特定再生資源屋外保管業条例の制定ラッシュを考える

目次

1 2024年以降、「鉄スクラップヤード規制」条例の制定が相次いでいる

2 金属屑条例・歴史的経緯と論点整理

3 「屋外保管条例」と「カーボンニュートラル」と「囲い込み」を考える

4 参考資料

 

 

1  2024年以降、「鉄スクラップヤード規制」条例の制定が相次いでいる

 

さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例

24年21日施行(23年1228日制定)

さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例

 さいたま市再生資源物の屋外保管に関する条例施行規則

 条例・条例施行規則 対照表

*事前協議(第6条)、説明会(7条)義務規定。*名義貸しの禁止(第12条)「許可を得た者以外の屋外保管の禁止」*命令等違反等の場合の公表(第20条)

(経過措置)条例の施行の際現に存する屋外保管事業場は、施行の日に設置されたものとみなす。既存屋外保管事業場は、施行日から起算して6月を経過するまで適用しない。

 

茨城県再生資源物屋外保管適正化条例 (pref.ibaraki.jp)

24年41日施行(経過措置 施行の日から6月間)

茨城県再生資源物の屋外保管の適正化に関する条例(PDF327KB

茨城県再生資源物の屋外保管の適正化に関する条例施行規則(PDF281KB

*説明会(6条―3)努力規定。事前協議規定はない。*命令等違反等の場合の公表(第11―2条)。名義貸しの禁止規定はない

 

千葉県特定再生資源屋外保管業の規制条例

24年41日施行(231011日制定)(経過措置 施行の日から1年間)。

千葉県特定再生資源屋外保管業の規制に関する条例(令和5年千葉県条例第30号)

千葉県特定再生資源屋外保管業の規制に関する条例施行規則(令和5年千葉県規則71号)

*説明会(7条)義務規定。*命令等違反等の場合の公表規定はない。

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*屋外保管条例が初めて登場するのは2019年以降である

綾瀬市再生資源物の屋外保管に関する条例神奈川県) 施行201971

千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例(千葉県) *施行2021111

境町再生資源物の屋外保管に関する条例(茨城県) *即日施行2021128

袖ケ浦市再生資源物の屋外保管に関する条例(千葉県) *施行202341

 

綾瀬市条例(神奈川県)は届出制だが、2021年以降に制定した千葉市条例などの各自治体は許可制としている。また袖ケ浦市条例は、ヤードの設置計画についての事前協議(第7条)や、水質検査及び地質検査の実施・報告等(第11条)、受入記録等の第三者閲覧(第12条)、名義貸し禁止(第14条)、命令違反等の場合の公表(第23条)等の規定を置いた。

 

 

2  金属屑条例・歴史的経緯と論点整理

                 https://steelstory.jp/market/2713/

 

以下はBS-TBSからビデオ・インタビューに応え、担当者に「論点整理」として送ったものである(22年4月24日。13:00-13:54 噂の東京マガジン内 噂の現場のコーナー)

 

  • なぜ金属くず買取業者に法的な規制がないのか
  1. 古物営業法の規制が金属くずにかからない理由は何か

 

1 歴史的には、金属屑商売は江戸から戦後49年(昭和24)までは、古物の代表例として国の「許可制」で監視されていた(吉宗の享保の改革で「鑑札」が始まった)。しかし戦前の「古物商取締法」が、「古物営業法」(49年)に大改正された時、古物の解釈が変わった。「古物とは、そのままで、また幾分の手入れをして、その物本来の目的に用い得るものをいうのであって、全然形を変えなければ利用できないような、例えば屑鉄や屑繊維等は廃品であって、古物ではない」(1949年「古物営業法解説」36p)とされ、適用を除外された。従って、古物営業法規則・第二条(古物の区分)には金属屑の区分記載はない。

 

2 国には、金属類商売を直接には取り締まる法律はない。鉄スクラップなど金属屑類は「取締り対象とならず野放しになった」(57年大阪・金属くず条例懇談会、古物商発言)。国に代わって登場したのが、地方自治体が独自に制定できる「金属屑営業条例」である。

 

3 この金属屑条例の制定と廃止には、4つの大きな波がある

 歴史的経緯=誰もが自由にできる商売を法的規制の下に置く。その論議は金属屑の高騰が大きな社会問題となった1950年代激しく戦わされた。自治体や婦人会、商工会議所、電鉄関係などは、制定を求めた。しかし金属商売を許可制に、もしくは届け出制にするということは、行政・自治体に、法令運用の白紙委任状を渡すのと同じ。そう考えた業者は、条例反対に結集し、東京や京都は条例制定を断念した。

 

*第一波は、古物営業法制定1年半後の50年(昭和2512月、米国海軍の軍港がある佐世保市条例として初制定され、513月から527月まで山口、福岡、広島、高知、鳥取の西日本5県がこれに続いた。条文内容は、ほぼ古物営業法に準じた。

 

*第二波は、56年(昭和31101日の神奈川、埼玉の同日公布から始まった。翌5712月までの14ヶ月間に全国24道府県が条例制定に走り、58年は長崎、佐賀が続いた。

しかし、佐世保条例(5012月)の先行例や激しい反対闘争が社会問題となった大阪事件(5612月)が嫌われたためか、東京や京都など有力自治体は、条例制定を回避した。

第二波は結局24道府県に留まり、全国規模には広がらなかった

 

*第三波は、条例廃止の形でやってきた。廃止は99年(平成11)高知に始まり、2000年(平成12)は7県(福岡、埼玉、熊本、山梨、愛知、三重、長崎)、2005年(平成17)にも5県(岐阜、神奈川、香川、鳥取、千葉)が廃止。6年間で合計14県が条例を廃止した

 

*第四波は、屋外保管条例=金属屑条例は、社会情勢の変化と共に揺れた。58年のピークでも全国47都道府県中、制定はほぼ半分の24道府県にすぎず、1995年以降の金属屑相場の暴落(逆有償)のなか、99年から2005年までの6年間で14県が廃止した。 

ただ、その後の世界的な資源高と渡来系業者ヤードの増加から、岐阜県が2013101日から「岐阜県使用済金属類営業条例」を再制定した。千葉県は1541日「自動車部品のヤード内保管適正化条例」を、鳥取県は164月「使用済物品等の放置防止に関する条例」を施行した。また千葉市は2111月「再生資源物の屋外保管条例」を制定した。
(この項は244月 書き換えた)

 

<以下はその後。24年4月以降の追加である>

 

3  「屋外保管条例」と「カーボンニュートラル」と「囲い込み」を考える

 

① 既存業者「関東鉄源協・スクラップ流出 水際対策を」
23220日・産業新聞 本文要約)

*1 関東地区の月間発生量約70万㌧のうち、約25万㌧が外資系鉄リサイクル企業が購入しており、『このままでは工業会の関東支部所属企業の3分の1はなくなるだろう』。

*2 工業会の対応は『遅れている。何をやっているんだ』と思う。「対策として『根本的部分(法整備)に切り込む必要がある。若手の力でどんどん上を動かして欲しい』。

*3 「海外系業者の操業が違法状態にあったり、廃棄物処理法の認可を受けていないケースがしばしばある」「有価物とされる鉄スクラップは法律や条例の規制がない」。

 

② 国・行政・リサイクル工業会の動き(231025日、テックスレポート)=工業会は1017日、製造産業局の伊吹英明長局長と面談を行ったと発表した。経産省からは局長、松野大輔金属課長を含む3名、工業会からは木谷会長、高井一臣専務理事、寺島清孝常務参与の3名が参加。「国内鉄スクラップの現状」「国業界の現状の課題」「行政への要望」「最近の主な活動」の各テーマについて概要を説明し、意見交換した。

 

③ カーボンニュートラル時代のスクラップ「囲い込み」として(冨高予想)

2024年のキーワードは「カーボンニュートラル」である。鉄鋼会社にとって、すなわち国にとっても「カーボンニュートラル達成」は、待った無しの絶対的な課題となった。

その中、国・企業・既存鉄スクラップ集荷業者、3者の利害の一致し、動き出したのが「屋外保管」条例である。鉄スクラップは古物営業法の適用外であり、誰でも自由に営業できる。これに自治体レベルで規制をかけたのが「金属営業条例」だったが、この条例の追加制定は問題が生じる恐れがある。

その迂回として(市民生活の保全を前面に押し出し)物理的な「屋外保管」の管理責任に注目して、法的規制をかけたのが今回の「保管」条例である。

カーボンニュートラルの要請に、国・鉄鋼会社が一斉に、かつ本格的に鉄スクラップの囲い込みに動き出した。2023年以降に保管条例制定が集中するのは偶然ではない。

 

4  参考資料

スクラップヤード規制の制定ラッシュに見る自治体対応の留意点

https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/scrap_yard/

一般財団法人地方自治研究機構「ヤード条例・スクラップヤード条例・資材置場条例金属屑営業条例(概説)金属屑営業条例(概説) | STEEL STORY JAPAN

以上