温暖化防止とゼロカーボン・スチールへの挑戦

 

1 鉄スクラップが「ゼロ・カーボン」の切り札へ

 

地球温暖化防止への国際社会の取り組みは、いまや「ゼロ・カーボン」、「カーボン・ニュートラル」のキーワードと共に、21世紀の政治・経済の主要テーマとなった。

そのなかで鉄鋼業界は、今や待ったなしの「ゼロ・カーボン」対策を迫られている。

 

現代の高炉製鉄法は化石燃料を還元剤として使う(コークス製鉄法)から、大量の二酸化炭素が発生する。日本の鉄鋼業界で「ゼロ・カーボン」対策として取り上げられているのが(長期的には)還元剤として水素を使う「高炉・水素製鉄法」の研究、投資(注1)。当面の対策として、従来の高炉操業を縮小し、鉄スクラップで製鋼する電炉操業の活用だ(注2、注3)。

中国は世界の粗鋼生産の半分以上を占める。その中国の電炉生産比率は1910.4%で中国を除く世界平均48.3%(世界の鉄スクラップ需給動向・19p)にはるかに及ばない。

 

このため中国も日本と同様に「ゼロ・カーボン」対策の一環として、電炉操業率の大幅引き上げと鉄スクラップの積極的な活用(注4)に大きく舵を切った。

それが顕著に表れたのが鉄スクラップ輸入政策の大幅変更(注5)だ。その結果、中国向け鉄スクラップ輸出は21年春以降、一気に増加に転じた(注6)。

 

*注1・鉄鋼連盟は、カーボンニュートラルに貢献すべく「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」に関する㏋を公開した(2141日)。https://www.zero-carbon-steel.com

日鉄、5年間の経営計画(213月6日・日経新聞)日本製鉄は5日、25年度までの5年間の経営計画を発表。政府計画にあわせ50年にはCO2排出「実質ゼロ」を目指す方針も盛り込んだ。水素製鉄法やCO2の回収技術。4兆~5兆円もの投資が必要で政府の支援は欠かせない。▽中国では1社で1億トンの年産能力を持つ企業が次々と生まれる可能性もある。日本が先行する環境技術も、巨大化した中国が追い上げるのは時間の問題だ。

*第四の革命・カーボンゼロ(21年5月3日・日経新聞)究極の資源競争が始まった。脱炭素の王道は太陽光や風力などによる電化だが、大型飛行機は電気で飛ばすのが難しい。高炉も電気では動かない。水素を製鉄に使う場合、11㌦が実用化の目安とされるが、いまの生産コストは29ドルと高い。▽炭素税の導入も課題だ。調査会社ブルームバーグNEFは水素が11㌦に下がった場合、CO21㌧あたり50㌦前後の炭素税をかけると長期的に水素製鉄が高炉より優位になると試算。炭素税が高炉の鉄鋼価格を12割押し上げるとみられる。

 

*注2・日鉄、30年までに大型電炉を建設21331日・日経新聞)日本製鉄は30年までに大型電炉を国内につくる方針を明らかにした。粗鋼年産能力は400万トン規模と同社が持つ高炉に匹敵。日鉄は22年以降、広畑や米国アラバマ州の工場で新電炉を稼働させる予定。

*JFEスチール、鉄スクラップ買付開始(214月5日・産業新聞)=JFEスチールは45日から高炉製鋼原料用に鉄スクラップを買う。スポットではなく恒常購入は同社で初めての試み。CO2排出量削減に向け、製鋼プロセスの中で鉄スクラップ使用拡大を目指す。

 

*注3・電炉、車・建材に活用拡大 西本東鉄社長21415日・日経新聞)「鉄スクラップを100%活用すべきだ。国内のスクラップをすべて再利用すれば鋼材生産時の脱炭素につながる」「石炭を使う高炉に比べ、電炉の鋼材製造時のCO2排出量は4分の1だ。国内で建物や自動車などとして14億㌧の鉄が蓄積されている。スクラップ発生量は増える見込みで、電炉製鋼材を使う余地は広がる」。▼脱炭素は鉄鋼業界の国際競争に影響するか=「米国では電炉比率が現在の7割から8割超となりそうな勢いだ。電炉への投資が相次いでおり、日本製鉄も欧州アルセロール・ミタルと共同で現地で電炉を建てる。米国勢は環境配慮を前面に押し出してくる可能性がある。鉄鋼に限れば日本や欧州はCO2対策先進国の米国を追いかける立場だ」

 

*注4・中国、電炉鋼比率を20%へ(19917日・産業新聞)=中国工業情報化省が「電炉製鋼発展の指導意見」を発布。第145カ年計画最終年の25年に粗鋼生産量に占める電炉鋼比率を20%に引き上げるなど発展目標を示した。中国廃鋼鉄応用協会は発生量は20年2億㌧、25年には3億㌧増えると予想。中国鋼鉄工業協会は高炉への直接投入の研究を開始した。

*河鋼集団、電炉比率25%計画(21427日・産業新聞)=中国鉄鋼大手の河鋼集団は電炉鋼生産比率を30年に25%に引き上げる計画。中国政府はCO2排出削減に向け電炉鋼比20%を目標とし、企業に電炉導入や高炉から電炉への切り替えを促している。宝武鋼鉄集団が河南省で電炉建設を計画するなど、脱炭素の潮流が鉄鋼業の構造変化を加速させている。

中国鉄鋼、鉄くず「地条鋼」復活も(21424日・日経新聞)=中国で鉄鋼は年間のCO2総排出量の12割を占めるとみられ、最大手の宝武鋼鉄集団は1月、23年にCO2の排出量をピークアウトさせ、50年に排出ゼロを目指す方針。河鋼集団も3月に50年ゼロの目標を公表。中国では需要があれば違法でも強気の増産を続ける企業は多い。統計に載らない違法な鉄くず「地条鋼」を当局は一掃したとするが、需要回復で一時的に復活する動きもある。

 

*注5・中国、鉄スクラップの新国家規格を承認(201221日・産業新聞)=中国の国家市場監督管理総局は14日、鉄スクラップの新国家規格「再生鋼鉄原料」(GB/T397332020)について2111日の適用開始を承認した。

*「再生鋼鉄原料」の関税コードは7204100010720410010720490001072041001072044900305コードで、JISに該当する厚さ6mmの「重型再生鋼鉄原料」をはじめ、4mm以上の「中型再生鋼鉄原料」、2mm以上の「小型再生鋼鉄原料」、シュレッダーである「破砕型再生鋼鉄原料」などが含まれる。

*中国、鉄スクラップ輸入関税ゼロへ(56日・テックスレポート)=中国は今年輸入を再開した「再生鋼鉄原料」(7204100072044100)の輸入暫定税率を51日からゼロとした。

*注6・中国向け鉄スクラップ3月輸出6万㌧へ急増(21年4月28日・SSJ通信)=通関統計によると中国向け鉄スクラップ3月輸出は60,219㌧。1~3月累計79,163㌧で昨年同期(4,878㌧)の15倍超に急増した。関係者によれば、中国からの輸入引き合いは2月以降、本格化しており、今後さらなる増加が見込まれる。▼なお直近10年間の中国の輸入のピークは2011年676.7万㌧。17年に232.6万㌧に後退したあと、雑品の輸入規制が強化された19年には18.4万㌧。20年にはさらに減少し2.7万㌧まで落ち込んでいた。

 

2 ゼロカーボン社会と21世紀の鉄鋼業、そのなかの鉄スクラップ

 

今、現に進んでいること。

下記の「歴史的、今日的背景」の説明の通り、製造など上工程では、国境炭素税など将来予想される厳しい国際競争を生き残りためにも「ゼロ・カーボン」は、鉄鋼業や自動車産業にとって中・長期的な至上目標となった。

これが鉄スクラップ業界、業者にどのようなインパクトをもたらすのか、鉄スクラップの商品特性(特質)と現在の鉄スクラップ業者の立ち位置(流通の実際)から、考えたい。

 

 その特質は、①産業活動の先行素材の一つ=鉄鋼需要はあらゆる産業活動に先立って動く。始発原材料である鉄スクラップは鉄鋼と同様に産業活動に先行して動く(生産指標商品)。

 

②都市鉱山の一つ=産業活動の事後生成物であるから、鉄スクラップの発生(蓄積)は化石材料と異なり、先進国発の地上資源、輸出資源となる(持続可能な資源)。

 

③低炭素品だ=高炉・コークス法で作った場合、製鋼1㌧当たり約2㌧のCO 2を排出する。電炉・鉄スクラップ溶解で作った場合、発電時も含め同0.5㌧と高炉の4分の1で済む(温暖化防止資源)。先進国は「ゼロ・カーボン」を目指し、鉄スクラップ使用を強める傾向にある。

 

これが「ゼロ・カーボン」の将来に向け、鉄スクラップ流通に大きな変化を呼び込むだろう。

 

①国内鉄スクラップ流通「国際化」の予感=2000年以降、中国などからの渡来系業者が「雑品」貿易を足場に湾岸船積みに進出。その実績を背景に近年、内陸各地にヤードを開設した。彼らの母国が鉄スクラップ輸入解禁策に転じた21年現在、渡来系業者はさらなる競争力を手にした。「国際化」は海の上の貿易商売だけではない。日本国内ですでに起こっている。

 

②高炉系業者の再評価の予感=高炉各社は当面の「ゼロ・カーボン」策として電炉新増設、鉄スクラップ使用の拡大を打ち出した。鉄スクラップで高炉・高級鋼材を作る。その結果、国内では鉄スクラップ業者と成分評価の新たな「選別」が予想される。新たなキーワードは、品位と品質、安全・安心。高炉各社と流通商社、高炉系業者の新たなタッグも予想される。

 

③国際商品として、販路拡大=鉄スクラップは、持続可能な・温暖化防止資源として、国の内外で需要を獲得する。輸出商品だから、貿易・荷役・湾岸設備の充実が条件となる(注)。

 

*注・鉄スクラップ大型船、石狩湾新港に決定(2141日・産業新聞)=3万㌧超の鉄スクラップ大型船が出港できる公共岸壁の整備が、石狩湾新港東地区で決まった。総事業費は92億円。工事期間は26年度までの6年間で、25年度はじめの暫定供用開始を目指す。石狩湾新港管理組合や日本鉄リサイクル工業会が働きかけてきたもの。

 

3 その歴史的、今日的背景

 

人類は化石燃料(石炭、石油)の高度な利用と大量消費で現在を築いた。古代のヒトは地下から鉄を掘り起こして文明を開き、近代人はこれを動力源として広範な移動手段(馬車から自動車、帆船から飛行機)を発明し、現在に至る産業社会と地球規模の経済活動を獲得した。

 

その鉄とすべての移動手段が、いま大きな歴史的な転機に立っている。化石燃料は、二酸化炭素(CO2)を排出する。それが地球温暖化を促進させ、地球環境に壊滅的な影響をもたらす。

その認識、地球温暖化防止が、国際的な枠組みとなり、防止が21世紀の最大の課題とされ、世界的な低炭素社会(ゼロ・カーボン)への工程表が待ったなしで示された(注1)。

 

CO2排出が多いのは発電所、産業、運輸、商業施設、家庭の順。産業分野の40%超の排出が鉄鋼。運輸では自動車が最大。その対策が鉄鋼業界(注2)、自動車業界の課題となっている(注3)。しかし、ことは何も鉄鋼や自動車産業だけの問題ではない。地球温暖化防止、脱炭素(ゼロカーボン)への取り組みは、いまや待ったなしの国際的な重大課題(注4)となっている。この地球温暖化防止策と国家経済戦略がガッチリと重なったのが「脱炭素」(ゼロ・カーボン)電気自動車の育成、普及であり、鉄鋼ではゼロカーボン・スチールへの挑戦である。

 

*注1・パリ協定・各国目標(21年226日・日経新聞)=地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」は各国に5年ごとに削減目標などを含む計画を提出するよう義務付けている。提出したのはEUや英国、日本など。EUは30年に90年比40%減を55%減に、英国は同53%から68%にそれぞれ引き上げた。

*バイデン米大統領提唱・気候変動首脳会議(21423日・日経新聞)=気候変動首脳会議が22日開幕され、米国は05年比5052%減、英国は35年に90年比78%減。日本は30年度には13年度比で46%減、中国は30年までに削減に転じさせる方針。米国は製造過程で温暖化ガスを大量に排出した輸入品に税などを課す「国境調整措置」(注4)も検討する。

 

*注2:鉄鋼連盟、ゼロカーボン・スチールに政府支援を要望(21年2月26日・産業新聞)=鉄鋼連盟の橋本英二会長は、ゼロカーボン・スチールへの挑戦について「国際的な開発競争がすでに始まっている。政府には水素還元の研究開発と新規設備投資、安価で安定大量の水素供給について支援をお願いしたい」と政府支援の必要を強調。対策として電炉での高級鋼製造と高炉での水素還元の2点を挙げ、国際的な開発競争に勝ち抜く考えを示した。

 

*注3・自動車に排出枠取引制度(20124日・日経新聞)=経産省は20年代後半に自動車に温暖化ガスの排出枠取引制度を導入する検討に入った。30年代半ばに新車は電動車(EV)のみとする目標を設けるためだ。米カリフォルニア州ではEV比率が目標に届かないメーカーが達成済みの企業から排出枠を買う制度を設けている。

▽電動化で世界の自動車勢力図が塗り替わろうとしている。EVのブランド別ランキング(20年)では上位10に日本勢の姿はない。EVの構造は、従来車より簡素になりCASE(つながる、自動運転、シェアリング、電動化)周辺技術には人工知能(AI)など最新のITも不可欠だ(EVで塗り替わる自動車勢力図。3月12日・日経新聞)。

 

*注4・国境炭素税、WTOで協議へ(21年322日・日経新聞)=温暖化対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする「国境調整措置」をめぐる多国間協議が始まる。EUが前向きで、日本もWTOの有志国会合で協議に着手するように提起した。▽国境炭素調整は世界が脱炭素に向かうなか、特定の国による「ただ乗り」を避ける仕組みだ。たとえばEUが規制を強める一方で、ほかの国が十分な対応をとらず割安に工業製品をつくれば不公平になる。規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかけ、価格差を相殺しようというわけだ。

 

4 その未来を如何に生き残るか

 

 迷ったときは本質から考える。

*ビジネスとは何か=「相手あっての商行為である」。

*では相手方とは誰か=リオ・サミットで持続可能な資源として鉄スクラップ・リサイクルが再評価され、各種リサイクル法が制定され、国際貿易が拡大した現在、国内外の企業、市民ユーザーなど広範・多様な関係者すべてである。

*商行為の本質=商(契約)行為は「信義・誠実」を原則とするから、広範・多様な関係者に対する信義と誠実な実行。その対価として与えられる「社会的信認」こそが業の本質である。

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鉄スクラップ・リサイクルは鉄素材・原料であると同時に、地球資源と環境に深く係わる商行為、企業活動となった。その自覚と責任が「リサイクル・ビジネス」の未来を約束する。

 

                    以上