2018年 鉄スクラップマーケット概観

2018年 鉄スクラップマーケット概観

1 マーケット基本認識のために

1 市中鉄スクラップ総供給と輸出=鉄源協会資料によれば、16年度の鉄スクラップ輸出は864.2万㌧。国内市中(需要家購入量)2662.6万㌧を合わせると、3526.8万㌧が市中流通総量と目される(自家発生は除く)。輸出割合は24.5%と極めて高い(資料1)。

17年10月累計は676万㌧、年換算811万㌧(月間68万㌧)。この輸出実績を前提に、国内の現状価格が成り立っている(需給バランスと価格決定メカニズム)。

2 海外輸出入札価格と電炉・炉前価格=その結果、たとえば関東鉄源協組や関西鉄源連合会など、「オープンな入札価格の公表」を通じて、広く国の内外関係者に「日本発のマーケット情報」を発信し、この価格動向を国内電炉も無視できない状況が生まれた。

3 中国マーケットと鉄鋼相場=一方、17年に入って一段と明確になったのは中国の圧倒的な影響力の大きさだ。中国の粗鋼生産増加と共に、鉄鉱石、原料炭の値決め方式が変わり(10年)、過剰生産とその大量輸出が世界的な鉄鋼下落を招き(16年)、その過剰生産対策が話し合われた(資料2)。鉄スクラップで言えば、鉄鋼過剰生産対策の強化が「地条鋼」6,000万㌧の廃棄の副産物として中国発の鉄スクラップ輸出を招いた。

4 アメリカ経済と世界同時景気回復=トランプ大統領の大型減税策の結果、米国株価と米国景気はかつてない水準にある。米国で連邦法人税率を35%から21%へと一気に14%分も下げ、地方税と合わせても約28%の大型減税が18年1月から実現した(資料3)。世界は08年のリーマンショック以来、10年以上の「投資抑制」が続いた。老朽設備の更新や新規投資の潜在的なエネルギーは高い。景気回復途上のEU、中国の一帯一路のインフラ投資が加われば、米国発の世界景気の大型回復が起きても不思議ではない。

5 北朝鮮リスクとトランプリスクとその後=ただ北朝鮮とトランプの動向は予測できない。またトランプはロシア疑惑次第では来年夏までに弾劾される可能性は否定できない。彼が去れば、次は共和党生え抜きの副大統領が就任する。ポピュリストの大統領から「保守本流」が、大型減税の遺産を引き継ぐ。この時、トランプ辞任ショックでバブルがはじけるか、保守本流回帰の安心感からさらなる景気上昇に向かうか、が焦点となる。

6 解説(冨高コメント)=かつて米国が風邪を引けば日本は肺炎といわれたが、いまや鉄鋼は「中国が風邪を引けば世界は肺炎」に近い。16年、17年の相場は大局的に見れば中国に振り回された。その中国の調査機関が17年、18年連続で中国の粗鋼生産は過去最高を予想するが、同時に、中国を含む世界は鉄鋼の過剰生産問題に対し「自粛」で足並みをそろえた(資料2)。世界的な鉄鋼製品価格の「談合」が成立した、ということだ。これを額面通り受け取れば、米国発の世界同時景気回復が予想されるなか、鉄鋼に関しても「生産ボリュームは(過去最高に)増えるが、価格は(世界談合から)高値安泰」となる(資料4)。

 鉄スクラップ価格は、世界的な鉄鋼バブルに準じて内外ともに高原相場を維持する可能性が高い。ただ北朝鮮で軍事衝突が起これば、相場は瞬時に蒸発する恐れがある。

2 検証・17年のマーケット

1 世界粗鋼生産(17年3月改訂版)

14年16億6,989万㌧(うち中国8億2,275万㌧、日本1億1,066万㌧)

15年16億1,496万㌧(うち中国7億9,878万㌧、日本1億513万㌧)

16年16億2,955万㌧(うち中国8億837万㌧、日本1億477万㌧)

17年11月計15億3,601万㌧(中国7億6,480万㌧、日本9,594万㌧)

*17年換算16億7,565万㌧(中国8億3,432万㌧、日本1億466万㌧)

*中国・冶金工業計画研究院は、中国の粗鋼生産を17年8億3,200万㌧、18年8億3,800万㌧と予測している。

2 トルコ貿易価格

▽15年=高値・5月15日283㌦。安値12月28日177㌦(*106㌦)。

▽16年=高値・5月13日315㌦。安値・年始184㌦(*131㌦)

▽17年=高値・12月22日362㌦。安値1月27日232㌦(*130㌦)。

3 東鉄価格(岡山・特級)

▽15年=高値6月16日25,500円。安値11月3日14,500円(*11,000円)。

▽16年=高値12月22日25,500円。安値1月8日14,500円(*11,000円)。

▽17年=高値12月13日35,500円。安値5月2日24,500円(*11,000円)。

4 関東鉄源入札価格(平均)

▽15年=高値・1月26,575円。安値・12月15,744円(*10.831円)

▽16年=高値・5月27,000円。安値1月16,105円(*10,895円)

▽17年=高値・12月36,126円。安値5月24,735円(*11,391円)

5 小棒価格(鉄源協会・東京)

▽15年=高値・1月61,474円。安値12月50,000円(*11,474円)。

▽16年=高値・6月53,000円。安値3月48,000円(*5,000円)。

▽17年=高値・12月65,600円。安値1月54,000円(*11,600円)。

参考資料

資料1 16年度の鉄スクラップ需給(クォータリーてつげん・17年夏号)

■16年度粗鋼生産1億516万㌧。鉄源消費1億2006.4万㌧(前年度比86.7万㌧、0.7%増)。鉄スクラップ4012.9万㌧(前年度比155.1万㌧、4.0%増)。使用比率33.4%。

■鉄スクラップ消費4012.9万㌧の内訳は、製鋼用3444.3万㌧(全体の85.8%。前年度比151.3万㌧、4.6%増加)、鋳物用490.9万㌧(12.2%)、その他77.7万㌧(1.9%)。

▼製鋼用のうち転炉用1011.1万㌧(前年度比152.3万㌧、17.7%増)。電炉用2433.2万㌧。消費原単位は転炉鋼124.4Kg(前年度比17.9Kg増)。電炉鋼1019.3Kg(13.0Kg減)。

■鉄スクラップ供給量=自家発生1344.2万㌧(1.1%増)。国内市中2692.4万㌧(5.0%増)、合計4036.6万㌧(3.7%増)。国内市中には自家発生の流通分が含まれるため、過欠補正後の修正値は、国内市中は2662.6万㌧。

■市中流通総量=16年度鉄スクラップ輸出864.2万㌧。国内市中(需要家購入量)2662.6万㌧の合計3526.8万㌧が市中流通総量と目される(自家発生は除く)。輸出割合は24.5%。

資料2

■世界の鉄鋼、優遇政策を自粛(17/12/1)=ベルリンで11月30日開いた「鉄鋼グローバル・フォーラム」の閣僚級会合(全33カ国・地域が参加)で、過剰生産問題に対し、主要生産国が対応で足並みをそろえた。会合では全ての参加国が優遇策を自粛することや、各国の設備や生産状況を半年ごとに情報を開示し合うことで一致した。▽OECDによると、16年の粗鋼生産能力は23億8070万㌧と10年間で6割増えた。中国の国内消費量は13年をピークに減少。余剰製品が大量輸出されて需給が緩み、16年中国の平均輸出価格は1㌧あたり556ドルと11年の同1100㌦からほぼ半額となった。

資料3

〈トランプ氏と世界〉 進む先は新秩序か混乱か(18/1/4)

■経済=米国で大型減税が18年から始まる。35%の連邦法人税率を21%に下げ、個人所得税も最高税率を下げる。法人・個人の合計負担の軽減は10年で1.5兆㌦。拡張的な財政政策に移る。18年実質経済成長率は2%台半ばとなりそう。米株価は過去最高値圏で推移。景気、市場ともに米国が世界を引っ張る構図は18年も続きそうだ。ただ景気拡大は9年目に入り、戦後最長をうかがう。大型減税により過去最大の政府債務はさらに膨らむ。好調な米経済が政治的なショックなどで異変を来せば影響は途上国を含めて世界に広がる。

資料4 70年11月・世界粗鋼生産、14ヶ月連続で前年同月を上回る

世界鉄鋼協会発表の11月鉄鋼生産実績によると、66カ国の粗鋼生産は前年同月比3.7%増の1億3628万㌧、16年10月以来14ヶ月連続で前年同月実績を上回った。17年1~11月累計は15億3601.1万㌧、年換算16億7566万㌧ペース。前年同期比4.3%伸びた。①中国の11月生産は6615万㌧(前年同月比2.2%増)、1~11月累計は7億6480.2万㌧(前年同期比3.5%増)、年換算8億3432万㌧ペースである。