.4万㌧。⑨チェコ64.7万㌧。⑩英57.8万㌧。

4  ロシア鉄スクラップ輸出21年412.5万㌧=①トルコ172.9万㌧(41.9%)、②ベラルーシ94.9万㌧(23.0%)、③韓国76.6万㌧(18.6%)、④スペイン13.1万㌧(3.2%)

 

注1データの解説

1 粗鋼生産の分析=世界粗鋼生産18.6億㌧のうち、世界4位のロシアと11位のウクライナの合計量は9,402万㌧。世界3位の日本を上回る。この生産がswift排除から市場性を失う。

2 銑鉄輸出の分析=米国の粗鋼生産は世界5位、銑鉄生産は9位。トルコは粗鋼生産3,576万㌧に対し、銑鉄生産は997万㌧に過ぎない。このギャップは、転炉生産に比べ電炉生産割合が高いためだ(電炉比率19年・米国69.7%、トルコ67.8%、イタリア81.9%、中国10.4%)。これに関連してロシア銑鉄輸出順は、米国、トルコ、中国、イタリアである。
*この銑鉄輸出がswift排除から市場性を失う。銑鉄代替としての鉄スクラップが浮上する。

3 鉄鉱石、鉄スクラップ輸出の分析=ロシア鉄鉱石は近隣の②ドイツ、③スロバキア、④ウクライナ、⑤フランス、⑥トルコ、⑦オランダ、⑧フィンランド、⑨チェコなどに輸出されている。また鉄スクラップは①トルコ(全体の43.6%)、②ベラルーシ(24.7%)、③韓国515.5%)などに出ている。これがswift排除から市場性を失う。この代替需要が今後の焦点となる。

 

注2 マスコミ報道より

国際決済網からロシアを排除(2月28日・日経新聞。以下同様)米欧カナダの6カ国とEU26日、国際決済網(SWIFT)から排除も決めた。ロシアの中央銀行に制裁を科しロシアの外貨準備を使えなくして通貨ルーブルの防衛を困難にする狙いだ。

ロシア、20%に大幅利上げロシア中央銀行は28日、政策金利を9.5%から20%に引き上げると発表。通貨安に伴うインフレ加速を抑えるため、緊急利上げに踏み切った。

ロシア、信用危機に直面(3月2日)=ロシアが信用危機に直面している。通貨ルーブルの急落や外貨取引を制限する制裁を受けて、対外債務に債務不履行(デフォルト)の懸念が高まった。国内の金融システムにも不安が広がる二重の信用危機だ。G7財務相・中央銀行総裁は1日制裁に関して「今後もさらなる行動を取る」との方針で一致した。

「金融の核兵器」火種に(3月2日・毎日新聞)=真っ先に影響を受けるのは欧州だ。フランスとイタリアの銀行はそれぞれ計250億㌦、オーストリアも175億㌦の国債を抱えているとの推測もあり、またロシア企業に融資する金融機関も多く、この債務がこげつけば金融不安につながりかねない。ロシアは鉱物資源の産出国でもあるだけに世界的な打撃を受けそうだ。

ウクライナ侵攻 危機の世界秩序(5)企業に迫る「政冷経冷」(3月2日)中国が台湾に侵攻したら――。ある自動車部品大手の社長は「チャイナプラスワンではなく、チャイナはプラス10%の時代」と話す。「中国では同国内需向けの生産にとどめ、輸出するとしても生産量の10%まで」(に抑える)との考えだ。中国事業は巨大で、簡単に「遮断せよ」とはいかない。だが、力による現状変更が現実となった今、企業にとって有事を口にすることはタブーではなくなった。

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*原油100ドル、世界経済、失速の懸念(2月25日)WTI原油先物と、ロンドン市場の北海ブレント先物の期近物は24日、そろって1バレル100ドル台に上昇した。米JPモルガン・チェースは原油価格が150ドルに上昇した場合、今年上期の成長率が0.9%前後にとどまり、現在の予想(4.1%)を大きく下回ると見通す。FRB3月にも利上げを開始する見込みだが、ウクライナ情勢を受けて「利上げのペースは変わる可能性がある」との見方が広がる。

以上