21年マーケット概況及び22年展望

 

1 21年のスクラップ市場をどう見るか

 

■マーケット概説

H2価格は全国的に5万円台に乗り、084月以来、13年ぶりの高値だ。その背景は、コロナ禍による工場操業の低下、解体工事の減少による市中発生減。世界的な鉄スクラップ需要の高まりによる供給ひっ迫があった。

リーマン直前の13年前の高値は、その1年前のサブプライムローン対策として各国政府・中央銀行が大量の資金を市中に投入し資源バブルを呼び込んだ。

 

今現在。先進国のゼロ金利とコロナ対策としての積極的な財政出動から市中には大量の資金が投入された。金余りが背景にある。その意味ではリーマンショック前と同じだ。ただ前回と決定的に違うのは「カーボンニュートラル」が、各国政府、各国鉄鋼会社の「生き残り」戦略として浮上し、鉄スクラップの使用・拡大が切り札となったことだ。「需要構造」が変化した。結果、鉄スクラップ価格は、新しい次元に入った。だからH2価格は5万円台に乗った。

 

それが、以下の状況となって目前に表れた。

*国内相場=棒鋼価格は1年前の大阪64,000円台が、足元ではリ92,000円台。28,000円、約44%も上がった(製品高)。H2価格は、鉄源協会調べによれば、同じ期間に31,000円台から53,500円まで上がった。

*海外相場=トルコ向け鉄スクラップ貿易価格は、年間を通してHMS(8020)ベース440500㌦前後を維持した。東南アジア貿易は、中国の鉄鋼減産政策やコロナ禍による生産抑制の影響を受けた。年末、トルコ向けは22年以降のロシア関税引き上げの影響を受けた(関税引き上げ前の駆け込み出荷=売り急ぎ)。

鉄鉱石相場=62%鉄鉱石の値動きは鉄スクラップとは違う。5月過去最高の230㌦まで急騰したが1190㌦を割った。中国の鉄鋼政策に振り回されたからだ。

*中国状況=カーボンニュートラルから中国の鉄スクラップ輸入拡大が期待されたが、中国の減産政策が明らかとなった8月、9月、10月の日本玉輸出は1万㌧台。1~10月輸出累計は632万㌧のうち中国向け37万㌧に過ぎない。

*世界の鉄鋼会社の動き=カーボンニュートラルに向け、各国政府、各国鉄鋼会社が一斉に鉄スクラップ確保に向け走り出し、まず内外の鉄鋼大手会社が電炉操業にシフトした(USスチール。アルゴマスチールなど)。さらに鉄スクラップ業者・ヤード丸ごとの抱え込みに動いた(ニューコア傘下のDJJ。クリーブランド・クリフス)。日本でも高炉による大型電炉工場を建設が発表された(参考資料)。

 

2 22年のスクラップ市場をどう予測するか

 

■マーケット概説

 鉄スクラップは、国内需給と輸出に直結する為替動向を変数として動く。たとえば21年中国向け輸出は100万㌧とも200万㌧とも期待されたが、8月以降は月間1万㌧台まで落ちた。中国需要の縮小と「日本国内高」を受けた結果だ。

 同様に22年マーケットも、コロナ禍の推移、国内経済の動向、さらに世界的な金利・金余り、財政出動の後始末など、変数が余りにも多すぎる。

 ただ世界のマーケットプレイヤーにとって「カーボンニュートラル」は今後の企業生命を左右する最重要課題となった。それが「スコープ3」問題だ。自社の事業活動からの直接排出(スコープ1)、他社から供給された熱源に伴う間接排出(スコープ2)に加え、サプライチェーン(供給網)やバリューチェーンからの関連排出。取引先の排出量の削減問題だ。例えば米マイクロソフトは、30年までにスコープ3排出量を半分以下にする目標に向け、取引先にスコープ3排出量を含む温暖化ガス排出量の情報開示を求め、それを基に取引先を選定するという。「スコープ3」に対応できない企業は、市場からはじき出される。

 

それが以下の現象となって表面化するだろう。

*スコープ3の積極的関与者として=鉄スクラップはCO2排出抑制の「グリーンメタル」であり「カーボンニュートラル」の切り札である。また「スコープ3・事業者の活動に関連する他社の排出(参考資料)」の関与者として、自覚的に、積極的に、取引先、エンドユーザーのCO2排出抑制に働きかける必要がでてくる。

*流通再編の予感=高炉会社が電炉で高炉スペックの鋼材を作るのだ 鉄スクラップは電炉会社だけの原材料ではなくなった。

いまや鉄スクラップ「争奪戦」に近い。その具体的な表れとして高炉と電炉、国内と海外の会社が、業者を選別する。そのような「流通再編」の時代に入った。

*ユーザーの構造が変わった1990年からの失われた20年。国内では電炉シェア低下や新リサイクル法制定の中で(内需後退から)海外輸出が急増した。しかし今や大手高炉が大型電炉を新設する。国内需要は(輸出に頼らなくても)安定的に拡大する回路が開けた。となれば次の課題は、国内エンドユーザーとの安心・信頼関係をどう高める、自己の利用価値をどう売り込むかかだ。

 

3 近い将来の業界、マーケット変化について

 

■妄想的な観測として

 

*2000年代=新リサイクル法施行とともに、各地でリサイクル対応の工場やグループ動きが活発となった。そのリサイクル法を一つの契機に鈴徳が中田屋を傘下に収め、スズトクホールディングスが登場(04年)し、「同業者提携」が動いた。

 

*2010年代=鉄鋼会社が2系統に集約されるなかで、業者も統合、再編が進んだ。まず弊社や共栄、シマブンコーポレーションなど高炉3社の業務提携(15年)が動いた。次いでスズトクを中核とするイボキン、青南商事。中特など、産廃業者を含んだ包括7社提携(15年)や産廃大手の大栄環境との合弁会社(メジャーヴィーナスジャパン・17年)など、「異業種提携」が出現した。

 

*2020年代=SDGSやカーボンニュートラルが、世界的なテーマとなった。そのなか、たとえばエンビプロなど新リサイクル法で力を蓄えてきたグループがSDGS、持続可能な経済発展を企業活動の全面に押し出してきた。

 さらにスズトクホールディングスは2110月、産廃大手と経営統合し新社名をTREホールディングスに改め、さらなる業容拡大を目指している。

 また鉄スクラップの内外にわたる争奪を見越して、湾岸ヤードに進出する内外の業者も多い。多種多様な業者がそれぞれの生き方を模索する時代に入った。

 

*「カーボンニュートラル」は新時代の世界を開く「黒船」である。

1990年以降。大量生産・大量廃棄と電炉シェア後退のなかで、鉄スクラップや家電製品などは、鉄鋼材料であるまえに厄介なゴミだった。だからこそ処理料金を請求する「逆有償」が広がり、隣接の産廃業者や渡来系の輸出業者に出番を与え、さらにリサイクル法に将来を見た各地の業者に新たなビジネスの道を開いた。これが1990年からの「失われた20年」の鉄スクラップ業界における真実である。

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しかし、世界の高炉各社が電炉で「高炉スペック」の鋼材を生産する(生産せざるを得ない)「カーボンニュートラル」の到来は、この流通構造を一変させる(はずだ)。なぜなら鉄スクラップは本来の「鉄鋼原料」としての評価が最大限に高まる(はずだ)から、その品質は勿論、納入業者の信用・信頼が、最終ユーザーに厳しくチェックされる(はずだからだ)。

それはかって、米国屑輸入の長期契約にあたって、当時の八幡・稲山常務が商社の介入を排除し、鉄鋼会社の直接契約とした論法と同じだ。「商社は、商社を起用すれば安く買えるというが、メーカーにとって鉄屑はコメビツのコメである。高いか安いかではない」。稲山は「数量の安定」を最優先したが、「カーボンニュートラル」の現実は鉄鋼原料の「品質と数量」の安定。その最終ユーザーのニーズに応える供給サイドの働きである。


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参考資料

 

一般企業の対応(スコープ3・事業者の活動に関連する他社の排出)として

 

温暖化対策、日本の針路 (8月3日・日経新聞) 気候変動問題の意味合いは大きく変わった。カーボンニュートラルに向けた対応が取引先や金融市場からの企業評価を左右する。焦点の一つは自社の事業活動からの直接の排出量に加え、サプライチェーン(供給網)やバリューチェーンからの「スコープ3排出量」、すなわち取引先の排出量の削減だ。米マイクロソフトは、30年までにスコープ3排出量を半分以下にする目標に向け、取引先にスコープ3排出量を含む温暖化ガス排出量の情報開示を求め、それを基に取引先を選定。213月時点でソニー、村田製作所など日本企業を含む110超のサプライヤが誓約する

 

三菱重工、回収CO2の取引市場を整備(8月14日)三菱重工業と日本IBMCO2取引市場を整備する。回収から輸送、貯蔵量までを網羅するシステムを開発する。CO2を回収した企業と原料などに使いたい企業をつなぎ、売買する取引市場を開く。売り手は電力や鉄鋼など、買い手は化学や燃料会社などを想定する。2022年以降に国内で実証実験も進め、25年にも取引を始める考えだ。

取引先も50年までに温暖化ガスの排出実質排出ゼロ(9月1日)三井住友フィナンシャルグループ(FG)は31日、2050年までに投融資先も含めた温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすると発表した。三菱UFJグループも5月に同様の方針を打ち出しており脱炭素化に向けた金融界の取り組みが加速している。

日立、供給網全体で脱炭素(9月14日)日立製作所は13日、サプライチェーン(供給網)全体のCO2の排出量を50年度までに実質ゼロにすると発表した。

■三菱地所(9月18日)=三菱地所は鋼材、セメントなどの資材や建機など工事段階からCO2排出量を把握する。超大型ビル建設に参加する企業に開示を求める。

 

****メーカー・業者の対応***

 

■鉄スクラップ、脱炭素で争奪戦 JFEも定期購入(日経・6月6日)=JFEスチールは21年度から年20万トン規模の定期購入を決めた。最低でも年20万トン使うことになる。転炉で使うスクラップの量を年100万トン以上に増やすことも視野に入れる。そのため21年度のうちに国内にある全4カ所の製鉄所に、スクラップを多く投入できる新型の転炉を導入する。JFEは製鉄事業で24年度のCO2排出量を13年度比18%削減する目標を掲げる。▼日鉄は最大級電炉を建設=日本製鉄は電炉を増強する。22年にまず広畑に新電炉を導入。その後30年までに国内拠点のいずれかに年産能力200万トン規模と国内最大級の電炉を新設する。投資額は明らかにしていないが、1千億円を上回る見通しだ。

▼東京製鉄=4月、スクラップの調達規格を見直した。上級品種は長さ1500mm以下のものまで受け入れる。従来は700mm以下としていた。*東京製鉄「長期環境ビジョン」(21624日・HP)=30年度はCO2総排出量ベースで13年度と同等、原単位ベースで60%の削減を目標とし50年度はカーボンニュートラルの達成を目指す。鉄スクラップの『アップサイクル』を通じて、自社の生産を30年に600万㌧、50年に1000万㌧まで拡大し、高炉鋼材から電炉鋼材への置き換えを推進することにより「カーボンマイナス」の実現に貢献する。・顧客との協働による鉄スクラップ回収率の向上=当社製品の回収率を向上し、脱炭素・循環型鋼材を納入するクローズドループの循環型取引を拡大する。

■ニューコア、脱カーボンへ=米鉄鋼大手のニューコアは105日、実質ゼロカーボン鋼材ブランドの「エコニック」を立ち上げると発表。再生可能エネルギーと排出権購入で実質排出ゼロとする。全鋼材を対象とし米市場で同種の試みとして最も多様な製品群を売り出す。最初の需要家として、来年1月には米自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)向けに供給する。GM向けのニューコアの鋼材は2022年末までに全て実質排出ゼロとする。

■DJJがディラー買収。北米で60拠点(105日)=ニューコア社は子会社で全米最大の鉄スクラップ・ディラーであるDJJ傘下のディラー(AMR、TMR)が相次いで中西部や南部で同業他社を買収。AMR社のリサイクル施設は12カ所、TMR社保有は26カ所に増加。DJJ社はこの買収を含め、全米に60カ所以上のリサイクル施設、13カ所の中古自動車工場を確保するに至った。

■北米鋼板最大手、鉄スクラップ会社を買収(10月13日)=北米鋼板最大手のクリーブランド・クリフスは11日、鉄スクラップ業のフェラス・プロセシング・トレーディング(FPT)を買収。FPTは米国上級スクラップ市場でシェア約15%と最大手。クリーブランドはスクラップ業に参入し原料を囲い込む。

■加アルゴマ・スチールが鉄スクラップ事業に参入(1029日・テックスレポート・7p)=加の製鉄会社アルゴマ・スチールが27日、北米の非鉄金属会社と合弁でATMメタルズを設立した。新会社はアルゴマ・スチールの電炉製鋼の移行を含め、上級スクラップやその他の原料供給を担う。