放射能検査と鉄スクラップ輸出(増補・改訂。最新版6月22日改訂)

■始めに=鉄スクラップから放射線が韓国で検出・返品された(15年8月)。韓国は検査基準の厳格化に動きだした。日本の鉄スクラップ輸出は15年1~4月累計で267.2万㌧。前年同期比18.0%増だが、うち韓国向けは94.6万㌧で前年同期比27.7%減。全体シェアも35.4%と前年同期の57.8%から大きく落ち込んだ。一方、伸びたのが台湾、ベトナムなど東南アジア向け。台湾は累計58.5万㌧、全体シェア21.9%。ベトナムは38.4万㌧で同14.4%に急増した。この背景には、この間の米国貿易相場高(ドル高・スクラップ高)と急激な円安から、日本玉が国際相場から割安となった「為替要因」が大きい。国内粗鋼減産による需要減と韓国向けの輸出機能低下から、供給過剰状態にある日本の鉄スクラップ相場は、いわば国際的な「落ち穂拾い」に一息ついている(東南アジア輸出増加と湾岸相場の回復の背景)。

6月韓国関係者講演=6月11日、金沢で開催された第5回国際リサイクルで、韓国講演者は「韓国鉄スクラップ産業の主要issue」の中で、放射能検査問題の現状を紹介した。▽韓国内では韓国原子力安全委員会が昨年12月、鉄スクラップ輸出国の事前無放射能確認書の提出を義務付け、輸出港と電炉搬入時など3段階以上で検査する。その後、2月改訂案が示された。輸入鉄スクラップの検査レベルは、国際基準に従い「Back-ground値の1.2倍以下」とする。検査ガイドラインは8月末までに作成し、その間は0.03μSv/hは無放射能とし、10月末までは「猶予期間」とする(9月からは「Back-ground値の1.2倍以下」の運用が動き出す)。猶予期間終了後の11月からは1台ごとの「測定数値」の提出が義務付けられる。また11月以降、韓国当局は韓国電炉など関係箇所に立入点検を予告している。▽「トラック1台毎」検査が韓国側の条件のため、放射能検知機の無い地方・港湾からの韓国向け輸出は、今後不可能となる(地方筋で「検知機」発注が相次いでいる。

放射能検査・折り込み試算式が動き出す=「市場価格とは、予想されるリスクを含め、あらゆる経済的・社会的な内外条件に関する市場参加者の判断を一点に集約したものである」。▼韓国は15年6月中旬、米国玉(HMS、NO1基準)を269㌦・CFRで2隻契約した模様。▼日本側有力扱い筋は、米国玉(HMS、NO1基準)と日本玉(H2・FOB)の換算値を韓国電炉の実際値(運賃+検収格差+荷役費)を参考に「米国玉-55㌦」と見始めた。今回であれば、269㌦-55㌦=214㌦。(1㌦=123円)。214㌦×123円=H2・FOB26,300円。▼従来、米国玉と日本玉の換算値試算は「運賃+検収格差=40㌦」との見方が一般的だった。今回、日本の有力筋が、新たに韓国電炉の「荷役費」を加味したのは、放射能検査コストを反映した公算が大きい、と本HPは観測する。

■日本産鉄スクラップから放射能検出(時系列整理)=韓国原子力安全委員会は14年8月、日本の輸入鉄スクラップから放射線を検出、返品を命じた。汚染物質(20kg)はセシウム137。線量は表面から最大5.43μSv/h。同委員会は法令(生活周辺放射線安全管理法・12年7月)に基づき、主要港湾に放射線検知器を設置していた(韓国電炉の返品レベルは0.3μSv/h)。▼これを受け、日本鉄リサイクル工業会は、放射線汚染物質の混入防止を徹底する通知を8月22日付で出した。▼韓国規制強化に動く(14年9月)=韓国産業部は日本産鉄スクラップの輸入に輸出企業の「無放射能書」を要求することを関連協会、電炉、輸入企業に勧告し、原子力安全委員会、産業部、環境部が合同で勧告の履行確認を行うとの規制が12月以降、本格的に動き出した。このため日本側の鉄リサイクル工業会は商社代表団を韓国に派遣し、韓国鉄鋼協会と鉄鋼会社と12月22~23日、情報交換と日本側の意見陳述を行った。

■韓国・輸入規制の推移=韓国鉄鋼協会鉄スクラップ委員会は、「日本産鉄スクラップは輸入の際、輸入契約書に放射能項目を追加。同項目には輸出者が固定用及び携帯用放射能監視装置で測定した放射能基準値を必ず記載すること。同規制案は3月1日から適用する」との自律規制案を発表。▽韓国原子力安全委員会は監視強化のため、15年20台の放射線感知装置を主要港湾に追加設置。鉄スクラップ輸出国の事前無放射能確認書の提出を義務付け、輸出港と電炉搬入時など3段階以上で検査する(韓国鉄鋼ニュース・1月22日)。▽韓国鉄鋼協会鉄スクラップ委員会と鉄鋼会社は15年2月緊急会議を開き(日本での放射能検査は当初案にあったヤードから積み出しまでの4段階検査から)「日本現地の放射能検査を輸出ヤードだけ」とし「輸出ヤード(の)固定監視機を通過させ」、「荷役作業時に移動式検査機で測定」を求めると検査基準を「多少緩和」した。検査は3月契約分から適用。3月以前の契約分は3月末まで入着しない場合、新基準で運用する(同・2月13日)。▽「日本産鉄スクラップ(輸入)は3月契約分から、新たに制定された放射能検査基準に従わなければならない。日本現地で放射線数値をチェックし、韓国内の荷役過程で放射線数値をチェックする。電炉各社はこの追加費用を供給者が負担することを要求している」(同・3月16日)。▽日本側関係者によれば3月末までの契約分は従来の検査。4月1日以降分は新検査基準を適用する。
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■日本国内の流通・加工への影響=13年の日本の鉄スクラップ市中供給(輸入+国内鉄スクラップ購入量+輸出)3,738.7万㌧、うち輸出は812.9万㌧で市中流通の21.7%(世界の鉄スクラップ需給動向14年版・95p)。14年の輸出総量は735.0万㌧、うち韓国向け輸出は380.9万㌧で全体の51.8 %を占める。
輸出は07年~13年、日本鉄スクラップ流通量全体の15~29%(同資料)に達し、韓国向けが全体の過半数を超し事実上、国内需給の調整弁、アジア湾岸の指導価格として働いてきた。この状況のなかで、韓国向け輸出が一時的にせよ、機能不全に陥れば、その影響は極めて大きい。

   以下の論評は15年2月末時点で公表し、4月以降一部補足したものである。

■今後の対応をどう考えるか=問題は3点に要約できる。韓国側には①「放射能汚染に対する国民感情」とこれに政府が押された②「法的規制強化」の2点。日本業者側には③「無放射能書」作成課題である。打開策はこの3点を満足させなければならない。韓国では原発事故以降、日本産魚介類の輸入を規制するなど放射能汚染に極めて厳しい。
一方、日本側では原発事故後、禁止されていた汚染地区へ立入が解除され、被災スクラップの回収増加も予想される。被災スクラップの国内流通は多岐にわたるから、放射能汚染スクラップは災害地だけに限定されず、全国各地から加工・供給される可能性がある。
とすれば韓国側の国民感情と規制強化条件(①、②)を満たし、かつ日本側の(誠意ある)安全証明作成と提出(③)しか、隘路脱出策はないと(冨高は)考える。

■韓国向け輸出はヘビーばら積み(現状)からシュレッダー加工玉へシフトの道も(冨高私論)
 その結果、韓国向け鉄スクラップは「無放射能書」作成と数次に及ぶ放射能検査というハードルが立ち上がる。煩雑な手間とコスト増が発生し、そのコストを誰がどう負担するのかという問題が全国規模で発生する(しかし、これらの新たなコスト要因はいずれ市場が吸収し、流通障害とはならないだろう=注2)。
ただコスト変化は、従来のマーケットに新たな手法と可能性をもたらす。それがヘビー形態の船積みから、シュレッダー玉形態への変化を促す可能性だ。以下は冨高の私論である。
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韓国向け輸出の多くはギロチン加工が主体のヘビー(バラ摘み)スクラップである。持ち込み材料を一定サイズに切断・加工しただけだから、泥など異物混入は避けがたい。これが時に放射能汚染を引き起こす。であれば、可能性を排除すればいい。その道具として磁力選別機からダスト排除機を備えたシュレッダーがある。その成品に「無放射能書」を添付すればいい。これは韓国側の「国民感情の満足」と「法的規制強化」を満たし、日本側の安全証明も簡素化できるはずだ。従来の「ヘビー輸出」にこだわるから、放射能汚染は障害となる。しかし発想を変え、韓国の条件に沿い、かつ鉄スクラップを必要とする韓国と鉄スクラップ輸出を必要とする日本の現状を考えれば、「シュレッダー輸出」が打開策の一つとして浮上する。
 世界的に見れば、米国の最大の加工形態はシュレッダーであり、輸送航路の長い米国・インドの鉄スクラップの輸出の主力も(嵩比重が高く、運賃が割安となる)シュレッダーだ。韓国向け輸出にこだわるのなら、鉄スクラップの品位の安定・信頼、さらに汚染放射能対策としてシュレッダーの活用に注目すべきである。

注2:(閲覧者への返信)=この冨高私論について、閲覧者から「冨高論通りになると(シュレッダーの)差別化が出来てありがたいですが・・・韓国向けの放射線対策は、かなり日本側の要求に近い物になっているように思います」とのメールがあった。以下はその返信である。
放射能問題も、マーケット内では「コスト負担」問題の一つです(放射能検知機、その検査費用、維持管理費、検査にともなう諸費用)。現在、韓国向けの輸出が滞っているのは、そのコストをどちらが、どの程度負担するのか、とのマーケット上の合意が不十分なためでしょう。ただ、その合意が成立し、コスト負担を織り込んだ新たな流通スピードが生まれたとしても(形としては流通復活)、もし、また別の汚染問題が起これば、その合意は吹っ飛びます。抜本的には、汚染源を断つこと、もしくは最小化する手法をとることです。

また、同様の質問に対しては、ある会議の席で、以下のように答えた(注3)。
マーケットでは、あらゆることは「コスト負担問題」に還元される。どのような検査レベルか、その検査レベルに見合ったコストはいくらか。その負担を関係者がどのように分担するのか。その合意が成り立つ「タイムラグ(所用時間)」が流通量とスピードを決め、必要絶対量は、いずれ絶対的に動く。その必要量が今後の価格レベルを決める(需給法則)。また、放射能検査コストが一旦マーケットに織り込まれれば、それはマーケット内に吸収され、新たなコスト負担として再浮上しない(日本要因の一つとして定着する)。

注3:(最もあり得る現実的なシナリオ)=ことは国民の生命・身体に係わる放射能問題である。その新検査手法及び実施コストが、市場関係者からすれば「非現実的」なものとしても、韓国政府が「現実的な」レベルに引き下げる可能性は低い。韓国ミルも国の方針に従った「自律規制」を打ち出さざるをえない。
しかし、それでは物流が滞る。これが新検査実施が予定された15年4月を前に表面化した。このため関係者によれば、韓国大手電炉は「とりあえず7月まで暫定運用」として、旧検査での荷受け継続と伝えられる(その結果、4月後半の関東湾岸浜値は引き締まった)。この動きは、韓国側・電炉ミルの「自律規制」運用の、今後のあり方を示唆する先例になると、冨高は考える。
つまり、韓国原子力安全委員会が定めた「鉄スクラップ輸出国の事前無放射能確認書提出、輸出港と電炉搬入時など3段階以上で検査」通過後の問題は、ミル各社が放射能汚荷受けを今後、どう運用するか、に係わる。荷受けはミルの個々の商行為である。だからミルは従来から、各社ごとに鉄スクラップ荷受け規格を作り、個々に運用している。とすれば放射能検査も、その設定・運用レベル問題も同様である。リスクも、価格もすべては個々の商取引の中に吸収され、売買両当事者の力関係に還元される。