■「失われた30年」と「長期的な円高」
円相場は1993年以降100~120円台で跳ね上がりし、2009年から2013年まではさらに80~100円圏に、その後の2019年までは110円の「長期的な円高」に推移した。これはまさに日本経済の「失われた30年」に重なる。その理由の一つが安価な労働力を背景とした中国の世界経済への進出だった。日本はデフレ・スパイラル(中国発「百均ビジネス」)のなか、経済活力を失い。国債乱発とゼロ金利への固守から150円台の「円安」に陥った。
■1㌦150円の「円安」のなかで
しかし日銀はゼロ金利を改めることができない。国が返済する必要のある普通国債残高は1000兆円規模。金利が1%上昇すれば、国債の元利払いは3.7兆円上振れる。地銀が保有する国債の含み損が拡大する懸念もある。その一方で世界各国の中央銀行は政策金利を引き上げており、「日本円」は内外金利差を利用したキャリー取引の格好のターゲットとなり、円安は主要各国通貨に拡大した(「円安、対ドル以外で止まらず」11月8日・日経)。
その一方で「円安」は国の財政と輸出割合の高い企業に思わぬ収益をもたらし(注1)、
輸入デフレから一転した輸入インフレのもと一般国民生活に過重な負担を強いた(注2)。
■楽観・悲観の二説
世界が金利引き上げに動く中、日銀は直ちには動けない。円安の長期化が予想される中、世界は2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、「ロシアと中国」対「日米欧」の対立(ブロック経済)が先鋭化し、中国経済の後退が目に見えてきた。
その状況で、日本経済の先行きに楽観・悲観の二説がある。
*悲観説=輸出入総額のうち中国が占める割合は輸出19.4%、輸入20.3%(22年・財務省)政治的対立・ブロック化による経済活動の収縮から日本経済も相応のダメージを受ける。
*楽観説=輸入デフレの一因だった中国製品の縮小と輸出支援効果の高い「円安」、さらに世界経済のブロック化から、技術が集積し、安全・安価な日本の生産能力が再評価される。
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注1 22年度の税収71兆円、3年連続最高(7月4日・日経)=財務省3日発表の22年度国の一般会計の税収は約71兆1373億円と過去最高を更新。税収増を牽引したのは消費税だ。3年連続で所得税収を上回り最大の税目となった。円安や資源高による物価上昇が要因だ。企業から徴収する法人税収も好調だった。円安も大企業の海外事業の利益を押し上げた。
*円安で増益効果2兆円(10月25日・日経)=23年度は為替レートを1ドル=130円程度と想定する企業が多く、主要20社で2兆円近い増益効果が出る。恩恵が大きいのが自動車。トヨタは1円の円安で営業利益が450億円、対ユーロで同60億円押し上げられる。上場企業全体の23年度の想定為替レートの分布をみると1ドル=130~134円台が全体の6割近くと多い。プライム上場企業の24年3月期純利益は3期連続で過去最高を更新する見通し。
注2 実質賃金9月 18カ月連続マイナス(11月7日・夕)=9月毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、実質で前年同月比2.4%減った。マイナスは18カ月連続。
以上