状況と論点について=最近、軽トラックで「無料回収のお知らせ」のビラを配布して、家庭ゴミや老廃家電を回収する動きが広がり、既存業者は危機感を募らせている。この問題の本質は「無料回収」ではなく、「無許可」営業にあると考えるのが本稿の論点である。
1 彼らの無料回収行為は違法だろうか?
家電引取が「中古品」名目で行われた場合は、直ちには違法とは言えない(注1。ただその後の保管等に問題があれば、その保管行為等から責任が問われる可能性がある。注2)。
(注1)家電リサイクル法=(98年6月制定、01年4月施行)=正式名称は「特定家庭用機器再商品法」。市民を排出者、家電販売店等を収集・運搬者、家電メーカー等を再商品化義務者とし、処理料金は排出時にユーザーが負担する(排出時「後払い」制=自動車リサイクル法は処理費用をユーザーが前もって負担する「前払い」制)。受け渡しは電子「管理票」で行い、家電メーカーには「自らが過去に販売した商品」につき引取り・再商品化責任を負う「拡大生産者責任」を課した。同法は09年4月から2品目を追加した。
▼中古品は廃棄物ではない=法2条5項は「『特定家庭用機器廃棄物』とは特定家庭用機器が廃棄物となったものをいう」から、廃物ではない中古品は、法の対象とならない。これが廃家電引き取りのグレーゾーン、脱法の格好の材料となった。このため家電製品に係わる「廃棄物」の見直しが急がれた。
(注2:環境省12年通知=環境省は12年3月19日、中古品としての価値が明らかに認められない回収品は廃棄物に当たるとした(使用済家電製品の廃棄物該当性の判断)。
通知の内容=(1)①中古品としての市場性が認められない場合(年式が古い、通電しない、破損している、リコール対象製品である等)又は再使用の目的に適さない粗雑な取扱い(雨天時の幌無しトラックによる収集、野外保管、乱雑な積上げ等)の場合、(家電リサイクル法該当品)は廃棄物に当たる。②廃棄物処理基準に適合しない方法による分解、破壊等の処分の場合は脱法的な処分を目的としたものと判断されることから、占有者の主張する意思の内容によらず、その使用済特定家庭用機器は廃棄物に当たる。
(2)使用済家電製品についても無料、又は低廉な価格で買い取られる場合であっても、直ちに有価物と判断されるべきではなく総合的、積極的に廃棄物該当性を判断する。
▼輸出規制を強化=環境省は12年9月、「廃棄物該当性の判断」(3月)に基づき、家電リサイクル法以外の家電製品も、物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案し、廃棄物該当性を積極的に判断し、輸出は環境大臣の確認が必要。違反の場合は未遂も処罰するとし、14年4月1日から適用を開始した。
2 「無料」価格の設定に問題はないのか?
廃棄物処理法は、「専ら再生利用の目的となる古紙、くず鉄(古銅を含む)、あきびん類、古繊維」は同法の適用除外(14条ただし書き)とするから、有価・無価にかかわらず上記4品目は適用除外となる(注3)。
(注3):廃棄物処理法=70年(昭和45)12月、公害関係14法の一つとして従来の「清掃法」を全面改正した(施行71年9月)。「事業活動に伴って生じた」廃棄物を対象とし事業者の自己処理責任が原則(10条)。他人に委託させることはできるが、法定処理業者でなければならず(12条)、処理業者は収集、運搬、処分について知事の許可が必要である(14条)。▼鉄スクラップ業者は許可不要=「ただし専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者(略)は、この限りではない」(14条但書)。「産廃物の処理業者であっても、専ら再生利用の目的となる古紙、くず鉄(古銅を含む)、あきびん類、古繊維を専門に扱う既存の業者は許可の対象にならない」(環境衛生局長通知)。▼廃棄物定義(有価物は廃棄物ではない)=「廃棄物とは占有者が自ら利用し、または他人に有償で売却することができないため不要になった物をいい、これに該当するか否かは占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべきものであって、排出された時点で客観的に廃棄物として観念できるものではない」(77年3月、厚生省通知)
3 法令上の許可を取得していない。その行為は違法だろうか?
古物営業法は「空き缶類、金属原材料、被覆いのない古銅線類金属」は古物の定義から外している(注4)。ただし金属類営業条例は鉄屑等を規制対象としているから、条例に定める許可を持たない者は(法律ではなく自治体の条例違反として)処罰される(注5)。
(注4):古物営業法(1949年制定:法律・警察庁)
1条(目的)=盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため(略)必要な規制等を行い、窃盗その他の犯罪の防止を図り、被害の迅速な回復を目的とする。
2条(定義)=「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるその他の物を含む・略)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの、又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
3条(許可)=開業するには営業所在地ごとの都道府県公安委員会の許可が必要。
▼古物は13種である(施行規則2条)=1美術品類、2衣類、3時計・宝飾品類、4自動車(部分品を含む)、5自動二輪及び原動機付(同)、6自転車類(同)、7写真機類、8事務機器類、9機械工具類、10道具類、11皮革・ゴム製品類、12書籍、13金券類。
▼古物に該当しないもの=庭石、石灯籠、空き箱、空き缶類、金属原材料、被覆いのない古銅線類である(警視庁・古物営業法の解説)。従って鉄スクラップは同法の対象外である。
(注5):金属類営業条例(自治体条例:施行16道府県)= 56~58年にかけ29道府県が条例を制定したが、90年代から廃止が相次ぎ、14年現在(2000年に廃止した後、13年10月に再施行した岐阜県を含め)の施行は北海道、茨城、長野、静岡、福井、岐阜、滋賀、大阪、兵庫、奈良、和歌山、岡山、広島、島根、山口、徳島の16道府県。規制は全国自治体の3分の1。規制内容は、49年制定の古物営業法の引き写しに近い 。
■重要=なお「金属類営業条例とは何か」、「家電、小型家電リサイクルと廃棄物」及び「いわゆる『市中品薄』を考える」の項を参照してください。
解説(15年7月補足) この問題の背景と本質を考える。
■背景1:鉄スクラップ需給変化=2004年度の鉄スクラップ供給は4,167万㌧(国内市中3,493万㌧+輸出674万㌧)。13年度3,740万㌧(国内3,020万㌧+輸出720万㌧)。最近10年間で459万㌧、約10%減少。国内市中需要の減少を年間600~700万㌧の輸出が穴埋めしている。
■背景2=さらに鉄スクラップ流通が、川上・川中・川下の全体にわたって変化した。
①川上の流通変化(製造歩留まりの向上)=08年のリーマンショック直前の相場は、実は未曾有の資源バブルだった。鉄スクラップ相場は1㌧7万円に迫り、鋼材は10万円超に跳ね上がった。これが製造各社の材料・コスト危機意識を高め、製造工程の歩留まり向上、工程スクラップの発生抑制を促した。この歴史的な原料高が流通上工程の流れと一工場当たりの発生量を変えた。
②川中の流通変化(隣接業者の参入)=鉄スクラップの高騰が、家電量販店(ヤマダ電機が11年登場)の参入などを呼び込んだ。また非鉄有力業者やステンレス業者、産廃業者、さらに従来は建物解体などを専業としていた者などが直接、ギロチンなど加工処理設備を導入し、鉄スクラップヤード経営に乗出すケースが増加した(隣接業界の参入)。
③川下の流通変化(行政、輸出業者の登場)=集荷最前線では中国系業者の参入が定着した。雑品や下級鉄スクラップの回収である。小型家電リサイクルなどの「行政関与」もある。これは許可業者が受皿になる。大型家電リサイクルなども含め流通路は変わった。
■無許可営業と新条例制定の動き=金属類の「無料回収」は、廃棄物処理法14条ただし書きで、許可なく可能である(ただし家電回収の場合は家電リサイクル法上許可が必要)。また国の法律である古物営業法は「空き缶類、金属原材料、被覆いのない古銅線類」は古物とは定義していないため、この法律の許可なく営業しても法的な問題はない。国の法律ではなく、地方自治体(都道府県)が独自に条例(金属類営業条例)を制定し規制している事例もある。
この自治体エリアでは「許可もしくは届出」を行わず営業した場合は、義務違反として取締対象となる。制定自治体は一時は全国29道府県に及んだが14年現在16道府県。全国自治体の3分の1にとどまっている。ただ13年の岐阜県の再施行に続いて、西日本地区では、新条例制定を求める動きも伝えられるなど、業者主導の巻き返しも見られる。
■その本質=国内では鉄鋼集約から「需要に見合った生産」が可能となり、減産下でも製品販売価格と原料購入価格差(スプレッド)は拡大。鉄スクラップ価格の「低位安定」が定着した。一方、国内の鉄スクラップ供給は長期的な減少傾向にあり、「生き残り」を懸けた業者提携も進んだ。同時に流通先端では「無料回収」や無許可業者が増加し、老廃、回収品の争奪が激化した。このなかで法的許可を要件とする金属営業条例の積極活用と新たな制定を求める動きが台頭した。