世界の鉄スクラップ相場も「新常態」へ

始めに=1月の賀詞交歓会シリーズもようやく終わった。この会合で私は「最近の鉄スクラップ相場をどう見るか」と頻繁に尋ねられた。私なりの見方を記すことにした(2015年1月29日)。そう前書きしたうえで、「最近の鉄スクラップ相場をどう見るかを考える」との表題を掲げ、H2炉前価格は2万円プラスマイナス5,000円の世界だ、と見た。今回、内容に即して上記のように表題を改めた(内容は従来のままである)。

世界の需給要因(供給過剰と消費過小の長期化)=世界粗鋼需給は、「供給過剰」(04年以降の資源ブームを発端とする新規鉱山開発による鉄鉱石、原料炭の供給増加)と「消費過小」(08年世界恐慌を発端とする欧州を始めとする世界の生産活動の変調)、「先行き不透明」(10年以降のソブリンリスク、14年地政学的リスクの拡大)から、世界の粗鋼生産の伸びは1%台に陥没(IMFの15年世界経済成長予測は3.5%である)。かつ粗鋼生産能力の過剰も警告されている(15年1月OECD)。

■世界の価格要因(原油価格と相関)=15年1~3月鉄鉱石長期契約価格(粉鉱FOB、62%)は70㌦。ピーク(11年4~9月)170㌦の41%水準である。一方、原油価格(NY/WTI)は50㌦を割り、ピーク(08年8月)147㌦の「半値8掛け2割引き」(底値の目安表現)に近い。鉄鉱石価格は採掘・エネルギーコストに絡むから、原油価格と相関する。原油価格は①米国のシェール革命(新規供給の拡大)、②OPECの価格支配(14年11月、減産拒否)、③米国とロシアの新冷戦(原油値下がりはロシア経済に打撃)を背景とし、「逆オイルショック」(エネルギー多消費の先進国にボーナス、資源国にはマイナス)をもたらした。原油価格が回復するとしても、一定の価格操作は免れない(一般的には50~70㌦予想が大半)。

■今年の相場をどう見るか(冨高私見)=相場は経済原則に則り①コスト、②為替(決済手段)、③需給の3要素で決まる。①コスト要因は、原油価格に相関するから、当面の強気材料は見当たらない。②為替は、米国の一人勝ち(強いドルは国益・米財務長官)。鉄スクラップ輸入国には自国通貨の相対的値上がりを誘発し、輸入数量に「抑制的」に働く。この時、米国が輸出確保に動けば、ドル建て価格は「抑制的」に動く。③需給要因は、米国の1強多弱。ただ強いと言われる米国も、実体経済が強いのか、量的緩和の余熱がそう見せるのか不明(従って市場は、再利上げの動向を見守っている)。確実なのは、欧州はソブリンリスクの第二幕にあり、ロシア経済は破綻寸前、中国は「新常態・ニューノーマル」の減速経済、ブラジル、豪州などは資源価格の暴落に直面している。日本は消費税再値上げ(17年4月)までに一定の経済的足場を確保しなければならない。世界は政府、金融当局の慎重なメス捌きを必要とする「集中治療室」経済が続いている。
▽日本経済は「原油安」と「ドル高(円安)」双方の明暗効果と20年五輪を目指したインフラ整備が加わった。原油安から日銀は15年度物価上昇を1%に下方修正(1月21日)、これに名目GDPは3%以上成長との強気の民間予測が併走。ローカル要因(日本)と国際要因(上記)をどう組み合わせるかが、問われる。
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1「逆オイルショック」と「ドル高定着」(世界は新価格体系へ移行)=世界は「逆オイルショック」に投げ込まれた。影響は、当面続く可能性が高い。とすれば、2001年以降の鉄スクラップ高を支えたOPEC主導による原油高、BRICSの登場による資源高背景は消え、世界は「逆オイルショック」と「ドル高」(1強多弱)を前提とした「新価格体系」に動く可能性が高い。その場合、ドル建ての各種資源相場は、(為替計算の見掛け上では)従来に比べ値下がり気味に動く(実質価格は同じでもドル高の分、ドル表示は下がる)。

2 中国要因(世界の粗鋼生産の半分は中国、製品輸出動向)=中国の14年粗鋼生産は8億2270.0万㌧、世界生産の50.26%を占めた。14年鋼材輸出は9378万㌧(前年比50.5%増)に達し、中国発の過剰生産と輸出鋼材の安値攻勢が問題となった。今年は、中国に加えロシア(ルーブル安)、ブラジル(レアル安)の半製品の安値販売が警戒される(製品価格のデフレ化→原料・鉄スクラップ貿易相場に下押し圧力)。

3 日本要因(鉄鋼会社集約と韓国向け輸出)=日本には電炉会社は事実上、3社しかない(日鉄住金系、JFE系、東鉄)。この結果、かつて過当競争に明け暮れた業界体質は一変し、「需要に見合った(協調)生産」と「スプレッド(製品と原料購入価格の差)」拡大の環境が整備された(鉄鋼会社集約の効果、製品価格安定・国内鉄スクラップ安の背景)。▽韓国向け鉄スクラップ輸出は2001年以来、国内鉄スクラップ需給の「調整弁」機能を果たしてきた。これが韓国の放射能混入対策から一挙に不透明となった。放射能に対する韓国の国民感情、それに沿った規制強化だから、誠実な対応が求められる。その対策(放射能検知機設置、各段階の検知事務・作業の増加)とコスト負担問題が、15年の現実課題として突きつけられている。これが円滑に進まない(調整弁の機能失調)と日本の鉄スクラップ業者は価格形成の影響力を失う恐れがある。

4 逆有償脱出後~BRICS登場以前の相場=さらに日本国内では、原発停止による電力料金の値上げ問題がある(日本ローカル要因)。電炉各社はこのコスト対策としても「需要に見合った生産」と「スプレッド拡大」に動く。鋼材製品の値上げが難しければ、原料購入価格の圧縮、押し下げに求めるしかない。
 とすれば日本の鉄スクラップ相場は「逆有償脱出後~BRICS登場以前」の水準に戻る公算が大きい。
 H2炉前価格で見れば「2万円プラス・マイナス5千円」の世界(2003~04年)である。