「コロナ発、鉄スクラップ相場は急伸・思惑」相場を考える

 

現在の相場は、すべての先行きが不透明な中での「逆パニック」相場である。

 

12月の現状=本年後半から内外の鉄スクラップ価格は急速に引き締まった。6月以来騰勢を強めた鉄鉱石スポット価格は11日、約79カ月ぶりに155㌦台の高値を付けた(13年3月以来)。東鉄・田原特級も17日、9年8か月ぶりに40,000円に乗り(114月以来)、足元の関東湾岸相場、H240,000円と11年3か月ぶりの高値圏にある。

 

■その背景(前半)=相場は需要と供給の綱引き(実需)と、先行き期待(仮需)で決まる。

実需は実際の需要と供給の力関係である。本年の最安値は、4月から5月にかけて出た(49日、関東鉄源入札H2・FAS平均20,656円。東鉄1月25日下げ開始→4月28日・田原特級18,500円。鉄源協会4月第4H218,500円)。海外も安値は3月末~5月に集中した(ディープシーカーゴ3月末(HMS80/20)200㌦CFR。コンポジット価格4月13186.00㌦)。

 

中国・武漢の公共交通機関の運行停止が1月23日。ここから世界は一変した。WHOのパンデミック認定が211日。鉄鋼業界を始め、日本の産業界が感染拡大防止に本格的に動き出したのが3月から。中旬以後、欧米各国がロックダウンを開始し、4月に入って日本でも緊急事態を宣言(7日)し、県境を越える外出などの自粛を求めたから、工場・ヒト・モノの動きが止まった。世界もまた同様だった。この間、日本では日本製鉄が5基、JFEが2基の高炉を一時休止。経産省まとめによると46月期の生産計画は前期比20.0%減の1928万㌧とリーマンショック直後の0946月期以来の2000万㌧割れが見込まれた。

実需が消え、生産量=原料消費量が減るのだから、相場が下がるのは当然である。

 

■その背景(後半)=相場は需給バランス変化と、先行き期待(思惑)でも動く。

いつ、どのように経済活動を再開すべきか。その重大な判断は、いまや政治家や「経済専門家」から、非経済分野の住人である「疫学専門家」の「パンデミック予報」に移った。

つまり従来の伝統的な経済分析手法が通用しない、ウイズコロナの時代に入った。

そのなかで鉄鉱石と鉄スクラップマーケットが、6月以降、世界的に動き出した。

 

きっかけはまたしても中国である。

感染が拡大した3月から世界の粗鋼生産は前年割れに陥没した。先進国では4月以降、2桁の大幅な減産が続いたが、一足先に感染を封じ込めた中国は逆に前年を上回る増産(54.2%増、64.5%増、79.1%増、83.7%増、94.5%増)に転じた。

一方、供給側のブラジル・ヴァーレは昨年の鉄鉱石鉱山事故やコロナ感染から当初の生産計画未達が明らかとなった。需給バランスの世界的な失調が鉄鉱石価格を押し上げた。

 

鉄スクラッにも中国のインパクトが及んだ。中国の電炉鋼比率、鉄スクラップ配合率は、いずれも10%台前半だが、25年をメドに電炉鋼比率、鉄スクラップ配合率ともに20%引き上げが目標とされた。さらに6月、中国鉄鋼首脳が鉄鉱石高から鉄スクラップの輸入規制緩和などを求める動きが伝えられ、12月には輸入拡大を可能にする法令(「再生鋼鉄原料」)整備も進み、早ければ21年後半にも、中国筋のマーケット・インが予想され始めた。

ただ実際は中国関係筋がどう動くかは分からない。その分からなさが思惑を誘った。

 

さらに鉄スクラップの「商品特性」が、その思惑の火に油を注いだ。

1 鉄スクラップは先進国の「都市鉱山」である。その鉱山が先進国の今年2月からのロックダウン・経済封鎖から「閉山状態」に追い込まれ、供給能力が大幅に萎縮した。

今、日本も欧米も今年春のロックダウンの傷がいえないままに、冬場に入って再感染が拡大している。半年以上のロックダウンで発生量が落ち込むなか、手持ち在庫を切り売りし、しのいできた世界中のプレイヤーの前に、新たな買い手(中国)が現れた・・・わけだ。

2 一方、電炉は、ベトナムやバングラデシュなどアジア中進・発展途上国の主要鉄鋼生産装置である。その主原料である鉄スクラップは、欧米先進国や日本に求めるしかない。

3 そのアジアやトルコの需要国と供給・萎縮マーケットのなかに、中国が(やがて)参入する。小さな池にクジラがエサを漁りに来る・・・それが現下の情勢である。

 

■簡単に言えば=新型コロナウイルスの感染拡大が、世界中の国々にロックダウンの防衛策を走らせ、工場とヒトとモノを止めた。それが半年以上になれば、国内外でも流通在庫は底をつく。そのなかで大口の中国の買い出動のうわさが伝えられる。国内外の同業他社もマーケットプレイヤーも手持ち確保に動く。その思惑が、次の思惑を呼ぶ。それが今だ。

 

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■これをどう考えるか。

原則に戻って考えれば、「相場は需要と供給の綱引き(実需)と、先行き期待(仮需)で決まる。実需は実際の需要と供給の力関係である」。

 実需のボリュームは、経済活動によって決まる。
経済活動は、現状では感染防止策の成功の有無で決まる(中国、台湾と欧米、日本)。
その実需の予測が不透明ななかで、仮需(世界景気回復・期待)がまず動き出した。
さらに北半球では流通路が凍結し、陸海での気象変化が相場を左右する冬である。
季節的(Xmas・宗教的も)要因から物流が細るから需要家は在庫補充に努める。恒例の季節要因仮需も背景にある。

 生産活動は、常に先行きの需要を見越して動く。鉄鋼生産も同じだ。

 

では、その原材料をどこから調達するのか。高炉は鉄鉱石。電炉は市中鉄源である鉄スクラップ。日本国内ではここ10年、その余剰化から海外に輸出している。いま、そのアジアが先行きの需要を見越して日本の鉄スクラップを求めている。

これを実需と見るのか。将来期待に乗った仮需と見るのか。そのいずれとも見ず、淡々と「リスク回避」の手当てを行いつつ、悲観もせず楽観もせず、日々の業務をどうこなすか。

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 今回の相場(4~5月の安値→6月以降、特に12月の急伸)は、世界経済的に見れば金融緩和の「金余り」(それが株高の実態)の中で進行している。形は違うが、087月から9月までの急伸相場に似通っている(その崩落が10月からのリーマンショック)かのように見える。

1回目は悲劇だった。ただ2回目は喜劇である。
       

以上