中国の「灰色のサイ」・・・統計への疑念から中国問題を考える

中国の「灰色のサイ」・・・統計への疑念から中国問題を考える

■習近平、「『灰色のサイ』に警戒を」(19/1/22)=習近平は1月21日、地方や中央政府トップを北京に集めて学習会を開き、警戒すべきリスクとして「『ブラックスワン』だけでなく『灰色のサイ』も防がなければならない」と強調した(注1)。中国ではシャドーバンキング(影の銀行)や地方政府が抱える巨額債務問題が「灰色のサイ」にたとえられてきた。

*注1 「中国の奇跡」が終わった(19/2/5・大機小機)=昨年12月18日「改革開放40周年記念大会」で演説した習近平は、世界経済に占める中国のシェアが2%未満から15%超に飛躍した40年間を「奇跡」と呼び、さらなる奇跡をなす決意を語った。だが、その前々日、中国人民大学で講演した経済学者の向松祚(こう・しょうそ)教授が、18年の成長率を1.67%とはじいた某重要機関の推計値を明かしていた。

1月21日に中国国家統計局が発表した18年の実質成長率6.6%は眉唾だ。四半期ごとに6.8%→6.7%→6.5%→6.4%と穏やかに減速したというのだ。日本電産の中国需要急減による業績見通し下方修正や、中国で想定以上に販売が落ち込んだ米アップルの決算などと、つじつまが合わない(注2)。

英誌エコノミストに昨年末、「中国経済は思ったよりソビエト的」とするコラムが載った。中国の全要素生産性(TFP)の伸びが近年マイナスになっている、という一橋大学のハリー・ウー(伍暁鷹)特任教授らの推計が論拠になっている。ソ連の末期も、TFPがマイナスだった。生産年齢人口がピークアウトした中国で、生産性の伸びがマイナスでは、潜在成長率が相当落ちているはずだ。

成長率を押し上げようと、力まかせに資本を投入すれば、非効率なインフラや不良債権の山を築きかねない(注3)。中国経済のマネーゲーム化に警鐘を鳴らしてきた向教授が最近、上海での講演で「ミンスキー・モーメント」に言及したと伝えられる。資産の投げ売りが始まる瞬間を指す。バブルの崩壊点と言い換えてもいいだろう。ifだが「その瞬間」が来れば、世界経済への影響はどれほどだろうか。

注2 中国新車販売、28年ぶり前年割れ(19/1/15)=中国汽車工業協会は1月14日、18年新車販売台数が17年比2.8%減の2808万600台と発表。28年ぶりの前年割れとなった。中国の新車販売台数は世界2位の米国の1.6倍の規模。

▼中国ハイテク生産急減(19/1/24)=日本から中国への半導体製造装置の輸出額は18年12月に直近ピークの8月の半分水準。韓国の半導体輸出(香港含む)も前年同月比で19%減、台湾から中国への輸出総額も9.9%減少した。中国を震源地とするハイテク景気の悪化は、世界の企業に打撃を与え始めている。米中摩擦などの不確実な要因も絡むため、「ダウンサイクルは通常より長引く可能性がある」との慎重な見方が出ている

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注3 中国、減税上積み(19/1/18)=中国が19年も大型減税を続ける。18年に個人所得減税など1.3兆元減税などを実施したが、19年は上積みする。増値税(付加価値税)や社会保険料の軽減も検討する。減税と並行して大規模な金融緩和も進めて、景気失速を防ぐ狙い。

▼中国 景気テコ入れ策膨張(19/1/21)=中国は19年の鉄道投資を過去最高の8500億元(約13兆7千億円)規模まで引き上げる方針。国内総生産(GDP)の1割を占めるとされる自動車のほか家電販売補助金など消費刺激策も導入する。18年は鉄道投資額を年初計画の7320億元から約1割上積みし、8028億元とした。19年は18年実績比約6%増を見込む。

▼中国、景気対策2.5兆元(19/1/29)=中国が景気対策の規模を拡大している。昨秋以降、減税とインフラ投資だけで2.5兆元超、銀行の資本増強支援など金融面の対策も強化する。▽対策の柱は大規模減税。規模は1.5兆元前後。もう一つがインフラ建設で、インフラ投資は計1兆1600億元。主役は鉄道投資。金融支援もテコ入れする。中国の債務の対GDP比は07年の144%から18年は253%まで急上昇した。▽官庁エコノミストは「とにかく成長率が6%を割らないこと」と話す。19年前半に仮に6%を下回れば、対策を上積みする可能性がある。その場合は08年のリーマン直後の「4兆元対策」の水準に近づく展開も否定できない。

■冨高コメント 

上記はいずれも日経新聞記事である。

これを時系列的に整理すれば、まず昨年12月16日、中国共産党が設立した「中国人民大学で」「経済学者の向松祚教授が、18年の成長率を1.67%とはじいた某重要機関の推計値を明かした」ことが発端。ただこの推計値の発表は向松祚教授の独断ではないだろう。

さればこそ習近平は、今年1月21日、地方や中央政府トップを北京に集めて、敢えて「灰色のサイ」の存在を指摘したのだろう。シャドーバンキングや地方政府が抱える巨額債務問題が、もはや成長率の高さで隠蔽できるレベルではないと習近平が判断した可能性が高い。

その習近平の警戒は、向松祚教授の次の「ミンスキー・モーメント」言及につながる。米国との貿易戦争は外貨獲得を経済成長の原資とする中国の国力を毀損する。それがシャドーバンキングや地方政府の「信用」を毀損し、現政権を毀損する。その危機感だろう。

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いま中国関係のアナリスト達の関心は、中国に「灰色のサイ」は何頭いるのかである。次の「灰色のサイ」はどこいるのか。それが米中覇権問題、これに付随する貿易戦争問題の怖さであろう。