日本の鉄スクラップ輸出環境を考える

初めに=近年、中国や韓国の台頭が著しい。両国が鉄スクラップの輸出国になれば、需給は緩和し輸出を下支えとする「日本の国際競争力は失われる」との不安を耳にした。本HPは、当初「近隣の鉄スクラップ輸出は脅威か」とのタイトルを掲げ、果たしてそうか、と疑問を投げかけた。ただ、その後、まず日本の港湾・輸出インフラ、組織の現状を認識し、そのうえで明日を見ようとの思いを込め、現在のタイトルに変えた。

■関東鉄源協同組合=関東地区で月1回、定期輸出入札を行っている。前身は83年8月発足した関東月曜会。その後、湘南、京浜、京葉、埼京のブロック4地区協議会と月曜会が90年3月、連合して関東鉄源協議会を結成。さらに任意団体から輸出機能に焦点を絞った法的な組織として01年9月、関東鉄源協同組合に改組した(現在会員85社、97事業所)。法的改組の狙いは「任意団体ではマーケットクレームや放射線物混入が出た場合、対応上問題が生じる。法人化することで責任が取れる組織とし需給と市況の安定を図る」ためである。11年3月、東日本を襲った大震災と津波被害で東京電力・福島原子力発電所が被災し放射能汚染が拡大するなかで同協組の汚染対策は日本鉄リサイクル工業会・本部の迅速な対応行動と相俟って日本発の鉄スクラップ放射能汚染の「風評被害」防止に大きく貢献した。http://www.kantotetsugen.com/index.html
関西鉄源連合会=関西地区の業者有志が91年以来、任意団体を結成し96年以降、定期的に輸出・入札を行っている。

■リサイクルポートは22港=港湾事業と環境事業の組み合わせの一環として国土交通省を主管として進められている。「循環型社会形成推進基本計画」(03年)の「リサイクルポート」構想に基づき11年1月の鳥取・境港まで、現在22港が指定されている。http://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_fr6_000007.html
またリサイクル関連各種公式資料やリサイクルポート関連データは「リサイクルポート推進協議会」Hp資料で検索できる。 http://www.rppc.jp/index.html

■北米西航における金属スクラップ輸入のコンテナ化分析 =日本海事センター企画研究部 松田琢磨研究員の分析(「北米西航における金属スクラップ輸入のコンテナ化」:日刊CARGO1209掲載・要約)である。鉄スクラップ輸送のコンテナ化が進んだのは00年代半ば以降。北米西航路におけるコンテナ貨物のインバランス、ばら積み船運賃の高騰、コンテナ輸送コストの低下が背景にあった。米国からの輸出荷主ランキングをみると04年には上位100社に1つも入っていなかった鉄スクラップ業者が11年には4社登場した。11年の最多業者はシムス社で、輸出荷主ランキングでは4位、11.2万TEUであった。▼韓国、台湾の金属スクラップ輸入動向=韓国では日本からの輸入量は基本的に増加傾向にある。これに対し台湾では06年以降日本からの輸入量は大きく減少した。▼韓国=日本と米国で輸入単価(CIF・品代+運賃など)を比べると04年までは米国が平均で12.3%高かったが、05年以降は米国の方が4.8%低い(データ出所:韓国貿易協会ウェブサイト)。▼台湾=00年から04年までは日本に比べ米国の方が平均で151.9%単価が高かったが、コンテナ化が進んだ06年以降は逆に米国の方が、日本に比べ約5.3%低い(台湾経済部国際貿易局ウェブサイト)。▼米国からの輸入コンテナ化=米国から台湾が輸入する金属スクラップのコンテナ化率(07年50%台→11年70%台)の高まりと米国からの輸入単価が割安になる傾向は歩調を合わせている(台湾では、ばら積み船の受け入れ設備が整備されておらず輸入コストがもともと高かったことも原因とみられる)。一方、韓国(07年20%台→11年20%台)では日米からの輸入単価には台湾ほどの差はなく、コンテナ化の進行は米国からの輸入を少し有利にした側面はあるが、大きな変化はない。▼コンテナ化の影響=台湾では米国からのコンテナ輸送比率が高まった一方、日本からのコンテナ化は10%程度でほとんど進行していない。これは日本と台湾の間でコンテナ輸送のインバランスがないことが要因とみられる。その結果、米国の輸入価格と日本の輸入価格の差は大きく縮まった。現在(11年)では米国から輸入する金属スクラップのコンテナ化率は70%を上回る状況となっており、11年では輸入量の61.0%を米国からの輸入が占めている。
http://www.jpmac.or.jp/img/research/pdf/B201245.pdf

■雑品等の輸出・船荷火災研究(「有害物質管理・災害防止・資源回収の観点からの金属スクラップの発生・輸出状況の把握と適正管理方策」(循環型社会形成研究補助金・2011年3月報告)=中国などへ輸出されてきた金属スクラップのうち、「雑品」と称される一部のスクラップについて、有害物質や使用済み家電などの混入により相手国から貨物が返送された事例が発生している。輸出量の増減が著しい上、貨物船や船積み現場で火災事故も生じており、環境と災害上の問題が懸念されている。この金属スクラップについて、有害物質および混合物の内容や、火災の発生・拡大の原因などの知見が不足し、適切な安全管理、行政指導を行えていない。このため回収業者や解体業者などに対する調査、火災現場調査や火災実験などを通じて、有害物質管理・防災・資源回収の観点から、金属スクラップの発生・輸出実態の実態を解明し、適正管理方策を提示することを目的とする。あわせて輸出入両国での法的規制の課題や輸出の現状と国内リサイクル制度との関連性を検証し、改善策を提案する。
https://staff.aist.go.jp/yuji.wada/mixmetal/K2015-K22049Report.pdf

隣国の輸出入状況並びに国内輸出・港湾状況
■日本=13年の国内購入は2948.8万㌧。輸出通関は812.9万㌧。国内購入と輸出を合算した市中鉄スクラップ供給は3762万㌧で、国内回収・流通量は3700~3800万㌧前後と推計できる。 輸出のうち470.4万㌧(全体の57.8%)が韓国向け。次いで30%強が中国(ただし鉄付き非鉄「雑品」が相当量を占める)、台湾、ベトナム向け。まず韓国向け相場が日本発の貿易相場として国内外の市場をリードしている。
韓国=粗鋼生産は12年6,907.3万㌧、13年6,600.8万㌧。12年鉄スクラップ輸入は1,012.6万㌧、13年925.8万㌧。鉄スクラップの粗鋼生産比は12年14.6%、13年14.0%。現代製鉄の新鋭高炉3基(各5,250 m3、年間生産各400万㌧)や電炉稼働、鉄鋼蓄積の増加から、「韓国の鉄スクラップ自給率は12年が70%、20年が90%、25年98%」(14年6月国際フォーラム)と目され、同国の輸出国化は目前に迫ってきた。
■中国=粗鋼生産は12年7億3,104.0万㌧、13年7億7904.0万㌧。鉄スクラップ輸入は12年676.7万㌧、13年497.4万㌧。鉄スクラップの粗鋼生産比は12年0.9%、13年0.6%。中国は粗鋼生産と鉄スクラップ輸入数量から見れば、すでに鉄スクラップ自給国に近い(OECDは自給化は25年と予測)。
■アセアン諸国=ベトナムやインドネシアなどアセアン諸国では近年、高炉、電炉など製鋼設備の投資や鉄スクラップ輸入の増加が著しい。そのため同方面への輸出が注目され、日本でも、輸出進出の手段として大型船やコンテナ出荷への挑戦が浮上している。

■鉄スクラップ輸出の特性とは
①鉄スクラップ輸出競争力とは「国内需要・萎縮」の裏返しである
=鉄スクラップ輸出は、本質的には国内需要の穴埋めである。歴史的にも、日本の鉄スクラップ輸出は、日本鉄屑備蓄協会がその本来機能(備蓄)を失い、調査をもっぱらとする鉄源協会に改組した同じ88年、これに危機感を抱いた業者の任意団体である関東月曜会の挑戦に始まり、相次ぐ電炉会社の行き詰まりからH2炉前価格が8千円台に陥没した(余り物に値なし)2001年から本格化した。
②流通は顔見知りの最短距離を走るのが原則である=流通は顔見知りの最短距離を走る方が経済合理性は高い。顔の見える、近くのユーザーに集荷すれば将来に向け信頼の「実績が残る」し、低運賃、諸経費及びリスクが少ない。輸出は、国内需要の萎縮から、業者(供給)側の企業防衛として「余儀なく迫られた」対抗策・選択肢として登場した(それが輸出ビジネス)。その本質は、歴史的経緯からも明らかなようにまず「国内消費の不足対策としての新規・販路拡大」であり、余儀ない選択だったろう(輸出は専業シッパーを別とすれば、「実績が残しにくい」ビジネスネスです。なお冨高私見③参照)。
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③ しかし鉄スクラップは先進国が出荷・競争力を持つ都市鉱山でもある=鉄鋼生産は14年現在約16億㌧、鉄鉱石を原料とする転炉製鋼が12億㌧、鉄スクラップを主原料とする電炉製鋼が4億㌧、鉄スクラップの貿易量は1億㌧強。新興国の多くは簡単な設備で、製鋼できる電炉設備の導入に動く可能性が高いから、鉄スクラップの貿易量は将来的な増加が確実に期待できる(鉄スクラップの消費・販売エリアの拡大)。▼さらに鉄スクラップは、主に先進国の製造工程や、市民生活の老廃物として発生し、もっぱら新興国が輸入・消費する。アジアの先端的な工業・消費先進国であり、周辺に鉄スクラップを消費する発展途上国が多い日本は、輸出貿易的には極めて優位な位置にある(日本の鉄スクラップ輸出拡大の背景)。
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■冨高私見・要は如何に自分のビジネスを作り上げるかだ=鉄スクラップ輸出ビジネスの問題は、実は二つの論点が混在している。一つは、日本の輸出背景とそのビジネス・モデル問題。今ひとつが、世界的に見た場合の日本の鉄スクラップ輸出競争力問題である。
① 日本の輸出背景とそのビジネス・モデル問題=「検収」や「運賃負担」を売買条件とする鉄スクラップビジネスでは、顔の見えるユーザーや近くの得意先に出荷するのが、経済的にも、リスク管理からも望ましい。▼鉄スクラップ輸出定着・拡大の背景が、国内需要の量的萎縮であり、その企業防衛対策が輸出(遠方出荷・量的追求)であったとしても、経営はそれに終わるだけでなく、次の課題として、本来の国内販売戦略が問われる。つまり将来に向け業の維持・発展を考えるとすれば、輸出(量の追求)ビジネスと同時に、国内で生き残る経営体力、自社の強みの育成(他社との違い、セールスポイント)など、「質的」な進化・転換をどう図るか、との新たなビジネスモデルの創出が求められる。
② 輸出競争力問題=鉄スクラップとは先進国の「地上に置かれた鉱山」なのだ。埋蔵・地下資源に比べ、地球環境に優しく、安価である。世界的に見れば、先進国はもちろん、新興市場国においても、鉄スクラップの有効活用が求められ、長期的な需要後退はほとんどありえない。立地的に恵まれた日本の輸出の拡大は必至であり、中国や韓国などの成熟とともにライバル国の出現もまた必至なのだ。▼問題は中国、韓国など従来の鉄スクラップ輸入国が、近い将来、輸出国に転じ日本のライバルとなる。それを不安材料と見る関係者が少なくないことだ(韓国向け輸出の縮小と、韓国からベトナムなどへの輸出進出による競争激化懸念)。しかし、どんな商売でも拡大するマーケットでは、新たなライバルの登場は当然だ。ライバルと競って、自身の競争力をどう確保するか・・は、個々の企業・営業努力として解決すべき話だ。その中で(鉄スクラップとはいえども)、如何に他国・他社との違い、差異化・ブランド化(付加価値化)を図るかである(たとえば、同じスクラップ品でも、数社が相積みして出荷する品物と1社単独で出荷する場合では、価格、荷受け条件が違うケースが少なくない。要は如何に売れる商品、ブランドを作るかである)。
③ 経営体力・社内体制をどう構築するか=関係者には従来に増して、鉄スクラップ・ビジネスに工夫・才覚、経営力が求められるようになった。その変化を象徴するのが、エンビプロHDの(鉄スクラップ業者としては初の)東証・第二部上場であり、創業家ではない叩き上げの有能社員をグループトップに据えたスズトクHDの人事であり、関西を拠点に関東に進出し、米国にトライアングルの3拠点を作ったフワメタルの挑戦などであろう。これらが13年秋、ほぼ同時に出現したのは偶然ではないだろう。