「金属盗対策」に関する政府、業界の動き(2025年3月)

 

■政府、金属盗対策法案を閣議決定311日。共同通信ほか)太陽光発電施設の金属ケーブル盗が多発などを受け、政府は11日、「金属盗対策法」(正式名称=盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律)案を閣議決定した。

金属くず買い取り業者に営業届出の義務を課し、違反すれば6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、または両方を科す。また売主の本人確認や取引記録の3年間保存、警察の立入調査を可能とし、営業停止の行政処分もできるようにする。

公布後1年以内に順次施行される。業者が無届営業した場合は都道府県公安委員会からの本人確認の確実な実施指示に従わないなど悪質な業者は6月以内の営業停止とする。

ケーブル切断機能を持つカッターなどの工具の隠し持ちを禁止する。

 

■鉄リ工業会・木谷会長が定例記者会見327日。テックスレポート)=日本鉄リサイクル工業会の木谷謙介会長は26日、定例記者会見で最近の活動成果や進捗を報告した。

 「金属盗対策法」が閣議決定されたことに対し、木谷会長は「警察庁の迅速な動きに感謝し、その効果に期待している」と述べ、廃掃法の改正へ向けた動きとともに「不適正ヤードに対する包囲網が関東を中心とした自治体だけでなく警察庁、環境省の動きによって進展している」と評価した。半面、「一部の地方自治体では適正な業者でも実現が難しい規制が検討されており、鉄スクラップ業界では行きすぎた規制だとも感じている」と懸念も示し、「当工業会としては意見交換、対話を通じて率直な意見を表明していきたい」とコメントした。

 これに付随し、専業会員672社を対象として昨年11月に行った調査では、鉄スクラップに従事従業員数410人の企業が全体の38%、1130人が35%、30人以下が全体の82%(554社)を占めたほか、事業所数1ヵ所が400社(60%)、2ヵ所が153社(23%)と説明。こうした平均的な企業規模を念頭に、木谷会長は「1ヤードしか持たない事業所の隣に不適正ヤードができたら死活問題になりかねない。地方自治体の条例が適正な業者でも対応しきれないような厳しい内容になると、1事業所で業を営んでいる会員会社にとっては廃業しろということかという受け止めになってしまう」などと語った。

 

金属盗対策に関する検討会 報告書(2025年1月7日)

https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/scrap/report.pdf

第3 検討の基本的な方向性 ··································(原文·· 11 p)

第4 対策の具体的な方向性 ···································· ······· 13

1 規制対象とする金属 ········································ ····· · 14

2 金属くずの買受け規制の在り方

  • ·(1) 取引時の本人確認等  (2) 盗品である疑いがある場合の申告等  (3) 監督等

4 金属盗難の防止に資する情報の周知の在り方     ···   22

【図20】検討会における議論の概要

https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/scrap/summary.pdf


参考資料   1 金属盗対策に関する検討会委員名簿

【座長】 飯島 淳子 慶應義塾大学大学院法務研究科教授。【委員】 *興津 征雄 神戸大学大学院法学研究科教授 *鎮目 征樹 学習院大学法学部教授 *谷平 竜幸 一般社団法人日本鉄リサイクル工業会副会長 *福田 隆 非鉄金属リサイクル全国連合会常任理事 (敬称略)

2 金属盗対策に関する検討会開催状況
【第1回(令和6年9月30日)】事務局からの説明太陽光発電関係の事業団体からのヒアリング委員からの説明自由討議 【第2回(令和6年12月2日)】関係省庁からの説明損害保険会社からのヒアリング作業工具関係の事業団体からのヒアリング事務局からの説明自由討議 【第3回(令和7年1月7日)】報告書取りまとめ参考資料


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第3 検討の基本的な方向性(原文)

 

本検討会は、金属盗をめぐる現状を確認しつつ、金属盗対策の 今後の在り方について意見交換を行った。検討の基本的な方向性に関し、委員から次のような意見が出された。

○ 法律による対応の必要性

*金属盗は、近年、件数・被害額ともに非常に大きくなっており、また、太陽光発 電施設というインフラへの影響も及ぼし得るなど、社会に与える影響の点で特殊な 性格も有することから、全国的な規制が適当と考える。

*法律による対応の必要性は十分にある。現に金属盗が起こっていて対策が急務で あるという意味で、立法の必要性は基礎付けられている。金属盗の被害は、現在は 北関東に多くみられるということだが、今後、全国に広がることも予測されるところ、条例による対策では、条例が制定されていないところが抜け穴になりかねないことから、法律によって全国的に対応することに賛成である。

○ 金属くずの買受けに係る規制の必要性

*現状、金属くずの買取りに関する規制は、一部の県等で条例が制定されているが、条例は罰則が軽いほか、条例が制定されていない県等に持ち込まれてしまうと いった問題があるため、法律で全国に規制の網をかけてもらいたい。

○ 金属盗に用いられる犯行用具の規制の必要性

*現在は、大きなケーブルカッターやボルトクリッパーが乗用車に積まれていても、警察が対処できないところ、これらの犯行用具について規制を設けた方が良 い。

○金属盗の被害防止に資する防犯情報の周知の必要性

*金属盗難の防止に資する情報の周知について、法規ではないものを確認的に法律 に定める例もあるし、警察としての責務を定めるという意味で法律に書くことは十 分あり得、広報あるいは啓蒙的な意味が大きいと考える。特定の人の権利を直ちに 侵害するものでもないことから、積極的に行ってもらいたい。

○実効性ある対策の必要性

*仮に新たに法令で規制が設けられたとして不適正な業者は無許可で営業するのではないかという懸念があるためそうした点もしっかりと考慮に入れ新しい法令を作っていただきたい。
* 法制化に当たっては、実効性のあるものにしてもらいたい。

○迅速な対策の必要性

*条例では抜け道が生じるし、海外においても金属盗が頻発していると聞いているところ、仮に我が国だけ規制が緩い場合、海外から日本に不適正な事業者が流入し てくる状態になりかねないことから、迅速に法制化を進めてもらいたい。

○業者の負担への配慮の必要性

*業者に対して新たな規制を設けることも考えられるが、その際には違法不当な業者だけでなく適正な業者も規制の対象になるため、規制の目的と業者全体に課される負担とが均衡している必要がある。

○条例との関係

*地域的な特性や差異もある中で、条例制定の余地も残しておくべきである。ま た、いくつかの自治体で条例で対応しているということも踏まえて、法律による規 制というものを考えていけたら良い。

 

【検討の基本的な方向性】

○金属盗が急増しており、今後も金属盗が続く可能性が高いことを踏まえ、金属くずの買受け金属盗に用いられる犯行用具金属盗難に遭うおそれの大きい事業者への防犯情報の周知 について、法律により、実効性のある対策を迅速に講じることが必要である。

○具体的な対策の検討に際しては、規制の目的と業者全体に課される負担との均衡に留意すべきである。法律による対応のほか、地域的な特性等に応じた条例による対応も認められるべきである。

 

第4 対策の具体的な方向性

 

1 規制対象とする金属

  • 現状等=金属盗の被害の実態を分析すると、銅が被害の過半数を占 めている。

  • 議論

  • *盗難被害の実態からすると、まずは銅から規制することに異存はない。
  • 例えば、アルミは現時点の価格は高くはないものの、カーボンニュートラルに資するという観点から価値が今後高まることが見込まれている。こうしたことを踏まえ、今後、規制対象の金属を機動的に追加する可能性についても留意してもらいたい。

*比例原則の観点から規制は必要最小限にするべきであるが、今後、銅からアルミ に盗難被害の中心が移ること等も考えられることから、情勢の変化に機動的に対応 できる規制の在り方にしていただきたい。下位法令への委任といった形を採ること については基本的に賛成だが、各種規制の違反に罰則を設けることも考えられると ころ、法律主義及び明確性の原則の見地から、例えば政令へ委任する場合、委任の 趣旨はある程度明確にした方が良い。

 

「今後の方向性」

○金属盗の防止という目的のために必要最小限の規制とする観点から、特に被害実態の多い金属を中心に規制すべきであり、被害実態に鑑みると少なくとも銅を規制すべきである。

○今後、金属価格の変動等により、異なる金属の盗難被害が増加することもあり得ることから、その時々の犯罪情勢に応じて、規制対象とする金属を追加することを 可能とすべきである。ただし、下位法令において規制対象とする金属を追加することができることとする場合には、下位法令への委任の趣旨を法律において明らかにする必要 がある。

 

2 金属くずの買受け規制の在り方

  • 取引時の本人確認等

ア 現状等

現状では、古物に該当しない金属くずの売却について、金属くず条例が制定されている17道府県を除き、規制がなく、氏名等を確認されることなく売却することができるため、金属盗に及ぶ者にとっては盗品の処分(売却)が容易な状況となっている。この点、事業者に対して、その取引相手についての本人確認等の義務を課している法令として、古物営業法のほか、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)があるところ、犯罪収益移転防止法では、確認 方法として、顔写真付きの本人確認書類の提示を受ける方法等が定められている。  

古物営業法及び犯罪収益移転防止法では、盗品流通実態や事業者の負担に鑑み、 一定の取引について本人確認義務を不要としている。古物営業法は、一定の古物を 除き、1万円未満の取引については本人確認を不要とする一方で、犯罪収益移転防止法は、過去に確認を行っている顧客等との一定の取引については、本人確認を不要としている。

【図17】古物営業法及び犯罪収益移転防止法における本人確認等の例(略)

 

イ 議論

*適正な業者は、買取りの度に伝票管理や帳簿の記載、身分確認を行い、個人が大量の持ち込みをしてくるような不審な場合は断ったり、会社名の取引にしてもらった上で法人番号を提示してもらったりといった対応を行っている。一方で、不適正な業者はそのような手続きをほとんど行っておらず、盗品であろうとなん であろうと構わず買い受けているところもあると思われる。

*適正な業者にとっては、一定基準の本人確認と取引記録の保管などの義務付け は過剰な負担とはならないと思われ、少なくとも古物営業法程度のものであれば 十分対応できると思われる。

*規制を作っても実効性が確保できなければ、「仏造って魂入れず」という状況になりかねないため、取引時の本人確認義務は設けた方が良いと考えており、特 に個人の場合は、顔写真がないと使い回されてしまうことも考えられるため、原則、顔写真付きの本人確認書類の提示を求めることとすることが望ましい。他方で、業者の負担も重要な考慮要素であり、業者負担が最小限にとどまる形にしつ 、必要な規制は入れていくという方向に賛成である。

*基本的な方向性として、業者に対して過度な負担にならないようにしつつ、抜け穴についてはできる限り塞いでいくことが適当と考える。規制の実効性を担保 する見地から、取引時の本人確認義務違反については何らかの制裁が必要である と考える。

*鉄スクラップの買取りについて、総額1万円未満の取引はほとんどない。例えば、グレーチングであれば、1枚だけ持ってくるということはまずあり得ず、20枚、30枚あれば1万円は優に超えてしまう。

*身分証明書による本人確認が犯罪を防止するのは間違いないと考える。2回目以降の一定の取引については本人確認の必要がないという犯罪収益移転防止法の例も参考に、業者の事務作業に留意した法制度にしてもらいたい。

*業者の負担は増えるが、本人確認は必要不可欠であると考える。この点、1日に数百ある持ち込み等の全てについて本人確認を行うとなると業者の負担が相当増えることが見込まれ、書類の保管についても、業務量の増加につながることが考えられるが、1度本人確認をすれば、2度目以降の本人確認は不要とす るといった形になれば、実際に本人確認が必要になるのはほとんどが個人との取引となるため、対応可能であると考える。

*適正な業者では、金属価格の高騰によって1回当たりの取引金額が高額となっているため、現金取引は大分少なくなってきており、振込による取引が多くなってきていると思われる。一方で、不適正な業者は基本的には現金取引のみというところが多いと思われる。

*業者にとっての分かりやすさの観点から本人確認書類は明確に定めてもらいたい。

*業界として、今後、電子化の流れが進んでいくと思われるところ、eKYC、 電子的な本人確認方法や電子帳簿についても認められるようにしていただきた い。

 

(2)盗品である疑いがある場合の申告等

ア 現状等

古物営業法では、不正品の疑いがある場合の申告義務が課されている。

 【図18】古物営業法における不正品の疑いがある場合の申告等の例(略)

 

イ 議論

*適正な業者は、買取りの度に伝票管理や帳簿の記載、身分確認を行い、個人が大量の持ち込みをしてくるような不審な場合は断ったり、会社名の取引にしてもらった上で法人番号を提示してもらったりといった対応を行っている。一方で、不適正な業者はそのような手続きをほとんど行っておらず、盗品であろうとなんであろうと構わず買い受けているところもあると思われる。〈再掲〉

*事業者としては盗難品を買ってはならないということは当然認識しているが、金属スクラップは盗品かどうか外形的に分かりづらいところがある。

*盗品の疑いがある場合の申告義務は必要と考える。ただし、どういう場合に盗品の疑いがあるとして申告しなければならないのか、事業者が判断に迷うようなことができる限り少なくなるよう、警察から、時の社会情勢の変化も踏まえつつ、盗品に関する情報と共に、金属スクラップが盗品の疑いがあると認められる場合を示すガイドラインや指針を示していくことが望ましいと考える。

*盗品の疑いがある場合の申告義務違反について仮に罰則を設けると、それは不作為犯を処罰することになるが、作為義務の前提となる要件を明確にすることは やや困難を伴うのではないか。こうした点からも申告義務違反に対する罰則の賦課については慎重な検討を要すると思われる。

*盗品である疑いがあることについての申告は、業者としても、身を正すという観点から、全く問題ない。何をもって盗品と判断するのかというのは難しいところであり、持ち込んでくる人の属性や、持ち込まれる金属くずの状態の両方に鑑 みて判断することになる。海外では、大手のディーラーや業者が金属盗難の情報 をウェブサイト上等で自力で収集等しているが、業者としては、盗難の被害届に 関する情報等を警察から提供してもらえると非常にありがたい。

*「公私協働」や「私人による行政」という考え方もあるところ、法目的の達成 のために、業者の方々にも協力してもらうという意味で、こうした立法に意味が あると考える。

 

  • 監督等

 ア 現状等

現在、金属くず条例が制定されている17道府県を除いては、金属くず買受け業者の実態を把握する手段がなく、また条例によってもその内容には差異があることから、悪質な業者を含めた金属くず買受け業者の全国的な実態を把握する ことが難しい状況である。

【図19】金属くず条例の制定状況等(略)

 

イ 議論

*東南アジアや中国といった日本国外では、リサイクル業がライセンス制になっているため非常に参入のハードルが高い一方、日本国内は、金属リサイクラ ーとしての許認可がないため参入のハードルが低いことから、他国での輸入規制の動きもあり、日本でリサイクル業を始める海外の事業者が非常に増えてきており、悪質業者も増えてきている。

*各種法令を遵守している適正業者は、各種法令を遵守していない不適正業者との価格競争で不利になってしまう。

*コンプライアンス意識の低い業者が増えてくる中で、「悪貨が良貨を駆逐する」ような状態になっていく。コンプライアンス意識の低い業者は、盗難品の買取りに関しても全く抑制が利かない。

*業界としても届出制といった仕組みはあった方が良いと考える。行政側から一方的に実態把握をすることは難しいため、届出をさせるなど、業者側から何らかのアクションを起こさせることが非常に重要であり、業界全体の正常化にもつながっていくと考える。

*業界団体でも全国にどれくらいスクラップ業者がいるかを把握できていないため、実態把握は非常に重要と考える。この点、規制を厳しくし過ぎてしまうとそもそも申請や届出を行わない業者も出てきてしまい、実態が把握できなくなることもあり得るため、実態把握のためには、まずはハードルをあまり高くせず、届出制とするべきと考える。

*営業規制については業者への負担との均衡が必要であるところ、届出制であれば許可制と比較して規制の程度が弱く、均衡は十分にとれていると考える。

*基本的な方向性として、業者に対して過度な負担にならないようにしつつ、抜け穴についてはできる限り塞いでいくことが適当と考える。規制の実効性を担保 する見地から、本人確認義務違反については何らかの制裁が必要であると考える。〈再掲〉

 

【今後の方向性】

 ○ 取引時の本人確認等

・ 金属くず買受け業者に対し、取引時の本人確認義務を課すべきである。

・ 犯行の実態を踏まえると、その本人確認の方法としては、顔写真付きの本人確認書 類による本人確認等を義務付けるべきである。

・ 1万円未満の金属くずの買取りについて本人確認義務等を免除することは、抜け穴となるおそれがあるため適当ではない。他方で、金属くず買受け業者の負担軽減の観点から、盗品が持ち込まれるリスクが低いと考えられる場合(例えば、2回目以降に同じ相手方名義の口座への振込を行う場合等)には本人確認義務を免除するべきである。

・ 金属くず買受け業者に対し、本人確認記録・取引記録の作成及び保存義務を課すべきである。

○ 盗品である疑いがある場合の申告等

・ 金属くず買受け業者に対し盗品の疑いがある場合の申告義務を課すべきである。

・ 上記の申告や、金属くず買受け業者を利用した盗品の処分の防止に資するため、警察から金属くず買受け業者に対して、金属盗難被害等に関する情報を提供するべきである。

○ 監督等

・ 届出制により金属くず買受け業者の実態を把握した上で、警察から必要な情報の提供を行うとともに、コンプライアンス意識の低い業者にも各種義務を履行させるよう監督するべきである。

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4 金属盗難の防止に資する情報の周知の在り方 ············· ······ ········ 22

【図20】検討会における議論の概要https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/scrap/summary.pdf

                  以下略