鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について - 経済産業省
22年9月12日 経産省製造産業局(pdf資料-全36p) ―― 重要!!!
*上記は、全体を取りまとめた最も信頼に足る基本資料である。必ずチェックすること!!!
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日経新聞 カーボンニュートラル関連報道
■鉄鋼連盟、50年にCo2実質ゼロ方針(21年2月15日)=鉄鋼連盟は15日、製鉄工程で排出する温暖化ガスについて50年に実質ゼロを目指すと発表した。18年に公表した長期目標で業界として2100年の実質ゼロを掲げていたが、政府が50年に照準を定める中で大幅に前倒しする。鉄連が切り札に位置づけるのが「水素製鉄法」。Co2の排出を現行より3割減らせる製鉄法を確立する。国立環境研究所によると国内の19年度Co2排出量10億3千万㌧のうち、製造業は3億6400万㌧を占めた。鉄鋼業は最も多い1億5500万㌧を排出した。
電炉への転換、なぜ必要? 日本の鉄鋼、脱炭素で守る JFEスチール社長 北野嘉久氏 「そこが知りたい」(23年2月16日・日経記事より)
――還元鉄の確保策は。
「現在の日本は天然ガスのコスト的に不利で、還元鉄プラントを日本国内でつくる決断には至ってない。(伊藤忠商事と)アラブ首長国連邦(UAE)での生産の検討を始めた。安い天然ガスから還元鉄が手に入る。スクラップをメインに据えるが、製品によっては還元鉄を使う。スクラップ一辺倒では(調達面などで)危ない。色々な還元鉄のプロジェクトに網を張る必要がある。原料権益のように投資し、安定的に確保する考え方もある」
■日本製鉄、「還元鉄」製造を事業化へ(22年12月22日)=橋本社長は22日、日経新聞などのインタビューに応じ、鉄鉱石を水素などで還元した「還元鉄*」(水素還元鉄)製造を事業化する考えを示した(冨高注・直接還元鉄ではない。)。製鉄の脱炭素化に備える。
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各社の公表済みカーボンニュートラル(CN)と還元鉄構想
1 日本製鉄 21年3月30日 「カーボンニュートラルビジョン2050」
20210330_ZC.pdf (nipponsteel.com)
概略
日本製鉄の削減シナリオ 5~8p
2030年にはCO2総排出量を2013年比30%削減を実現し、2050年にはカーボンニュートラルを目指す(大型電炉での高級鋼製造、100%水素直接還元、高炉水素還元開発)。
現在の電炉の取り組み 18~19p
*広畑の溶解炉と転炉を休止し、電炉を新設する(19年11月公表 22年上期立ち上げ)
*米国AM/NS calvertに電炉を新設する。*国内の一部高炉を電炉に置き換える
*スクラップに加え直接還元鉄(天然ガス還元~最終的には100%水素還元)を使う
大型電炉での高級鋼製造 技術課題 20~21p
1 不純物=銅、ニッケル、モリブデン、スズ、コバルトなどは電炉では除去できない。
2 生産性
① スクラップ等の冷鉄源からの電気アークによる初期溶融時間や電気炉内自然対流攪拌 での精錬時間増等、転炉(酸素ジェットによる強制攪拌)に対して生産性が大きく劣る。
特に容積の大きな大型電炉ではこれら(溶融、精錬時間)の影響が顕著になる。
② 還元鉄(DRI)の溶融は、脈石や空隙が多い事から熱が伝わり難く、溶融に時間がかかる。また、脈石成分が多い事から精錬負荷も高く、効率低下が想定される。これらにより、電炉、特に大型電炉かつ一定量のDRIを使用する高級鋼製造時の生産性には課題が大きい。
高炉水素還元(CCURSE50) 23p
CCURSE50=所内発生水素+鉄鉱石+直接還元鉄+原料炭=CO2・30%削減
スーパーCCURSE50=外部水素+鉄鉱石+直接還元鉄+原料炭=カーボンニュートラル
水素による鉄鉱石の還元(特徴と現状) 24p
*還元材として石炭(コークス)ではなく水素を使用する。世界的には水素を多量に含む天然ガスを用いた直接還元製鉄(DRI)法が稼働している。
日本は天然ガスに乏しいため、国内での直接還元製による生産の事例はない。
*コークスによる還元と等価となる 水素コストレベル ≒ 8円/ Nm³
*現状: 水素コスト〜100円/ Nm³。30年予想30円/Nm³。50年予想20円/ Nm³。
CCURSE50プロジェクト(GI基金*)事業 29~30p
(CO2 Ultimate Reduction System for Cool Earth 50 Project)=製鉄所の CO2 排出削減を目標とするNEDOの100%委託事業・プロジェクト(JFEの項参照)。
高炉の還元材であるコークスの一部を水素で代替(10%削減)し、発生CO2を分離・回収すること(20%削減)で30%削減を目指す。2008年度から高炉3社と日鉄エンジニアリングで開発に着手。水素還元技術は日鉄・君津の試験高炉で10%削減を実証した。
直接還元法の技術課題 33p
還元材として石炭(コークス)ではなくメタン(天然ガス)を使用する。
①このため、メタンは炭素を含むため一定量のCo2が発生する。②事前の選鉱、ペレット処理が必要。③次工程(高炉・転炉、電炉)の加熱、非鉄分離が必要となる。
注 実際に稼働しているのはMIDREX(神戸製鋼)、FINEX(POSCO)など。
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2 JFEスチール 22年9月1日 「カーボンニュートラル戦略説明会」
carbon-neutral-strategy_220901_1.pdf (jfe-steel.co.jp)
概略
プロセス転換概略 5p
2024~30年(移行期)=CO2削減18%(電炉導入・還元鉄利用拡大)
30~50年(イノベーション期)=CO2削減30%以上(最適プロセスを導入)
2050年=カーボンニュートラル
転炉でのスクラップ利用拡大 11p
従来の転炉製鋼(鉄スクラップ配合率10%)を、改め「環境調和型転炉溶銑予備プロセス・DRP🄬=Double-slag Refining Process」(鉄スクラップ配合率18%)を21年、全社で展開した。この結果、21年度・年間約17万㌧のCO2を削減した。
電炉でのスクラップ利用拡大 12~13p
*倉敷地区の高炉3基を、27年以降の改修タイミングに合わせ2基体制とし、高炉の代わりに高効率・大型新電炉を導入する。
*仙台製造所の電炉製造能力を、年間約14万㌧増強する(24年予定)
*CO2削減目標、年間約300万㌧。
還元鉄確保に向けた事業化検討 14p
*2030年までの移行期に、国内スクラップは不足が予想される。
*電炉での高品質鋼材製造やCO2削減のため直接還元鉄を活用する。
*UAEに設立する合弁会社のもと25年度下期から直接還元鉄の生産(年間250万㌧程度)を目指し、当社引き取り分は国内製鉄所で使う。
*その課題(16p)=還元鉄の貿易量は約1.1億㌧。うち電炉で高品質鋼材製造に必要な高品位直接還元鉄の輸出量は1,000万㌧程度。低品位原料の使用技術開発が必須となる。
グリーンイノベーション基金(GI基金*)事業 18~22p
- カーボンリサイクルCO2削減(GI基金)=千葉に150㎥の試験高炉を建設。25年4月から実施。発生CO2をメタンに変換し還元材として利用。50%超の削減を目指す。
- 直接水素還元技術開発(GI基金)=千葉に小規模試験還元炉を建設。25~26年度中に実施予定。水素で低品位鉄鉱石を還元。高炉に比べ50%超の削減を目指す。
- 高効率・大型電炉(GI基金)=千葉に10㌧試験電炉を建設。24~25年度中に実施予定。
- 注=グリーンイノベーション基金(GI基金)事業=2021年12月から動き出したNEDOの100%委託事業・プロジェクト。高炉3社とJRCMがコンソーシアムを組み、進めている。
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3 神戸製鋼 気候変動への対応|KOBELCO 神戸製鋼
神戸製鋼の立ち位置
30年目標=CO2を13年度比30~40%削減。鉄鋼の生産は、天然資源(鉄鉱石)からの生産(主に高炉、直接還元鉄)と、スクラップの再利用(主に電炉)による生産に大別することができ、日本鉄鋼連盟予測によれば鉄鋼の蓄積総量の拡大によりスクラップの再利用が大きく増加することが見込まれています。一方で、スクラップの再利用だけでは鋼材需要を満たすことはできず、天然資源(鉄鉱石)からの生産も引き続き現在と同程度に必要となることが予測されています。当社の生産プロセスにおけるCO2削減に関しては、MIDREX®プロセスによるCO2排出削減貢献ロードマップを策定し最大限に活用していきます。
高炉工程でのCO2排出量を約20%削減に成功=大型高炉での約1か月にわたる実証試験(20年10月に加古川・高炉4,844m3)に、MIDREX®プロセスで製造したHBIを多量に装入。高炉CO2排出還元材比(高炉炭素燃料使用量※1)を、518kg/t-から415kg/t-に安定的に低減(CO2排出量を従来比※2の約20%削減)できることを確認した。
「KOBELCOグループの製鉄工程におけるCO2低減ソリューション」~高炉工程でのCO2排出量を約20%削減できる技術の実証に成功~(2021年2月16日プレスリリース)
*MIDREX=直接還元鉄の製造・販売、世界シェアトップ。神戸製鋼所100%出資
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4 東京製鉄 長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」
長期環境ビジョン | 東京製鐵の環境への取り組み (tokyosteel.co.jp)
脱炭素社会の実現に向けて=わが国全体のCO2排出量の約14%を排出する鉄鋼部門での取り組みが不可欠です。循環型社会の実現には、「再資源化ループ」と「再生材利用ループ」から構成される「鉄のクローズドループ」が必要だと考えています。
「鉄鋼業の電炉化」提言=小宮山宏(元東大総長)・山田興一(東大総長室顧問)著「新ビジョン2050」(日経BP社)では、環境と調和のとれた持続可能な社会を「プラチナ社会」と名づけ、その方策の一つとして「鉄鋼業の電炉化」が提言されています。
「鉄鋼業の電炉化」
*2050年には、世界の鉄鋼生産量を大きく上回るスクラップが発生する。
→あらゆる鉄鋼製品をスクラップから作ることで、エネルギー消費量を削減。
*新たな鉄鋼業界の姿へ ~CO2排出量80%削減の実現~
→年間2億㌧(産業分野で最大)のCO2を排出する鉄鋼業のあるべき姿として、高炉鋼材から電気炉鋼材へのシフトを進め、電炉生産量を現在の2倍にあたる5000万㌧にすることにより、日本の全排出量のおよそ13%にあたる1億6千万㌧を削減。
アクションプラン(短期目標)
*省エネルギーの実施=生産・調達・輸送プロセス見直し、CO2排出量原単位を毎年1%以上削減の目指し、13年度比で30年に60%減、50年100%減を目標に活動する。
*顧客との協働による鉄スクラップ回収率の向上=鉄スクラップの技術開発(※2)を通じて、顧客企業等との水平リサイクル(※3)を拡大。また当社製品使用時に発生する加工スクラップ回収率を向上し、当社鋼材を納入するクローズドループの循環取引を拡大する。
*鉄スクラップ事業者とのパートナーシップ強化=国内鉄スクラップ事業者とのグリーンパートナーシップの強化により、鉄スクラップの回収量の増大を図っていく。
※2:Car to Car 実現に向けての取り組みを行っている。
※3:リコー、パナソニック 等の環境先進企業との取り組みを進めています。
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5 その他
■千代田鋼鉄工業、AI検収を本格実施(2月6日・産業新聞)=異形棒鋼・カラー鋼板メーカーの千代田鋼鉄工業は、夜間で試験的に運用していた綾瀬工場の鉄スクラップAI検収を9日朝7時30分以降の納入分からすべてAI検収する。スクラップヤード内にAI検収専用ルームを開設し、検収業務をAIモニターと禁忌物混入の監視に集約させた。
参考資料
1 鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について - 経済産業省
22年9月12日 経産省製造産業局(pdf資料-全36p) ―― 重要!!!
2 我が国の 2050 年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針
- 21年 2 月 15 日 日本鉄鋼連盟
「カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針」の策定について」 (jisf.or.jp)
① 日本鉄鋼業もゼロカーボン・スチールの実現に向けて挑戦する。
② ゼロカーボン・スチールの実現は、「COURSE50 やフェロコークス等を利用した高炉のCO2 抜本的削減+CCUS」、更には「水素還元製鉄」への挑戦に加え、スクラップ利用拡大や中低温等未利用廃熱、バイオマス活用などあらゆる手段を組み合わせ、複線的に推進する。
③超革新的技術開発
*製鉄プロセスの脱炭素化実現には、水素還元比率を高めた高炉法(炭素による還元)の下で CCUS 等の高度な技術開発にチャレンジしCO2 処理を行うか、CO2を発生しない水素還元製鉄を行う以外の解決策はない。
*特に水素還元製鉄は、(従来)とは全く異なる製鉄プロセスであり、極めて野心度の高い挑戦となる。また実装段階では多大な設備投資が発生するが、これらの追加コストは専ら脱炭素のためだけのコストで、素材性能の向上にも生産性の向上にも寄与しない。
④略 ⑤下記事項を政府へ要望する。
*中長期の技術開発を支える国の強力かつ継続的な支援、国家戦略の構築
*グリーンイノベーション(GI)基金の運用・推進体制や制度設計の整備
*技術開発の成果を実用化・実装化するための財政的支援
*ゼロカーボン・スチールの実現に向け国民理解の醸成と社会負担の構築
*電気料金高止まりやや国際競争上不利にならないようなイコールフッティングの確保
*炭素税や排出量取引制度等の追加的なカーボンプライシング施策の導入は、イノベーションを阻害し、結果的にゼロカーボン・ スチールの実現に逆行する施策となる
用語解説
「CCS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・貯留」技術。CO2をほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというもの。
「CCUS」は、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、分離・貯留したCO2を利用しようというもの。
3 直接還元鉄(DRI)製造設備 S-16.pdf (eccj.or.jp)
■特徴
*直接還元鉄(DRI)製造設備は鉄鉱石(または鉄鉱石ペレット)を還元性ガスで直接還元し、金属鉄を多く含む直接還元鉄(DRI)を製造するシャフト型の還元炉。
*製造した DRI は主に電気炉製鋼用の製鉄原料として使用されるが、高炉一貫製鉄所の省エネルギー(コークス削減)または溶銑の増産を目的に高炉原料としても使用される。
還元性ガスとしては、一般的に使用されている天然ガス以外に、高炉一貫製鉄所で発生する副生ガス、 石炭ガス化炉で精製する石炭ガス等、幅広い種類が使用可能。
*2013 年 9 月、NSENGI(新日鉄住金エンジニアリング) / Tenova-HYL / Danieli の 3 社は直接還元鉄(DRI)製造設備の共同開発と拡販を目的とした戦略的提携(SAA)を締結
■省エネ効果・特記事項
- 省エネルギー(高炉用石炭使用量の削減)=DRI を高炉原料として使用することにより、高炉用石炭使用量を削減することが可能。
(DRI を溶銑㌧あたり100kg 使用する場合 :高炉用石炭使用量 50~60kg 削減)
- CO2 排出量削減=DRI の高炉装入に伴う石炭使用量の削減により、製鉄所からのCO2 排出量が削減可能。
(DRI を溶銑㌧当り 100kg 使用する場合 :CO2 排出量(DRI 設備含む)50~100kg 削減)
- 高炉増産効果=金属鉄を多く含む DRIを高炉に装入することにより、高炉の生産性が増加する。(DRI を溶銑㌧あたり 100kg 使用する場合 :溶銑生産量 10 ~ 15%増加)
- 設備改修費削減=高炉用石炭使用量削減により、コークス炉改修費用が削減可能。
高炉増産効果に伴う高炉基数及び容量削減により、高炉改修費用が削減可能。
- 高炉通気性の改善=DRI を高炉に装入することにより、高炉の通気性が改善され、高炉操業の安定化が図れる。
- High C DRIの製造=還元性ガス中の CH4 を直接使用する In-site reforming 方式の採用により、C を多く含んだ High C DRI製造が可能。High C DRIは再酸化しにくくハンドリング性に優れているだけでなく、高炉及び電気炉において以下のメリットを有する。
・高炉向けは、DRIに含まれる C分で残留 FeO の還元が促進されるため、反応性が高い。
・電炉鋼向けは、DRI に含まれる C分がエネルギー源となり、電力原単位が削減される。
- 原料及び還元性ガスの S 制約不要 In-site reforming 方式の採用により、原料及び還元性ガスの S 制約がなくなり、幅広い種類の原料及び 還元性ガスが使用可能。
出 典 : JASE-W 国 際 展 開 技 術 集 https://www.jase-w.eccj.or.jp/technologies-j/index.htm
導入実績
国内 海外 <電炉鋼向け設備(近年の受注実績)>
・Welspun Maxsteel(インド) ・Emirate steel、Gulf sponge iron(UAE)
・Suez Steel(エジプト) ・Nucor(米国) ・JSPL(インド)他
<高炉ミル向け設備> ・海外高炉ミルにて FS 実施