2023年10月8日
■はじめに
私は23年3月20日「最近の鉄スクラップ問題 その論点の整理」の表題のもと
1 中華系鉄スクラップ業者は、今後とも増大するのか?
2 カーボンニュートラルを目指す中国は、老廃屑処理が課題だがこれをどう考えるか?
3 カーボンニュートラル対策に見合う上級屑需給はどう動く(変化する)のか?
4 鉄スクラップ利用と還元鉄利用が注目されているが、これをどう見るか?
との設問に対し、私の信じるところを述べた(| STEEL STORY JAPAN参照)
■今回「最近の鉄スクラップ問題 その論点の再整理」と表題を改め、再度考えた。
*その背景=私は先の「論点整理」(3月20日)では、「1 中華系鉄スクラップ業者は、今後とも増大するのか?」の設問に対し、
「鉄スクラップはいまや、国際商品だから国内外の需給バランスで価格は変動する。問題は、その変動価格帯で中国向けが動くか。その時の中華系業者の集出荷能力はどうか。輸出主体の経営か、日本国内での出荷にシフトした経営か。変数は多い」と応えた。
*その後の4月以降、私の発行図書(「日本鉄スクラップ 鉄鋼と業者140年史」、「日本鉄スクラップ史集成」、「日本の鉄スクラップ業者現代史」、「近現代日本の鉄スクラップ業者列伝」、「鉄鋼・鉄スクラップ業 主要人物・会社事典」など)に関する引き合いが急増すると共に、毎月のように「鉄スクラップ手当の今後」について直接ヒアリングを申し込んでくる鉄鋼関係者(高炉系購買担当者および国内商社、貿易関係商社)が現れ、具体的な知見を求められた。
鉄スクラップ「争奪」状況は、内外の関係者を巻き込みながら、目まぐるしく動いている、そう考え、改めて「1」の論点を再整理した。
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1 カーボンニュートラルと電炉操業と目下の課題
サプライチェーンのすべてが「スコープ3」でCO2排出数量規制の管理下に置かれる将来において、多量のCO2を排出する「高炉システム」は、転覆の危険を孕む「座礁資産」に転落する恐れがある。その緊急回避策として「電炉システム」と原料としての鉄スクラップ確保が喫緊の課題となった。
カーボンニュートラルは世界の鉄鋼会社共通課題だから、電炉化と鉄スクラップ確保も同時に各社共通課題となった。それが現在、世界各地で見られる「鉄スクラップ争奪」であり、日本で現に進んでいる背景である。
またカーボンニュートラルと鉄鋼会社の対応は、将来問題であると同時に、足元の鉄スクラップ「囲い込み」の緊急課題でもある。
2 世界の高炉会社が一斉に電炉化に動くなかで
高炉各社の戦略は、長期的には水素還元製鉄、中期的には天然ガス等による直接還元鉄製鉄、短期的には高炉兼電炉製鉄である。世界の高炉会社がほぼ一斉に電炉製鉄にシフトするから、世界的な「鉄スクラップ争奪」戦が激化する。
その戦術は、一つは鉄スクラップ回収会社を自社系列に収めること(直接支配)、今一つは鉄スクラップ流通を管理することである(間接支配)。最近の欧米鉄鋼会社による鉄スクラップ加工会社の買収は直接支配の始まりを示している。
3 高炉系直納業者の再登場と「不適正ヤード」の排除
高炉各社は短期的には(従来手離していた)直納業者を再び重用する必要に迫られた。高炉会社も電炉で(高炉規格の)製品を作るから鉄スクラップの品質管理が絶対条件となる。
その品質確保の手段は二つ。一つは、鉄スクラップ加工を外部に委ねることなく、自社関連構内で材料を加工・調達する直接管理。いま一つは、自社支配下の(直納)業者に「安心、安全」を担保させる間接管理が考えられる。現在、高炉系や独立系をはじめ有力電炉各社に急速に広がっている「不適正ヤード」からの荷受け拒否は、その表れである。
4 内外流通の変化と既存業者の危機感
日本は2001年以降、年間600~900万㌧の鉄スクラップを輸出している。中国などへの日本からの鉄スクラップ輸出を求めて渡来し、輸出ビジネスを展開する企業、個人も多く、流通路も大きく変わった(渡来系業者の国内ヤード展開と加工拠点への進出)。
これに危機感を持ち、「不適正ヤード」問題にからめ渡来系企業への「具体的な水際対策を期待する」(23年2月20日・産業新聞 | STEEL STORY JAPAN)との警戒すらでてきた。
5 渡来系企業の動向変化と国内企業の防衛
2001年以降、鉄スクラップ輸出が急増し、これに商機を見出した渡来系企業が続出したのは、日本国内の需要が急減したためである(1990年台・鉄鋼不況)。これが近年のカーボンニュートラルで一変した。国内需要の急増は必至となった。
鉄スクラップ輸出環境は、変わった。では渡来系企業は、次にどう動くと予想されるか。
ビジネスは経済原則で動く(企業は利益を目指して動く)。だから有力電炉筋から「まずは原則に立ち戻って輸出に向かう物を持って来てもらうことであり、そのため輸出に対してプラスの値段を提示することだ」(東鉄社長。23年6月28日・テックスレポート)との輸出防衛案も出てきた。
ただ海外鉄鋼会社にとっても、日本から鉄スクラップ確保は(カーボンニュートラル対策として)重要な戦術である。その手段は例によって二つ、一つは自由市場からの調達である(しかし、上記のとおり日本の有力企業は防衛買いを宣言している)。今一つが(市場に頼ることなく)、日本に鉄スクラップ購入・加工会社を作り、もしくは既存会社を系列下に収め、自社裁量で直接調達する方法である(現にそのような兆候が見られる)。
6 鉄スクラップは世界商品である
日本の鉄鋼会社も、直接・間接の「鉄スクラップ囲い込み」に激しく動いている。
それが現在、流通形態を変え(高炉系直納業者の再登場)、輸出ビジネス環境を変えた(鉄スクラップ、海外比価で「割高」→輸出減少)。
しかしこれはビジネス一般では当たり前の現象である。鉄スクラップ需要が国内では大手高炉各社に、世界では中国をはじめとするアジア各国に広がり、世界商品として登場した・・・その表れに過ぎない。その世界市場で各企業がどのような位置を示すか。
それがいま鉄スクラップ業界に問われている最大の課題である。
以上