時系列でみるカーボンニュートラルの動き ーー中間まとめとして

 

1-1 鉄鋼各社がカーボンニュートラルに走る背景――50年カーボンニュートラルの国際公約

 

■鉄鋼連盟、50年にCo2実質ゼロ方針(21年2月15日・日経新聞)=鉄鋼連盟は15日、製鉄工程で排出する温暖化ガスについて50年に実質ゼロを目指すと発表した。鉄連が切り札に位置づけるのが「水素製鉄法」。Co2の排出を現行より3割減らせる製鉄法を確立する。
国立環境研究所によると19年度Co2排出量103千万㌧のうち製造業は36400万㌧。鉄鋼業は最も多い15500万㌧(42.8%)を排出した。

■気候変動首脳会議・日本、温暖化ガス13年度比46%減(21年4月23日・日経新聞)=バイデン米大統領をホストとする気候変動首脳会議が22日開幕。米国は05年比5052%減、日本は30年度には13年度比で46%減、中国は30年までに排出量を削減に転じさせる方針。

■改正温暖化対策法が成立(21年5月26日・日経新聞)=国や企業が取り組むべき気候変動対策を定めた改正地球温暖化対策推進法が26日、成立した。「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記し、50年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする政府目標の法的な裏付けとなる。
条文に基本理念を新たに設けて50年ゼロの方針を明記した。

 

1-2 金融的背景――高炉設備と「座礁資産」リスク回避のために

脱炭素と金融(上)移行金融、電力や鉄鋼、債券発行や融資で「つなぎ役」の投資後押し(23年3月1日・日経新聞要約)国際決済銀行(BIS)は脱炭素化により、経済価値を失う座礁資産が最大18兆ドルとはじく。そうした資産を担保とする銀行にとっては融資返済が滞りかねない事態に直面する。環境負荷の高い産業が事業縮小を迫られることで邦銀には50年までに7兆円程度の与信コストが発生するという。電力や鉄鋼、運輸、化学といった排出量の多い企業は資金調達しづらい課題があった。そこで浸透しつつあるのが移行金融だ。温暖化ガスの排出量をゼロにする技術が実用化されるまでの「つなぎ」の資金供給といえる。

 

2―1 高炉各社のカーボンニュートラル対策――その戦略

 

  • 1   高炉各社はそれぞれ独自に、また政府機関や財政支援を足場に、カーボンニュートラルに向け、中長期戦略を打ち出し、その構想を、下記の通り公表している。

  • 2  その戦略は、まず足元の鉄スクラップと電炉の拡大活用(日本製鉄、JFE共に大型電炉新設)。中期的には天然ガス等による直接還元鉄の利用。最終的には外部水素(グリーン水素)を熱源とする水素直接還元、製鉄・製鋼の確立を目指す、としている。

*日本製鉄 21330日「カーボンニュートラルビジョン2050

20210330_ZC.pdf (nipponsteel.com)

*JFEスチール 22年91日 「カーボンニュートラル戦略説明会」

carbon-neutral-strategy_220901_1.pdf (jfe-steel.co.jp)

*神戸製鋼 気候変動への対応|KOBELCO 神戸製鋼

 

2-2 高炉各社のカーボンニュートラル対策――その実際

■JFE、脱炭素へ製鉄所改修 全4拠点で完了(22年2月16日・日経新聞)JFEスチールは鉄スクラップを従来より多く利用可能にするための国内全4カ所の製鉄所の改修が終了した。

■JFE、倉敷の高炉を電炉転換(22年9月1日・夕・日経新聞)=JFEスチールは1日、岡山県の「第2高炉」を27年に大型電炉に転換する方針を発表した。

■日鉄とJFEで水素製鉄、50年までに実用化をめざす(22年9月13日・日経新聞)=日本製鉄とJFEスチールは「水素製鉄」実用化で連携。CO2排出量を50%以上減らす。

■日鉄・広畑、新設電炉=日鉄・広畑は10月、新設電炉(年産70万㌧)操業を開始した。

■日本製鉄、「還元鉄」製造を事業化へ(22年12月22日・日経新聞)=橋本英二社長は22日、鉄鉱石を水素などで還元した「還元鉄」製造を事業化する考えを示した。

 

■神戸製鋼と三井物産、鉄鋼原料製造を検討 世界最大規模(23年4月11日・日経新聞)神戸製鋼三井物産10日、オマーンで「直接還元鉄」製造の検討に入ったと発表した。世界最大規模の年間500万トンを想定し27年生産を目指す。神戸製鋼の米子会社ミドレックスが手掛ける直接還元鉄プラントの建設を検討する。1年ほどで事業化を判断する。製造プラントは天然ガスを使う。将来は再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」注1を活用し、CO2排出量をさらに抑えた還元鉄をつくることも視野に入れる。
JFEスチールも伊藤忠商事と組んでアラブ首長国連邦での生産を検討しているほか、日本製鉄も製造事業化を目指す方針を示している。日本では安価に天然ガスやグリーン水素を大量調達するのが難しく、直接還元鉄プラントを普及させるには時間がかかるとみられる。

注1 IEA、水素「クリーン」認定に指標(23年4月12日・日経新聞)=水素は製造手法に分類があり、化石燃料を燃やしてつくる「グレー」、化石燃料を使うが、製造段階で出るCO2を回収する「ブルー」、再生可能エネルギー由来の「グリーン」に大別される。
国際エネルギー機関(IEA)は1㎏の水素製造で出るCO27㎏を下回ればクリーンとみなす水素指標をまとめた。化石燃料から水素を製造して7㎏以上のCO2が出ても、CO2を大気に放出しない回収技術などを用いて実質の排出量が7㎏より少なくなれば許容する。

 

2-3  高炉各社のカーボンニュートラル対策――その課題

■30年目標・水素価格3分の1(23年4月5日・日経新聞)いま水素供給価格は1㎥あたり100注2で、既存燃料の最大12倍相当する。(この)価格差を縮めるよう政府が補助する。30年に価格を3分の1に引き下げ普及につなげる。日鉄やJFEは試験炉を建設し2425年度に試験を始める段階だ。50年までの導入を目指すが、水素製鉄を含めた鉄鋼業界全体の脱炭素化には10兆円規模の投資が必要になる。

注2 *コークスによる還元と等価となる 水素コストレベル ≒ 8/ Nm³

*現状: 水素コスト〜100/ Nm³。30年予想30/Nm³。50年予想20/ Nm³。

20210330_ZC.pdf (nipponsteel.com) 水素による鉄鉱石の還元(特徴と現状)  24p参照

 

3 電炉会社のカーボンニュートラル対策――その実例として(流通の囲い込み)

■東京製鉄、ゼロカーボンビル建設へ(23年4月10日・日経新聞)=東京製鉄は7日、大成建設と連携し、CO2排出量を正味ゼロにするゼロカーボンビルの建設を推進するため、鋼材製造時から解体・回収までの資源循環サイクル、「ゼロカーボンスチール・イニシアティブ」を始動したと発表した。電炉鋼材を「T―ニアゼロスチール」と位置付けている。

 

鋼材の脱炭素と資源循環に取り組む「ゼロカーボンスチール・イニシアティブ」に参画(東鉄hp)Microsoft Word - (20230404)大成建設リリース文案rev6.doc (tokyosteel.co.jp)

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  • 鋼材生産プロセスでの脱炭素化を実現

電炉鋼材を用いて以下のプロセスで製造時の CO2 排出量を削減。

①柱・大梁を含む構造骨組に用いる鋼材のほとんどを電炉鋼材で製造

② 高炉鋼材に比べ CO2 排出量は 0.5tCO2/鉄tに削減。(全体累計で 75%削減)

③ 本イニシアティブにより、第一段階で鋼材生産プロセスに用いる電力を当社が再エネ電力等で代替し、低炭素型電炉鋼(「T-ニアゼロスチール」)を製造

④ CO2 排出量は 0.1tCO2/鉄tに削減。(全体累計で 95%削減)

 ⑤ 5%の CO2 排出量削減に向けて、当社と大成建設が連携して鋼材生産プロセスの脱炭素化に向けた設備投資や省エネルギー活動、CO2 削減・除去への貢献活動等を実施する。

  • 建築物使用鋼材の製造・調達から解体・回収に至る資源循環サイクルを構築

建築物解体時に発生する鉄スクラップを大成建設と連携して回収し、鋼材の製造・調達時の脱炭素プロセスと建設・解体・回収時の資源循環プロセスを組み合わせる。このような循環サイクルの構築により、再利用時に生じる CO2 排出量の大幅な削減を目指します。

*(説明前文の結語より) これらの取り組みが広がることにより、国内全産業の40%といわれている鉄鋼業界の占める CO2 排出量の大幅な削減も併せて期待されます。

 

*パナソニック「電炉鋼板の資源循環取引スキーム」を開始(13年8月2日・hp)=パナソニックは、東京製鐵と共同で使用済み家電製品から発生する鉄スクラップをリサイクルし、再び当社製品材料の鋼板として使用する資源循環取引スキームを電機業界で初めて開始した。
具体的には、当社グループ傘下の家電リサイクル工場であるパナソニックエコテクノロジーセンター株式会社注3で回収・処理された家電製品由来の鉄スクラップを、東鉄・岡山工場に納入し、同工場で電炉鋼板に加工後、パナホームが調達、建築用鋼板として使用します。

注3 パナソニックは、家電リサイクル法による拡大生産者の一端として家電リサイクル工場を運営している。鉄スクラップ発生者と電炉会社の流通が閉鎖的に直結した。

*東京製鉄 長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050

長期環境ビジョン | 東京製鐵の環境への取り組み (tokyosteel.co.jp)

 

 鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について - 経済産業省

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上記は、全体を取りまとめた最も信頼に足る基本資料である。必ずチェックすること!!!

                         以上