1 鉄スクラップの特質は、持続可能な資源であり、かつ低炭素資源である。
高炉・コークス法は、鉄鉱石や石炭の採掘、海陸の運搬、その製銑、製鋼の4段階でCO2を排出する。一方、地上・回収物を使う電炉・鉄スクラップ法は、製鋼の1段階だけで工程が完了する。その結果、高炉・コークス法では、製鋼1㌧当たり約2㌧のCO2を出すが、電炉・鉄スクラップ法は、0.5㌧と高炉の4分の1で済む(温暖化防止資源)。
これが世界の鉄鋼業が、電炉製鋼に注目し、鉄スクラップ確保に走る理由だ。
■「グリーンメタル」としての鉄スクラップ=日経新聞は8月2~7日、EVや再生エネルギーなど新たなエネルギーインフラの構築に不可欠な非鉄やレアメタルの一部を「グリーンメタル」と呼ぶとして〈グリーンメタルのいろは〉を以下のように特集した。
(1)銅 EVや再生エネ、用途広く。(2)レアアース 高性能磁石向け。(3)リチウム EV電池に不可欠。(4)コバルト 電池正極材の要。(5)ニッケル 電池需要増。
冨高は、これに加え今後の「鉄スクラップ」を、「グリーンメタル」として付け加える。ゼロカーボンに必要な不可欠な重要メタルだからだ。
2 現在すでに起こっていることーー世界の鉄スクラップ評価が変わる
■現代製鉄、日本産スクラップを年間契約(韓国版・囲い込み)(21年1月8日)=テックスレポートによれば現代製鉄は、日本商社を中心とするシッパーと年間長期契約を結んだ。新断、HS、シュレッダーの3品種。数量は月間3万㌧規模。中国が鉄スクラップ手当てを新規格条件で再開したことから現代製鉄も日本産スクラップの安定購入を図ったものと見られている。
■現代製鉄、新断バラ入札値63,500円FOB、H2と新断バラ格差は18,500円に拡大(21年8月)=テックスレポート(8月20日)によれば現代製鉄は20日、10月20日を船積み期限とする日本産スクラップのオッファーを集めた。新断バラは63,500円FOB(7月9日比1,000円安)、HS・58,500円FOB(同2,000円安)。H2・45,000(同3,000円安)。
▼1年前の格差は2,500円だった=テックスレポートによれば、現代製鉄は20年8月19日、H2ベース27,000円FOB。HS・シュレッダー、新断バラ29,500円でビッドした。
*その後の格差。H2と新断格差は20年9月10日3,000円、10月15日4,000円、12月18日5,000円。21年4月15日6,000円、6月16日(実質10,000円)、6月下旬13,000円。
*関東湾岸相場 新断とH2格差は15,000円強に広がる(21年8月18日)=関係者によれば、高炉筋の購入意欲が強いことなどから上級品種は堅調。一般ヘビーの頭は重い。湾岸のH2実勢価格は46,000~47,500円。HS・59,500~60,500円。新断61,000~63,000円。
▼1年前 H2との格差1,500円(20年8月18日相場)=関係者によればH2実勢は25,000~26,000円。新断は26,500~27,500円、HSは27,000~28,000円である。
■国内メーカーでは
*東鉄(田原)、新断バラと特級の格差拡大(21年8月28日)=東鉄・田原8月28日購入価格は新断バラ54,000円、特級48,000円、鋼ダライ粉46,500円。▼1年前の8月20日価格(新断バラ28,000円、特級25,000円、鋼ダライ粉21,000円)に比べ特級と新断バラ格差は3,000円から6,000円に拡大し鋼ダライ粉は14,000円差が11,500円に縮小した。
*大同特殊鋼8月28日から新断とH2格差は11,500円に拡大(8月28日)=大同特殊鋼・知多工場8月28日の購入価格は「新断55,000円、H2・43,500円、HS・44,500円、ダライ粉39,000円」。*6月23日は「新断51,000円、H2・47,000円、HS・48,000円、ダライ粉37,000円」。▼6月23日以前は新断とH2格差は4,000円だったが、11,500円まで拡大。またH2とダライ粉の格差は10,000円だったが、これは4,500円まで縮小した。
■海外相場でも上級品種と一般ヘビーで格差が広がる傾向も(8月30日)=直近トルコ向け成約価格はHMS(80・20)447㌦CFR、ボーナス462㌦CFR、(昨年同時期の成約実績はHMS・277㌦CFR、ボーナス287㌦CFR前後)で、HMSとボーナスカーゴの差が1年前の約10㌦から直近では15㌦前後に拡大している。
3 鉄スクラップの将来像を考えるーー誇大妄想的な予想として
鉄スクラップの価格評価は、今後、大きく変わる可能性がある。
かつて鉄スクラップは鉄鋼原材料として、高炉の溶銑コスト対比から価格上限が論じられ、また鉄筋棒鋼の販売価格対比から短期的な動向が観測された。上限は高炉が使用する鉄鉱石や原料炭価格を総合した溶銑コストが制約する(溶銑コストを上回れば、高炉は鉄スクラップの装入を抑える=価格は下がる)。また中長期的な鉄スクラップの価格動向は、電炉の主力原料として、鉄筋棒鋼の販売価格動向にリンクする、と見られていた。
しかし、いまや鉄スクラップ評価は、鉄鋼原材料の一面と共に、新たに「持続可能な資源であり、かつ低炭素資源」として、鉄鋼産業の「ゼロカーボン」の切り札の一つとなった。
つまり溶銑コスト制約や鉄筋棒鋼販売価格制約から(比較的ではあるが)自由となった、との見方ができるようになった。つまり、今後の鉄スクラップ評価は、溶銑コストや鉄筋棒鋼販売価格とは(ある程度)、距離をとって動く可能性が出てきた、と考えられる。
では、その将来において鉄スクラップはどのように評価されるのか(以下は想像です)。
- 限られた上級スクラップは、(いづれ)囲い込み対象となる。
東京製鉄は21年6月、hp上で「長期環境ビジョン」(注1)を公表し、囲い込み(クローズドループ)と仲間作り(グリーンパートナーシップ)構想を明示した。日本製鉄やJFEHDなど高炉は勿論、電炉各社も、いづれその方向で業者陣営を固めると予想される。
注1・中東京製鉄「長期環境ビジョン」(21年6月24日・HP)=鉄スクラップの『アップサイクル』を通じて、高炉鋼材から電炉鋼材への置き換えを推進することにより「カーボンマイナス」実現に貢献してまいります。・顧客との協働による鉄スクラップ回収率の向上=当社の脱炭素・循環型鋼材を納入するクローズドループの循環型取引を拡大します。鉄スクラップ事業者とのパートナーシップの強化=国内鉄スクラップ事業者とのグリーンパートナーシップの強化により鉄スクラップ回収量の増大を図っていきます」。
- GXが、(いづれ)鉄スクラップ需給の将来を左右する時代がやって来る。
GX(注2)が求める今後の製品製造では「原材料+輸送+(加工・製造)工程」全体のカーボン値が問われる。つまり世界の製造メーカーにとって、原材料、製造工程のカーボン値(それが最終製品に影響する)をどれだけ抑えられるか、それが背品と会社評価につながる。
その結果、以下の連鎖反応が予想される。
*1 GX上の要請から、製造メーカーは、鉄鉱石由来か電炉製品由来かを選択基準とする。
*2 生産者である鉄鋼会社(高炉を含め)もローカーボンの電炉生産にシフトする。
*3 そのシフトから電炉生産は(採算性の要請もあり)、技術革新(設備の大型化、下級スクラップの使用拡大)を呼び込む可能性が高い(技術は必要によって進化する)。
*4 電炉製品の品質向上、製品の多様化が、さらに電炉分野の拡大を加速させる。
*5 鉄スクラップ需要は内外に拡大し、国を越えた囲い込みを誘発する(貿易拡大)。
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*6 囲い込みは、原材料供給者(高炉・電炉)と製造メーカー、その工場発生スクラップ回収業者との「クローズドループ」(東鉄「長期環境ビジョン」)として3者間をつなぐ。
*7 GX上の要請から高炉ラインに組み込まれた電炉製品の品質は、飛躍的に向上し、その付加価値の高まりは、主原料である鉄スクラップ評価を新たな高みに導く(可能性を開く)。
*8 とはいえ鉄スクラップは世界的な「需給バランス・変動商品」である。将来の「囲い込み」価格も将来の製品価格の「採算ライン内」に(必然的に)調整される。
*9 そのなか、原料納入会社は、それにふさわしい社会的責任と信認が求められる。
注2 グリーントランスフォーメーション(GX)とは、化石燃料から温室効果ガスを発生させない再生可能エネルギーに転換する(グリーン)ことで地球環境を転換(トランスフォーメーション)するとの取り組み。グローバル企業の多くは、カーボンニュートラルを時代の要請と受け止め、30年をめどにサプライチェーン全体でのゼロ・カーボンの実現を目指しており、日本企業にもGXを要求している。GXに向き合わない国や企業は、国際社会から地球温暖化対策に後ろ向きだと判断され、国際信用力、国際競争力を失うことになるとされる。
参考:貿易相場・時系列推移
*新断、輸出価格63,000~64,000円FOBへ続伸、H2との価格差15,000~16,000円に拡大(21年7月7日)=韓国のポスコ、現代製鉄、特殊鋼メーカーのセアベスチール3社が上級品種に買いを強めており、新断の直近の成約値は63,000円~64,000円FOB。H2成約価格は48,000円FOB程度にとどまるため、新断との価格差は15,000~16,000円に拡大した。
*新断、輸出価格62,000円FOB、H2との価格差13,000円に拡大(21年6月30日)=テックスレポートによれば、韓国の特殊鋼メーカーであるセアベスチールが新断に66,000円CFRで成約したもよう。海上運賃を4,000円とみれば、FOB換算では62,000円に相当する。直近のH2成約価格は49,000円FOB程度で、新断との価格差は13,000円に拡大した。
*現代製鉄、H2・47,000円FOBを提示・新断との価格差6,000円(21年6月9日)=現代製鉄はH2に47,000円FOB。HS52,000円、新断53,000円。シュレッダー51,000円FOBを提示。
*現代製鉄、H2を42,000円FOB、新断47,000円FOB(5,000円格差)(20年12月18日)=現代製鉄は18日、新断47,000円FOB、HSは46,000円FOB、H2・42,000円FOBを提示。
*現代製鉄、H2を26,000円FOB(4,000円格差)(20年10月16日)=現代製鉄は15日、H2・26,000円FOBの買いアイデアを提示。新断30,000円FOB。
*現代製鉄、H2・28,000円、HS32,000円、新断バラ31,000円(3,000円格差)20年(9月14日)=現代製鉄は10日、H2・28,000円、HS32,000円、新断バラ31,000円を提示。
以上