経産省「金属素材競争力強化プラン」(2015年6月19日・第2版)

本稿は5月16日、四国で行った講演「鉄スクラップの現状」の冒頭説明を掲載したものである。

1:世界需給は長期的な「供給過剰」と「消費過小」、粗鋼生産は低迷=世界の粗鋼需給は「供給過剰」(04年以降の資源ブームを発端とする新規鉱山開発による鉄鉱石、原料炭の供給増加)と「消費過小」(08年世界恐慌を発端とする欧州を始めとする世界の生産活動の変調、10年以降のソブリンリスク、14年地政学的リスク拡大)のなかにある。過去10年間以上、世界のGDPの伸び率を倍近く上回ってきた世界の粗鋼生産の伸びは、逆にマイナス1%台に陥没(IMFの15年世界経済成長予測は3.5%である)。かつ粗鋼生産能力の過剰も警告されている(15年1月OECD)。

2:原油価格、鉄鉱石価格の基盤は弱い=鉄鉱石契約価格(粉鉱FOB、62%、4~6月期)は62㌦。ピーク(11年4~9月)170㌦の36%水準。原油価格(NY/WTI)も60㌦前後に推移し、ピーク(08年8月)147㌦から見れば、いわゆる捨て値・底値の目安とされる「半値8掛け2割引き=32%」に近い(逆に言えば、もう下げしろはほとんど無い)。原油価格の下落は、①米国のシェール革命(新規供給の拡大)、②OPECの価格支配(14年11月、減産拒否)、を背景とし、「逆オイルショック」(エネルギー多消費の先進国にボーナス、資源国にはマイナス)をもたらした。従って、わずかな材料でも浮上しやすい。その場合でも、原油や鉄鉱石価格は、世界需要(世界経済)の弱さから、回復したとしても50~70㌦予想が大半である。

3:世界経済の先行きは極めて不透明=資源相場は経済原則に則り①コスト、②為替(決済手段)、③需給の3要素で決まる。①コスト要因は、原油価格に相関するから、当面の強気材料は見当たらない。②為替は、米国の一人勝ち(強いドルは国益・米財務長官)。鉄スクラップ輸入国には自国通貨の相対的値上がりを誘発し、輸入数量に「抑制的」に働く。③需給は世界経済に密接に絡む(米国の1強多弱)。ただ米国も、実体経済が強いのか、量的緩和の余熱がそう見せるのか不明(従って市場は、再利上げの動向を見守っている)。確実なのは、欧州はソブリンリスクの第二幕にあり、ロシア経済は破綻寸前、中国は「新常態・ニューノーマル」の減速経済、ブラジル、豪州などは資源価格の暴落に直面。日本は消費税再値上げ(17年4月)前の政治的・経済的テコ入れが足場。世界は政府、金融当局の慎重なメス捌きを必要とする「集中治療室」経済が続いている。

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4:日本ローカル要因(鉄鋼・「需要に見合った生産」、業者・価格調整機能失調)

①鉄鋼集約の効果(スプレッド拡大)=日本には電炉会社は事実上、3社しかない(日鉄住金系、JFE系、東鉄)。過当競争に明け暮れた業界体質は一変し「需要に見合った(協調)生産」と「スプレッド(製品と原料購入価格の差)」拡大の環境が整備された(財務体質改善)。 

②韓国向け鉄スクラップ輸出・放射能問題=鉄スクラップ輸出は2001年以来、国内鉄スクラップ需給の「調整弁」的な機能を果たしてきた。これが韓国の放射能混入対策から一挙に不透明となり、その対策とコスト負担問題が、突きつけられた。これが円滑に進まない(輸出による需給調整弁の機能失調)と日本の鉄スクラップ業者は、海外輸出を通じて獲得した業者主体の価格形成力を失う恐れがある。韓国向けの機能失調は「日本の弱み」として、周辺諸国の「落ち穂拾い」(形としては韓国輸出減の穴埋め)の場となる公算が大きい(「日本玉割安」の背景)。

③電力問題=日本国内では、原発停止による電力料金の継続的値上げ問題がある。電炉各社はコスト対策として「需要に見合った生産」(減産)と「スプレッド拡大」に動く。鋼材製品の値上げが難しければ、原料購入価格の押し下げに求めるしかない。とすれば鉄スクラップ相場は、今後メーカー主導の抑制的水準が予想される。すなわち「逆有償脱出後~BRICS登場以前」に戻る公算が大きい。H2炉前価格で見れば「2万円プラス・マイナス5千円」の世界(2003~04年)である。

5:価格特性「試算式」を考える(韓国向け・放射能問題対応式:6月22日改訂)

相場は前記の通り「経済原則に則り①コスト、②為替(決済手段)、③需給の3要素で決まる」。コストと需給の反映が現下の「国際相場」とすれば、日本相場は「国際相場×為替」で決まる。「市場価格とは、予想されるリスクを含め、あらゆる経済的・社会的な内外条件に関する市場参加者の判断を一点に集約したものである」。▼従来、米国玉と日本玉の換算値試算は「運賃+検収格差=40㌦」との見方が一般的だった。これが放射能検査問題から荷役費コストが加わった。▼日本側有力扱い筋は、6月以降、米国玉(HMS、NO1基準)と日本玉(H2・FOB)の換算値を韓国電炉の実際値(運賃+検収格差+荷役費)を参考に「55㌦」と見始めた。つまり国際比較的には「韓国向け貿易相場」>日本湾岸価格。7月直近であれば、228㌦-55㌦=173㌦(1㌦=123円)。173㌦×123円=21,300円>H2・FOB最大期待値となる。