始めに
■韓国からシップバック=韓国原子力安全委員会は8月、日本の輸入鉄スクラップから放射線を検出したため、返送する(シップバック)と発表。汚染物質(20kg)はセシウム137。放射線量率は表面から最大0.00543mSv/h(1 mSv → 1000 μSv)。同委員会は生活周辺放射線安全管理法(12年7月)に基づき、輸入貨物の監視のため主要港湾に放射線検知器を設置している(韓国電炉の返品レベルは0.3μSv/h)。
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■日本では=鉄鋼連盟は1997年、専門ワーキンググループを設置し①鉄スクラップへの放射性物質問題、②原子力発電施設の解体に伴う廃棄物再利用問題の検討を行い、 98年「鉄スクラップへの放射性物質混入問題対策(自主運用の手引き)」を作成。運用としてレベル0=無害・検収。レベル1=返品・未検収。レベル2=隔離・監督官庁通達の3段階を示し、隔離は「5(マイクロ・シーベルト)μSv/時」と提案した。
▼隔離レベル5μSv/時の根拠=放射線障害防止関連法は5μSv/時を超える運搬を行う場合「第1類白標識」を掲げなければならない(科学技術庁00年11月28日告示)。つまり5μSv/時未満であれば、標識掲示を必要とせず通常の返品輸送が可能である。
▼00年住金、神鋼、川鉄の事例=鉄連の「自主運用の手引き」に従って00年以降、鉄鋼各社は放射線検知機を標準装備化した。直後の00年4月、住友金属・和歌山(輸入ステンレス・コンテナ)。神鋼・加古川が同年5月(ラジウム針収納器)。川鉄・水島でも6月(チタン鉱石の洗浄残渣)検知機が作動。隔離が相次いだ。
▼工業会対応=2000年6月、リサイクル工業会は関係当局に①排出者責任、②処理費用の行政負担、③検知器設置の補助金などの要望書を提出し、「放射性物質混入対策マニュアル」を作成しHpに広報した。
▼原発事故後の対応=鉄鋼各社の返品レベルは周辺住民の安全ため、 00年当初は隔離レベルの10~100倍も厳しい0.5~0.05μSv/時に設定した。しかし2011年3月の原発事故後バックグラウンド(自然背景)放射能が、0.05μSv/時を超える状況が出現したため、大方が0.5μSv/時(暫定レベル)に変更した(注)。また関東鉄源協組の運用レベルは12年3月以降0.2μSv/hとしている。
(注)事故後、放射能に汚染されたチリやダストは雨水とともに地上に降り積もり、自動車のドロ除けやバンパーに付着し検知機に反応し、バックグラウンドを超える事例も相次ぎ報告された。
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いま改めて放射線検知器設置問題を考える
■放射性物質には2種類ある=本紙(スチールストーリーJAPAN)は、(ヤード業者の係わりのある)放射性物質には2種類あると考える。一つは原発事故前に想定された医療用器具などの「特定線源放射線物質」、今ひとつが原発事故後に多発した多様な「原発汚染物質」である。▼原発事故後は(比較的低レベル線量である)「原発汚染物質」対策として、関東を中心に一般の鉄スクラップ業者でも門型(ゲート式)放射線検知器の設置が相次いだ。また今回の韓国の輸入スクラップからの放射線検知から、西日本の業者の間にも設置への関心が高まっている。▼ただ、一旦門型(ゲート式)放射線検知器を設置した以上、今ひとつの(高レベル線量の)「特定線源」対策(責任)も同時に迫られる。そのことを留意する必要がある。
■作動と通報義務=検知器が作動すれば、搬入物を隔離し「人が近づかないよう見張り人を立て」(隔離、「放射性物質混入対策マニュアル34p」)、相談機関であるアイソトープ協会に連絡し測定を待たなければならない。アイソトープ協会による処理費用は保管者責任。過去には荷受けし、出荷した業者が、汚染物の「保管者」として処理関連費用を請求された。▼(隔離・報道)=ヤード業者が検知器を設置し、作動した場合は(荷受け検収時であり所有権移転前であるから)、業者は「保管者」の責めは免れる。しかし隔離責任は免れず、「人に害を与えるレベルが確認できたら」、監督官庁である文部科学省へ通報すると共に地元の警察・消防へ報告しなければならない(「国の関係機関や新聞等にも連絡される可能性がある。同35p)
■後処理と社会的責任=鉄鋼メーカーへの放射性物質混入防止のため、ヤード業者がゲート式検知器を導入することは、放射性物質混入防止とその放射能汚染後処理責任の一切を(鉄鋼メーカーに替わって)負うことである。これは構図的には、自動車プレスのダスト混入防止のため、シュレッダー機を導入した業者が直面した問題と同じである。違うのは、不適性処理がもたらす社会的影響は自動車シュレッダーダスト(ASR)問題の比ではないことだ。それはヤード周辺住民の安心感を決定的に破壊し、業の信頼・信用を失墜させる。▼放射線検知器は、導入した途端、一種の社会的公器として、適正な運用が厳格に求められ、非適正運用の責任は、地域住民の安寧な生活を脅かす背信行為として将来にわたって問われる。
■同趣旨提言=「放射能汚染スクラップ対策-善意の第三者に責任を問うのか 扶和メタル社長 黒川友二」。同提言は禁制品である放射性物質は正当な売買の対象物ではない。持ち込まれたヤード業者は、事情を知らない善意の第三者である。その業者が自衛のために検知器を設置せざるを得ない環境自体が問題であり、「国民の生命・身体・安全を守るのは国家の責任」だとして、国の直接の関与を求めた。工業会が2000年6月、関係当局に送った要望書「補足」として業界紙に発表した(日刊市況00年7月マンスリー)。