2016年鉄鋼・鉄スクラップマーケットをどう見るか

2015年の年頭はどう言ったか

1 世界恐慌。米国1強と多弱=米国は「出口」に動き出した(14年10月)。「シェールオイル革命」が米国内製造業の回帰と強い米国=強いドルを呼び込んだ。一方、ロシア経済制裁への同調を迫られた欧州、消費税再増税(17年4月)前までに経済浮揚を求められる日本、7%前後の「新常態(ニューノーマル)」に減速する中国、また原油価格安や自国通貨安が懸念されるロシアや資源諸国など、世界経済は恐慌深化と多様な危機のなかにある。

2 現状(集中治療室入院経済)を直視=世界経済は「超金融緩和」の下にある。米国は量的緩和を停止したが、大量資金を麻薬のように享受した新興市場国の通貨は、この反動で暴落し「超高金利策」を打ち出した。先進諸国、新興市場国の経済は、政府財政や金融当局の「さじ加減」に依存する割合が極めて高い。いわば集中治療室入院経済である。

3 新価格体系の意味=米国のシェール(エネルギー需給)革命からOPECの原油価格の独占支配体制は崩壊した。米国からする新冷戦戦略と次なる価格支配が始まった。その影響を強く受けるのが、採掘・輸送費用の関係から原油・エネルギー価格動向に密接に絡む鉄鉱石、石炭など埋蔵資源。その新価格体系に即した経済展開も予想される。

4 鉄鋼業、鉄スクラップ=15年展望としては、①世界経済の跛行成長(米国1強多弱、保護貿易の台頭)②資源・エネルギー価格の低位安定(原油安→生産コスト圧縮、鋼材・ディスインフレ定着)③鉄スクラップ貿易市場の連動安(原単価後退)が予想される。

5 日本の鉄鋼、鉄スクラップ業者の課題(変化こそ好機)=国際競争の激化から、高炉2社による系列電炉の海外活用と、原発停止を発端とする電力費の継続的上昇が電炉再編と価格対策(需要に見合った生産=スプレッド拡大)に拍車をかけ、非系列電炉の生き残り(不採算部門の休止)対策を急がせる。それは同時に鉄スクラップ業者に新たなビジネス機会を提供し、戦略的提携を促す要因として働くだろう(地域、業種を超えた「強者連合」の台頭)。

では2016年をどう見るか

1 米国の金融「正常化」が、鉄鋼・鉄スクラップを追い詰める恐れも

鉄鋼、石炭、原油など埋蔵資源関連の需給・価格動向は、当面は厳しいと覚悟しなければならない。07年のサブプライムローン問題を発端とする金融、実体経済の劣化(世界的な信用不安防止のための金融規律の崩壊と成長率鈍化)とBRICs登場をバネとする埋蔵資源・エネルギー価格の暴騰・暴落(それに軌を一にする新興市場の台頭と凋落)が、発展途上国から先進国までの需給に密接に絡み(慢性的な「需要過小」と構造的な「供給過剰」)世界的なデフレ(価格低下)となって進行。金融規律正常化のため米国は金利引き上げに動き始めたが、これが新興市場国の経済萎縮につながる恐れも指摘される。

2 原油価格30~50㌦台低迷のインパクト

鉄鉱石、鉄スクラップ価格は、中長期的には①採掘コスト、②為替、③需給要因で動く。鉄鉱石価格が2010年台前半に1990年台後半の5倍以上に急騰したのは、原油価格が5倍以上急騰したからだ。最近では「逆オイルショック」で原油価格が近年高値の4分の1以下に暴落。鉄鉱石価格も3.5分の1以下となった。その原油価格は、OPEC原油とシェールオイルの採算コスト、シェア争い、米国原油輸出に見られる需給動向から、当面30~50㌦台での攻防が続く可能性が高い。

3 向こう5年間は痛みの時期

世界経済の低迷と鉱山開発のミスマッチから、世界の鉄鋼は「需要過小」と「供給過剰」の需給乖離が拡大している。中国は世界の粗鋼生産(約16億㌧)の半分近くを占める。その中国は国内要因(新常態経済)や世界要因(ドル高=ドル建て債務の負担増加)などから経済成長は減速。「向こう5年間の中国経済は痛みの時期」(高官)とされ、中国発の鋼材輸出(15年1.1億㌧超)や世界的な製品・鉄鋼デフレの改善は当面、期待できない。

▼中国関税引き下げのインパクトを考える=中国財務省は15年12月、ビレットと銑鉄の輸出関税率を16年1月から現在の25%からビレットで20%、高級銑鉄は10%に下げると発表した。鉄スクラップ輸出には40%の関税が課せられるため、現状では輸出は進んでいない。しかし内需低迷が続けば、40%の障壁は解除され、国内発生増を背景に輸出にドライブがかかる恐れがある(中国の4大波と日本・鉄リサイクリング・リサーチ。レポートNO31)。

4 今後の日本の鉄鋼、鉄スクラップ業者のスタイル

電炉再編は加速:合同製鉄は16年3月末をメドに、九州製鋼の子会社トーカイの株式を100%取得し、完全子会社化する。九州製鋼は清本鉄工が51.2%の株式保有の同社子会社とすると15年12月発表した。▽大阪製鉄は16年2月をメドに、東京鋼鉄TOBを実施する。また同社は、恩加島工場を16年3月末で休止し、堺工場に集約する。▽共英製鋼も枚方事業所大阪工場を16年3月末で閉鎖し、半製品事業は枚方工場に集約する。▼日本には電炉は事実上、新日住金鉄系とJFE系の2社しかない。それが再編・統合原資(スプレッド拡大による増益)を提供している。

業者は「合従連衡」へ加速:日本最大の鉄スクラップ企業であるスズトクHDは14年12月、エンビプロHDと包括業務提携契約を締結。15年3月イボキン、やまたけ、中特HD及びマテックの4社、6月青南商事を含めた7社で包括業務提携を結んだ。▽さらにスズトクHDと廃棄物処理業界の最大手である大栄環境HDは15年10月、包括業務提携を締結。両社は15年12月、共同出資による新会社「メジャー ヴィーナス・ジャパン」(MVJ)を設立した。新会社は①あらゆる廃棄物、資源循環を受け入れ可能とする「トータルソリューション」営業。②事業買収(M&A)を行う。▽一方、扶和メタル、共栄、シマブンコーポレーションの高炉系3社は15年6月、鉄スクラップ事業での業務提携契約を締結。3社の保有拠点は全国37カ所(船積み港22)。各社ヤードの有効活用を図る。

5 業者の「合従連衡」を考える

■背景1:高炉と電炉で「明暗」・国内電炉はスプレッド拡大の「利益」=16年3月期決算(見通し)では高炉と電炉で明暗が分かれた。国際競争が問われる高炉は世界経済、なかでも中国発の鋼材デフレ(世界的な値下げ)にさらされ、収益を低下させた。一方、国内需要に主な足場を置く有力電炉は、鉄鋼集約効果(新日鉄住金登場による高炉・電炉の垂直・水平統合から事実上の市場支配が完了した)から「(国内では)需要に見合った生産」が可能となり、一定の収益が確保される体制・状況の恩恵を受けるに至った。

■背景2:供給(電炉)支配が強まる=原料の流通(問屋)機能の中核は、①数量・②価格・③納期・④品質を、の安定供給をユーザーに保証することである。市場回収品である鉄スクラップは、本質的にそのいずれの面でも不安定さがつきまう。このため歴史的に「鉄くず統制」や「鉄くずカルテル」での需給(供給)調整を目指し、流通(ヤード)業者は、まず数量確保能力が問われた。▽しかし、現在進行中の「鋼材デフレ(買い手市場化)と鉄鋼集約化」の結果、全く異次元の状況が生まれた。つまり「需要に見合った生産」が可能となったことから、少数の有力(電炉)ユーザーが、①数量・②価格の事実上の決定権を握り、分散する多くの流通(ヤード)業者は、ユーザー指示のもと、③納期・④品質の遵守に従う、との一方的な力関係に変化した。▽現在、進行形の業者の「合従連衡」は、その力関係の変化と流通機能の変化の中から生まれたと理解できる。