「鋼材デフレ」と「鉄鋼集約効果」、「業者の合従連衡」を考える

中国発の世界的鋼材デフレが世界を覆う

国内外鉄スクラップ相場は、08~09年以来の6年半ぶりの「世界的な一斉安値」に沈んだ。08年は「リーマンショック」が発端だったが、今回は中国発、資源国経由の「チャイナ及び資源安のダブルショック」である。▽03年以降、資源高を演出したBRICsの筆頭、中国が08年のリーマンショック対策として発動された財政出動(大量の資金供給)の副作用として生まれた不動産、株式のバブルが、遂に崩壊(14~15年)。このバブル崩壊の連鎖は鉄鉱石、石炭など資源需給の崩壊(供給過剰)に広がり、世界は未曾有の鋼材「デフレ」リスクに直面することになった。▽BRICs登場以後の商品相場は中国発「資源インフレ・製品デフレ」市場だったが、今回は「資源デフレ・製品デフレ」の長期・悪性デフレを覚悟せざるを得ない。 

日本の鉄鋼集約効果

■新日鉄住金、経常利益約3割減(15年10月)=新日鉄住金の16年3月期は、連結経常利益が3000億円強と前期に比べ約3割減る見通し。従来は前期比18%減の3700億円を見込んでいた。中国を中心に海外鋼材需給が緩み利益を確保しにくい。国内も自動車向けなどが鈍く減益幅が拡大。同社は4月から減産。10月以降も生産調整は避けられそうにない。通期連結売上高は会社計画(前期比9%減の5兆1000億円)に届かない可能性が大きい。▽鉄鋼大手では、9月下旬に神戸製鋼所が今期の業績予想を下方修正した。JFEホールディングスは新日鉄住金と同様に鋼材の輸出比率が高く、収益環境は厳しい。

■東鉄は利益予想を拡大=東京製鉄は10月20日、16年3月期の単独税引き利益を前期比14%増の120億円との見通しを発表。従来予想から10億円上方修正した。鋼材市況悪化から鋼材販売は落ち込むが、鉄スクラップ価格が下落し採算は改善。売上高は従来予想を95億円下回る20%減の1320億円の見通し。「需要見合いの減産を継続する」。経常利益は6%減の130億円(従来予想は120億円)とした。▽同日発表した15年4~9月期の単独決算は、売上高が前年同期比15%減の717億円、税引き利益は25%増の69億円。

「業者の合従連衡」

■背景1:高炉と電炉で「明暗」・国内ではスプレッド拡大の「利益」=16年3月期決算(見通し)では高炉と電炉で明暗が分かれた。国際競争が問われる高炉は世界経済、なかでも中国発の鋼材デフレ(世界的な値下げ)にさらされ、収益を低下させた。一方、国内需要に主な足場を置く有力電炉は、鉄鋼集約効果(新日鉄住金登場による高炉・電炉の垂直・水平統合から事実上の市場支配が完了した)から「(国内では)需要に見合った生産」が可能となり、一定の収益が確保される体制・状況の恩恵を受けるに至った。

■背景2:買い手市場化から供給支配が強まる=原料の流通機能の中核は、①数量・②価格・③納期・④品質を、の安定供給をユーザーに保証することである。市場回収品である鉄スクラップは、本質的にそのいずれの面でも不安定さがつきまう。このため歴史的に「鉄くず統制」や「鉄くずカルテル」での需給(供給)調整が行われた。▽しかし、現在進行中の「鋼材デフレ(買い手市場化)と鉄鋼集約化」の結果、異次元の状況が生まれた。つまり少数の有力ユーザーが、①数量・②価格の事実上の決定権を握り、分散する多くの供給者は、③納期・④品質の遵守に従う、との一方的な力関係に変化した。

■背景3:商社・ヤード業者は従来制約を超える=新日鉄と住金が合併(12年10月)したことから、日鉄商事と住金物産は13年10月統合。メタルワン建材と三井物産スチールも14年11月統合(15年11 月エムエム建材に社名変更)。伊藤忠メタルズと住商鉄鋼販売は16年1月統合を目指す。▽ヤード業者では、日本最大のスズトクHDは、14年12月エンビプロHDと、15年3月イボキン、やまたけ、中特HD及びマテック、6月青南商事を含めた7社間での包括業務提携を締結。高炉系業者では15年6月、扶和メタル(新日鉄住金系)、共栄(JFE系)、シマブンコーポレーション(神鋼系)の3社が業務提携契約を発表した。新たな状況変化に対応した流通再編が鉄鋼再編と同時に動き出した。