自動車産業は歴史的転換点――「電池自動車」の未来を考える

■マスコミ報道によれば

*自動車産業にCASEの重圧(19/4/21・日経)自動運転など新技術の潮流「CASE(ケース)」が、自動車産業を揺さぶっている。「100年に一度の大変革期」に突入した自動車産業。自動車産業の競争力を支えてきたのはエンジンなど「機械」技術。自動変速機(AT)は「自動車が電動化されれば、不要」となる。部品メーカーでは世界大手の独コンチネンタルや仏ヴァレオが約3割下落。一方、ライト専業の小糸製作所は3~4割程度上昇している。自動車産業は裾野が広く日本の全就業者の1割弱が従事する。「CASE革命」は日本経済にも大きなインパクトを与える。自動車株の世界の時価総額は18年1月比で約21%減少した。

*CASEとは=自動車を巡る新技術・潮流を示す造語。・Connected=インターネットとの接続機能。・Autonomous=自動運転。・Shared&Service=カーシェアリング。・Electric=電動化。

*クルマ異次元攻防(19/5/4・日経)自動車産業は高度経済成長のけん引役となった。だが今、突きつけられているのはCASEという異次元の戦い。競争軸は、コネクテッドカー(つながる車)、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字を組み合わせた「CASE(ケース)」。「勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかの戦い」。トヨタの豊田社長は競争環境をこうなぞらえる。▽車はスマホ化するこれからは電動自動車(EV)を核にしたエコシステム(生態系)の一部でしかなくなる。製造業としての車体の提供のみでは収益の確保は難しい。自動車業界でもデータを基に、便利なアプリケーションを提供するビジネスが発展するだろう。既存の自動車メーカーが戦ってきた環境とは大きく異なっていく。

*日本製鉄、 CASEの荒波(19/5/29・日経)=「鉄の巨人」が、変革を迫られている。今年1月。自動車技術の展示会に、1台のコンセプトカーが登場した。素材はすべて鉄で、「鉄だけでも車は3割軽くできる」というメッセージを打ち出した。自動車業界で起きている「CASE」(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる技術革新。「自動車業界が100年に1度の技術革新を迎えている。素材も変わらなければいけない」との危機感だ。2010年に鉄は世界の車体材料の95%を占めたが、30年後の40年には70%まで低下。車用汎用鋼板は55%から5%まで落ち込む。代わって台頭するのがアルミなど非鉄や樹脂材料、炭素繊維だ。日鉄は18年4月、次世代の自動車材料を統括する「自動車材料企画室」を設立した。将来は鉄だけで車を5割軽くする技術の提案をめざす。

*EV普及、中国が世界をリードする(19/4/18・日経)中国政府は10年からEV(電気自動車)向けの販売補助金制度を開始し北京では18年にEV価格の最大6割まで補助金を利用できる仕組みを作った。18年の新エネ車販売台数は日本の25倍の125万台に達し、世界全体の半分を占める最大市場に成長した。中国は20年に200万台、25年に700万台の新エネ車市場をめざし、次の一手を打つ。▽20年を最後に補助金制度を廃止し、メーカーに一定比率のEVなどの製造を義務付ける「NEV規制」を導入。日米欧の大手はガソリン車の販売を伸ばすためにもEVを製造しなければならなくなった。規制対応に加え大量のEVが走ることになる中国は性能を試したりデータを収集したりする絶好の実験場となる。中国での取り組みは世界市場での将来の優劣を左右しかねない。

*車燃費3割改善義務 30年度目標(19/4/24・日経)経産省と国交省は自動車メーカーに対し、2030年度までの燃費規制を課し、20年度目標から約3割の改善を義務付ける方針だ。現在は主にガソリン車やハイブリッド車を規制するが、電気自動車(EV)も同じ基準で位置づける。燃費規制は個別の車種が対象ではなく、メーカーとして全販売台数の平均で達成しなければならない。11年に定めた現行の燃費規制は20年度にガソリン1リットルあたりの走行距離で約20キロメートルとした。09年度実績比で24.1%の改善を義務付ける内容だ。この制で、EVを2~3割普及させる目標の達成を図る。17年度時点でEVやプラグインハイブリッド車は新車販売台数の1%程度にすぎないが、30年に20~30%に高まる可能性がある。一方、従来のガソリン車は63%から30~50%に下がる見通しだ。

*自動車 3度目の大再編(19/5/28・日経)=欧米フィアット・クライスラー(FCA)が仏ルノーに経営統合を提案し、世界の自動車産業は3度目の大再編時代に突入する。電動化や自動運転技術の革新など自動車産業は「100年に1度」の大変革期にある。▽世界の自動車産業は過去2度の大再編を乗り越えてきた。1度目は世紀の合併といわれた1998年の独ダイムラー・ベンツ(現ダイムラー)と旧クライスラーの再編だ。2度目はリーマン・ショックによる再編だ。フィアットとクライスラーが経営統合してFCAが誕生した。今回、FCAを突き動かしたのは、自動車産業の主導権が業界外へとシフトしていることへの危機感だ。

▽FCA、ルノーへの経営統合案を撤回(19/6/6・日経)フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は6月6日、仏ルノーに対する統合提案を取り下げたと発表した。ルノーの筆頭株主である仏政府の介入により、統合は難しいと判断した。世界販売台数は両社だけで世界3位、日産などを含めるとトップになる企業連合を目指したが、白紙に戻った。

2017年日経記事によれば

■欧州発「脱ガソリン・ディーゼル車」17/7/26・日経)=フランス政府は7月、2040年までにガソリン車、ディーゼル車の国内販売をやめる方針を打ち出した。英政府も26日、2040年までに全面的に禁止を発表した。英国のゴーブ環境相は26日、英BBCで「新車販売の禁止により(10年間で)ディーゼル車とガソリン車を全廃する」と語った。EVの普及を促すことで、国内での関連技術の開発を後押しする。▽フランスは地球温暖化対策が目的だが、英国は大気汚染対策。英国の新車販売EV比率は0.4%。英政府方針は自動車業界に大転換を迫る。▽オランダやノルウェーで25年以降のディーゼル車やガソリン車の販売禁止を検討する動き。ドイツでも昨秋、30年までにガソリン車販売禁止の決議が国会で採択された。法制化には至っていないが「脱燃料車」の機運が高まっている。インド政府は今年4月「30年までに販売車をすべてEVにする」との目標を表明し、中国も類似の政策が打ち出した。

■中国、新エネ車19年に10%製造義務(17/9/29・日経)=中国は9月28日、19年に自動車メーカーに新エネルギー車(NEV)の製造・販売を義務付けると発表。ガソリン車やディーゼル車の製造・販売禁止にも着手した。規則によると、中国で年3万台以上を製造・輸入販売するメーカーが対象。EV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車で構成されるNEVの製造・販売が義務付けられる。義務比率は19年が10%、20年が12%。未達企業は超過達成企業から「NEVクレジット」を購入しなければならない。達成企業は権利売却資金が獲得できる。未達企業は翌年の製造販売台数制限の見方もある。▽中国は2社しか認めなかった自動車製造販売合弁を、3社目まで認める。NEVに限っては、中国企業との合弁を組まなくても現地生産できる方向で検討していることも明らかにした。

■独VW、25年にEV300万台(17/9/14・日経)=VWは2025年に中国で150万台の電気自動車(EV)を販売する。同社のマティアス・ミュラー社長が12日に日経新聞に計画を明らかにした。VWの16年世界販売台数は1031万台。25年には世界販売の25%、300万台をEVに置換え、中国では150万台を売る計画。▽スウェーデンのボルボ・カーが19年以降の新車を電動車にすると表明するなどEVシフトの動きが相次ぐ。背景には中国の環境規制強化がある。18年に一定割合のEVなどの生産・販売をメーカーに義務付ける規制が導入される見込み。英仏政府が40年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出し、中国も同様の規制の検討も始まった。▽自動車各社は中国などでEVの投入計画を相次いで発表。トヨタ自動車は中国で19年をメドにEVの投入を検討。米フォード・モーターは25年までに中国で販売する車の7割をEVにする方針を掲げる。

■クルマ、異業種と融合(17/9/16・日経)=仏ルノー・日産自動車連合は9月15日、6年間の中期経営計画を発表した。22年までに完全自動運転車を実用化するほか、電動車の割合を3割に高めるのが柱だ。キーワードは「つながる車(コネクテッド)、自動運転(オートノマス)」などの頭文字を取った「CASE」。独フォルクスワーゲンは25年に世界で販売する25%にあたる300万台のEVを販売する計画を掲げる。スウェーデンのボルボ・カーは19年から販売全車を電動車にすると発表した。▽環境規制が各社の背中を押す。英国やフランスに続き、最大の自動車市場である中国は政府がガソリン車やディーゼル車の販売を禁じる規制を導入する時期の検討に入った。▽車の構造が一変するEVでは米テスラや中国の比亜迪(BYD)などの存在感が急激に高まり、EVベンチャーも次々に誕生。EVの基幹部品となる電池を生産するパナソニック、データ解析のノウハウを持つ米グーグルなどのIT企業や半導体メーカーが開発をリードする。▽1台の車を複数の人が共用するシェアリングも世界で普及が進む。ライドシェア(相乗り)サービスを手がける米ウーバーテクノロジーズ、中国の滴滴出行(ディディチューシン)や東南アジア拠点のグラブなどが勢力を伸ばし、所有を前提とした車の価値を変えようとしている。所有から利用への流れが進めば「30年ごろには車の保有台数が半減する可能性もある」。

■自動車産業の未来(上)、EVの先(9月25日、日経・経済教室)=世界は脱エンジンに加速している。日本の課題は、電気自動車(EV)なのか燃料電池車(FCV)なのか、見えないことだ。FCV「ミライ」のトヨタと、EV「リーフ」の日産に分かれ、国も両方を支援している点にある。しかしEVとFCVはどちらかが淘汰される。▽EVは(車とは別に)充電スタンドを、FCVは水素スタンドを必要とする。(スタンド支配競争の)どちらが早いかが勝負を分ける。両方がすみ分け普及することはあり得ない。▽重要なことは、売り上げ・収益性のいずれも、エンジン車と同等水準の維持は難しいことだ。EVでは新規参入が容易になる。EVで(自衛が成功したとしても)エンジン車の消滅分は補填できない。フィルムからデジカメへの転換でも同様のことが起こった。参入障壁が低下し、新興企業や大手家電もデジカメ市場に参入。富士フイルムも米コダックも、デジカメ対応だけではフィルム消滅分を補えずデジカメ以外の新規(他業種)事業に転換した。現象は違っても同じである。▽自動車メーカーにとってEVの先を見据えて新規事業の探索に取り組むことが重要になる。トヨタも豊田自動織機の新規事業として始まったことを忘れてはならない。イノベーション(技術革新)の歴史は繰り返されるのだ。

■その下・部品網の構造変化に備え(9月25日、日経・経済教室)=ガソリン車の部品数は約3万、数え方によっては10万にのぼる。EVでは燃料系、燃焼系、排気系、吸気系、潤滑系、冷却装置、変速機構は不要になる。EVの部品の数は約1万で、ガソリン車の約10分の1だ。▽EVへの変化が劇的に起こることは考えにくい。第1の理由は電力制約。航続距離200KmのEV搭載の20KWバッテリーを3KW出力200v充電で7~8時間もかかる。世帯あたり電力使用量は月300KWで、1回のフル充電は1日使用の2倍以上の電力を消費する。電力供給システムの改革が必要になる。第2の理由は、アフターマーケットの存在だ。新車(16年500万台)が毎年EVになると仮定しても、国内車の半分がEVに置き換わるのに約8年間かかる。システム変更も考えれば10年以上だろう。▽ガソリン車の中古車需要が残るため、部品市場がなくなるわけではない。国外には膨大なアフターマーケットの国際市場がある。構造変化に対応する時間は十分に残されている。  

■冨髙コメント

上記マスコミ報道で明らかなように、自動車産業は歴史的な大転換期にある。ガソリン車が電気自動車に置き換わる、ということは中国の「国策」である。遅れて自動車製造に進出した中国はガソリン車では先発国に対抗できないが、未開の分野である電気自動車ではトップに立つ可能性がある。電気自動車ではない、実態は電池自動車とハイテク自動運転だ。であれば電池開発とAI(人工頭脳)の開発、「自動・大型トミカ」の競争力の問題である。その開発には膨大な資金が必要になる。それは一企業の資金能力の枠を超える。だから企業を国家ぐるみで支える中国(「国家資本主義」)が絶対的な競争力を持つ。

電気自動車・・・は正確ではない。実態は「電池」自動車、大型トミカの開発なのだ。

つまりモーターと電池と制御AI(人工頭脳)の開発だ。ここにはガソリン車メーカーが開発した過去の技術など全く関係のない世界が広がっている。写真フィルムの世界メーカーだったコダック社の栄光と退場が、自動車メーカーでも再現されないとは言えない。

その予想される未来にどう生き延びるか。

自動車業界は、いまそのような歴史的な転機に立っている。