1 中国が鉄スクラップを本格的に輸入する可能性が伝えられる
■中国鉄鋼、政府に鉄スクラップの輸入規制緩和を要望(6月2日・産業新聞)=中国の全国人民代表大会に出席した鉄鋼大手の首脳が鉄鋼原料の対応策を中央政府に相次ぎ要望した。
輸入鉄鉱石や鉄スクラップの価格が昨年来高騰し収益を圧迫しているため。粗鋼生産が高位を保ち、旺盛な原料需要が続く見通しから鉄スクラップの輸入規制緩和などを求める。
政府の後押しによって原料調達を優位にし、利益を成長投資に振り向ける考えだ。
■電炉、経営危機感募るー中国のスクラップ輸入解禁で(8月31日・鉄鋼新聞)=電炉メーカーによると中国では、年間粗鋼生産約10億㌧の粗鋼生産の10%強を占める電炉鋼を早期に20%程度に引き上げていく計画で、来年4月から鉄スクラップ輸入を解禁。
日本からの輸出も増えると電炉メーカーは見ている。
2 中国はどのような鉄スクラップ需給バランスなのか
■アバウトな冨高試算=19年の電炉シェア10.4%である(注1)。25年までに電炉シェア20%を目指す(注2)のであれば、5年間に年間2ポイント上げれば20%に達する。
中国の粗鋼生産は19年計9億9630万㌧(注3)。『能力置換策』(注4)の推進により粗鋼生産が現状の10億㌧を維持したとして、電炉シェア20%は2億㌧の生産と見込める。また18年鉄鋼の鉄スクラップ消費は1億8782万㌧である(注5)。
▼では25年電炉シェア20%では鉄スクラップ消費はどう動くか。
- 現行粗鋼生産・消費原単位(注6)からすれば→電炉粗鋼・2億㌧×0.659(原単位)=1億3180万㌧。転炉粗鋼・8億㌧×0.156=1億2480万㌧。合計2億5560万㌧。
- 鉄スクラップメリットから原単位が今後10%アップすれば→2億㌧×(0.659×1.1)=1億4498万㌧。8億㌧×(0.156×1.1)=1億3728万㌧。合計2億8226万㌧。
▼中国の鉄スクラップ発生量は19年現在、2億8410万㌧と報告されている(注7)。
25年まで10%増加すると仮定すれば(2億8410万㌧×1.1)3億1251万㌧である。
鉄スクラップ発生は長期的に見れば、消費をカバーするに足りると試算できる。
3 では、いつ鉄スクラップの中国が輸入に動くのか
中国の鉄スクラップの輸入量は、19年わずかに18万㌧(注8)。
20年上期(1~6月)の総輸入量は1万482㌧。前年同期比93.3%減である。
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そのなかで上記のように「来年4月から鉄スクラップ輸入を解禁」と伝えられた。
しかし政府が「環境対策」を掲げ、その一環として18年に実施した輸入監視制度が雑品や不良プレス規制、異物混入防止を目的としたとしても、規制対象である「個体廃棄物」のリストには鉄スクラップはアップされていた(注9)。これを資源・「再生原料」へ移す法的な、また実務的な手続きは、そう簡単ではないだろう。それに国内でも独自に鉄鋼会社が加工設備を増強する動きが広がっている(注10)。
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事実、中国事情に精しい扶和メタルの黒川友二会長は、法制や実務条件などから「早くても来年(21年)8月以降になるのではないか」(注11)との慎重な見解を明らかにしている。
4 この中国の動きをどう考えるのか
電炉シェアを20%まで高める、電炉生産を国策として増やすとの政策を打ち出すのなら、国家統治が徹底した中国では、遅くとも来年中には、輸入解禁となる可能性はあるだろう。
しかし、果たして、これをどう考えるべきなのか。
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中国の鉄スクラップの輸出数量の実際は、曲折・増減が多い。2009年輸入量は1300万㌧超だが、19年には20万㌧もない(注8)。輸出は16年統計まで年間を1万㌧未満だが、17年突如220万㌧台に乗ったが、19年には再び1万㌧前後まで縮小した。
輸入量が減ったのは鉄スクラップ自給率が100.0%前後に達した(注12)からだ。
また17年の輸出が(輸出関税40%にもかかわらず)急増したのは、鉄スクラップを多用する「地上鋼」の生産が禁止され、国内での鉄スクラップ販路を失ったためだ。それらの変化を、中国の関係者は柔軟に吸収する(それが今回の「輸入解禁」問題でもある)。
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中国は沿岸も長いが、内陸部も広い。立地条件によって荷受け・購入環境も違う。
また中期的には鉄スクラップ発生量は増大する。電炉生産シェアの高まりも流動的だろう。
とすれば今後は米国のように、鉄スクラップ輸出と輸入が同時・並行的に進む可能性は高い。
つまり状況次第では急増もあるが、急減もありうる。また輸出入は「値段ありき」の世界でもある。あらゆる事態が想定される。
今は、輸入解禁の話だが、次はどんな話となるのか。商売の話とは、そんなものだ。
5 関係・引用参考資料
(下記のページ数はすべて鉄源協会20年7月「世界の鉄スクラップ需給動向」である)
注1:電炉生産シェア=09年9.7%。17年9.3%、18年10.8%、19年10.4%(資料19p)。
注2:中国、電炉普及政策、電炉鋼比率を20%へ(19/9/17・産業新聞)=中国工業情報化省がこのほど「電炉製鋼発展の指導意見」を発布。第14次5カ年計画最終年の2025年に粗鋼生産量に占める電炉鋼比率を20%に引き上げるなど発展目標を示した。
注3:中国の電炉・転炉粗鋼生産(資料68p)
17年=電炉7749万㌧(電炉シェア9.3%) 転炉7億5424万㌧。計8億3173万㌧
18年=電炉9143万㌧(電炉シェア10.8%) 転炉8億3683万㌧。計9億2826万㌧
19年=電炉1億360万㌧(電炉シェア10.4%) 転炉8億9270万㌧。9億9630万㌧。
20年上期=4億9901万㌧(鉄連hp)
注4:電炉化促進政策=工業情報省は18年1月3日、CO2削減対策を兼ね高炉企業の電炉企業の転換を奨励する方針を発表。鉄鋼産業能力置換実施弁法でも「高炉・転炉から電炉への切り換えは等量置換が可能」と定めた。中国は電炉へのシフトを鮮明にした。
注4の2:「今後の鉄スクラップ需給見通し」(資料44p)
「中国では(過剰生産の)能力削減策として『能力置換策』が実施されているが、能力はほぼ同量置換であっても設備は大型化・新鋭化しており、また臨海部がほとんどで、効率化・品質向上から実質的には『競争力強化策』となっている。電炉に関しても中周波炉・転炉からの転換が推進されており、工業情報化省は『ここ数年に各地で発表された能力置換策による新規能力建設計画は合計2億トン近い。電炉が6000万トンを占める』」。
注5:中国・製鋼用鉄スクラップ消費(資料68p)
16年=転炉5399万㌧。電炉3606万㌧ 計9005万㌧(前年比687万㌧.8.3%増)。
17年=転炉9654万㌧。電炉5122万㌧ 計1億4776万㌧(5771万㌧.64.1%増)。
18年=転炉1億2720万㌧。電炉6062万㌧ 計1億8782万㌧(4006万㌧。27.1%増)
19年上期=転炉6934万㌧。電炉3179万㌧ 合計1億113万㌧。
注6:鉄スクラップ消費原単位(粗鋼生産1㌧=1000㎏当たり)(20年鉄源資料。31p)
09年=電炉520㎏、転炉65㎏。計109㎏。▽日本:電炉1038㎏、転炉145㎏
18年=電炉663㎏、転炉152㎏。計202㎏。▽日本:電炉1004㎏、転炉132㎏
19年=電炉659㎏、転炉156㎏。計205㎏。▽日本:電炉1006㎏、転炉123㎏
注7:鉄スクラップ発生推定=中国:日本:韓国:世界(資料36p)
09年=中国:4730万㌧。日本:3880万㌧。韓国:1780万㌧。世界:3億6330万㌧
18年=中国:2億4230万㌧。日本:4450万㌧。韓国:2610万㌧。世界:6億3690万㌧
19年=中国:2億8410万㌧*。日本:4170万㌧。韓国:2430万㌧。世界:6億6620万㌧
(2億8410万㌧=自家発生4980万㌧+加工7770万㌧+老廃スクラップ1億5650万㌧)
注8:鉄スクラップ輸入=09年1369万㌧。11年677万㌧。18年134万㌧、19年18万㌧。
注9:中国国家環境保護部公告 2017年第88号 『輸入固体廃棄物原料環境保護規制基準-製錬くず』等11項目の国家環境保護基準の発布に関する公告。
注10:宝武鋼鉄、鉄スクラップ加工拠点を建設(20/8/18・産業新聞)=宝武鋼鉄集団のグループ会社の欧冶鏈金再生資源は、安徽省馬鞍山市の鄭蒲港新区で鉄スクラップ年間100万トン加工能力を持つ欧冶鏈金馬鋼富圓鄭蒲港の建設工事を始めたと発表。欧冶鏈金は3年内に合計5000万トン以上と全国で最大の加工能力を持つ計画を進めている。
注11:「税関コード作成に時間 緩和後の品質格差も問題」(20/9/2・産業新聞)。
注12:鉄スクラップ自給率=米国:日本:中国:韓国(資料38p)
09年=米国:145.3%。日本:131.3%。中国:77.5%。韓国:70.8%
17年=米国:117.5%。日本:121.7%。中国:100.0%。韓国:81.8%。
18年=米国:120.3%。日本:119.2%。中国:99.6%。韓国:81.3%。
19年=米国:120.9%。日本:122.1%。中国:99.9%。韓国:79.5%。