いわゆる「市中品薄」を考える

■扱い業者の質問は「市中品薄」に集中した=昨年、記者として各地を回り業者と接したなかで、寄せられた感想や質問が最も多かったのが、扱い玉の「品薄」とその「理由・背景」についての疑問だった。統計上は、品薄とはいえない(注)が、円高が定着した最近20年来の、基本的な国内構造としては、傾向的な「製造産業の海外移転」がある。これに加え最近の情勢として流通変化が考えられる、と以下のように答えた。

■考えられる流通変化の3要素
川上の流通変化(製造歩留まりの向上)=08年のリーマンショック直前の相場は、実は未曾有の資源バブルだった(08年7月東鉄・特級7万2千円)。鉄スクラップ相場は1㌧7万円に迫り、鋼材は10万円超に跳ね上がった。これが製造各社の材料・コスト危機意識を高め、製造工程の歩留まり向上、工程スクラップの発生抑制を促した。製造会社は組織を挙げ、制度的改善に組み込み始めた。この歴史的な原料高が流通上工程の流れを変えた(▽東鉄とパナソニックスに見られる製造段階での囲い込み)。

川中の流通変化(隣接業者の参入)=鉄スクラップの高騰が、鉄スクラップの大口排出者である家電量販店(ヤマダ電機が11年登場)の参入などを呼び込んだ。また隣接業界である非鉄有力業者や、ステンレス業者、産廃業者、さらに従来は建物解体など中間処理を専業としていた者などが直接、ギロチンなど大型加工処理設備を導入し、鉄スクラップヤード経営に乗出すケースが増加した(隣接業界の参入)。

川下の流通変化(行政、輸出業者の登場)=集荷の最前線では鉄付き非鉄スクラップ(雑品)に中国系業者の参入が定着した。雑品とは下級鉄スクラップである。中国系業者段階で回収され、下級鉄スクラップが海外に流れ始めた。さらに小型家電リサイクルなどの「行政関与」もある。小型家電は一旦、行政窓口に流れる仕組みであり、許可業者が受皿になる。大型家電リサイクルなども含め流通路は変わった。

注:13暦年スクラップ市中供給3,764万㌧、前年比1.69%増=鉄源協会によれば13暦年の国内鉄スクラップ国内出荷=購入は2948.8万㌧(前年2842.8万㌧、3.7%増)、輸出通関814.9万㌧(前年858.4万㌧、5.1%減)。合計市中供給量は3763.7万㌧(前年3701.2万㌧、1.69%増)。鉄鋼会社などの自家発生が13年1362.5万㌧(前年1363.4万㌧、0.1%減)あり、これを合算した国内総供給は5126.2万㌧(3763.7万㌧+1362.5万㌧)で前年(5064.6万㌧)比1.2%増。鉄スクラップの国内供給量は前年に比べ増えている。 

■地域格差の拡大も一因(国内企業の「選択と集中」の結果として)=上記の統計数字で見る通り、国内全体では国内購入・輸出を合計した13年(暦年)総供給量はごくわずかにせよ増加している。しかし地域によっては、品薄感が強い。考えられる原因は、上記の流通変化とともに、国内産業、インフラ成熟にともなう天井(成長の限界)が見え始めたため、従来以上に地域格差が鮮明となったためだ。公共事業も民間企業も、限られた財源・資金の有効活用の必要から「選択と集中」を優先し、その選択からこぼれた地域は、客を失った「シャッター商店街」同様の工場過疎地域に追いやられる動きが強まった。流通が変化したのでない。発生源そのものが地域から消える状況が各地で出現し始めた(鉄スクラップは統計的に均等に動くものではない。地域によって選択的に増減格差が生じる)。それが一部地域で見られる「品薄」の背景である。

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■冨高私見・吉凶は人によりて、日によらず=以上が「品薄」に関するマーケット分析である。問題はこれをどう考えるかである。マーケットは参加者全員に与えられた前提だから、参加者一人ひとりにとって有利不利は生じない。つまりマーケットは万人に共通な「現在」だが、ビジネスは個々人の力量、工夫・才覚が切り開く「未来」に係わる。さらに言えば「悪い」マーケットも、「良い」マーケットも存在しない。あるのは全員に共通なマーケットとそれに取り組む個々のビジネスの積み重ねである。だから古人は「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」と言い、「吉凶は人によりて、日によらず」と言い切ったのだろう。であれば、どのような状況であっても、冷静なマーケット分析と飽くなきビジネス挑戦が未来を拓く、と私は考えている。