経産省「金属素材競争力強化プラン」(2015年6月19日)

経産省「金属素材競争力強化プラン」(2015年6月19日)

http://www.meti.go.jp/press/2015/06/20150619002/20150619002.pdf

経産省は、鉄鋼・非鉄産業を併せた金属素材産業の競争力強化について初めて一つの研究会で取り上げ、「金属素材競争力強化プラン」として提示した。普通鋼電炉に関しては、人口減で需要が縮小する中、生産能力が過剰な状態にあるとして「事業再編が不可避」と指摘。企業体力があるうちに、生産設備の集約や海外需要の開拓など競争力強化のための具体策に踏み切るべきとした。

1.背景=金属素材産業は、基幹輸出産業であり、地域の経済、雇用創出を支える存在で、また自動車、航空機、エネルギー、医療機器等の分野に部素材を提供している。他方で、金属素材産業は、(ア)ユーザーニーズの高度化と多様化、(イ)海外競合者のキャッチアップ、(ウ)エネルギーコスト上昇などの事業の制約要因、(エ)デジタル化への対応という共通課題を抱えている。

2.戦略=上記の課題を克服するため、次の3つの戦略を進める。

(1)技術開発戦略=素材の高度化と「マルチマテリアル化」を実現するための材料設計技術、製造技術、分析・評価技術を官民で開発する。周辺の基盤域の整備も官民で進める。

(2)国内製造基盤強化戦略=金属素材企業が、国際競争に打ち勝つための共通基盤を強化する。(3)グローバル戦略=拡大する海外の需要を取り込む環境を整備する。

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「金属素材競争力強化プラン」では業種横断的に競争力を強化する方策を提示する。金属素材競争力強化プランの概要=「鉄だけ」「アルミだけ」では駄目。素材の相乗効果が重要。▽鉄、アルミ、マグネシウム、チタンなど各素材の最適配置(マルチマテリアル化、異種材接合等)。

戦略Ⅱ.国内製造基盤強化戦略

我が国素材企業が、国内で生産活動を継続し、国際競争に打ち勝つための共通基盤を強化する。

■事業再編による競争力強化(*)=普通鋼電炉業界の事業再編が不可避であり、各社において、生産設備の一層の集約、企業間の統合、業務提携、海外需要の開拓、産業廃棄物の溶解処理など、電炉の特性も活かした取組を進める。▽他の金属素材産業においても、我が国の基幹輸出産業として、将来にわたる国内生産活動を見据えた生産体制の構築を各社において着実に進める。▽その際、産業競争力強化法第50条に基づく調査の活用も積極的に検討する。

戦略Ⅲ.グローバル戦略

?鉄鋼については、過剰能力問題に効果的に対応する。OECDにおける製鉄所建設の資金源等に関する議論に官民で積極的に貢献する。

■原材料供給リスクへの対応(*)=非鉄スクラップのリサイクルシステムの構築(規格・認証スキーム)、鉄スクラップの不純物除去技術の開発。▽レアアース・レアメタルは、サプライチェーンの分析、代替材料の研究開発、各国との連携強化。▽低品位原料の利用促進技術の開発。

本「金属素材競争力強化プラン」は、「金属素材競争力強化検討会」における議論を踏まえて、経済産業省製造産業局鉄鋼課・非鉄金属課が作成したものである。

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以下は「金属素材競争力強化プラン」の抜粋本文である。

■事業再編による競争力強化

普通鋼電炉業界の事業再編が不可避である。普通鋼電炉業界では、国内建設需要の縮小に伴って事業者数は減少しつつあるが、図17のとおり依然として生産能力は需要に比して過剰な状態にあり、また電気料金の制約から夜間・休日操業をおこなっているため、稼働率は低水準に止まっている。加えて、前章で述べたように、産業用電気料金の上昇、人口減等を背景とした建設需要の一層の縮小、設備の老朽化等の構造的な課題を抱えている。

そのため、既に、業務提携や新業種(廃棄物処理事業等)への参入に加えて、近年、生産設備の集約化、事業撤退等の動きが活発化しているところである。普通鋼電炉メーカーは、原料となる鉄スクラップを100%国内から調達しており、我が国の各地域において地産地消型の資源循環システムの一翼を担う存在である。また、小回りの効いた多品種少量生産、デリバリー対応等をきめ細かに行い、地域の経済や雇用に対しても大きく貢献している、重要な存在である。

したがって、将来的に建材用を含めた鋼材輸入が増加する可能性があるとの指摘もある中で、企業体力を維持している段階で、早期に構造的課題への解決に向けた取組を行うことが肝要である。

エネルギーコストへの対応等事業環境のイコールフッティングによる国際競争条件の整備に加え、事業者にあっては、生産設備の一層の集約、企業間の統合、業務提携、海外需要の開拓、産業廃棄物の溶解処理等、電炉の特性、経営資源も活かした競争力強化のための取組の検討が求められる。企業統合等に際しての独占禁止法の運用に当たっては、近隣国では国際競争力強化のため電炉事業者の統合が進んでいることへの考慮が求められよう。

高炉メーカーは合併を通じ、または個社内で国内の生産拠点を集約するとともに、集約先では積極的に効率化に資する設備の導入を行う等、競争力強化を図ってきた。また、特殊鋼電炉メーカーは、航空機、自動車、エネルギープラント向けの付加価値の高い需要を開拓するため、高機能材の生産ラインを国内で増強する動きがみられる。

高炉と特殊鋼電炉は、国内産業の発展に不可欠な付加価値の高い鋼材を供給するとともに、我が国の基幹輸出産業でもあることから、将来にわたる国内生産活動を見据えた生産体制を構築していくことが期待される。

上述の業界以外の業界も含め、金属素材産業の事業再編の際は、産業競争力強化法第50条(注1)に基づく調査の活用も積極的に検討する。

なお、事業再編に当たっては、独占禁止法の運用のみならず、土壌汚染対策法の規制がその障害となっているとの指摘がある。土壌汚染対策法により、事業者は、土壌の形質を変更する際は、一定の要件に該当する場合、土壌調査を行い、汚染が確認された場合には何らかの対策を講じる必要がある。ところが、こうした規制は土地の売却時のみならず、引き続き自社として高度化利用する際にもかかるため、生産設備の新増設や再配置等の阻害要因となっている場合には、必要に応じて関係省庁への働きかけ等を行う。

注1(産業競争力強化法第50条)=「第50条  政府は事業者による事業再編の実施の円滑化のために必要があると認めるときは、商品若しくは役務の需給の動向又は各事業分野が過剰供給構造にあるか否かその他の市場構造に関する調査を行い、結果を公表するものとする(注2)」

■原材料供給リスクへの対応

(1)リサイクルを含めた資源循環(※詳細は補論を参照)

鉄鋼の原料である鉄鉱石と石炭は高品位のものが主に用いられているが、中長期的には、非鉄金属原料も含め、鉱床の低品位化や新興国需要の拡大等による需給逼迫が懸念されているところである。そのため、実用化済み技術(鉄鉱石ペレット製造技術、SCOPE21等)の導入に関する更なる支援を検討するとともに、低品位原料の利用拡大に向けて、安定利用の技術開発や前処理工程の改善等について検討を進める。

スクラップ資源に関しては、非鉄金属については、動脈産業と静脈産業のつながりが欠如していることが最大の問題である。また鉄については、スクラップの利用自体は行われているが、海外の旺盛な需要に対応して高品質な鉄スクラップが海外へ輸出されていることや、工具鋼等の一部の特殊鋼の輸出製品からの鉄スクラップの還流不足、鉄スクラップ中のトランプエレメント(銅、錫、鉛等の除去することが難しい金属元素、いわゆる循環性不純物元素をいう。)による高機能鋼材用途の制約等が国内における有効活用の課題となっている。スクラップの輸出規制を求める声もある中、国内生産条件の改善のためにも、リサイクルシステムの整備が期待される。

非鉄スクラップについては、欧米でも導入が進むリサイクルプロセスにおける規格・認証スキームのあり方や回収網の再構築を検討し、リサイクルの技術開発とあわせて、動脈・静脈のバリューチェーン全体をつなげていく。また鉄スクラップについては、一部の特殊鋼の輸出鋼材から発生する廃棄スクラップや屑スクラップの還流のために、海外で政策上の制約(輸出税、輸出数量制限等)が生じた場合には、政府間交渉等により改善を促していく。

さらに、トランプエレメントを多く含む低品質なスクラップの国内利用促進のため、トランプエレメントの除去技術、鉄スクラップの品質別の分別・回収技術の向上等を産学官で検討していく。

リサイクルを念頭に置いたユーザーとの対話に基づく製品設計や、素材の複合材料化が進む中、代表的な複合材料を有価物として評価する仕組みの構築も期待される。

(2)レアアース・レアメタルの供給リスクの低減(略)。

補論1:技術開発戦略

1.考え方

(1)現行の技術開発施策=金属素材分野における現行の技術開発施策については、ベースメタルとレアメタルに関し、それぞれ以下のように展開しているところである。

 まず、ベースメタルに関しては、「革新的新構造材料等技術開発」において、自動車を中心とした輸送機器の抜本的な軽量化に取り組んでいる。鉄鋼・非鉄・CFRP等の主要な構造材料の高強度化・高機能化や、開発した材料を適材適所に使用するための接合技術等の開発を行っている。自動車等の成長分野において、潜在需要の高い金属素材を対象に、性能面・価格面で徹底的にこだわった技術開発を目指していることが特徴である。また、「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」では、運輸等の部門で環境中に未利用のまま排出されている熱について、熱使用量の削減(断熱材料、遮熱技術)、未利用熱の有効利用(蓄熱材料、ヒートポンプ材料)、熱の変換利用(熱電変換、排熱発電技術)に関する研究開発を推進している。次に、レアメタルに関しては、原料供給リスクの低減に取り組んでいる。「高効率モーター用磁性材料技術開発」において、国内電力消費の50%以上がモーターにより消費されている現状に鑑み、モーターによるエネルギー損失を大幅削減し、さらにレアアースを使用しない磁性材料の開発を行っている。

 また、「希少金属代替材料開発プロジェクト」等により、供給リスクの高い鉱種について、代替材料開発やリサイクルに資する基盤技術の開発、実用化の支援を行っている。

(2)出口を見据えた技術開発戦略の必要性=今後の素材の技術開発の考え方としては、素材のマルチマテリアル化が進む中で、テクノロジープッシュ型の素材開発戦略だけでは不十分であり、マーケットプル型の出口用途開発とバランス良く組み合わせることが重要となる。

 すなわち、素材開発というイノベーションの成果を具体的にどのような経済社会の実現に繋げるのか、出口を見据えた上で技術開発戦略を検討する必要がある。上述のベースメタルに関する「革新的新構造材料等技術開発」はその萌芽とも言える取組であるが、こうした動きを自動車以外の製品分野においても広げていくことが望ましい。かかる観点から、経済産業省では、各産業分野の社会的要請(ニーズ)を基に、要求される技術と素材候補を洗い出した「出口指向マップ」(「Blue map」)と、シーズ側から新素材が有する特性や用途・技術動向等をまとめた「素材指向マップ」(「Red map」)の2種類のマップを策定した(図2)。

 この2つのマップをマッチングさせることにより、特定の製品分野において使用されている素材の代替となり得る新素材候補の特定や、その新素材の技術開発フェーズ、代替による効果等検討を容易化し、新素材開発の重点領域の絞込み等に活用することとしている。

注2:産業競争力強化法(平成25年12月11日法律第98号)

第1条(目的)=この法律は、我が国経済を再興すべく我が国の産業を中長期にわたる低迷の状態から脱却させ、持続的発展の軌道に乗せるためには、経済社会情勢の変化に対応して、産業競争力を強化することが重要であることに鑑み、産業競争力の強化に関し、基本理念、国及び事業者の責務並びに産業競争力の強化に関する実行計画について定めることにより、産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための態勢を整備するとともに、規制の特例措置の整備等及びこれを通じた規制改革を推進し、併せて、産業活動における新陳代謝の活性化を促進するための措置、株式会社産業革新機構に特定事業活動の支援等に関する業務を行わせるための措置及び中小企業の活力の再生を円滑化するための措置を講じ、国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 

第2条(定義) この法律において「産業競争力」とは、産業活動において、高い生産性及び十分な需要を確保することにより、高い収益性を実現する能力をいう。

2  「規制の特例措置」とは、法律により規定された規制についての別に法律で定める法律の特例に関する措置及び政令又は主務省令により規定された規制についての政令等で規定する政令等の特例に関する措置であって、第十一条第二項に規定する認定新事業活動計画に従って実施する新事業活動について適用されるものをいう。

3  「新事業活動」とは、新商品の開発又は生産、新たな役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動であって、産業競争力の強化に資するものとして主務省令で定めるものをいう。

4 「産業活動における新陳代謝」とは、産業活動において、新たな事業の開拓、事業再編による新たな事業の開始又は収益性の低い事業からの撤退、事業再生、設備投資その他の生産性の向上又は需要の拡大のための事業活動が行われることをいう(以下・略)。