最近の鉄スクラップ問題 その論点整理

 

1 中華系鉄スクラップ業者は、今後とも増大するのか?

 

中華系業者の「鉄スクラップ輸出」の需給的、歴史的背景を以下のように分析した。

 

1 日本の鉄スクラップ輸出が増加したのは2000年以降。1990年代の鉄鋼不況から国内で鉄スクラップ需要が激減。「余りものに値なし」の炉前価格の暴落から、海外に販路を求め、まさにこのタイミングで韓国、中国の鉄スクラップ輸入が増大した(140年史)。

2 中華系業者の登場は、歴史的には家電リサイクル法の施行と「雑品」輸出の増加を足場とした。中国鉄鋼会社の鉄スクラップ輸入ウエイトは、高くない(通関統計)。

3 このなかで母国(中国)に販売手段を持ち、まず湾岸ヤードを開設して日本各地に集荷と出荷拠点を確保した中華系業者が、大量に登場し、各地で摩擦を起こした。

4 そのなか、カーボンニュートラル(CN)による鉄スクラップ争奪が予想されている。

5 では中華系鉄スクラップ業者はますます増大するのか(注1)?

6 日本で鉄スクラップ輸出が増加したのは、国内に需要がなかったためだ。

7 国内高炉各社は一斉にカーボンニュートラル(CN)対策として電炉新設と鉄スクラップ確保に動き出した。むしろ国内で鉄スクラップの不足が指摘される(JFEスチール社長)。

8 鉄スクラップはいまや、国際商品だから国内外の需給バランスで価格は変動する。

9 問題は、その変動価格帯で中国向けが動くか。その時の中華系業者の集出荷能力はどうか。輸出主体の経営か、日本国内での出荷にシフトした経営か。変数は多い。

 

2 カーボンニュートラルを目指す中国は、老廃屑処理が課題だが、これをどう考えるか?

 

1 老廃屑処理は、鉄鋼業の問題であると同時に、その国の産業廃棄物行政(公害防止)問題でもある。製品事後処理のコストを誰が、どう負担するのか。処理への法的、経済的なインセンティブ(動機付け)が働かなければ、前には進まない。「省(地方政府)あって国無し」「上に政策あれば、下に対策あり」の中国の、その実行力の問題だろう。

2 ただ「鉄は国家」だ。世界の粗鋼生産の54%を占める中国のCN対策は、彼らが何よりも重視する「国家威信(面子)」に係るから、本気度は極めて高いと見るべきだろう。

 

3 カーボンニュートラル対策に見合う上級屑需給はどう動く(変化する)のか?

 

1 世界の粗鋼生産は現在、高炉・転炉法が7割を占めるが、CN対策を境にCo2発生の少ない電炉法が注目され、鉄スクラップ(なかでも上級品)争奪が予想され始めた。

2 では上級品はどう動くのか。

分からないことは、原則から考える→ビジネスでは「需要が供給を作る」。「メーカー需要があるから市中回収が動く」。CN対策の今後は「ピアーなスクラップ」を求めるメーカー需要が「上級品を作る」。「必要」が供給側の新たな「上級品」を生むだろう。

3 従来、上級品とは事前処理や成分検査が不要な新断、インサイズHSなどを指した。しかしCN対策の今後、その絶対量は必ず不足する。では、供給側はどう動くか。

上級品とは形状ではなく「成分保証品」と考え、ヤード加工・手順を整え、メーカー「認証」を得ようとする動きが予想される。実際問題として従来の新断、インサイズHSなどが争奪対象となり、メーカーの「必要」需要に応じる形で、不純物処理機械や選別ラインが整備され「成分保証品」が登場するだろう。具体的には下級屑を破砕したシュレッダー品や、成分保証のダライ粉なども「上級屑」扱いとされる可能性が考えられる。

 

4 鉄スクラップ利用と還元鉄利用が注目されているが、これをどう見るか?

 

1 還元鉄利用に関して言えば、目先の「直接還元鉄(DRI/HBI含む)」利用と中長期の「水素還元鉄」利用が混在している。

2 直接還元鉄とは、コークスを熱源とする(高炉製銑・転炉製鋼法)とは異なり、天然ガスなどを熱源・還元剤とする簡便な製鋼法(海綿鉄、DRI/HBI)である。

天然ガスなどを熱源とするため生産地、生産量も限られる。ただ直接生産品のため不純物リスクが少ない。近年CN対策上、鉄スクラップ代替物として注目されている

*日本では直接還元鉄の生産プラントは、現在のところ存在しない(注2)。

3 水素還元鉄は、国と日鉄、JFE、神鋼の高炉3社が、2050年のカーボンニュートラルを目指して、試験プラントを建設、研究を行っている(注310日)。

 ただ熱源として(現状では高価な)水素を使うなど、新たな技術開発と莫大な投資を必要とすること、また既存のコークス高炉が脱炭素化により、経済価値を失う「座礁資産」となる恐れがあるなど、その実現と将来は多くの課題を抱えている。

4 CN対策は待った無しである。国及び鉄鋼はその打開に総力を挙げている(注4)。

 

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注1 本誌hp 「関東鉄源協 鉄スクラップ流出 水際対策を・・・の主張への異論」

 STEEL STORY JAPAN

注2 「日本は天然ガスに乏しいため、国内での直接還元製による生産の事例はない」(*日本製鉄「カーボンニュートラルビジョン2050」 24p

注3 *日本製鉄「カーボンニュートラルビジョン2050」 23p

20210330_ZC.pdf (nipponsteel.com)

*JFEスチール「カーボンニュートラル戦略説明会」 1822p

carbon-neutral-strategy_220901_1.pdf (jfe-steel.co.jp)

*神戸製鋼 気候変動への対応|KOBELCO 神戸製鋼

注4 鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について - 経済産業省

22年912日 経産省製造産業局(pdf資料-全36p) ―― 重要!!!

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*上記の注4は、最も信頼に足る基本資料である。必ずチェックすること!!!  以上