一般的前提として
1 国内鉄源発生の漸減基調について、需給環境に変化は生じるのか?
2 海外情勢の変化の影響は? 為替動向による需給環境の変化は?
3 カーボンニュートラルの進捗と鉄鋼会社、鉄スクラップ業者の対応はどうか?
4 その結果として、相場動向をどう予想するか。
特殊前提として
1 日本の鉄鋼生産の特徴は、粗鋼生産の四分の三以上を高炉3社が占め、電炉生産は世界平均(24年。29.1%)をも下回っていること。鉄スクラップ輸出では世界4位の高位置を占めている(24年。世界9,580万t。日本650万t)ことである。その状況のなか、2050年カーボンニュートラル達成が、世界の鉄鋼各社の将来的な存立を左右する喫緊の課題となった。
2 鉄鋼は物的経済活動のベース素材だから、生産動向は世界経済、政治、為替などの変化を受ける。ただカーボンニュートラルは、長期的な経営判断に係わるため、個々の企業対応は多岐にわたり、市場インパクトも長期的な視野を必要とするものとなっている、と考えられる。
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1 国内鉄源発生の漸減基調について言えば
日本の粗鋼生産(8400万t)のうち約4割弱(24年。37.8%)が、鋼材・半製品として輸出され、内需は4334万tに過ぎない。高炉各社の主力は自動車用鋼材だが、自動車の国内生産は6年連続で500万台を割り、トランプ状況から漸減速度を早めている。不動産関連でいえば財政制約と経年劣化から「新築」よりも「保守・修理」で、数量的には多くは期待できない。
IT関連では、生成AIブームからデータセンター建設が進み、銅、アルミ需要は期待できるが「箱物」の鉄需要には必ずしも結びつかない。鋼材の漸減は今後とも、止まらないだろう。
2 海外情勢の変化、及びにカーボンニュートラルよる需給環境について言えば
1 中国は不動産不況を発端に深刻なデフレスパイラルに落込んでいる。それが中国発の「鋼材安」となって、25年以降各国は「アンチダンピング」の監視を強化している。
2 鉄スクラップに関して言えば、今後の経済発展を急ぐ後発途上国にとって、安価に鋼材を生産できる電炉は、国策的な設備であり、鉄スクラップはまず「鉄源そのもの」である。
また先発、高炉各社にとって(CO2の排出量が高炉法の四分の一程度に抑えられる)電炉法と鉄スクラップは、カーボンニュートラル対策の(当面の)切り札である。
3 地球温暖化防止に先進的に取組んでいるEUは、27年2月から鋼材輸入品などに原料素材から製品化に至るまでのCO2排出量履歴提出を求めている(国境炭素調整税・CBAM政策)。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/11/720bcb9b39b60203.html?utm_source=chatgpt.com
4 EUの国境炭素調整税は、原料から製品に至る全行程に関するCO2の全履歴証明を求めるから、電炉製品と言えども、使用鉄スクラップの工程管理が求められる。また現実問題としても電炉大国のトルコでは「履歴証明のない(出所不明な)輸入銑鉄の使用を押さえる」動きがあると聞く。鉄源は「量」と共に、「出所、来歴」も問われる時代となった。
5 これらカーボンニュートラルの要請から世界の鉄鋼各社は電炉生産にシフトし、鉄スクラップの「囲い込み」が進むから、基本的には、鉄スクラップ需給はタイトな状況が続く。
3 2026年の相場動向をどう予想するか。
鉄スクラップ相場を直近30年の大きなトレンドで見れば、基礎的な需給要因をベースとしつつ、同時に国内外の歴史的なエポックに、敏感に連動し、変動している。
バブルがはじけた1992年以降2001年までは、鉄鋼不況のなか、1万円台の低空飛行の末、2001年には7千円台まで陥没した。回復したのは、スクラップの海外輸出が定着した2002年以降だ。
この輸出増による需給バランス回復やBRICs登場による資源・エネルギー価格の高騰などから2004年以降2万円台を回復し、その勢いから07年には3万円台、08年7月には7万円台をつけ、直後の11月はリーマンショックから1万円台に転落した。
20年は新型コロナで揺れ、21年からは「カーボンニュートラル」の波がやって来た。
21年、22年、23年と高値5万円台が続いた。これが24年以降、後退し25年には、トランプ関税による世界貿易の停滞懸念から、水準を切り下げている。
が、注目すべきは「カーボンニュートラル」が世界的な課題となった21年以降、25年まで炉前価格が3万5千円を下回ったことが一度もない。これは何を意味するのか。これが直近30年のトレンドだ。その流れの中、今後の需給動向、価格動向を考えれば、次の事態が予想される。
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1 鉄スクラップは産業活動の事後・発生品だから、生産活動が低下すれば「工場・工程発生品」は減少する。トランプによる世界経済の分断から、これら上級スクラップの発生は減少する。さらにスクラップ&ビルドの投資活動が低下すれば老廃スクラップも減少する。
一方、鉄スクラップビジネスは国内外をフィールドとするから、好値を提示した需要家に(内外を問わず)供給される。価格は国内外を巻き込んだ需給綱引きで決まる。
2 トランプの地球温暖化対策への敵対視に係わらず、カーボンニュートラル対策は進む。鉄鋼会社の電炉シフトや鉄スクラップの「囲い込み」は続く。その場合、大型電炉を導入する高炉は、一定量の上級スクラップを、既存の電炉もカーボンニュートラルの要請から、製品のCO2履歴には注意を払う必要に迫られるから、納入事業者もそれなりの「製品管理」が求められる。
それは同時に事業者の「適正」資格審査(不適正ヤードの排除)にも通じるだろう。
3 また「製品管理」の観点もあり、鉄リサイクル工業会は「スクラップ」に代わる新名称を募集している。鉄スクラップの「仕分け業」から「納入責任」を持った「製品加工業」への転換は、全社的なコストアップ要因となる。
それが今後の鉄スクラップ価格のベース要素となるだろう(コスト・プッシュ要因)。
4 日本の為替相場の「円安」(日本経済の競争力低下)が続けば、世界相場とのリンクのなかで、円建ての国内相場は割高となり、ドル建ての世界相場では割安となる。国内相場は(円安の分だけ)割高で推移するが、輸出引き合いはむしろ増加する、と予想される。
つまり「円安」の下駄を履いた国内相場は、「国内的には(海外相場安であっても)高値に見える」、そのような為替要因相場も予想される。
以上