2019年 鉄スクラップマーケット概観

1 マーケット基本認識のために

① 国内鉄鋼生産と市中鉄スクラップ総供給量=17年度の粗鋼生産は1億483.5万㌧。炉別では転炉鋼7,925.2万㌧、電炉鋼2,558.3万㌧で電炉鋼比率は24.4%である。

▽日本鉄源協会の鉄源流通量調査結果によれば、17年度国内鉄スクラップ流通量は3207.7万㌧で、内訳は国内市中(鉄鋼ユーザー購入)2409.1万㌧、海外輸出798.6万㌧。両者合わせた総供給量は3207.7万㌧。うち輸出割合は24.9%とされる。

▽鉄スクラップ輸出量は、18年1~10月累計は621.6万㌧、年換算746万㌧。この輸出実績を前提に、国内の現状価格が成り立っている(需給バランスと価格決定メカニズム)。

▽日本鉄鋼連盟は、19年度粗鋼生産は18年度見込み(17年度1億484万㌧並み)をやや上回るとの見通しを公表した。粗鋼は5年連続で1億500万㌧前後を維持するとの想定だ。

② 鉄スクラップ輸出25%のインパクト=いまや国内鉄鋼メーカーは実質3社体制となった(新日鉄住金系・JFE系及び東鉄)結果、鉄スクラップの価格決定権は事実上、需要家側優位に動く(「需要に見合った生産」とは、言葉を換えれば「需要に見合った鉄スクラップ購入」である)。ただ輸出割合が供給量全体の4分の1に達すれば、国内需給に大きなインパクトを与える。

③ 業者「共同輸出」と電炉・価格の綱引き=1船当たりの数量を確保するため、個々の思惑を越えた「共同・出荷輸出」方式に業者は結集した。それが関東鉄源協組や関西鉄源連合会などに発展し、「入札価格の公表」を通じて、広く国の内外関係者に「日本発のマーケット情報」を発信した。その結果、この船荷価格を国内電炉も無視できない状況が生まれた。

④ 不純物混入と荷主責任問題の今後=発生・回収品である鉄スクラップには鉄分以外の成分が常に混入する。問題は鉄付き非鉄の下級品(「雑品」)。大量輸出・集積に伴い各地で置場火災や船火災が発生し、国内では廃棄物処理法の改正(18年4月施行)、中国の輸入禁止、近隣国の検収強化、日本産スクラップの評価ダウンにつながった。

 この結果、韓国・現代製鉄は7月20日以降、玉石混交の恐れが残る公開オファー形式の輸入商談を停止し、その後、荷主責任が明確となる個別商談方式に変更した。鉄スクラップ輸出の潮流は、責任所在が不明確な「広範な業者から投網的に集める」方式ではなく「特定業者に絞り込み」、品質保証の精度を高める方向に切り替わったとみていい。

2 内外の鉄スクラップ動向(強弱材料)

世界の政治・経済の大国は米国といまや中国である。

1 19年は「トランプバブル」がはじけるか(弱気)=18年の世界経済(日本経済も)は、つまるところ「トランプバブル」だった。一国の大統領が経済活動や金利判断に強引に介入した(鉄鋼、自動車関税、原油禁輸、FRB金利)。目先のディール(取引)の行方は、彼の頭のなかにしかないから、予測は不可能。従って19年の世界政治・経済の先行き不透明。鉄スクラップは経済活動の始発原料だから、もろに「トランプリスク」を受ける。

*原油(WTI)の18年高値は10月76.90㌦。安値は12月25日現在42㌦。

*東鉄・岡山の18年高値は10月38,500円。安値は12月26日28,000円。

*世界経済の先行きを占う株価、原油価格は、総崩れ状態にある。

鉄スクラップ相場は、このなかで動く。

2 中国の鉄スクラップ配合政策(強気)=世界の粗鋼生産シェアの半分以上は中国(10月52%)が占める。その中国が「世界の指導国」を目指し(一帯一路構想、中国製造2025)、「環境大国」としてのアピール(廃ガスなど環境規制の強化。地上鋼の製造禁止。「雑品」など再生材料の輸入禁止)を強め、そのなかで環境・資源対策を兼ねる鉄スクラップ配合率を20年までに20%、25年までに30%に引き上げ方針を打ち出し、18年から一斉に動き出した(15年実績11%前後)。中国国内での鉄スクラップ需給変化、品質意識の変化が、今後の国際マーケットにどのようなインパクトをもたらすのかが注目される。

3 19年国内相場展望  東鉄価格(岡山・特級)を参考に

▽15年=高値6月16日25,500円。安値11月3日14,500円(*11,000円)

▽16年=高値12月22日25,500円。安値1月8日14,500円(*11,000円)

▽17年=高値12月13日35,500円。安値5月2日24,500円(*11,000円)

▽18年=高値9月27日38,500円。安値12月26日28,000円(*10,500円)

▼08年リーマンショック=高値7月15日72,000円。安値11月5日12,500円(*59,500円)

*17年後半から18年10月までをトランプバブル絶頂(の特異現象)として、これを除外すれば、過去4年間の東鉄価格は高値28,000円(18年12月)安値14,500円の幅に収まり、変動幅は上下11,000円。最安値は14,500円である。

*19年マーケットは、18年の終値をスタート台に始まる。さらに19年の世界相場は経済後退が予想される。とすれば、過去4年間の東鉄価格推移から、19年高値28,000円-11,000円=安値17,000円・・・。バブル破裂が本格化すれば安値14,500円・・・とのシナリオも予想される。

*直近の最安値が14,500円止まりなのは、ヤード加工費・運賃・利益を7,000円とすれば、ヤード仕切りは標準品でも7,500円。これを下回ると集荷業者段階の経費を勘定に入れれば、下級品は「逆有償」となり、荷動きは停まる。この反動高を避けるためである。