「関東鉄源協 鉄スクラップ流出 水際対策を・・・の主張への異論」

                   スチールストーリーJAPAN・冨高 幸雄(23221日)

 

 

「関東鉄源協・南理事長 スクラップ流出 水際対策を」(2月20日・産業新聞)=見出し

 

そのリード文=関東鉄源協同組合の南光司理事長(ミナミ社長)は15日、鉄リサイクル業界の若手に対し外資系業者の新規参入への具体的な水際対策を期待すると述べた。鉄リサイクル工業会関東支部の若手の会「錆年会」の勉強会での講演で発言した。

 

本文要約

*1 関東地区の鉄スクラップの月間発生量約70万㌧のうち、約25万㌧を外資系鉄リサイクル企業が購入しており、国内企業の取扱量は減っていると指摘。『このままでは工業会の関東支部所属企業の3分の1はなくなるだろう』。

*2 工業会の対応は『遅れている。何をやっているんだ』と思う。対策として「『根本的部分(日本の法整備)に切り込む必要がある。若手の力でどんどん上を動かして欲しい』」。

*3 「海外の業者が日本で回収、輸出する例が増えている。世界的な鉄スクラップの需要の高まりが背景にある。輸出企業が高値で買うために、集荷価格は国内鉄スクラップ業者よりもおおむね高い」

*4 「ただ海外系業者の操業が違法状態にあったり、廃棄物処理法の認可を受けていないケースがしばしばあるという」「有価物とされる鉄スクラップは廃プラスチックと異なり、法律や条例の直接の規制がない」。

*5 『税、法律、労働環境の面で、国内企業と同じテーブルに乗ったら、同じ業種の仲間として迎え入れるべきだ』。(以下略)。

 

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との記事が掲載された。以下は、その掲載記事に対する冨高幸雄の見解である。

 

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論点整理と疑問点

 

1 全体記事内容を要約するリード文は「外資系業者の新規参入への具体的な水際対策を期待する」である。本文によれば月間発生量約70万㌧のうち約25万㌧が外資系企業に渡っており国内企業の取扱量は減っている。その理由は輸出企業が高値で買うためだ。なぜ高値で買うのか。「世界的な鉄スクラップの需要の高まりが背景にある」からだ、という。

 

2 その結果、このままでは関東支部所属企業の3分の1はなくなるだろう(*1)。
ただ海外系業者の操業が違法状態にあったり、廃棄物処理法の認可を受けていないケースがある。鉄スクラップは廃プラスチックと異なり、法律や条例の規制がない(*4)からだ。
対策として『根本的部分(法整備)に切り込む必要がある(*2)・・・という。

 

3 30年前、鉄スクラップ輸出業者は「国賊」扱いされた。その輸出団体が「外資系業者の新規参入への具体的な水際対策を期待する」と主張する。違法ヤードが問題であれば、それは(数は多いが)なにも「外資系業者」だけの問題に限らない。違法状態があれば、一般法に従い、日系企業、外資系企業を問わず、国の法規制と監督に任せればいい。

 

4 演者は(外資系企業問題と絡めて)『根本的部分(法整備)に切り込む必要がある』という。しかし、これは鉄リサイクル法制への重大な歴史的修正意見である。

 

「鉄は国家だった」から、戦前の「鉄屑統制令」は鉄屑商売を国の管理下に置き、「金属回収令」は鉄屑業者を手足とした。しかし戦後の「古物営業法」(49年制定)は、鉄屑を「廃品であって古物ではない」として規制の外に置いた。誰でもが自由に商売ができる法体制とした。

 

5 誰でもが自由に商売ができる環境から戦後困窮のなか、その日の糧を求める市民や旧植民地の在日労働者など「新規参入」業者が全国各地で続出し、今日にいたる地盤を築いた。

 

6 さらに大きく事を構えれば、新規参入が業の活力と未来を生むのだ。

商売とは、あらゆる工夫・やり方、思いがけないビジネス・モデルから新たな展開が生まれる。たとえそれが先発業者の営業手法、価格設定と激しい摩擦を引き起こすことになり、先発業者の縄張り、既得権益を荒らすことになっても、それこそが切磋琢磨のバネとして、さらに活力ある商売の未来を切り開く。

であれば、排除するのではなく、新たな逞しいパートナー、手強いライバルが出現した。そう見ることで、商売の新たな地平が広がる。それが歴史の教えだろうと私は考える。

 

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金属くず営業条例の話=国の法律は、鉄屑商売を自由としたが、その直後の朝鮮戦争(506月)の勃発が(敵性外国人の監視を隠れた目的として)地方自治体が独自に制定できる条例の形(「金属屑営業条例」)で規制した(5012月・佐世保市条例)。また鉄屑カルテルの運営が危機的状況に陥った56年から58年にかけ、大阪など激しい反対運動を押し切って全国29道府県が条例施行に走った(反対運動を見た東京や京都、その他の県は導入を見送った)。逐次廃止されたが、現在でも大阪など16道府県が継続している。

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資料参照

*日本鉄スクラップ業者現代史――鉄屑カルテル、金属屑営業条例(177月 SSJ発行)

刊行物紹介 | STEEL STORY JAPAN

*日本鉄スクラップ 鉄鋼と業者140年史(2110SSJ発行)

刊行物紹介 | STEEL STORY JAPAN


hp掲載

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BS-TBS放映に備えて 金属屑条例・歴史的経緯と論点整理
BS-TBS放映に備えて 金属屑条例・歴史的経緯と論点整理 | STEEL STORY JAPAN

*金属屑営業条例(概説)

金属屑営業条例(概説) | STEEL STORY JAPAN

                 
以上