■日鉄、USスチール2兆円買収へ(23年12月19日・日経)=日鉄は18日、USスチール株を1株55ドル(7810円)で全株取得し完全子会社すると発表。15日終値は39ドルで、約4割のプレミアムを付ける。買収総額は141億ドル(約2兆円)。買収資金は金融機関からの借入金で対応。買収後もUSスチールの社名は維持する。かねて日鉄は世界で粗鋼生産能力1億トン目標を掲げてきた。今回の買収で生産能力は現在の6600万㌧から8600万㌧になる。
USスチールは高炉を8基、電炉3基持つ。日鉄は粗鋼生産で世界4位から3位になり、1億トンの目標達成に近づく。USスチールは鉄鉱石の鉱山も持っている。原料炭と鉄鉱石の調達を安定化させることができる見通し。
*全米鉄鋼労働組合は反対=だが即日、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対を示した。「取引には失望した。米国の国家安全保障上の利益にかなうかどうか、政府規制当局に強く働きかける」。デービッド・マッコール会長はこう声明を出した。
2024年
*トランプ氏「私なら瞬時に阻止する」(24年1月31日)=USスチール買収問題に口火を切ったのはトランプ氏だ。「私なら瞬時に阻止する」と買収交渉について言及した。
■日鉄、米政治リスク「想定内」 USスチール買収(24年2月8日・日経)=日本製鉄は7日、USスチール買収手続きを予定通り進める方針を示した。約140億ドルの買収資金は金融機関から全額借り入れで賄う。日鉄の有利子負債はUSスチール分も含めて23年末時点の約3兆円から5.6兆円に増える。財務の健全性を示すDEレシオは足元の約0.5倍から約0.9倍に悪化する見込み。
*破談なら違約金リスク(2月8日・日経)=USスチール買収のハードルを越えられなかったらどうなるか。日鉄はUSスチールに5億6500万ドルの「リバース・ブレークアップ・フィー(RBF)」と呼ばれる違約金を払う必要がある。RBFの根拠はこうだ。被買収会社は買い手に資産査定などの段階で機密情報を開示したうえ、再び身売り先を探すなど時間も費やさなければいけない。その損害を補償する意味合いがある。
*バイデン大統領も反対する=バイデン大統領も3月14日、「(USスチールは)国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と表明した。
■USスチール、買収承認(4月13日・夕・日経)=USスチールの買収案が12日、USスチールの臨時株主総会で承認された。日鉄は規制当局の審査を経て24年9月までの買収完了を目指している。労働組合が買収に反対している。手続き完了はずれ込む可能性がある。
■日鉄のUSスチール買収は「歴史的失敗」(4月24日・夕・日経)=米鉄鋼大手、クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は23日、「日本企業による、アメリカを象徴する鉄鋼メーカーの買収は歴史的な大失敗だ」と述べた。クリフスは以前、1兆円規模の買収額でUSスチールの買収に名乗りを上げていた。
■USスチール買収、米以外は全て承認(5月31日・夕・日経)=日鉄は30日、USスチール買収について、欧州など、米国以外の全ての規制当局からの承認を取得したと発表した。
■日鉄副会長、USスチール買収「年内に完了」(8月2日・日経)=森高弘副会長兼副社長は1日、USスチールの24年12月までの買収完了に強い意志を示した。米当局の審査についても「守秘の観点から内容は申し上げられないが、どんどん進んでいる」と話した。
■日鉄、1800億円の追加投資発表 USスチール製鉄所2カ所に(8月29日・夕・日経)=日鉄はUSスチールの製鉄所への追加の投資計画を発表した。ペンシルベニア州のモンバレー製鉄所では熱延設備の新設または補修に10億ドルを投資し、同製鉄所を数十年以上稼働する。インディアナ州のゲイリー製鉄所では約3億ドルを投資して第14高炉を改修し、同高炉の稼働を今後20年ほど延長する。
************トランプ ショック***************
■日鉄のUSスチール買収、トランプ氏「認めず」(8月30日・夕・日経)=トランプ前大統領は29日、11月の大統領選で再選すれば、日本製鉄によるUSスチール買収阻止を明言した。
■買収不成立なら製鉄所閉鎖示唆 USスチールCEO(9月5日・日経)=USスチールは4日、日本製鉄による買収が成立しなかった場合、製鉄所を閉鎖し、本社をピッツバーグから移転する可能性があると表明した。買収に反対する労働組合との交渉は難航している。業績や雇用に直結する条件を示し、日鉄による買収を成立させる意思を示す狙いがあるとみられる。
■バイデン氏、USスチール買収阻止へ(9月5日・夕・日経)=日本製鉄によるUSスチールの買収計画にバイデン米大統領が中止命令を出す方向で最終調整に入ったFTはCFIUSが日鉄に安全保障上の懸念があると伝えたとし、バイデン氏が、数日内に決断する見通しだと報じた。
■日鉄が米政府と協議 当局内も意見割れる(9月13日・日経)=米政府も一枚岩ではない。CFIUSは省庁横断組織で、国家安全保障の観点から米国の企業や事業、技術に対する外国投資を審査する。議長はイエレン米財務長官で、国土安全保障省や商務省、国防総省、国務省、司法省、エネルギー省、科学技術政策局、米通商代表部(USTR)のトップが委員を務める。委員会での承認は、全会一致が原則。懸念が払拭できなかったり、委員の意見が一致したりしなければ、大統領の判断を仰ぐ。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)は10日、国務省や国防総省は買収阻止に難色を示していると報じた。日米関係への配慮に加え、防衛力を支える産業基盤の強化に向けて同盟国との協力が必要とみるためだ。また日鉄はCFIUSに対し、買収申請を一旦取り下げ、大統領選後に再申請することを提案したともされる。再申請するにはCFIUSの承認が必要だ。CFIUSの勧告を受けて大統領が買収禁止の行政命令を出せば難しくなる。日鉄は早期に判断をする必要がある。
■日鉄、USスチール買収計画を再申請(9月24日・夕・日経)=日鉄は9月23日までに米鉄鋼大手USスチール買収計画の審査について対米外国投資委員会(CFIUS)へ再申請した。従来の審査期間は23日までだったが、再申請により審査期間は90日間延びる。
■日鉄、USスチール買収成功の場合、ミッタルとの米合弁から撤退(10月11日・テックスレポート)=日本製鉄は11日、USスチールの買収取引が実現した場合、完全子会社の NSKote,Inc.(NS Kote)の全株式をアルセロール・ミッタル(AM)に譲渡すると発表した。NS Koteは、日鉄の持分法適用会社でAMとの合弁である AM/NSカルバートの日鉄全持分を有する持株会社。今回の株式譲渡は、USスチールの買収実行後も日本製鉄がカルバートの持分保有を継続することから生じ得る、米国競争法上の懸念に対応することを目的としたもの。
*************トランプ次期大統領の下で***************
■日鉄のUSスチール買収 審査「再開」(11月8日・日経)=米大統領選は終わったが、買収の行方は不透明な状況が続く。買収に向けて必要な手続きはあと2つ。米司法省による独禁法上の審査とCFIUSによる安全保障上の審査だ。日鉄は9月23日までの期間だったCFIUSの審査を取り下げて再申請した。審査期間は最大90日間となるため12月下旬までに判断が出る。ただ米当局の対応に詳しい井上朗弁護士は「注目を集めた案件なので現政権は判断を下さず、次期政権の方針を尊重して引き継ぐ可能性がある」(注*)と指摘。
トランプ氏が大統領になった場合を見据えて夏にはトランプ政権で国務長官を務めたポンペオ氏をアドバイザーに起用。トランプ氏と交渉するための人脈を構築。トランプ氏に判断が委ねられた場合、新たな「ディール」を要求されることもありうる。丸紅経済研究所の今村卓社長は「交渉過程で雇用対策や保障、追加投資の強化を求められる可能性はある」とみる。
注*=ただトランプ氏は日鉄のUSスチール買収「阻止」を宣言した(12月3日・日経)。
(財務上の観点から日鉄による買収は合理的な経営判断)だが、「トランプ氏から見れば外国企業の売却は許しがたい売国政策に映っている」。いまや「大統領の座を確実にしたトランプ氏にとって最も重要なものはUSスチールそのものよりも、自信を失った中間層全体の心に響く「大きな物語を描くことだ」(毎日新聞・失った威信 取り戻す米国。12月4日朝刊)
*************米国政権vs日本製鉄*******************
■トランプ氏、日鉄のUSスチール買収「阻止」(12月4日・日経)=トランプ次期米大統領は2日、USスチール買収計画に「「私は買収計画を阻止する。買収者は注意することだ」とSNSに投稿した。
■日鉄幹部、財務健全化へ「追加手段」(12月5日・日経)=森高弘副会長兼副社長はUSスチール買収後の財務健全化に向け追加の段を講じると述べた。USスチールの買収資金は金融機関からの融資でDEレシオ(負債資本倍率)は(9月末の0.4倍)から一時的に有利子負債が増えるものの、森氏は「24年度内に(DEレシオを)0.7倍台に持っていく」と強調。今期はポスコの株式売却などで資産を2300億円程度圧縮するが、「それ以外の手も打つ」と述べた。
■日鉄のUSスチール買収、バイデン氏が阻止へ(12月11日・夕・日経)=日本製鉄によるUSスチールの買収計画をバイデン米大統領が阻止する方針を固めたと米ブルームバーグ通信が報じた。日鉄は報道を受け、「日本製鉄は米国の正義と公正さ及び法制度を信じており、公正な結論を得るため今後USスチールとも協働し、あらゆる手段を講じる」との声明を公表した。
■USスチール買収に暗雲(12月12日・日経)=買収が承認されない場合のシナリオは次のとおり。一つは中止命令が出る前にCFIUSへの審査を取り下げて再申請することだ。審査期間は最大で90日間延び、バイデン氏による中止命令を回避できる。仮に取り下げと再申請が認められても、トランプ新政権下での審査となる。トランプ氏は「私は完全に反対だ」と公言しており、再審査での承認の道も険しい。もう一つは、法廷闘争に臨む可能性だ。米当局の対応に詳しい井上朗弁護士は「勝率は低いだろう」と指摘する。USスチールの買収に失敗すれば、USスチールへの違約金5億6500万ドルの支払いも生じるとみられる。
■日鉄「米政権、不当な影響力」(12月21日・夕・日経)=USスチール買収計画を巡り、バイデン政権が「不当な影響力」を行使したと主張する書簡を日鉄が米政府に送った。買収が阻止されれば法的措置をとる可能性にも言及した。
■USスチール買収、米大統領に一任(12月25日・日経)=USスチールの買収計画を審査していた米政府は23日、省庁間での協議がまとまらなかった。今後は大統領が買収への中止命令を出すかどうかの最終判断を15日以内に下す。日鉄は24日、「大統領が熟慮されることを強く要望する。公正に評価されれば、承認されると強く信じている」との声明を出した。
2025年
■日鉄「生産能力10年維持」 USスチール買収後(25年1月3日・日経)=USスチール買収を巡り、買収後もUSスチールの生産能力を10年間削減しないなどを柱とした追加提案を米政府に送った。生産能力が減る可能性がある場合、米政府は拒否権を発動できる。日鉄は既に買収後に27億ドル以上の設備投資を行うことを発表しているが、追加投資が必要になる可能性もある。
**********米国大統領、日鉄に買収中止命令***************
■バイデン氏、日鉄に買収中止命令(1月4日・日経)=バイデン米大統領は3日、USスチールの買収計画に対する中止命令を出した。日鉄が国内鉄鋼大手の買収により「米国の国家安全保障を損なう恐れのある行動を取る可能性がある」と判断した。
日鉄は30日以内に「完全かつ永久に」計画を手じまいすることを命じられた。トランプ次期米大統領も「(買収に)完全に反対」と表明している。中止命令は3日付で、日鉄に30日以内の買収計画の終了を命じた。買収計画を審査してきた対米外国投資委員会(CFIUS)が期限を延長しない限り、2月2日までにCFIUSに買収計画の放棄証明書を提出しなければならない。放棄証明書を提出すると買収計画は完全に終了する。日鉄は米政府を相手取り提訴する方針を示しており、2月2日までに裁判所に買収放棄命令の一時中断を求めることが最優先となる。
*USスチール巡る計画頓挫・日鉄、国家が崩した「資本の論理」(1月4日・日経)=USスチールの経営陣や従業員、株主も買収を望み、資本の論理では両社にとって有益な計画だったが、1901年創業、米国の産業の「象徴」とも評される名門企業の買収の壁は高かった。今後、日鉄は中止命令に対して提訴する方針で、スキームの変更なども視野に、買収計画の継続を模索する。大統領中止命令には、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を含めて決定過程に問題があるとみられる場合に限り、企業は訴訟ができる。ただ訴訟で中止命令が覆ったことはこれまで一例しかなく、容易な道ではない。
*USスチール“バイデン氏行動恥ずべき” 日鉄は米政府提訴へ(1月4日・NHK)=日本製鉄とUSスチールは共同声明を発表し「決定はバイデン大統領の政治的な思惑のためになされたものであり、アメリカの憲法上の適正手続きや対米外国投資委員会を規律する法令に明らかに違反している。日本製鉄とUSスチールは、法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」。
さらにUSスチールのデビッド・ブリットCEOはSNSのXで「バイデン大統領の行動は恥ずべきもので、腐敗している。彼は経済・国家安全保障上の重要な同盟国である日本を侮辱し、アメリカの競争力を危険にさらした。われわれと会うことさえ拒否しながら、これらの決定を行った」と今回の決定を厳しく批判した。
■USスチール買収阻止は不当な介入だ(1月5日、日経・社説)=約1年前に当事者間で合意した買収は、米大統領選の渦中で政争の具と化した感がある。バイデン氏だけでなく次期大統領のトランプ氏からも露骨に自国優先主義を掲げる発言が相次いだ。
だが、買収阻止で不利益を被るのはむしろ米国民ではないか。米国の鉄鋼産業が競争力を失った理由のひとつに過度な保護貿易主義がある。自由で開かれた経済の理念に逆行するだけではない。同盟国である日本の企業による正当な取引を強引に阻止することは、米国への投資を萎縮させる懸念も残す。安全保障を理由とした介入は極めて限定的であるべきで、安易な拡大解釈はルールをゆがめる。
**********日鉄、行政訴訟と民事訴訟の2方面作戦に打って出る*********
■日鉄、米大統領ら提訴(1月7日・日経)=日鉄と日鉄米子会社、USスチールの3社が、「対米外国投資委員会(CFIUS)」とバイデン氏、CFIUS議長のイエレン財務長官、ガーランド司法長官の4者を相手取り、米連邦控訴裁判所に、買収を巡り不当な政府介入があったとして6日付で提訴した。さらにクリーブランド・クリフス、同社のゴンカルベスCEO、USWのマッコール会長を相手取りペンシルベニア州西部地区連邦地方裁判所にも提訴した。
*日鉄、証拠集めへ2方面作戦(1月7日・日経)=行政訴訟と民事訴訟の2方面作戦には「大統領と労組会長らの結託」の証拠を集める狙いがある。クリフスは米鉄鋼2位の大手で23年7月にはUSスチール買収に名乗りを上げたが日鉄に競り負けた。日鉄は、クリフスが日鉄に対する組織的な中傷や虚偽の発信を繰り返すなど「反競争的かつ組織的な違法活動を行った」としている。ただ、長期間の裁判になりそうだとの意見が専門家の間では多い。大型の裁判では、本格的な審理が始まるまで1年以上かかるケースもある。
■USスチール買収 中止命令の波紋(上)日鉄、かき消された正論(1月7日・日経)=日鉄が読み誤ったのは正論をかき消すほどのUSWの政治力だ。USWのデービッド・マッコール会長はネガティブキャンペーンを張り続けた。日鉄を米鉄鋼産業を揺さぶる「安保の懸念」とする物語は、大統領選で強まった米国世論の内向き志向と共振し、独り歩きした。大統領選が終了すれば労組の影響力が弱まるという日鉄の期待もあっさりと裏切られた。トランプ氏が12月、買収阻止をSNSで改めて表明すると、USWのマッコール氏が「歓迎する」と応じた。ラストベルトが激戦州である限り、共和党も民主党も労組に配慮せざるを得ない。
■日鉄「買収諦める理由ない」(1月7日・夕・日経)=橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は7日、東京都内の本社で記者会見を開いた。USスチールの買収中止命令について「最初から結論ありきの政治介入があった」。買収計画を「諦める理由も必要もない。(中止命令を)到底受け入れることはできない」と強調。長期戦も覚悟の上で全面的に争う姿勢を示した。
*米鉄鋼労組「買収阻止は国益」(1月7日・夕・日経)=全米鉄鋼労働組合(USW)会長と米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスの最高経営責任者(CEO)が6日声明を発表。「バイデン政権は米国に重要な利益をもたらし、国内鉄鋼産業の維持に貢献した」と称賛した。(日鉄などの)「根拠のない主張には断固として反論していく」とし対抗策を辞さない方針を示した。
*トランプ氏「USスチールなぜ今売る?」(1月7日・夕・日経)=トランプは6日、SNSで「関税(引き上げ)によってより高収益で価値のある企業になるというのに、なぜUSスチールを今売ろうとするのか?」と述べた。USスチールの身売りに否定的な考えを示した。
■外相、USスチールの買収阻止「極めて残念」(1月8日・日経)=岩屋外相は7日、都内で来日中のブリンケン米国務長官と会談。USスチールの買収に中止命令を出したことに関し「国家安全保障上の懸念を理由に買収中止の判断がされたことは極めて残念だ」と伝えた。
■日鉄のUSスチール買収計画、破棄期限を6月まで延長(1月13日・日経)=USスチールは11日、バイデン米大統領が中止命令を出した買収計画を破棄する期限が、当初の2月2日から6月18日まで延長されたと発表した。対米外国投資委員会(CFIUS)が期限の延長を認めた。大統領による中止命令が出た場合、日鉄は原則として命令から30日以内に買収計画を破棄する必要があり、期限延長はCFIUSが決めない限りできないことになっていた。
今後の訴訟日程は未確定だ。まずは米政府が働きかけて、米裁判所が日鉄側の訴えを却下する可能性が残る。仮に審理に進んだとしても日程は年単位の長期戦になる可能性が高い。
■米クリフスとニューコア、USスチール買収へ連携(1月14日・夕・日経)=クリーブランド・クリフスが電炉のニューコアと提携し、USスチールを買収する可能性がある。クリフスがUSスチールを全額現金で買収し、買収後にUSスチール傘下の電炉会社をニューコアに売却することを検討している。
クリフスがUSスチールを買収すれば、米国の高炉や自動車用鋼板生産で100%近いシェアとなり、反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性がある。抵触を回避するため、買収後に電炉子会社をニューコアに売却するとみられる。
■USスチールに日鉄との買収破棄求める株主提案(1月27日・読売オンライン)=米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは26日、米投資ファンド「アンコラ」がUSスチールに対し、日本製鉄との買収合意の破棄とUSスチールの最高経営責任者解任を求める株主提案を準備と報じた。
■USスチール、株主提案に反論(1月28日・日経)=USスチールは27日、「アンコラ」から取締役9人の選任などを求める株主提案を受領と発表。提案に対し、「アンコラの提案はUSスチールの全ての株主の利益と一致しているわけではない」との反論声明を出した。
■日鉄とUSスチール、買収巡る裁判開始(2月5日・日経)=USスチール買収計画にバイデン前大統領が中止命令を出したことを巡り、両社がバイデン氏などを訴えた裁判が3日始まった。両社は同日、原告準備書面を共同提出したと発表した。書面ではバイデン氏が政治的理由から米当局に見せかけの審査を行わせた経緯を詳述した。
********日鉄ディール第2幕 トランプ氏「買収でなく投資」**********
■日米首脳会談・トランプ氏「買収でなく投資」(2月9日・日経)=トランプ米大統領は7日、USスチールの買収計画について「買収ではなく投資で合意した」と述べた。来週に日本製鉄首脳と会う機会を持つと説明した。石破茂首相も「買収ではなく投資だ。」と述べた。具体策には言及しなかった。「買収」ではなく「投資」とするためには、計画を変更する場合、日鉄は現行のUSスチールとの契約を解除する必要がある。
*日鉄、トランプ氏に新提案 投資額積み増しか(2月9日・日経)=日本製鉄が、米USスチールの買収計画を巡り、トランプ米大統領に新たな提案をしたことがわかった。投資額の積み増しが含まれていたもようだ。日鉄は新提案について「コメントできない」とした。
*玉虫色の「投資で合意」トランプ氏、日鉄と会談へ(2月9日・日経)=米USスチール買収交渉が再び動き出す可能性がでてきた。「投資」が何を示すかは明らかになっていない。トランプ氏は来週に日鉄首脳と会う機会を持つとしており、トランプ氏は日米首脳会談を前にUSスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)とも面会している。日鉄は6日の決算記者会見で買収方式の変更可能性について問われた際、森高弘副会長兼副社長が「スキームを変える選択肢はない」と答えた。
ただ、仮に協議の結果、出資比率の変更など買収計画を変更する場合、日鉄とUSスチールは現行の契約を破棄するとみられる。再契約しても、改めてUSスチールの株主総会の承認や米当局の審査が必要になる可能性もあり、日鉄の北米事業の成長戦略は時間を要する。買収計画に反対している全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長は7日、「日鉄がUSスチールに関心を持ち続けることへの懸念は変わらない」と声明を出した。
■トランプ氏「日鉄のUSスチール支援、過半出資はない」(2月10日・夕)=トランプ米大統領は9日、日鉄がUSスチールに対し「過半出資をすることはない」と述べた。大統領専用機内で記者団に話した。日鉄は計画の修正を迫られる公算が大きくなった。
*日鉄幹部、トランプ氏発言は把握していない(2月10日・夕)=日鉄幹部は10日朝、トランプ大統領がUSスチール買収計画に関し「過半出資をすることはない」と述べたことについて把握していないとした。
■官房長官「大胆な提案を検討」 USスチール買収巡り(2月11日・日経)=日鉄にとっては完全子会社化できなければ、USスチールへの設備投資を計画通りにできなくなる可能性がある。現行の合併契約を破棄すれば、USスチールの株主の賛同手続きも振り出しに戻る。日鉄がUSスチールに違約金5億6500万ドル(約850億円)を支払う必要が出てくるおそれもある。トランプ氏を日鉄がどう納得させられるかが焦点となる。
*官邸検討チーム、昨年末から議論(2月11日・日経)=政府はUSスチールの買収計画を巡り、24年末から林芳正官房長官をトップに、経済産業省や外務省、財務省などの担当者が対策を議論した。石破首相が7日の日米首脳会談でトランプ米大統領に示した「買収ではなく投資」というスキームも同チームで練った案とみられる。
■トランプ米大統領「USスチール、日本と取引してほしくなかった」(2月14日・夕)=トランプ米大統領は13日、鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の全面適用も念頭に、USスチールについて「現在、かなりいい感じだ。だからこそ、日本やほかの誰ともディールしてほしくなかった」と述べた。関税強化により、USスチールが身売りしなくても成長できるという考えを示唆した。日鉄の買収について引き続き反対する姿勢をにじませた。
■トランプ氏「日鉄、少数株主なら問題ない」(2月15日・夕)=Sスチールへの投資について、トランプ米大統領は14日、日鉄による出資が「少数株主であれば問題ない」と話した。
■日鉄、トランプ氏との面会見通せず(2月24日)=USスチール買収計画を巡り、日鉄首脳とトランプ米大統領の面会が実現していない。日鉄からは副会長が訪米しトップ交渉実現へ準備中だが、先行きは不透明な状況が続く。ただ、日鉄側はあくまで完全子会社化を目指す姿勢に変化はないようだ。ある日鉄幹部は「買収を通じた投資」との認識を示した。トランプ氏が完全子会社化ではなく部分出資などの枠組み変更を強いる場合でも、日鉄が変更を受け入れる可能性は高い。高級鋼が売れて人口も伸びる米国市場は海外戦略のなかで重要だからだ。
■日鉄「米との協議、合併契約が出発点」(2月26日)=USスチール買収計画について、日鉄の今井正社長は25日、記者団の取材に応じ「これから米国政府と協議を進める。基本的なスターティングポイントは今の合併契約になると思う」と述べた。USスチールを完全子会社化する現在の合併契約を維持する方針を示した。
■米鉄鋼労組、USスチールを告発(2月26日・夕)=全米鉄鋼労働組合(USW)は25日、USスチールを全米労働関係委員会(NLRB)に告発した。USスチールが日本製鉄による買収計画に反対の意見を言えないように、数カ月にわたり組合員に威嚇行為をしたと主張している。
■クリフス、日鉄の低金利調達を批判(2月26日・夕)=米鉄鋼のクリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者は25日、「日鉄が日本の銀行システムからゼロに近い金利で資金を調達し、米国の主要なプレーヤーになることは鉄鋼業の将来に悪影響を与える」と批判した。日鉄はUSスチールの買収資金を日本の金融機関からの全額借り入れで賄う方針だが、CFIUSはこれまで日本の銀行や金利には言及していない。
■日鉄、米高官と面会へ・日鉄、完全子会社化崩さず(4月2日)=USスチール買収計画を巡り、日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は1日にもラトニック米商務長官と面会する。買収を前提とした提案をトランプ政権に検討してもらえるかが焦点だ。バイデン前政権は買収の中止命令を出したが、日鉄は完全子会社化の方針を崩していない。買収と合わせUSスチールへの追加投資など米国側を納得させる新提案を示せるかがカギを握る。
<日鉄のUSスチール買収計画の背景>
■日鉄・橋本会長、「日本鉄鋼業を取り巻く環境と課題」講演(24年6月18日・日経)
*〔日本の「純内需」はピークから半減〕=日本の国内鋼材需要のピークは1990年、鋼材需要(1億1100万トン)の内訳は海外向けが1700万トン、国内需要が9400万トンだった。国内需要の内訳は、間接輸出1800万トン、国内「純内需」が7600万トンだった。
2023年の鋼材需要は8200万トン。90年には7600万トンあった純内需は4200万トン(45%)減の3300万トンと半減した。このことは2000年以降、顕著だったが鉄鋼業界は手を打たず、対策が遅れ低迷状態に陥った。
*〔米国の鉄鋼業界の現状〕=米国の鉄鋼メジャー6社のうち高炉ミルは2社しかないが、今世界で一番儲かっているのは米国高炉ミル。米国の鉄鋼メーカーが(能力増強を行わず)、常に需給がタイトになるような生産を行っているからだ。米国の年間の鋼材需要は約1億トンだが、メジャー6社の生産量は7500万トン。電炉メーカーにしても、原料の鉄スクラップがある一定の価格を超えたら減産を実施するなど、数量にこだわらずマージンを優先する姿勢を貫いており、その結果として米国では鉄鋼メーカーも流通も儲かっている。
■〈ビジネスTODAY〉日鉄、米印「地産地消」シフト 日本市場の縮小に対応(9月25日・日経)=日鉄は7月には宝山鋼鉄との合弁会社の株式売却を決めたばかりだが、ポスコ株の売却を決めた。米国やインドに経営資源を投下し、「地産地消」にシフトする。
米国では鉄鋼大手USスチールを141億ドル(約2兆円)の買収計画を進め、インドではアルセロール・ミタルとの合弁会社が1兆円規模を投じて高炉2基の建設を進めている。一方、国内では高炉を削減するなどの構造改革を進めてきた。日鉄はUSスチール買収に向けて、27億ドル超の追加投資も表明。海外を中心とし成長投資に向けて資本効率の改善を進めており、ポスコ株の売却もその一環となる。
■NIPPON STEELへの挑戦(上) 日鉄、3極で地産地消(8月10日・日経)=日本製鉄の海外戦略が歴史的な転換点を迎えている。中国・宝山鋼鉄との協力関係を事実上打ち切り、かわって米印、東南アジアの3極で高炉など上工程から一貫生産する「地産地消」の実現に挑む。
*日鉄はUSスチール買収に不退転の覚悟で臨む。米国は先進国では例外的に人口増加が続く。製造業の米国回帰も進むなか、今後も堅調な鋼材需要が期待できる。
*中国では事業縮小を決めた。中国には粗鋼生産量で世界上位10社のうち6社が乱立。鋼材市場は過当競争の様相を呈している。さらに電気自動車(EV)への転換が急速に進み、日系自動車各社は苦戦を余儀なくされている。森氏は「今はリスクの方が高い」と断じる。
*日鉄の粗鋼生産能力は現在6600万トンだが、1億トンに増やす方針だ。この上積み分は森氏は「3極に集中する」と述べ、米国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)を挙げる。
*NIPPON STEELへの挑戦(下) 脱炭素へ電炉転換検討 水素製鉄、実用化は遠く(8月11日・日経)=国内のCO2総排出量の13%。鉄鋼業は製造業で最も多いCO2排出量を占める。日鉄は「CO2ゼロ」までの設備投資に4兆~5兆円、研究開発費に5000億円が必要とはじく。
*30年の導入を見込むのが大型電炉だ。検討対象は八幡など2カ所。大型電炉が導入されれば既存高炉は閉じる公算が大きい。脱炭素技術の本命が水素還元製鉄だ。高炉での実証試験を始めるのは26年。CO2半減技術の確立は40年になるとみている。
*技術以上のハードルが脱炭素電源の整備だ。日鉄幹部からは「今の橋本氏の関心は米USスチールよりも原子力発電所の動向に移っているようだ」との声も漏れる。
日本政府がエネルギーの脱炭素化に踏み込めない場合、日鉄の脱炭素技術の実用化は海外が先ということになりかねない。脱炭素の実現には、政府も巻き込んだ議論が必要になる。
以上