2017年・鉄スクラップマーケット展望(冨高試論)

2017年・鉄スクラップマーケット展望(冨高試論)

2016年回顧

2016年を表す言葉として、オックスフォード大学出版部が「ポスト・トゥルース(真実)」を選んだ。端的に言えばウソがまかり通ったということだ(12月23日、日経新聞「大機小機」)。6月英国のEU離脱、11月米国の大統領選挙。ブラックスワン(黒い白鳥)の「まさか」が2度起こり、17年に3度目のブラックスワンが舞い降りるかとの論評もでた。

2017年概論

17年は選挙の年である(3月オランダ、4月韓国大統領選? 5月フランス大統領選、9月ドイ連邦議会選)。その結果によっては、世界の政治環境が一変する可能性がある。

 1929年の「大恐慌」は、世界に保護貿易の高まりと農民・中産階層を没落させ、その政治不信が大衆迎合的なポピュリズムを産み、狂信的指導者を呼び込み、世界秩序を完璧に破壊した。

近代政治体制が確立した先進国では、民衆の不満が武装蜂起、政権奪取に至る古典的な革命はもはや起きない。起こるのは選挙を通じた大衆操作と政権転覆である。ムッソリーニもヒットラーも選挙で政権を確保したのだ。2008年に始まった「大不況」は1929年以後の世界と同様に、保護主義とポピュリズム台頭を許した。それが16年の「まさか」であり、「ブラックスワン」の出現だった。三度目もないことではない。それが17年の予感である。

17年 鉄スクラップ価格見通し 

 鉄鉱石、鉄スクラップ価格は、中長期的には①採掘コスト、②為替、③需給要因で動く。

1 採掘コストは、原油価格動向に比例すると見れば、当面の原油価格の大方の見立ては「原油価格の下限はOPECが、上限をシェールオイルが決める」(12月12日・石油資源開発の渡辺修会長)である。とすれば上昇しても60㌦まで。つまり3年前(100㌦)の6掛けだ。

原油価格の先行きはシェールとの価格競争で、低い天井を背をかがめて進むようなものだ。

2 為替相場は、トランプの「米国第1主義」のドル高(円安)か、欧州危機再燃の「有事の円買い」(円高)か。先行きは分からない。だから新聞は「ブラックスワン」の例を引く。

 円安になれば、鉄スクラップには追い風。共英製鋼・ベトナムの港湾設備も動き出す。

3 需給要因は、依然として弱い。中国、日本を含む世界全体の粗鋼生産は16年10月累計で16億㌧。前年同期比0.1%マイナスである。世界のGDPを上回る勢いで伸びてきた世界貿易量も最近ではGDPを下回る「スロー・トレイド」が定着している(日銀論文)。これにトランプの保護貿易の脅しが加われば「世界は悲惨になる」(12月5日、忍び寄るドル高の危険)。

 ただ日本の場合は、20年東京五輪と関連工事、国土強靱化計画の老朽インフラの補修工事がある。従来のように逃げ水にならなければ、一定の需要は期待できる。

***

シナリオ1 円安・世界経済現状維持―スクラップ高

 原油高が鉄鉱石や鉄スクラップ相場に波及するとのシナリオでは、

▽原油価格が底値(16年1月約32㌦)から51㌦台に浮上した場合(約60%アップ)、鉄スクラップは底値(15,000円割れ)から24,000円前後へ(まさに現状価格)。

▽原油が60㌦レンジに回復(底値から約2倍)すれば、30,000円は期待できる。

▽また製品小棒が現状から10,000円上昇し60,000円に達した場合では、

電炉異形棒鋼と鉄スクラップのスプレッドは35,000円(15年1月)~26,000円(16年12月*鉄源協会)。これを前提とすれば、鉄スクラップは25,000~34,000円が想定される。

シナリオ2 円高・世界経済破綻

 ブラックスワンがまた現れないとは言えない。英国のEU離脱、欧州の選挙、予測不能なトランプの政策運用など、不安定で見通しの極めて困難な世界政治が、欧州中央銀行やFRBなどの金融当局に過度な負担を押しつけ、その金利政策が各国の金利、景気動向を左右するとの悪循環が続いている。すなわち今後のFRBの金利引き上げテンポによっては、ドル建て債務の多い中国や新興国の債務負担が増大し、新興国の政策金利引き上げ、景気後退。その回避としての通貨引き下げ、輸出促進が、保護貿易を招く恐れもなしとはしない。

 ▽鉄スクラップ試算は変数が多すぎて、できない。ただリスクに備えることはできるだろう。

17年 業界動向(予想)

17年の国内スクラップマーケットは、優勝劣敗が一段と進む公算が大きい。

1 鉄スクラップ発生は、今後とも漸減傾向が予想される(産業技術の高度化による製品製造歩留まりの向上と「鉄離れ」=炭素繊維、エンジニアプラスチックの多用など)。

2 その少ないパイを巡って垣根を越えた競争の激化が予想される(鉄スクラップ回収業は、同時に非鉄回収など各種の回収業のゲートウエイ的な役割を持っている)。その強みに、しかし業者は気がついていない。その強みを求めて産廃業者や、建屋解体業者が加工処理機を手当てし新規参入している。さらに全国無数の路上・無料回収業者達がいる。

3 ライン合理化が、製品品質の向上やコストダウンに直結する製造業では「合併、統合」のメリットはあるが、「扱い量」が勝負の鉄スクラップ業では、合併メリットはない。

今後に予想されるのは、「人のつながりが残る合併」ではなく「費用対効果」がはっきり分かる「完全買収」か、縮小マーケットに応じた「完全撤退」のいずれかだろう。

                以上