「カーボンニュートラル」と鉄スクラップビジネスを考える

                        (*スチールストーリーJAPAN 22年12月)

 

 

1 なぜ「カーボンニュートラル」、「ゼロカーボン」に鉄鋼業界は急ぐのか

 

キーワードは、「Scope3、ステークホルダー、コンプライアンス」である。

なぜならゼロカーボン。Co2排出抑制努力が、ビジネスの場で厳しく問われるからだ。

その基準が「Scope(領域)1,2,3」。なかでもScope3は、自社だけでなく、その支配下・影響力の及ぶ製造、配達、加工、製品廃棄など各段階の排出のすべてに及ぶ。

また大手高炉はその社会的役割から消費者、従業員、株主、得意先、地域社会、行政機関など(「ステークホルダー」)に関わるコンプライアンス(法令順守)厳守は絶対である。従って納入・出入りの「協力会社」も、その厳守、行動が強く求められる。

その絶対のキーワードが「信用・信頼・コンプライアンス」である。

 

2 ここ3年で起きたこと。世界の枠組みは大きく変わった

 

20年。1月中国武漢から始まったパンデミックが、人的・物的交流を強制的に中断させ(都市封鎖、工場・商店閉鎖)、経済活動は、停滞した(産業生産、貿易・流通は激減)。

*都市封鎖、工場閉鎖による収入減を補うため、主要各国は「給付金」を支給。企業倒産、失業増加は回避できたが、膨大な財政出動と市中への資金流出がインフレを呼び起こした。

 

21年。世界各国はコロナ対策(前門の虎)の「財政出動」と、その後始末のインフレ対策(後門の狼)に苦しんだ。経済活動は傷んではいたが、「ウイズコロナ」に動き出した。

*米国は新大統領の下、インフレ対策としての金融引き締め、ゼロ金利の見直しを急いだ。

*米国大統領のリーダーシップの下、4月以降「カーボンニュートラル」政策が動き出した。

 

22年。その米国が3月の0.25%を皮切りに5月、6月、7月、11月と4回連続で0.75%の大幅引き上げを断行。米国の金利は00.25%%から一気に3.754.0%に跳ね上がった。

*インフレ対策としての政策金利の大幅引き上げに(日本を除く)主要各国が追随した。

124日、ロシアがウクライナに侵攻。政治、経済、物流は「戦時」モードに変わった。

*ロシアの天然ガス供給不安が、欧州経済を直撃。また欧州は中国の最大の輸出先である。

*その中国は「ゼロコロナ」(都市封鎖)に固執。経済は失速。世界は牽引車を失った。

 

3 今、浮かび上がってきたのは、「にもかかわらず」の現実である

 

米国は23年以降も、さらなる利上げを予定している。が、インフレ動向次第では、利上げ天井は調整されるとの観測から、市場は落ち着きを取り戻しつつある(日米金利差が直接要因とされた「円安」は102115190銭から12月現在136円台に戻った)。

*世界経済は、22年のロシアのウクライナ侵攻から「米国経済・1強」が確立した。

 

23年予想。ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界体制の分断は、経済発展の原動力とされた「グローバル化」から、各国の貿易制限による「ブロック化」に一変した。その結果、逆説的ながら資源・食料・軍事・経済・IT大国である「米国経済1強」が確立した。

*欧州は、ロシア産ガス供給途絶、戦時モードによる物流寸断から「歴史的なインフレ」に直面。このため(経済後退の不安が渦巻くなか)、欧州中央銀行(ECB)は金利引き上げに動いている。「不況下のインフレ(スタッグフレーション)」が目前に迫っている。

*中国は、習近平の独裁体制が確立したが、「ゼロコロナ」による内需の停滞、経済は波及効果の高い住宅・不動産業の失速、米国からのIT制裁などから、かつての勢いはない。。  

*日本はゼロ金利策を維持。低金利で「円安」である。従って輸出産業を中心に過去最高の収益を上げている。果たして日本に「スタグフレーション」は起きるかは、疑問である。

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*そのなか、上記の世界経済動向の強弱に関わらず、地球環境保全のための「カーボンニュートラル」への鉄鋼、自動車業界の取り組みは、さらに一段と加速するのは必至だ。

 

4 グリーメタルとしての鉄スクラップ

 

  •  鉄スクラップは地球環境にやさしい

高炉・コークス法は、鉄鉱石や石炭の採掘、その海陸の運搬、製銑、製鋼の4段階でCo2を排出する。一方、電炉・鉄スクラップ法は、製鋼の1段階だけで工程が完了する。

その結果、高炉・コークス法では、製鋼1㌧当たり約2㌧のCo2を出すが、電炉・鉄スクラップ法は、0.5㌧と高炉の4分の1で済む。

 

  •  だから鉄スクラップ争奪が、世界規模で始まった

それが今後の鉄スクラップ需給に複雑に影響する。一つには鉄鋼原料であるから世界経済の全体動向に大きく左右される。経済全体が陥没するなか、鉄スクラップだけが上伸するということは考えにくい。しかし地球温暖化防止は、今や待った無しの世界的な課題は今一つある。鉄鋼業界はその対応を迫られており、この局面のなか、国内外の鉄鋼各社や国内外のディーラたちはどう動くのか・・・単なる需要予測だけではない。

環境対策が絡む需給をどう見るか。世界経済の「スタッグフレーション」不安のなか、「カーボンニュートラル」問題に鉄鋼業界がどう取り組むかが、23年の課題である。

 

  •  だから日本の高炉各社が一斉に電炉生産に乗り出した

日本製鉄は広畑に新電炉を建設し、10月から操業を開始。JFEも倉敷で電炉を建設する。高炉会社が国内の鉄スクラップの囲い込みに動く可能性が見えてくる。

 

  •  だから鉄スクラップ需給は、必然的に、しかも絶対的に「資源争奪」の対象となる

高級鋼を作る大手高炉は、品質管理の必要から阻害元素の少ない新断や素性のはっきりした工程発生スクラップの「囲い込み」を強める公算が大きい。

                  

5 その歴史的、今日的背景

1992年のブラジル・リオデジャネイロの「地球サミット」以来、地球温暖化防止は国際的な枠組みとなった。97年京都会議で数値的な防止策(京都議定書=0812年には地球温暖化ガスを90年比5.2%削減する)が合意したが、米国は議定書から離脱し中国、インド、韓国は発展途上国であるとして枠外となった。 

15年パリ会議は、米国や京都議定書では枠外となった各国も参加し「産業革命前と比較して2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求する。今世紀後半に温室効果ガス排出量を実質的にゼロにする(ゼロ・カーボン)」との目標を掲げた(パリ協定)。

ただ世界の足並みが直ちに揃ったわけではない。地球温暖化に懐疑的なトランプ米大統領は176月パリ協定の離脱を表明し、1911月正式に離脱した。しかし211月、新大統領に就任したバイデンはその初仕事としてパリ協定に復帰。4月、温暖化防止の工程表を世界に示した。慎重姿勢だった日本も直ちにこの動きに乗った。

 Co2排出が最も多いのが石炭、重油発電所、製造産業、運輸、商業施設、家庭である。日本の産業分野では、鉄鋼業界が最大の排出者で全体の40%超を占める。運輸では自動車だ。日本政府(菅首相)も気候変動に関する首脳会議(サミット)で13年度比26%減の従来目標を7割以上引き上げ46%とする新目標を示し「さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」と発言。この地球温暖化防止策と国家経済戦略が重なったのが「脱炭素」電気自動車の育成、普及であり、鉄鋼ではゼロカーボン・スチールへの挑戦である。

6 ゼロカーボン社会と鉄鋼業、鉄スクラップの将来

鉄スクラップの特質は、持続可能な資源であり、かつ低炭素資源でもあることだ。

 

  • 産業活動の先行素材=鉄鋼需要はあらゆる産業活動に先立って動く。その始発原材料である鉄スクラップは鉄鋼と同様に産業活動に先行して動く(生産先行・指標商品)。

 

  • 都市鉱山の一つ=産業活動の事後生成物だから、鉄スクラップは製造・消費が活発な先進国の「特産品」。先進国発の地上資源、輸出資源である(持続可能な資源)。

 

 

低炭素品である=化石原料を還元剤・加熱材として使用する高炉・コークス法は、鉄鉱石や石炭の採掘、その海陸の運搬、その製銑、製鋼の4段階でCo2を排出する。一方、地上・回収物を使う電炉・鉄スクラップ法は、製鋼の1段階だけで工程が完了する。その結果、高炉・コークス法では、製鋼1㌧当たり約2㌧のCo2を出すが、電炉・鉄スクラップ法は、0.5㌧と高炉の4分の1で済む(温暖化防止資源)。これが世界の鉄鋼業が、中長期的な水素製鉄法に至る「つなぎ」として電炉製鋼に注目し、鉄スクラップ確保に走る理由だ。

 

その結果、鉄スクラップ流通は大きく変わる可能性がある。

 

  • 国際商品として=鉄スクラップは、持続可能な温暖化防止資源として国内外で旺盛な需要を獲得する。輸出商品だから貿易・荷役・湾岸設備の充実が条件となる。そこに商機を見つけた商社や業者が、国内集荷網を整備し貿易扱いを拡大する動きもでてくる。

 

  • 鉄スクラップ流通は「国際化」する=「ゼロ・カーボン」は、日本だけではない。世界共通の課題だ。現に2000年以降、中国などからの渡来系業者が「雑品」貿易を足場に湾岸船積みに進出。その実績を背景に近年、内陸各地にヤードを開設。彼らの母国・中国が鉄スクラップ輸入解禁に転じた21年現在、渡来系業者はさらなる商機を見つけた。「国際化」は海の上の貿易商売だけではない。日本国内の足元ですでに起こっている。

 

  • 高炉系業者の再評価とその争奪=高炉各社は「ゼロ・カーボン」策として電炉の新増設、鉄スクラップ使用の拡大を打ち出した。

 

 

  • 日本製鉄は400万㌧規模の電炉を広畑に作る。JFEも鉄スクラップ購入を増やす。その数量は、日鉄の計画数量(400万㌧)だけで現行の年間鉄スクラップの輸出量の4割を超える。高炉が電炉工程で高級鋼材を作る。その結果、鉄スクラップ業者と成分評価の新たな「選別」が予想される。キーワードは、品位・品質、安全・安心。流通商社、高炉系業者の新たな出番と「内需拡大」「争奪」の将来が予想される。

 

  • だから「ステークホルダーとしてのコンプライアンス」

大手高炉は社会的コンプライアンスの要請から、消費者(顧客)、従業員、株主、得意先、地域社会、行政機関など(「ステークホルダー」)に関わるコンプライアンス(法令順守)の厳守は絶対である。従って納入・出入りの「協力会社」も、その厳守、行動が強く求められる。その絶対のキーワードは「信用・信頼・コンプライアンス」である。

(*日本鉄スクラップ 鉄鋼と業者140年史。第二部第7392p以下参照)

 

7 用語説明

 

*ステークホルダー=企業組織における利害関係者すべてを指す。 その対象は株主、経営者、従業員、顧客、取引先も含まれ、非常に広範囲に及ぶとされる。

 

*グリーントランスフォーメーション(GX)=化石燃料から温室効果ガスを発生させない再生可能エネルギーに転換する(グリーン)ことで地球環境を転換(トランスフォーメーション)する世界的な取り組み。
この条件を満たす資源を「グリーン」の名を冠して呼ぶ。たとえばグリーン水素(製造時にCo2排出の少ないもの)など。排出程度によってグレー水素。ブルー水素。

*グリーン鋼材=グリーントランスフォーメーションに応じてCO2排出量を減らし、または実質ゼロにした鋼材。前出の「グルーン水素」に同じ用語の鋼材版。

 

*スコープ3=事業活動からのCo2の直接排出を「スコープ1」、他社から供給された熱源使用に伴う排出を「スコープ2」とする。「スコープ3」は、1および2の自社以外の事業者の活動に伴うあらゆる排出量を指す。原材料の調達、輸送・配送、使用後の廃棄排出量まで含む。

たとえば三菱地所は50年までに排出量を17年度比87%減らす目標を掲げ、ゼネコンやゼネコンと取引する素材メーカー、重機メーカー、下請けを含む施工業者など川下の関連先全体で鋼材、セメントなどの資材などに関する開示を要請した(21年919日)。

 

*カーボンフットプリント=直訳すると「炭素の足跡」。商品やサービスの原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの。

 

*炭素税・排出枠取引=温暖化ガスの排出量取引や炭素税など「カーボンプライシング」の導入が進んでいる。排出量に応じて課税する炭素税と、個別企業の排出上限を決め、企業が排出枠を売り買いする排出量取引の2つの手法がある。

*CP=「カーボンプライシング」。炭素に価格を付ける仕組みで、「炭素税」と「排出量取引制度」がある。日本でもその実現が議題に上り始めた。

▽炭素税=炭素排出1トンあたりX円、といったかたちで政府が炭素価格を直接的にコントロールする手法。日本では排出量取引は試験段階で、炭素税は税負担が軽く機能していない。

▽賦課金制度=そのため政府は現在、炭素税に似た賦課金の仕組みの導入を検討している。

 

*国境炭素税=CPの公平性を維持するためCO2排出規制が緩い国や地域から製品を輸入する際、製造時に排出したCO2に応じて関税を課す。特定の国による「ただ乗り」を避ける仕組み。規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかけ、価格差を相殺する措置。

 

*LCA=「ライフサイクルアセスメント」。製品やサービスなどにかかわる、原料の調達から製造、流通、使用、廃棄、リサイクルに至る「製品のライフサイクル」全体を対象として、原材料の採取などを含む製品の寿命全体で二酸化炭素(CO2)排出量を評価する手法。

 

                  以上