鉄スクラップビジネスとは何か

 

1 商材は「スクラップ」である。市民生活の使用済み、もしくは工場工程の回収・廃棄材である。とはいえ「鉄素材」であるから、歴史的に独自の回収ビジネスが成り立っている。

 

法的特徴・原則と例外

*「古物営業法」(1949年)は、金属屑は「廃品であって古物ではない」として同法の適用外とする。「廃棄物処理法」(1970年)は、廃棄物処理業(収集・運搬・処理)には厳格な許可を求めたが、金属屑商などは「もっぱら回収」目的と見て同法の適用外とした。

*しかし法律(古物営業法、廃棄物処理法)ではなく、一部の地方自治体(過去最大29道府県、現在16道府県)は、条例(金属屑営業条例など)で鉄屑営業を厳格に規制する。

*とはいえ条例(金属屑営業条例)制定が、一部自治体(全国の約3分の1弱)にとどまったこともあり、法制上は誰でも(許可なく)開業ができる、自由度の高い商売となった。

 

2 「持続可能なリサイクル品」である。1992年ブラジル・リオの国連会議から「持続可能な経済」がテーマとなり日本でも「業の健全化を目指す」各種リサイクル法が制定された。

 

■各種リサイクル法

1991年・再生資源利用促進法(2001年・資源有効利用活用法に改正)

1995年・容器包装リサイクル法(スチール缶は除外=規則3条)

1998年・家電リサイクル法(鉄スクラップ業者も「回収・処理」ビジネスに新規参入)

2000年・循環型社会形成推進基本法(3R・「拡大生産者責任」を導入)

2000年・建設リサイクル法(鉄スクラップは「特定建設資材」の対象外)

2002年・自動車リサイクル法(鉄スクラップ業者も「解体・処理」ビジネスに新規参入)

2013年・小型家電リサイクル法(都道府県知事に届け出義務)

 

■リサイクル法と改正廃棄物処理法

「自動車リサイクル法」(2002年制定)は、使用済み自動車を「廃棄物とみなし」解体業者、加工業者を「許可」制とした(使用済み自動車解釈の変更)。また「小型家電リサイクル法」(2013年施行)では、収集運搬処分を行おうとする者は大臣認定(10条)とした。

 

*さらに改正廃棄物処理法(2018年4月)では、大型・小型家電リサイクル法との関連で、新たに「有害使用済機器」の保管又は処分を業とする者は都道府県知事に届け出なければならない(「第17条の2」)との条項を追加し、施行規則第16条の2(有害使用済機器)で廃家電や雑品32分類の適正保管の義務付け、報告の徴収、立入調査、措置命令等を加えた。

 

3 鉄スクラップは「廃棄材」であり、「資源」(都市鉱山)である。この二面性から「廃棄物処理法」と各種「リサイクル法」の両分野の対象となり、新たなビジネスが生まれた。

 

従来法(古物営業法、廃棄物処理法)は、金属屑とこれを扱う金属屑商を、法規制の除外としたから、金属屑商は行政に許可を求めることなく自由に商売できた。また1970年に登場した廃棄物処理法は、廃棄物の「適正処理」とその「取締り」のため厳格な許可制としたから、金属屑商と廃棄物処理業者との間には法制上の壁(許可の有無)があった。

 

*しかし2000年前後に登場した各種リサイクル法は、「資源の有効活用」と「リサイクル業の育成・健全化」を目指し、その開業を「許可」制とし、これを新規ビジネスの「入場券」としたから鉄スクラップ業者は勿論、廃棄物処理業者も、これに新たな商機を求めた。

*家電リサイクル法=旧・中田屋、ハリタ金属、平林金属、エンビプロなど多数業者。

*自動車リサイクル法=平林金属、エンビプロなど全国の自動車解体・破砕業者多数を網羅。

 

4 だから異業種からの新規参入が相次いだ。

*非鉄業から=非鉄スクラップ業は海外相場(LME)と為替相場に翻弄され、安定経営が求められた。そのなか新リサイクル法に乗って、非鉄スクラップ業から鉄スクラップ業に参入する動きも出てきた。その代表が非鉄業界の老舗、東港金属だ。同社は946月「産業廃棄物収運搬、中間処理業」の許可を取得。2001年家電リサイクル法の拠点に認定され、06年大型ギロチン機を導入して非鉄分野から鉄リサイクル業に本格参入した。

 

*産廃業から=創業は1989年(平成元)。沖縄県出身者が20歳台前半で産業廃棄物収集運搬業に乗り出し、93年には内装工事解体業を手がけ、2007年から鉄スクラップ業に進出。湾岸各地にヤードを、内陸部に加工ヤードを相次ぎ開設。20年12月リサイクル事業部を「ナンセイスチール」として分社化。鉄スクラップ輸出ビジネスにも本格的に乗り出した。

*すでに各種の「許可」を取得していた廃棄物処理業者からすれば、隣接する鉄スクラップ業は、許可なく商売できる緑滴る肥沃な大地だった。各地の廃棄物処理業者は、競って鉄スクラップビジネスに進出。廃棄物処理業の大手㈱タケエイと鉄スクラップ業の老舗リバーHD2110月、タケエイ55.4%対リバー44.6%の割合で経営統合した(新会社TREHD)。

 

*渡来系業者も=配電盤、モーターなど非鉄製品(雑品)の解体・処理は、人件費の高い日本では手間のかかる「処理困難物」。これに商機として動きだしたのが「雑品貿易」。これが本格化するのは、鉄スクラップが歴史的な安値に沈んだ90年代後半からだ。

さらに2000年以降、日本の「逆有償」と中国の「経済躍進」が続くなか、(高価な非鉄を含む)雑品の中国向け輸出が本格化し、これにビジネス機会を見出した(中国本土からの)渡来業者が続々と登場。2010年以降、湾岸ヤードを足場に内陸各地に拠点を拡大した。

 

*これが2020年以降、関東地区で集荷・回収を圧迫するとの既存業者の危機感を呼び込んだ(2023220日・産業新聞「関東鉄源協 鉄スクラップ流出 水際対策を」)。

 

5 地球温暖化防止の切り札として・・・カーボンニュートラル

鉄スクラップの特質は、持続可能な資源であり、かつ低炭素資源でもあることだ。すなわち、

  • 都市鉱山の一つ=鉄スクラップは、製造・消費が活発な先進国の「特産品」である。

  • 低炭素品である=高炉・コークス法は、鉄鉱石や石炭の採掘、海陸の運搬、製銑、製鋼の4段階でCO2を排出する。一方電炉・鉄スクラップ法は、製鋼の1段階だけで工程が完了する。
  • 高炉・コークス法では、製鋼1㌧当たり約2㌧のCO2を出すが、電炉・鉄スクラップ法は、0.5㌧と高炉の4分の1で済む。

*その結果、世界の鉄鋼業が、中長期的な水素製鉄法に至る「つなぎ」として電炉製鋼に注目し、鉄スクラップ確保に走る。その将来、鉄スクラップ流通は大きく変わる可能性がある。

 

  • 国際商品として=鉄スクラップは、持続可能な・温暖化防止資源として、国の内外で旺盛な需要を獲得する。そこに商機を見つけた商社や業者が、国内外で業務を拡大する。

  • 鉄スクラップ再評価の予感=高炉各社は「ゼロ・カーボン」策として電炉の新増設、鉄スクラップ使用の拡大を打ち出した。日本製鉄は新電炉を広畑に作った(2210月、年産70万㌧)。JFEも、27年に水島に新電炉を作る。日本だけでなく、世界の大手高炉各社が一斉に電炉シフトに動き始めた。そのインパクトは大きい。

  • 高炉が電炉工程で高級鋼材を作る=鉄スクラップ業者と成分評価の新たな「選別」が予想される。キーワードは、品位・品質、安全・安心だ。高炉各社は、転炉製鋼法の普及とともに市中の鉄スクラップ購入から去った(70年代)が「ゼロ・カーボン」時代を前に再び市中に戻ってきた。流通商社、高炉系業者の新たな出番が予想される。

 

6 鉄スクラップビジネスとは何か

1 リサイクルの二面性から考える=「分ければ資源、分けなければゴミ。」これを法的見れば資源回収の「リサイクル法」であり、違法取締りの「廃棄物処理法」である。

2 市中回収鉄源として=市中回収品だから、一定程度の不純物混入リスクが付きまとう。だから鉄鋼各社は(そのリスク回避のため)決済を「メーカー持ち込み・検収」条件とする。

*取引関係者は、リスク回避の目線で(鉄スクラップを警戒しながら)見ている。

3 鉄スクラップ争奪のなかで=大手高炉は、社会的信用に敏感である。またその社会的役割から消費者、従業員、株主、得意先、地域社会など(「ステークホルダー」)に関わるコンプライアンス(法令順守)の徹底は絶対である。

*納入・出入りの「協力会社」も、その厳守、行動が強く求められる。

*その絶対的なキーワードが「信用・信頼・コンプライアンス」である。

                   以上