温暖化防止とゼロカーボン・スチールへの挑戦(5月26 日・改訂版)

本稿は、今夏発刊予定の「ゼロカーボン時代と日本の鉄リサイクル業―併設・評伝 稲山嘉寛と伊藤信司たち」のうち、第一部・第5章を先行、公開したものである。

 

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第五章 地球温暖化防止とゼロカーボン・スチールへの挑戦

 

1 鉄スクラップが「ゼロ・カーボン」の切り札へ

 

地球温暖化防止への国際社会の取り組みは、いまや「ゼロ・カーボン」、「カーボン・ニュートラル」のキーワードと共に、21世紀の政治・経済の主要テーマとなった。

日本でも214月、菅首相が2030年度CO2(二酸化炭素)排出量削減も目標を従来の13年度比26%減を46%減に拡大する新目標を発表。さらに50年度には実質ゼロと表明した。

鉄鋼業界は、今や待ったなしの「ゼロ・カーボン」対策を迫られている。

 

現代の高炉製鉄法は化石燃料を還元剤として使う(コークス製鉄法)から、その過程で大量の二酸化炭素が発生する。世界の鉄鋼業界が「ゼロ・カーボン」対策として取り組もうとしているのが、(長期的には)還元剤として、コークス(石炭)の代わりに水素を使う「高炉・水素製鉄法」の研究、投資(注1)であり、当面の対策として、注目しているのが、都市鉱山として先進国で大量に発生する鉄スクラップを使って製鋼する電炉操業の活用だ(注2、注3)。

中国は世界の粗鋼生産の半分以上を占める鉄鋼大国である。
その中国の電炉生産比率は1910.4%で中国を除く世界平均48.3%(世界の鉄スクラップ需給動向・19p)にはるかに及ばない。このため中国も電炉操業率の大幅引き上げと鉄スクラップの積極的な活用(注4)に大きく舵を切った。それが顕著に表れたのが最近の鉄スクラップ輸入政策の変更(注5)だ。その結果、最も身近な先進国である日本から中国向けの鉄スクラップ輸出は21年春、一気に増加した(注6)。

 

*注1・鉄鋼連盟は、我が国のカーボンニュートラルに貢献すべく「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」に関する㏋を公開した(2141日)。https://www.zero-carbon-steel.com

日鉄、5年間の経営計画(213月6日・日経新聞)日本製鉄は35日、25年度までの5年間の経営計画を発表。政府計画にあわせ50年にはCO2排出「実質ゼロ」を目指す方針も盛り込んだ。水素製鉄法やCO2の回収技術。4兆~5兆円もの投資が必要で政府の支援は欠かせない。

▽第四の革命・カーボンゼロ(21年5月3日・日経新聞)究極の資源競争が始まった。脱炭素の王道は太陽光や風力などによる電化だが、大型飛行機は電気で飛ばすのが難しい。高炉も電気では動かない。水素を製鉄に使う場合、11㌦が実用化の目安とされるが、いまの生産コストは29ドルと高い。炭素税の導入も課題だ。調査会社ブルームバーグNEFは水素が11㌦に下がった場合、CO21㌧あたり50㌦前後の炭素税をかけると長期的に水素製鉄が高炉より優位になると試算。炭素税が高炉の鉄鋼価格を12割押し上げるとみられる。

*注2・日鉄、30年までに大型電炉を建設する21331日・日経新聞)日本製鉄は30年までに大型電炉を国内につくる方針を明らかにした。粗鋼年産能力は400万トン規模と同社が持つ高炉に匹敵する。日鉄は22年以降、広畑や米国アラバマ州の工場で新電炉を稼働させる予定。▽JFEスチール、鉄スクラップ買付開始(214月5日・産業新聞)=JFEスチールは45日から、高炉製鋼原料用に鉄スクラップを買う。スポットではなく恒常購入は同社で初めての試み。CO2排出量削減に向け、製鋼プロセスの中で鉄スクラップ使用拡大を目指す。

*注3・電炉、車・建材に活用拡大 西本東鉄社長21415日・日経新聞)「鉄スクラップを100%活用すべきだ。国内のスクラップをすべて再利用すれば鋼材生産時の脱炭素につながる」「石炭を使う高炉に比べ、電炉の鋼材製造時のCO2排出量は4分の1だ。国内で建物や自動車などとして14億㌧の鉄が蓄積されている。スクラップ発生量は増える見込みで、電炉製鋼材を使う余地は広がる」。

▼脱炭素は鉄鋼業界の国際競争に影響するか=「政権が交代した米国では電炉比率が現在の7割から8割超となりそうな勢いだ。電炉への投資が相次いでおり、日本製鉄も欧州アルセロール・ミタルと共同で現地で電炉を建てる。米国勢は環境配慮を前面に押し出してくる可能性がある。鉄鋼に限れば日本や欧州はCO2対策先進国の米国を追いかける立場だ」

*注4・中国、電炉鋼比率を20%へ(19917日・産業新聞)=中国工業情報化省が「電炉製鋼発展の指導意見」を発布。第145カ年計画最終年の25年に粗鋼生産量に占める電炉鋼比率を20%に引き上げるなど発展目標を示した。中国廃鋼鉄応用協会は発生量は20年2億㌧、25年は3億㌧増えると予想。中国鋼鉄工業協会は高炉への直接投入の研究を開始した。

▽中国、60年までにCO2排出実質ゼロを国際公約=中国の習近平国家主席は国連総会で60年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を表明した(209月)。

▽河鋼集団、電炉比率25%計画(21427日・産業新聞)=中国鉄鋼大手の河鋼集団は電炉鋼生産比率を2030年に25%に引き上げる計画。中国政府はCO2排出削減に向け電炉鋼比20%を目標とし、企業に電炉導入や高炉から電炉への切り替えを促している。宝武鋼鉄集団が河南省で電炉建設を計画するなど、脱炭素の潮流が鉄鋼業の構造変化を加速させている。

中国鉄鋼、鉄くず「地条鋼」復活も(21424日・日経新聞)=中国で鉄鋼は年間のCO2総排出量の12割を占めるとみられ、宝武鋼鉄集団は1月、23年にCO2の排出量をピークアウトさせ、50年に排出ゼロを目指す方針を明らかにした。河鋼集団も3月に50年ゼロの目標を公表。中国では需要があれば違法でも強気の増産を続ける企業は多い。統計に載らない違法な鉄くず「地条鋼」を当局は一掃したとするが、需要回復で一時的に復活する動きもある。

*注5・中国、鉄スクラップの新国家規格を承認(201221日・産業新聞)=中国の国家市場監督管理総局は14日、鉄スクラップの新国家規格「再生鋼鉄原料」(GB/T397332020)について2111日の適用開始を承認した。

▽中国、鉄スクラップ輸入関税ゼロへ(2156日・テックスレポート)=中国は今年輸入を再開した「再生鋼鉄原料」の輸入暫定税率を51日からゼロとした。

*注6・中国向け鉄スクラップ3月輸出6万㌧へ急増(21年4月28日・SSJ通信)=通関統計によると中国向け鉄スクラップ3月輸出は60,219㌧。1~3月累計79,163㌧で昨年同期(4,878㌧)の15倍超に急増した。関係者によれば、中国からの輸入引き合いは2月以降、本格化しており、今後さらなる増加が見込まれる。▼なお直近10年間の中国の輸入のピークは2011年676.7万㌧。17年に232.6万㌧に後退したあと、雑品の輸入規制が強化された19年には18.4万㌧。20年にはさらに減少し2.7万㌧まで落ち込んでいた。

 

2 その歴史的、今日的背景

 

人類は化石燃料(石炭、石油)の高度な利用と大量消費で現在を築いた。古代のヒトは地下から鉄を掘り起こして文明を開き、近代人はこれを動力源として広範な移動手段(馬車から自動車、帆船から飛行機)を発明し、現在に至る産業社会と地球規模の経済活動を獲得した。

その鉄とすべての移動手段が、いま大きな歴史的な転機に立っている。石炭た石油など化石燃料はCO2を排出する。それが地球温暖化を促進させ、地球環境に壊滅的な影響をもたらす。

地球温暖化防止が、国際的な枠組みとなり、防止が21世紀の最大の課題とされ、その世界的な低炭素社会(ゼロ・カーボン)への工程表が待ったなしで示された(注1)。

 

CO2排出が最も多いのが石炭、重油発電所、ついで製造産業、陸海空など運輸、商業施設、家庭の順。産業分野の最大が全体の40%超を排出する鉄鋼。運輸では自動車だ。その対策が鉄鋼業界(注2)や自動車業界の、次の時代の生き残りを賭けた経営戦略となっている(注3)。

これは鉄鋼や自動車産業の内部的な問題ではない。地球温暖化防止、脱炭素(ゼロカーボン)への取り組みは、いまや待ったなしの人類全体の生存をかけた社会的課題(注4)となっている。日本政府(菅首相)も気候変動に関する首脳会議(サミット)で13年度比46%減と従来から7割以上引き上げる新目標を示し「さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」と発言した(注1)。この地球温暖化防止策と国家経済戦略がガッチリと重なったのが「脱炭素」電気自動車の育成、普及であり、鉄鋼ではゼロカーボン・スチールへの挑戦である。

 

*注1・パリ協定・各国目標(21年226日・日経新聞)=地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」は各国に5年ごとに削減目標計画を提出するよう義務付けている。EUは30年に90年比40%減を55%減に、英国は同53%から68%にそれぞれ引き上げた。

▽バイデン米大統領提唱・気候変動首脳会議(21423日・日経新聞)=気候変動首脳会議が422日開幕され、米国は30年を目標にCO2排出量を05年比5052%減、英国は35年に90年比78%減。日本は30年度に13年度比で46%減、中国は30年までに削減に転じさせる方針。米国は温暖化ガスを大量に排出した輸入品に税などを課す「国境調整措置」(注3)も検討する。

▼改正温暖化対策法が成立(21年5月26日・日経新聞)=国や企業が取り組むべき気候変動対策を定めた改正地球温暖化対策推進法が26日、成立した。「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記し、50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする政府目標の法的な裏付けとなる。22年4月の施行をめざす。条文に基本理念を新たに設けて50年ゼロの方針を明記した。

*法律であるから政権が交代しても「50年ゼロの方針」は以後の国策として維持される。

*注2・日本鉄鋼連盟、50年にCO2実質ゼロ方針(21年2月15日・日経新聞)=日本鉄鋼連盟は15日、製鉄工程で排出する温暖化ガスについて2050年に実質ゼロを目指すと発表した。18年に公表した長期目標で業界として2100年の実質ゼロを掲げていたが、政府が50年に照準を定める中で大幅に前倒しする。鉄連が切り札に位置づけるのが「水素製鉄法」だ。すでに国内の鉄鋼大手は、君津地区で実証プラントを使った実験に取り組む。CO2の排出を現行より3割減らせる製鉄法を確立する考えだ。国立環境研究所によると、国内の19年度CO2排出量103千万㌧のうち、製造業は36400万㌧を占めた。鉄鋼業は最も多い15500万㌧を排出した。

 

*注3・自動車に排出枠取引制度(20124日・日経新聞)=経産省は20年代後半に自動車に温暖化ガスの排出枠取引制度を導入する検討に入った。30年代半ばに新車は電動車(EV)のみとする目標を設けるためだ。米カリフォルニア州ではEV比率が目標に届かないメーカーが達成済みの企業から排出枠を買う制度を設けている。

▽電動化で世界の自動車勢力図が塗り替わろうとしている。EVのブランド別ランキング(20年)では上位10に日本勢の姿はない。EVの構造は、従来車より簡素になりCASE(つながる、自動運転、シェアリング、電動化)周辺技術には人工知能(AI)など最新のITも不可欠だ(EVで塗り替わる自動車勢力図。3月12日・日経新聞)。

▽国境炭素税、WTOで協議へ(21年322日・日経新聞)=温暖化対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする「国境調整措置」をめぐる多国間協議が始まる。EUが前向きで、日本も世界貿易機関(WTO)の有志国会合で協議に着手するように提起した。国境炭素調整は世界が脱炭素に向かうなか、特定の国による「ただ乗り」を避ける仕組みだ。たとえばEUが規制を強める一方で、ほかの国が十分な対応をとらず割安に工業製品をつくれば不公平になる。規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかけ、価格差を相殺しようというわけだ。

*注4・スウェーデンの10代少女、温暖化抗議は「変化をもたらす」(BBC21422日)=ロンドン中心部で4月15日から始まった「絶滅への反逆」と名付けられた抗議運動は、21日に7日目を迎えた。10代のスウェーデン人活動家(グレタ・トゥーンベリ)の少女がステージに登壇すると、群集からは「あなたが大好き」とのコールが上がった。気候変動を食い止めるための国際的な活動を啓発してきたことで高く評価されているトゥーンベリさんは、「人類は分かれ道に立っています」と訴え、活動家は「地球のために戦い続けます」と述べた。

 

3 ゼロカーボン社会と21世紀の鉄鋼業、そのなかの鉄スクラップ

 

上記の「歴史的、今日的背景」の説明の通り、国境炭素税など将来予想される「ゼロ・カーボン」時代の厳しい国際競争を生き残りためにも、CO2排出量の多い鉄鋼業や自動車産業にとって、技術的革新(水素製鉄、CASE・自動車の開発)は至上目標となった。

これが鉄スクラップ業界、業者にどのようなインパクトをもたらすのか、鉄スクラップの商品特性(特質)と現在の鉄スクラップ業者の立ち位置(流通の実際)から、考えたい。

 

 鉄スクラップの特質は、持続可能な資源であり、かつ低炭素資源でもあることだ。

①産業活動の先行素材である=鉄鋼需要はあらゆる産業活動に先立って動く。その始発原材料である鉄スクラップは鉄鋼と同様に産業活動に先行して動く(生産指標商品)。

②都市鉱山である=産業活動の事後生成物であるから鉄スクラップの蓄積は生産・消費が旺盛な先進国に偏る。化石材料と異なり先進国発の地上資源、輸出資源だ(持続可能な資源)。

③低炭素品である=化石燃料を還元剤・加熱材として使用する高炉・コークス法は、鉄鉱石や石炭の採掘、その海陸の運搬、その製銑、製鋼の4段階でCO2を排出する。一方、地上・回収物を使う電炉・鉄スクラップ法は、製鋼の1段階だけで工程が完了する。
その結果、高炉・コークス法では、製鋼1㌧当たり約2㌧のCO 2を排出するが、電炉・鉄スクラップ法は、0.5㌧と高炉の4分の1で済む(温暖化防止資源)。

 

世界の鉄鋼業が、中長期的な水素製鉄法に至る「つなぎ」として電炉製鋼に注目し鉄スクラップ確保に走る理由だ。その結果、鉄スクラップ流通は大きく変わる可能性がある。

①国際商品として販路拡大=鉄スクラップは、持続可能な・温暖化防止資源として、国の内外で需要を獲得する。輸出商品だから貿易・荷役・湾岸設備の充実が条件となる(注1)。そこに商機を見つけた商社が、集荷網を整備し貿易扱いを拡大する動きもでてくる(注2)。

②国内鉄スクラップ流通「国際化」の予感=鉄鋼生産「ゼロ・カーボン」は、なにも日本だけの問題ではない。世界の鉄鋼業界の共通の課題だ。現に2000年以降、中国などからの渡来系業者が「雑品」貿易を足場に湾岸船積みに進出。
その実績を背景に近年、内陸各地にヤードを開設。彼らの母国・中国が鉄スクラップ輸入解禁策に転じた21年現在、渡来系業者はさらなる商機を見つけた。「国際化」は何も海の上の貿易商売だけではない。日本国内の足元ですでに起こっている。

③高炉系業者の再評価の予感=大手高炉各社は当面の「ゼロ・カーボン」策として電炉の新増設、鉄スクラップ使用の拡大を打ち出した。日本製鉄は400万㌧規模の電炉を広畑に作る。JFEも鉄スクラップ購入を増やす計画と伝えられる。その数量は、日鉄の計画数量(400万㌧)だけで現行の年間鉄スクラップの輸出量の4割を超える。そのインパクトは大きい。

高炉が電炉工程で高級鋼材を作る。その結果、鉄スクラップ業者と成分評価の新たな「選別」が予想される。その新たなキーワードは、品位と品質、安全・安心だ。高炉各社は、転炉製鋼法の普及とともに市中の鉄スクラップ購入から去った(70年代)が、「ゼロ・カーボン」時代を前に再び市中手当てに戻ってきた。流通商社、高炉系業者の新たな出番が予想される。

④ゼロ・カーボンの鉄スクラップビジネスとは=リオ・サミットで持続可能な資源として鉄スクラップが再評価され、各種リサイクル法が制定され、国際貿易が拡大した。その現在・ただ今、ビジネス・パートナーは国内外の企業、市民ユーザーなど広範・多様な関係者すべてである。鉄スクラップ・リサイクルは鉄素材・原料であると同時に、地球資源と環境に深く係わる企業活動となった。その自覚と責任が「リサイクル・ビジネス」の未来を約束するだろう。

 

*注1・鉄スクラップ大型船、石狩湾新港に決定(2141日・産業新聞)=3万㌧超の鉄スクラップ大型船が出港できる公共岸壁の整備が、石狩湾新港東地区で決まった。総事業費は92億円。工事期間は26年度までの6年間で、25年度はじめの暫定供用開始を目指す。石狩湾新港管理組合や日本鉄リサイクル工業会が働きかけてきたもの。

*注2・神鋼商事は鉄スクラップの取扱量を増やす(21年5月24日・産業新聞)=神鋼商事は鉄スクラップの取扱量を増やすため、グローバルの営業管理体制を再構築し、国内外で仕入れを強化する。大阪を軸に九州と東京に人員を配置。大手の鉄スクラップ業者と連携して輸出を増やす。三国間取引にも力を注ぎ、取扱量は20年度70万㌧から30年度に150万㌧を目指す。

                     以上