復活する金属屑営業条例(3)

第九章 六十年間のまとめとして

金属屑営業条例は、制定の始めに法的正統性が疑われた。なにしろ日本占領の任にあったGHQ時代に、国法(古物営業法)で営業の自由が認められた鉄屑商売に、地方条例(佐世保、山口など)が、敢えて罰則のしばりをかけたのだ。これが初期の金属屑条例に違和感を与え、その後の地方議会の制定審議は、この一点にこだわった。

ただ時代と共に、条例規定も運用も変わる。鉄屑カルテルの円滑な運営が国家の関心事となり、鉄屑の流通整備、近代化が緊急課題となるなか、金属屑条例の制定が56年以降再び、しかも全国規模で進められた。その時、国家が必要としていたのは、鉄屑流通の監視。膨大な末端業者の闇に光を当てることだった。

条例制定だけが目的ではなかった。それは手段・道具の一つ。だから鉄屑末端集荷業者の拠点だった東京では、条例制定の回避を交換条件に、国家公安委員長が「自主組合」の創設総会に臨席し、管区警察単位で組合を結成させ、闇を払った。

条例制定は全国49自治体の半分強の29に留まったが、制定を見送った東京や京都などの業者も、警察署単位で自主組合を作り、組合員名簿を差し出した。

国家、警察は、条例制定とその回避の駆け引きを通じて、全国的にほぼ所期の目的を達した。
 

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そのような一面はあったが、条例制定(もしくは回避)をバネに、当時バラバラな砂同様だった鉄屑業界に、組織への結集とコンプライアンス(法令遵守)の規律をもたらしたことは否定できない。それが管区警察署単位の組合、しかも半ば強制された組織(防犯、地区組合)であったにせよ、この時から、業界は、一つのまとまりとして自らを律しはじめた。

さらに規制が半世紀以上(1951年からであれば、60年以上)にも及び、警察・業者ともにその運用に慣れれば、規制はむしろ後発・新参者への「参入障壁」、既存業者の「商権」を守るバリヤー(保護柵)に転化する。

高度経済成長から大量生産・大量廃棄の時代となった1980年以降、鉄屑はかつての「絶対的不足」から「絶対的余剰」産物となった。資源価格が世界的に暴落するなか、日本でも下級鉄屑は買い取るどころか、排出者に逆に処理料金を請求する「逆有償」が出現し、これを嫌った鉄屑の不法投棄の山が社会問題となった。

2000年前後、金属条例は廃止ラッシュに包まれた。条例制定目的だった「盗犯防止」が意味を失い、社会的な役割が終わったと見られたことから14県が廃止。警察条例としての金属屑条例を持つのは16道府県だけだ。

資源回収・環境規制法規は拡充・強化

岐阜県が13年10月「岐阜県使用済金属類営業条例」を再制定し、千葉県が15年4月「自動車部品のヤード内保管適正化条例」を、鳥取県が16年4月「使用済物品等の放置防止に関する条例」を、三木市が16年7月、千葉条例にならう市条例を制定した。

千葉や鳥取県は、警察条例としてではなく(資源回収、環境保全の高まりを背景に)、生活・一般条例として制定したことの意味は大きい。この第四波を単に金属屑条例の「復活(岐阜県)」や「一部復活(千葉県、鳥取県、三木市)とだけ見ては、全体像を誤る恐れがある。

刻々と変わる時代の動きを、比較的敏感に反映させやすい地方条例である金属屑条例(だから制定、廃止を繰り返した)が、新たな時の変化を映したのだ。

いま鉄屑業者が直面しているのは、地球環境保護と持続可能な再生資源の確保、その一環としての廃棄物処理法の運用とその特別法(家電リサイクル法、自動車リサイクル法)や、今後予想される各種の再生資源、環境保全規制とどう向き合うか、との新しい波だ。

 その新しい波を、強引に整理すれば、経産省主管のリサイクル新法は「再生資源確保」のアメを用意し、環境省主管の廃棄物処理法はムチを秘めている。ただリサイクル新法は環境省も共菅するため、アメとムチの両面の強化としてやってくるだろう。

この国の方針変化に対応し、自治体は金属屑条例を、単に防犯の観点からだけではなく「リサイクル(資源)」と「環境」という新しい革袋、新規制に取り込んだ(それが第四波の本質)。また関係業者も廃棄物処理法の例外規定の囲いの外にでて、敢えて同法の許可を取得。廃棄物処理業との垣根を超え、鉄屑を中核としつつ総合リサイクルを探る動きを強めている(注)。

注=日本最大の鉄屑業者であるスズトクHDと関西地区の大手産業廃棄物業者である大栄環境が15年10月、包括業務提携を締結。さらに両社は15年12月、「メジャー ヴィーナス・ジャパン」の設立を発表した。ヴィーナスは静脈意味し、和製静脈メジャーを目指す。

マーケット変化と業態転換のなかで

日本は経済成長(大量発生期)期から経済成熟(発生縮小)期を迎えた。国内鉄屑流通の現場も、従業員も国際的に多様化(外国企業、外国人労働者の増加)し、国内企業・業者の多くが、その変化の波をかぶった。一部の製造業は「地産地消」の名の下に海外に拠点を移し、少子高齢化と共に国内老廃鉄屑の発生は長期減少期に入った。また各種リサイクル法施行の下に流通経路も、流通参加者の業種も、国籍もまた多様化した。ただそれらの変化は、あらゆる商売には付きものの競争原理から発生する諸問題のあれこれである。

確かに一部に法的に問題がある業者が存在する。では、どうするか。それが、実は、かつての金属屑条例制定の最有力根拠だった。

しかし商売上の諸問題を、法令に名を借りて規制してはならない。そこには常に、行政介入の余地が生まれる。それは金属屑条例で体験済みだ。さらに歴史が示す教訓は、洋の東西を問わず、国家による産業庇護・保護は、長期的には逆に潜在成長力を奪い、蝕む現実だ。

商売は、他の何ものの介入を許すことなく、自律的な競争原理によって、淘汰・選別されなければならない。その自律と競争こそが業の未来を開くのだから。

リサイクル新法と金属屑条例

地方条例である金属屑条例の許可と、不法投棄等の取締法である廃棄物処理法の許可は、全国の大方の鉄屑業者にとっては(法制度上は)別の世界の問題だった。金属屑条例の施行は全国自治体の3分の1にも届かず、処理法は14条但し書きで同法の許可は不要としたからだ。しかし「逆有償」と各種リサイクル新法の登場から、処理法や各種新法の「許可」取得が問題となった。

前記の通り、地球環境保護、再生資源確保の時代の要請は、この前後、「許可」の内容を、金属屑条例や処理法の取締りから「資格認定」、「規制(制限)」から「規正(誤りを正す)」へと色合いを変えていた。一旦廃止された金属屑条例が、環境保全の一般条例として新しい革袋に詰め替えらたのは、その一例だ。

さらに、今後予想されるリサイクル新法は、環境保全と再生資源確保を目指し、「アメとムチの両面の強化」、「認定資格」を厳格に問う可能性がある。

「取締り」許可から「資格認定」許可へ

ただここで問題となるのが、廃棄物処理法やリサイクル新法と業者「許可」の関係だ。廃棄物処理法は歴史的経緯から鉄屑は同法の適用を除外した。これは古物営業法が鉄屑を同法の適用から除外したのと全く同じ構図だ。古物営業法では、その対策として自治体は、独自に金属屑条例を制定した。廃棄物処理法では、特別法(自動車リサイクル法)で自動車を「廃棄物とみなし」(121条)、扱い業者を「許可」の網に絡みとった。

 近年の各種資源、環境法令の大方は(金属屑条例の業者監視・管理とは異なり)環境監視・資源管理に重きを置くとの観点から適正な資格認定を前提としている。

 鉄屑商売の扱い対象が(廃家電、廃自動車、レアメタルなど)多様化し、各種リサイクル法が制定されるなか、鉄屑商売は(防犯の観点からだけではなく)「リサイクル(資源)」と「環境」という新しい視点から再び国家の関心事となり始めた(21世紀の戦略産業・産構審報告)。時代が三転四転したのだ。

資源確保・環境保全の関係法令は、常に「アメとムチの両面」を持つ。そのことを理解したうえで、廃棄物処理法、リサイクル諸法、さらに金属屑条例を見なければならない。なぜならビジネスは挑戦であり、常に困難と共にあるからであり、それ故に対価も約束されるからだ。

16道府県が条例施行継続の背景

とは言え、16道府県が条例をいまなお継続している。

そのことも考えなければならない。

その際のヒントになるのが00年に廃止され、13年に新たな装いのもとに再制定された岐阜県の「使用済金属類営業条例」である。同条例は21世紀の「電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法」(18条3項)などの情報システムと使用済み自動車処理や国際テロ組織対策(従業員名簿・20条)を組み合わせた最新の金属屑条例として登場した。

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条例施行は29から16自治体になったが関係官権は、金属屑条例を歴史的な役割が終わった条例とは見ていないようだ。その実例が前記の岐阜県条例の再制定であり、ことに「品触れの過失」処罰規定の挿入だろう。

国の法律で認められなかった規定(改正刑法案審議では廃案)を、条例条項に盛り込む。古物営業法と金属屑条例との同じ図式を「品触れの過失」でも採用した。

官憲は一旦手にした道具(佐世保市50年条例25条)は手放さない。だから岐阜県条例(34条)で復活させた。

官憲は歴史を忘れてはいないのだ。さらに法令は第一義的に警察が解釈する。金属屑条例は官憲にとって既得権益である。中味が実態にそぐわなければ、改変すればいい。それが岐阜条例であり、歴史の教えである。