千葉県特定金属類取扱業規制条例と「囲い込み」を考える

(「特定再生資源屋外保管業条例の制定ラッシュを考える」・49日改訂版)

 

*はじめに

弊誌はさきに「特定再生資源屋外保管業条例の制定ラッシュを考える」を論じた| STEEL STORY JAPAN。が今「千葉県特定金属類取扱業規制条例(案)と『囲い込み』を考える」との標題に改め、論点を深めた。なぜなら4月までの動きは「特定再生資源屋外保管業条例」として、文字通り「ヤードの保管・運用」に係る条例だった。しかし79日千葉県議会で可決成立した「千葉県特定金属類取扱業規制条例」は、ヤード管理の域を超え、「金属類取扱業」の営業全般に係る規制として、私なりに正確に言えば「金属類営業規制条例」そのもののとして、歴史的に復活したからだ。

 ではなぜいま、「金属類営業条例」が全国31都府県をターゲットに制定されようとしているのか。

かつては業界紙に在籍し、金属類営業条例の変遷をウオッチした者としての責任で発言する。

 

 

目次

1 7月1日以降の(関東地区やリサイクル工業会の)新たな動き

2 2024年以降、「鉄スクラップヤード規制」条例の制定が相次ぐ

3 金属屑条例・歴史的経緯と論点整理

4 「屋外保管条例」と「カーボンニュートラル」と「囲い込み」を考える

 

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1 2024年7月1日以降の(関東地区やリサイクル工業会の)新たな動き

 

山梨県再生資源物の不適正保管等の防止及び産業廃棄物の適正管理の促進に関する条例

*「お知らせ」「条例制定の背景」「条例の概要」(施行2471日)

https://www.pref.yamanashi.jp/kankyo-sb/asesu/saiseisigenbutu-jyorei.html

*条例全文https://www.pref.yamanashi.jp/documents/114790/saiseisigen-jyorei.pdf

*規則全文saiseisigen-kisoku.pdf (pref.yamanashi.jp)

 

越谷市再生資源物の屋外保管に関する条例

*「お知らせ」「条例制定の背景」「条例の概要」(施行2471日)

https://www.city.koshigaya.saitama.jp/kurashi_shisei/kurashi/gomi_recycle/saiseisigenbutu_jyourei.html

*条例全文

https://www.city.koshigaya.saitama.jp/kurashi_shisei/kurashi/gomi_recycle/files/jyourei_2024.3.21.pdf

*規則全文

https://www.city.koshigaya.saitama.jp/kurashi_shisei/kurashi/gomi_recycle/files/jyoureikisoku_2024.4.4.pdf

 

金属屋外保管規制へ 福島県、条例検討(24年6月27日・福島民友新聞)=福島県は26日、金属スクラップなどの再生資源物を屋外で保管する「ヤード」の適正管理と事故防止のため、「金属スクラップヤード規制条例(仮称)」の制定に向けて検討する方針を表明した。一定以上の規模のヤードを設置する場合、届け出や県の許可が必要になる見通し。

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■警察庁、金属盗難防止条例検討を31都府県の警察に指示(24年7月9日・産業新聞)=警察庁は、金属スクラップの盗難防止条例制定を検討するよう、条例未整備の31の都府県の警察に指示した。527日に全国の警察の本部長を集めて開いた会議で求めた。

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千葉県特定金属類取扱業の規制条例の骨子(可決7月9日)

 

https://www.pref.chiba.lg.jp/zaisei/gian/documents/202406-02-g-jyourei.pdf

 

1 目的(第1条) 盗品等の売買等を防止し盗品等の速やかな発見を図るため、特定金属類を取り扱う 業者について必要な規制を行う。これにより、窃盗等の犯罪の防止を図り、被害の回 復に資することを目的とする。

 2 規制対象(第2条) (1)規制対象物(特定金属類) 電線、グレーチング、マンホール、敷板、足場板、銅製の屋根材等の金属製の物品

(2)規制対象事業 特定金属類を原材料としての価値に着目して売買・交換等する営業

(3)各号のほか「流通の状況を勘案して公安委員会規則で定めるもの」

3 業の許可(第3条)  規制対象事業を行う場合は、公安委員会の許可を必要とし、過去一定期間内に窃盗 罪等で刑罰を受けた者や暴力団員等については、許可をしない。

4 許可を受けた者が遵守すべき義務(第11条、第12条、第13条、第14条)  

(1)標識の掲示、行商人証の携帯等 取引を行う事業場に、許可事業者であることを示す標識を掲示する。 事業場以外で特定金属類を売買等するときは、氏名等を記載した行商人証を携帯 する。

(2)取引相手の確認・不正品の申告 特定金属類を売買等するときは、相手方の氏名・住所等の確認をする。 盗難品等の不正品の疑いがある場合は、警察官に申告する。

(3)帳簿等への記載、保存等 売買等した特定金属類の品目、数量、相手方の氏名等を帳簿等に記載し、保存す る。 帳簿等を紛失した場合は、届出を行う。

(4)変更の届出等 許可に係る事項に変更が生じた場合や廃業する場合等は、届出を行う。

5 品触れ・差止め (第15条)(1)品触れ 警察本部長等は、事業者に品触れ(※)を発することができ、事業者は、その通 知に係る特定金属類が持ち込まれた等の場合は、警察官に届け出なければならない。 ※品触れ …警察本部長等が事業者に対して盗難等の被害品に関する情報を通知 すること。

(2)差止め(第16条 )警察本部長等は、売買等された特定金属類が盗品等であると疑う理由がある場合 は、事業者に一定期間の保管を命じることができる。

6 実効性の確保(第17条~第28条) 報告徴収、立入検査、事業者への指示、営業停止命令、許可の取消し、罰則その他 所要の規定を設ける。

7 経過措(附則) 置 既存事業者にも許可取得を求めることとし、一定の猶予期間を設ける

https://www.police.pref.chiba.jp/content/common/000059130.pdf

(仮称)千葉県特定金属類取扱業の規制に関する条例の立案の背景と趣旨

https://www.police.pref.chiba.jp/content/common/000059131.pdf

 

*県議会に問い合わせたところ、上記条例は7月9日上程され、原案通り可決成立した。

したがって、来年(25年)1月1日から上記条例が施行される(附則1)。

すでに業を営んでいる者は、施行の日から6か月間は上記の条例規定にかかわらず業を営むことはできるが、その期間内に「第3条の許可申請を」行わなければならない(附則2)。

 

木谷謙介日本鉄リサイクル工業会に聞く2471日・テックスをSSJ要約)

 

 「会長に就任したのは、223月に鉄鋼連盟が30年度にCO2排出量を13年度比3割削減する方針を打ち出した直後の226月だった。会長就任時に①全国7支部8委員会を通じた会員企業の現状及び課題の把握、②把握した課題の解決に向けた方策の検討・実施、③鉄スクラップの国内循環促進についての行政や関連団体との議論・協議、④鉄スクラップ業界の社会的認知度向上――という工業会内部に関して2つ、工業会外部に関して2つの計4つの方向性を示した」

――昨年度の活動の成果や進捗はどうですか

 「①の現状把握は、運営委員会の開催回数を年3回から4回に増やした。②の課題への対応は、昨年5月に特別委員会として『適正ヤード推進委員会』を設置。昨年8月以降、今年5月までに4回開催した。メンバーは工業会役員と各支部委員で経産省、警察庁、環境省にもオブザーバーとして参加。第1回委員会の前後から鉄鋼メーカーが続々と『不適正ヤードから出荷された荷物は受け取らない』という注意喚起を22社が自発的に発出された」「不適正ヤードに入っている鉄スクラップは解体工事現場から出ている建設廃材が多いとの情報があったため、12月に日本建設業連合会(日建連)に申し入れを行った。その後、日建連が会員各社に対して不適正ヤードに販売しないよう注意喚起を発出した」。

 

「当工業会外部の変化として、屋外保管に関する規制条例が千葉市を皮切りに川口市、袖ケ浦市、さいたま市、常陸大宮市などで相次ぎ施行されたが、それらは保管の高さや周辺への影響など住民の生活環境を保全するための意味合いが強かった。そうした中で千葉県警が『千葉県特定金属類取扱業の規制に関する条例』の制定へ向け動き出した。同条例は盗難金属の流通抑止という観点が主であり、許可を出したヤードへの立入検査、帳簿の確認、鉄スクラップ受入れ時の身分証明書のコピー取得の確認だけでなく、違反すれば営業停止や許可の取り消しまでできる。つまり警察の指導に従わなければ業を営めなくなる。警察が自由にヤードに立ち入りできるようになれば不適正ヤードの新規参入を大きく牽制できるほか、現行の不適正ヤードに対しても撲滅へ向けて相当有効だ。警察庁が現在、庁内にワーキンググループを設置し、都道府県を超えて水平展開する体制を整えているようなので、今後、全国各地で同様の条例が施行されるようになればと思っている」

 

「中四国支部ではすでに独自の適正ヤード推進委員会が立ち上がっているほか、九州支部でも立ち上げに向けた話が進んでいる」 「昨年823日の第1回委員会開催からまだ10ヵ月しか過ぎていないが、その間に我々の動きに連動して多くの変化が起きたことは非常にありがたい」

 ――今年度の活動計画は?

  「3つ目の方向性にある『鉄スクラップの国内循環促進』との表現は『鉄スクラップの一層の循環促進』に改めた。理由は、当工業会が輸出に反対するかのような誤解をされる場合があるためだが、私も当工業会本部も輸出規制に賛同したことは一度もない。一定品質の鉄スクラップを安定的に供給するために、需給調整弁である輸出を可能にしておかないと鉄スクラップ業者の弱体化を招いてしまう」

 

 「国内需要の少ない下級グレードはすでに国内余剰であり輸出しているが、一律に輸出を規制すれば、2000年頃のように逆有償のような低価格になるだろう。一部の遠隔地や地場の需要家が少ない地域では、国内販売より輸出の方が経済合理性が高い場合も多い。輸出規制はどこかで歪みを生じさせるので、当工業会では輸出規制には賛同しない」

 

2 2024年以降、「鉄スクラップヤード規制」条例の制定が相次いでいる

 

さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例

24年21日施行(23年1228日制定) 

さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例

さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例施行規則

条例・条例施行規則 対照表

*事前協議(第6条)、説明会(7条)義務規定。*名義貸しの禁止(第12条)「許可を得た者以外の屋外保管の禁止」*命令等違反等の場合の公表(第20条)

(経過措置)条例の施行の際現に存する屋外保管事業場は、施行の日に設置されたものとみなす。既存屋外保管事業場は、施行日から起算して6月を経過するまで適用しない。

 

茨城県再生資源物屋外保管適正化条例 (pref.ibaraki.jp)

24年41日施行(経過措置 施行の日から6月間)

茨城県再生資源物の屋外保管の適正化に関する条例(PDF:327KB)

茨城県再生資源物の屋外保管の適正化に関する条例施行規則(PDF:281KB)

*説明会(6条―3)努力規定。事前協議規定はない。*命令等違反等の場合の公表(第11―2条)。名義貸しの禁止規定はない

 

千葉県特定再生資源屋外保管業の規制条例

24年41日施行(231011日制定)(経過措置 施行の日から1年間)。

千葉県特定再生資源屋外保管業の規制に関する条例(令和5年千葉県条例第30号)

千葉県特定再生資源屋外保管業の規制に関する条例施行規則(令和5年千葉県規則71号)

*説明会(7条)義務規定。*命令等違反等の場合の公表規定はない。

 

常陸大宮市再生資源物の屋外保管に関する条例(施行2441日)

*条例全文Microsoft Word - 常鎸大宮帇僓çfl (hitachiomiya.lg.jp)

*規則全文Microsoft Word - 常鎸大宮帇僓çfl (hitachiomiya.lg.jp)

 

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屋外保管条例が初めて登場するのは2019年以降である

 

綾瀬市再生資源物の屋外保管に関する条例神奈川県) 施行201971

千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例(千葉県) *施行2021111

境町再生資源物の屋外保管に関する条例(茨城県) *即日施行2021128

袖ケ浦市再生資源物の屋外保管に関する条例(千葉県) *施行202341

*綾瀬市条例(神奈川県)は届出制だが、2021年以降に制定した千葉市条例などの  

各自治体は許可制としている。また袖ケ浦市条例は、ヤードの設置計画についての 

事前協議(第7条)や、水質検査及び地質検査の実施・報告等(第11条)、受入記録等の第三者閲覧(第12条)、名義貸し禁止(第14条)、命令違反等の場合の公表(第23条)等の規定を置いた。

 

3  金属屑条例・歴史的経緯と論点整理

                 https://steelstory.jp/market/2713/

以下はBS-TBSからビデオ・インタビューに応え、担当者に「論点整理」として送ったものである(22年4月24日。13:00-1354 噂の東京マガジン内 噂の現場のコーナー)

 

  • 1 金属くずは「廃品」であって「古物」ではない。だから古物営業法の適用を受けない

歴史的には、金属屑商売は江戸から戦後1949年(昭和24)までは、古物の代表例として国の「許可制」で監視されていた(吉宗の享保の改革で「鑑札」が始まった)。しかし戦前の「古物商取締法」が、「古物営業法」(49年)に改正された時、古物の解釈が変わった。「古物とは、そのままで、また幾分の手入れをして、その物本来の目的に用い得るものをいう。形を変えなければ利用できないような、例えば屑鉄や屑繊維等は『廃品であって、古物ではない』」(1949年「古物営業法解説」36p)とされ、適用を除外された。従って、古物営業法規則・第二条(古物の区分)には金属屑の区分記載はない。この法解釈にしたがい金属屑商売は、誰でも(古物営業法の)許可なく、自由に商売ができることになった。

 国には、金属類商売を直接には取り締まる法律はないが、国(法律)に代わって登場したのが、地方自治体が独自に制定できる「金属屑営業条例」である。

 

2 金属屑営業条例には、制定と廃止の4つの大きな波がある(24年7月 全面補充)

 

 歴史的経緯=誰もが自由にできる商売を法的規制の下に置く。その論議は金属屑の高騰が大きな社会問題となった1950年代激しく戦わされた。自治体や婦人会、商工会議所、電鉄関係などは、「盗難防止」を前面に立て、制定を求めた。しかし金属商売を許可制、もしくは届け出制にすることは、行政・自治体に、法令運用の白紙委任状を渡すのと同じ。そう考えた業者は、条例反対に幅広く結集し、東京や京都は条例制定を断念した。

 

*第一波は、「敵性在日コリアン対策」を隠れた目的に、米国海軍の軍港がある佐世保市条例として、GHQ統治下の50年(昭和2512月、初制定され、513月から527月まで、朝鮮戦争の前線に近い山口、福岡、広島、高知、鳥取の西日本5県が「県条例」(警察条例)としてこれに続いた。条文内容は、法律である古物営業法にほぼ準じた。

 

*第二波は、鉄屑カルテルの本格的な再建(569月)と共に始まった。条例制定(警察条例)の特徴は、同月同日の施行が多いこと、東京都をはじめ条例制定の回避に動いた自治体が少なくないことで、条例制定は(大阪府を含む)西日本を中心に29道府県に留まった。

この第二波は、56年(昭和31101日の神奈川、埼玉の同日公布から始まった。翌5712月までの14ヶ月間に全国24道府県が条例制定に走り、58年は長崎、佐賀が続いた。しかし、佐世保条例(5012月)の先行例や激しい反対闘争が社会問題となった大阪事件(5612月)を教訓に東京都や京都府などは条例制定を回避し、「鉄屑組合」と「名簿作成」を求めた。鉄屑カルテルの本格的な再建のためには、鉄スクラップ業者の身元調べがいる。であれば警察署管内の「鉄屑組合」と「名簿作成」で充分だからだ。

 

*第三波は、その条例廃止の波である。60年代後半からの経済成長と80年代以降の「鉄スクラップの余剰化」、さらに1995年以降の金属屑相場の暴落と路上放棄が広がるなか、鉄屑営業を警察条例で規制する必要は薄れた。廃止は99年(平成11)高知に始まり、2000年(平成12)は7県(福岡、埼玉、熊本、山梨、愛知、三重、長崎)、2005年(平成17)にも5県(岐阜、神奈川、香川、鳥取、千葉)が廃止。6年間で合計14県が条例を廃止した。

 

*第四波が現在。新たな「囲い込み」戦略として=21世紀は「円高」と歴史的な鉄スクラップ安で始まった。これが渡来系業者・労働者を呼び込み、彼らにニュービジネスの機会を与え、世界的な資源高が後押しした。自由闊達な渡来系業者と既存の地場業者、さらに一般市民を巻き込んだ流通・回収に大きなミゾが生まれた。そのなか2005年に条例を廃止した岐阜県が1310月「岐阜県使用済金属類営業条例」(警察条例)を再制定した。

24年現在、金属営業条例を現に施行しているのは16道府県だけである)。

 

規制の波は「ヤード保管条例」として登場した。千葉県は1541日「自動車部品のヤード内保管適正化条例」を、鳥取県は164月「使用済物品等の放置防止に関する条例」を施行した。また千葉市は2111月「再生資源物の屋外保管条例」を制定した。

これが目に見えように拡大したのが、今年、24年からだ。

さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例(2421日施行)、茨城県再生資源物屋外保管適正化条例(2441日施行)、千葉県特定再生資源屋外保管業の規制条例(24年41日施行)、常陸大宮市再生資源物の屋外保管条例(施行2441日)。

さらに(「仮称)千葉県特定金属類取扱業の規制に関する条例の骨子案」(24612日)がついに出てきた。13年の「岐阜県使用済金属類営業条例」に続く警察条例である。

 

4「保管条例」と「CN」と「囲い込み」を考える(追加)

 

  • 1 カーボンニュートラル(CN)時代のスクラップ「囲い込み」として(冨高予想)

2024年のキーワードは「カーボンニュートラル」である。鉄鋼会社にとって、すなわち国にとっても「カーボンニュートラル達成」は、待った無しの絶対的な課題となった。

その中、国・企業・既存鉄スクラップ集荷業者、3者の利害の一致し、動き出したのが「国内鉄スクラップ確保」を隠れた目的とした「屋外保管」条例である。鉄スクラップは古物営業法の適用外であり、誰でも自由に営業できる。これに自治体レベルで規制をかけたのが「金属営業条例」だったが、この条例の追加制定は問題が生じる恐れがある。

その迂回として(市民生活の保全を前面に押し出し)物理的な「屋外保管」の管理責任に注目して、法的規制をかけたのが今回の「保管」条例である。

 

2 既存業者「関東鉄源協・スクラップ流出 水際対策を」(23年2月20日・産業新聞要約)

*1 関東地区の月間発生量約70万㌧のうち、約25万㌧が外資系鉄リサイクル企業が購入しており、『このままでは工業会の関東支部所属企業の3分の1はなくなるだろう』。

*2 工業会の対応は『遅れている。何をやっているんだ』と思う。「対策として『根本的部分(法整備)に切り込む必要がある。若手の力でどんどん上を動かして欲しい』。

*3 「海外系業者の操業が違法状態にあったり、廃棄物処理法の認可を受けていないケースがしばしばある」「有価物とされる鉄スクラップは法律や条例の規制がない」。

 

3 木谷謙介 日本鉄リサイクル工業会長の発言 (24年7月1日・テックスレポート)

「屋外保管に関する規制条例が千葉市を皮切りに川口市、袖ケ浦市、さいたま市、常陸大宮市などで相次ぎ施行されたが、それらは保管の高さや周辺への影響など住民の生活環境を保全するための意味合いが強かった。そうした中で千葉県警が『千葉県特定金属類取扱業の規制に関する条例』の制定へ向け動き出した。同条例は盗難金属の流通抑止という観点が主であり、許可を出したヤードへの立入検査、帳簿の確認、鉄スクラップ受入れ時の身分証明書のコピー取得の確認だけでなく、違反すれば営業停止や許可の取り消しまでできる。警察の指導に従わなければ業を営めなくなる。警察が自由にヤードに立ち入りできるようになれば不適正ヤードの新規参入を大きく牽制できるほか、現行の不適正ヤードに対しても撲滅へ向けて相当有効だ。警察庁が現在、庁内にワーキンググループを設置し、都道府県を超えて水平展開する体制を整えているようなので、今後、全国各地で同様の条例が施行されるようになればと思っている」

 

4 金属屑営業条例は、政府・企業にとって極めて使いやすい「道具」だ(冨高コメント)

ただ筆者は、上記の会長発言に強烈な違和感を持つ。鉄屑、非鉄金属屑の盗難は、むしろ50年代後半の方が現在よりもはるかにすさまじかった(「金属屑営業条例に関する懇談会速記録」・572月大阪府資料)。だからこそ地方自治体は「金属類の盗犯を防止し、府民の福祉を保持」(大阪府条例。第一条目的)を掲げ、金属類営業規制の波が全国に拡大した。しかし関係業者の反発はすさまじく、大阪府は警察部隊を動員して議場を警備して強硬採決した(大阪事件)が、これを見た東京都や京都府は条例制定を回避し、迂回作戦に転じた。結局、最盛期(57年)でも制定は47都道府県の6割強(29道府県)に留まった(詳細は、日本鉄スクラップ業者現代史・第二部「復活する金属屑営業条例」参照)。

 

先人たちはなぜ条例制定に抵抗したのか。1949年(昭和24)の改正古物営業法は、「鉄屑は廃品であって古物ではない」として金属屑営業を規制の外に置いた。これが自由闊達なビジネスの場を(戦後の職業難の時代に)開放した。そのビジネス機会を、法律は許すのに、法律(国会が制定)の下位法である条例(自治体が制定)が規制する。その制定に、政治的な思惑が疑われ、反発が広がり、東京都は制定そのものを断念したのだ。

条例とはいえ、法は法である。法(規制条項)は(建前上)万人に公平に適用される。

条例が制定されれば、開業の可否は公安委員会(警察)許可の有無に係わり(千葉条例骨子・上記参照)、営業後は「警察が自由にヤードに立ち入りできるように」なる。
(そうなれば)たしかに「不適正ヤードの新規参入を大きく牽制できるほか、現行の不適正ヤードに対しても撲滅へ向けて相当有効だ」ろう。ただ警察の建前を素直に受け入れ、条例が施行された将来は、その自治体域内の鉄スクラップ業者全員が(ヤード管理を超えた)鉄リサイクル業の運営そのものに関して、警察条例の適用を受けることになる。

 

論点を整理すれば、問題は「不適正ヤード」から「市民をどう守るか」である。市民を守るためには、関係諸法がある。その運用は行政の仕事であって、鉄リサイクル工業会の仕事ではない。さらに「不適正ヤード」と鉄リサイクル工業会がどう向きあうかは、本質的には商取引・ビジネスの問題であって、警察条例が介入するいわれはないだろう。

金属営業条例の歴史を振り返れば、立法目的は常に「盗品等の売買等を防止し盗品等の速やかな発見を図る」(千葉条例骨子)を掲げたが、その実、第一波は朝鮮戦争最中の「敵性在日コリアン対策」を狙いとし、第二波は、「鉄屑カルテルの本格的な再建と安定運営」のため、「集荷業者の身元調査」を隠れた動機として、全国規模で始まった。

 

では第三波は? 

国・鉄鋼会社・既存業者あげての(盗犯防止を建前とした)事実上の「国内スクラップの囲い込み」策(*)と考えれば、日本鉄リサイクル工業会長の発言は頷ける。

だが、歴史を振り返れば、既存勢力を脅かす新参者や渡来系業者は、既存の壁に立ち向かうゆえに、いつの時代も社会的な軋轢を生む「問題児」である(さらに言えば、ことは既存ビジネス参入や犯罪多発を理由とする欧米の「移民排斥法」を、私に連想させる)。

敢えて正論を吐けば、全国の鉄リサイクル業者を束ねる工業会が目指すべきは、大挙して押しかける新参者を前に「不適正」を理由に排除するのではなく、同業の仲間として「適正ヤード」運営に向け指導し、ビジネスの輪をさらに豊かに拡大することであろう。ヤード運営の「不適正」ゆえに警察に「撲滅」を期待してはならない。法は法である。

その適用は、なにも新参者や渡来系業者だけに限らない。それが歴史の教訓である。

 

*注 警察庁、金属盗難防止条例検討を31都府県の警察に指示(24年7月9日・産業新聞)=警察庁は、金属スクラップの盗難防止条例制定を検討するよう、条例未整備の31の都府県の警察に指示した。527日に全国の警察の本部長を集めて開いた会議で求めた。

 

参考資料

「日本鉄スクラップ業者現代史」(鉄屑カルテル、金属営業条例、リサイクル業の現在と将来) 2017年7月 スチールストーリーJAPAN発行 冨高幸雄著

金属屑営業条例(概説)https://steelstory.jp/market/2719/

千葉県と金属屑条例 その推移と今後を考えるhttps://steelstory.jp/market/2432/

復活する金属屑営業条例(1)https://steelstory.jp/market/256/

岐阜県の「使用済金属類営業条例」を考える(2https://steelstory.jp/market/262/

復活する金属屑営業条例(3)https://steelstory.jp/market/264/


参考   千葉県特定金属類取扱業規制条例 第12条 第3号「電子署名法」について

 

電子署名及び認証業務に関する法律(略称・電子署名法)

第一条(目的) この法律は、電子署名に関し、電磁的記録の真正な成立の推定、特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることにより、電子署名の円滑な利用の確保による情報の電磁的方式による流通及び情報処理の促進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 

第二条(定義) この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(略・電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

 

 この法律において「認証業務」とは、自らが行う電子署名についてその業務を利用する者(以下「利用者」)その他の者の求めに応じ、当該利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項が当該利用者に係るものであることを証明する業務をいう。

 

 この法律において「特定認証業務」とは、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務をいう。

 

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(本人だけが行うことができることとなるものに限る)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

 

第四条 特定認証業務を行おうとする者は、主務大臣の認定を受けることができる。

 前項の認定を受けようとする者は、主務省令で定めるところにより、次の事項を記載した申請書その他主務省令で定める書類を主務大臣に提出しなければならない。

 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名

 申請に係る業務の用に供する設備の概要

 申請に係る業務の実施の方法

 主務大臣は、第一項の認定をしたときは、その旨を公示しなければならない。

                 略

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102