私は、以下の文頭「挨拶」とともに「日本鉄鋼リサイクルの歴史的変遷」の一文を日本鉄鋼協会誌「ふぇらむ」2025年4月号から6月号に、掲載した。
「本稿は世に知られることの少ない鉄スクラップに係る産業、政策の概要を、大きくは国家政策、産業育成との関連を見ながら文献・資料をもとに上代からカーボンニュートラルの現在までを前・中・後編にわたって概観する試みである」
掲載までのいきさつ
2024年10月4日 「ふぇらむ」編集局から執筆依頼メールが舞い込んできた。
SSJ(スチールストーリーJAPAN)の「お問い合わせ」コーナーに「突然のご連絡を差し上げますことお許しください」「この度,ふぇらむの初学者向け入門講座連載記事にて,鉄鋼のリサイクルに関する連載を行うこととなり,その記事ご執筆をご依頼いたしたくご連絡差し上げました」との挨拶から、ことは始まった。
「冨高様には,鉄鋼リサイクル入門講座の概論として,日本の鉄鋼リサイクルの変遷(リサイクル技術や産業界におけるリサイクルの役割の変遷等)についてのご執筆をお願いいたしたく存じます.ご依頼の題目が非常に範囲の広い内容かと存じますので,冨高様のご意見,ご指導も賜りながら内容調整させていただけますと幸いでございます」
・入門講座の記事は刷り上がり5~6ページ(1ページ約2300字)
・査読審査:ご入稿後1ヶ月程度(略)
日本鉄鋼リサイクルの歴史的変遷(2025年4月・5月・6月号。内容目次)
https://www.isij.or.jp/publication/ferrum.html
*前編―上代、江戸から戦時・金属類回収令まで(25年4月号。6ページ)。
第1章 上代から明治まで―「鉄屑」はなかった
第2章 平炉製鋼の登場と米国輸入屑の依存
第3章 戦時鉄屑政策と金属屑回収
第4章 明治 大正 戦前の鉄屑業者
*中編―戦後、鉄屑カルテルからバブル崩壊まで(5月号。6ページ)
第1章 戦後GHQ統治下の鉄鋼業
第2章 鉄屑カルテルの19年間(1955年4月~74年9月)
第3章 商社の登場とヤード業者の出現
第4章 新日鉄誕生からバブル崩壊まで
*後編―新リサイクル法からカーボンニュートラルまで(6月号。12ページ)
第1章 新リサイクル法と鉄スクラップ業者
第2章 鉄鋼集約と異業種参入、鉄スクラップ輸出時代
第3章 渡来系業者と各種の規制法規
第4章 カーボンニュートラルと鉄鋼業の立ち位置
第5章 世界的な鉄スクラップ「囲い込み」のなかで
(附説として)沖縄鉄スクラップ小史
その感想
hp案内によれば「『ふぇらむ』は鉄の元素記号Feの語源となるラテン語「Ferrum」をもとにつけられた名称で、1996年1月創刊した日本鉄鋼協会会報誌」で、私の担当はその「入門講座の鉄鋼リサイクルの変遷(概論)」だという。
日本鉄鋼協会はその会報誌でも、いままで「鉄鋼リサイクルの変遷」を正面から取り上げた例は(たぶん)なく、今回、急ぎ私を呼び寄せたようだ。
これには既視感があった。3年前の2022年3月。外出中の携帯に、東京のBS-TBSから金属屑営業条例に関するWEBインタビュー依頼が飛び込んできたのだ。
SSJのhpや出版本を見て「是非とも」との話だった(*4月24日・「噂の東京マガジン」内で金属屑営業条例についての解説とコメントを放映した)。
さらにバイデン大統領がカーボンニュートラルを国際的課題とした2021年以来、SSJのhpの「お問い合わせ」コーナーに書店取次部や東京大学をはじめ都県の公立図書館、大手商社や各地の会社から出版書の購入申し込みが増加した。
そのなか大手高炉幹部級社員が出版書を全冊購入の上、「鉄スクラップ対策」関連のヒアリングを求め、面談した(2023年7月)。また外資系のブローカー(とおぼしき者)が日本国内の鉄スクラップ業者情報を求めてきた(同年9月)
鉄鋼連盟は歴史的に言えば、鉄屑カルテルの結成と運営に深く係わった(1953年~1974年)。しかし鉄スクラップの外部購入を不要とする純酸素転炉製鋼法の普及以来、高炉各社にとって鉄スクラップ業界の動きは関心の外にあった。
これが2050年「カーボンニュートラル」の世界的な課題から、一変した。電炉製鋼法の4倍ものCO2を排出する高炉は、資産価値を失う恐れが大きい「座礁資産」と目され、世界の高炉各社は一斉に電炉製鋼法に当面の活路を見出した。
であれば、高炉各社や関係有識者らも「カーボンニュートラル」の時代に向けて、電炉各社が主原料とする「鉄スクラップ業界」「鉄スクラップ流通の歴史」の何たるかを知る必要がある。それゆえ協会会報誌ふぇらむの章題を「入門講座」とし、私に「鉄鋼リサイクルの変遷(概論)」解説の声をかけたのだろう。
「ふぇらむ」編集局は当初、「2025年5 or 6月号」のいずれかの掲載を計画したようだが、私は敢えて前編・中編・後編の3ヵ月の掲載を求め、承認された。
日本鉄鋼協会の会報誌に、世に知られることが少なかった鉄スクラップの「古金」の上代から「カーボンニュートラル」の現在までを、一筆書きに紹介することができた。鉄スクラップ業界に伴走した私にとって、望外の喜びとなった。