粗鋼生産8500万㌧時の鉄スクラップ需給予測(改定版)

 

*電炉生産と鉄スクラップ原単位
鉄源年報22年版による21歴年、粗鋼生産、鉄スクラップ消費、のスクラップ原単位(粗鋼1㌧当たりスクラップ使用量)は以下の通りである。

21年 粗鋼生産9636.6万㌧。転炉7194.5万㌧(74.7%)。電炉2439.1万㌧(25.3%)

21年 鉄スクラップ消費 転炉999.9万㌧+電炉2474.8万㌧=3474.7万㌧ 

   鋳物他522.5万㌧ 総計3997.1万㌧(22年版・12p

21年 鉄スクラップ原単位=転炉139.0㎏、電炉1014.6㎏(22年版・101p)。

21年 国内総供給(自家発生+国内市中+輸出+輸入)は4,790万㌧。

(冨高作成 表6 20012021年国内鉄スクラップ需給・貿易統計 参照)。

 

■試算1 電炉シェアの変化から考える

前提 粗鋼生産8500万㌧(21年比88%)、35%時の鉄スクラップ国内消費試算 

転炉生産5525万㌧×21年原単位0.139768万㌧

電炉生産2975万㌧×21年原単位1.01463018万㌧ 

鋳物他(218割と仮定)522.5×0.8418万㌧。

総消費は768万㌧+3018万㌧+418万㌧=4204万㌧

 

粗鋼生産8500万㌧、電炉シェア35%時の鉄スクラップ国内供給量試算 

自家発生 21年実績1276万㌧×0.88)=1123万㌧

国内市中 21年実績2782万㌧×0.88)=2448万㌧

輸出相当分 (21年実績730万㌧×0.88)=642万㌧?

国内総供給は1123万㌧+2448万㌧+642万㌧=4213万㌧。

 

*参考材料

22年粗鋼生産9,000万㌧割れ=経産省221111日発表の22年度第3四半期(10-12月期)鉄鋼生産計画2,213万㌧を前提とすれば、22年暦年の粗鋼生産は8,994万㌧と推計できる。
21暦年の粗鋼生産は9,633万㌧から639万㌧の減、93.3%水準まで後退する。

*鉄鋼輸出は全鉄鋼生産の35%超が常態=21年の全鉄鋼輸出は3,440万㌧。21年までの過去5年輸出平均は3,500万㌧、粗鋼生産に対する輸出割合は36.0%。つまり国内残留の鋼材は64%しかない。鉄スクラップ供給母材は、日本経済の停滞(自家発生、市中発生の後退)だけでなく、大手高炉の販売戦略(輸出競争力の確保)からも長期的に減少する。

 

*試算1の結果から考える

粗鋼生産8500万㌧のスクラップ総消費は4204万㌧。この状況で国内総供給は4213万㌧。かろうじて総供給が上回り需給はバランスするかに見える。
しかし問題は輸出相当分をどう見るかである。輸出は国内需要や価格が期待できないから、海外に出る。国内消費が増大すれば、身近な国内メーカーに動き「国内市中」玉としてカウントされる。従って今後は「国内市中の増加。輸出減」となって、国内需給のタイト化が表面化する公算が大きい。場合によっては、海外からの輸入手当も必要か?と見る。

■試算2 転炉原単位の変化から考える

 

前提 「カーボンニュートラル」と転炉配合率の高まりを計算にいれよう

日本の21年鉄スクラップ原単位は361㎏。うち転炉は139㎏だが、2001年は83㎏。2008年には159㎏に跳ね上がった(注1)。日本に1990年比6%のCO2削減義務を定めた京都議定書が、2008年発効。この国際公約を果たすため高炉各社が鉄屑配合アップを急いだためだ。
ただ京都議定書の「第一約束期間」は12年末に終わった。「第二約束」は13年から始まったが、日本は参加していない。2011年以降の転炉・原単位の後退は、この間の事情を反映した可能性がある。

 しかし21年以降、世界的な「カーボンニュートラル」の高まりから、高炉各社は再び鉄スクラップ利用に一斉に動き出した。その手段は二つ。一つは転炉での配合率を高めること(注2)。今一つは、高炉が構内に電炉を新設・運用する(注3)ことである。

 

*粗鋼生産8500万㌧、電炉シェア35%、転炉・原単位159㎏(2008年実績)と見て 

転炉生産5525万㌧×2008年原単位0.159878万㌧

電炉生産2975万㌧×21年原単位1.01463018万㌧ 

鋳物他(218割と仮定)522.5×0.8418万㌧。

総消費は878万㌧+3018万㌧+418万㌧=4314万㌧

 

*国内供給量は試算1と変わらないから 

自家発生 21年実績1276万㌧×0.88)=1123万㌧

国内市中 21年実績2782万㌧×0.88)=2448万㌧

輸出相当分 (21年実績730万㌧×0.88)=642万㌧?

国内総供給は1123万㌧+2448万㌧+642万㌧=4213万㌧。

 

*試算2の結果から考える

転炉の原単位が2021年の139㎏から2008年実績の159㎏に戻れば、スクラップ総消費は4204万㌧から4314万㌧に増える。国内総供給は4213万㌧で変わらなければ、テーブル計算上では101万㌧の供給不足が発生する。もはや「輸出」どころではないだろう。

 

注1 冨高作成 「表5 日本の鉄鋼生産と原単位」を参照

2 *JFE、脱炭素へ製鉄所改修 全4拠点で完了22年2月16日・日経新聞)JFEスチールは製鉄時のCO2排出量を削減するため、東日本・千葉で転炉を改修した。鉄スクラップを従来より多く利用可能にする。国内全4カ所の製鉄所の改修が終了。24年度CO2排出量を13年度比18%減らす計画で、21年度からスクラップの定期的な調達も始めている。

 

注3 *JFE、高炉を電炉に転換(2291日・日経新聞)=JFEスチールは1日、岡山の「第2高炉」を27年に大型電炉に転換する方針を発表した。「第2高炉」は更新せずに休止。代わりに大型電炉を建設する方針だ。JFEが国内に持つ高炉は全6基となる。

*日鉄・広畑、新設電炉の運転開始=日本製鉄・広畑は新設電炉の操業を10月から開始した。

                  以上