本稿は現在執筆中の「日本鉄スクラップ業者史」の第四部、
不確かな未来への一章題をHp読者のため抜き書きしたものである。
第四章 ビジネスとしての「社会的信認」
1 鉄スクラップ業者としての立ち位置
■歴史的承認=鉄スクラップ業界は江戸時代以来、
一貫して歴史的に最も整備された「都市鉱山(市中鉄源)」関連業である。
法制(各種リサイクル法)、制度(日本鉄源協会)、業者団体
(日本鉄リサイクル工業会、関東鉄源協同組合)などは世界的に見ても稀なほど整頓され、
複数の業界紙と自律的で多様なマーケットを備える。
■各種規制法は適用除外=歴史的な実績から、古物営業法(49年制定)、
ゴミ処理法である廃棄物処理法(71年9月施行)でも適用は除外され、許可なく営業できる。
この適用除外を巡って金属営業条例の問題(第二部参照)や92年の地球環境保護を受けた各種リサイクル法制定のなかで、業者は独自の判断を迫られることになった。
2 リサイクル業者としての立ち位置
■地球環境保護=92年のリオ・サミット(国連地球環境保護会議)以降、鉄スクラップは「持続可能な再生資源」として、「地球温暖化防止」の一助として、その両面から国際的に再評価された。日本でもこれを起点に各種リサイクル法が制定され「鉄スクラップ業者は、リサイクル先進者であり地域密着・専門・装置導入業者として」の新たな役割が期待された。
■各種リサイクル法は許可制=リサイクル法は「分ければ資源、混ぜればゴミ」の標語のもと、
国の厳格な基準のもと、環境保護と資源回収の両面を追求する。
また「持続可能な経済」のスローガンのもと、リサイクル・ビジネスをも追求する。
従ってその資格要件は、環境規制とビジネス資格審査の両面を兼ね備えるのを特徴とする。
3 鉄スクラップ業者に新たなビジネスチャンス
鉄スクラップの全体的余剰と「逆有償」に追い込まれた90年代後半が歴史的な転機となった。
それまでの鉄屑商売は、金属屑営業条例が施行された一部自治体を除けば、
古物営業法の許可も、廃棄物処理法第14条但書(「専ら再生利用の目的となる」ものは「この限りではない」)により、法的な許可なく自由に商売できた。
しかし排出者に処理料金を請求する「逆有償」のなかで廃棄物処理法との関係が問題となった。
さらに各種リサイクル法は、生産者である家電や自動車メーカーに販売後の廃棄製品に関しても
リサイクル責任(拡大生産者責任)を課し、同時に委託処理を認めたから、
歴史的に承認され、処理設備、豊富なノウハウを持つ鉄スクラップ業者が、
新法のリサイクル実務を受託・運営するビジネスが拡大した。
4 各種リサイクル法(略)
5 論点整理
1 許可の変質-「取締」から「資格認定」へ
各種リサイクル新法が制定されたことから、「廃棄物」と「資源物」の境界が消えた。
時代は持続可能な「再生資源」発掘と「環境保全」の規制に位置取りを変えた。
それとともに「許可」の意味合いが、リサイクル新法では大きく変化した。
金属屑営業条例や廃棄物処理法の「許可」は、
防犯や不法行為防止の「身元調査」的な色合いが強かった。
しかし「資源再生」を目的とする近年の家電や自動車など各種リサイクル法の「許可」は、資源再生を適正に遂行する能力を検査する「資格認定」の色合いが濃い(主管は経済産業省)。
その場合の「許可」は自動車運転の「免許証」に近い。
リサイクル諸法は、地球環境保全のため適正なリサイクル設備・能力資格を求める。
そのビジネスにアクセス(接近)するには「免許証」(許可)取得が必要である。
2 動脈産業と静脈産業が両立の時代
岡目(傍目)八目という言葉がある。
渦中にある者は、自分の立ち位置がよく分からず、
傍観する第三者の目にははっきりと分かるということだ。
鉄リサイクル工業会第3代会長を務めた鈴木孝雄が10年7月、
経団連(日本経済団体連合会)に参加を乞われ、
経団連・環境安全委員会に席を置いた。
時代は動脈産業とリサイクルを軸とする静脈産業の両立を求めている。
経団連はその業者・業界の力に日本の産業の未来を託したのだ。
だからこそヤマダ電機が登場した。
リサイクル工業会の第2代会長を送り出した有力業者が11年11月、
行き詰まった。スポンサーに名乗りをあげたのが家電量販大手のヤマダ電機だった。
鉄スクラップ業だけでなく「総合リサイクル業」としての評価があったと推察できる。
3 リサイクルビジネス(リサイクル責任)の本質
各種リサイクル法(家電、自動車など)は、国の規制法(許可が必要)であると同時に
拡大生産者責任の下、生産者とリサイクル業者の実務委託契約の下、
受託鉄スクラップ業者は民間契約の誠実な履行義務を負う。
つまり新規ビジネスに参入した鉄スクラップ業者は
、
国の環境規制の各条と生産メーカーの「社内規定=契約規定」の
二重の履行義務を負うことになった。その最低条件として、
環境ISO14001の認証取得や「コンプライアンス」(法令遵守)、
CSR(企業の社会的責任)などがこれを機会に重視されだした。
ただ生産者の拡大生産者責任を事実上肩代わりする
鉄スクラップ業者の「リサイクル実務責任」はこれだけでは済まないだろうと筆者は考える。
「リサイクル」は「廃棄物処理」の一種として、世間ではやはり「迷惑設備」なのだ。
「原発立地問題」を考えよう。万が一のリスクを考え電力会社は過疎地を選ぶ。
拡大生産者責任を課せられた生産者が、業者に「外出し」するのはこの構図と同じ。
リサイクルに伴う「社会的リスク」は低くはないだろう。
それゆえ「代替ビジネス」が成り立つ。
4 だから「企業の社会的信認」
「リサイクル」上の万が一の不始末・事故は、場合によっては社会問題になりかねない。
だから拡大生産者責任とリサイクル委託を認めるリサイクル諸法は、
鉄スクラップ業者などリサイクル実務者(の経営、行動)に万全の透明化・公正化を求めている。リサイクル責任は第一義的に家電や自動車メーカーにあり、法制上は委託先業者のリサイクル上の不始末責任から逃げることはできない(拡大生産者責任)。
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これを業者の側から言えば、「責任代替ビジネス」を成功させ、発展させるためには、
何としても万が一の不始末・事故は防がなければならない。
「コンプライアンス」やCSRの形式的な遵守だけでは足らない。
さらにより積極的で広範な責任確保、信頼の醸成が求められる。
筆者はこれを「社会的信認」ビジネスと呼ぶ。
真のリサイクル・ビジネスは「社会的信認」の上でのみ成り立ち、
その成功者は、ビジネスパートナーや広範な市民の「信認」を受けた者だけとなる。
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その概論は第一部「21世紀の課題」ですでに論じた。