千葉県は15年(平成27)4月1日「千葉県特定自動車部品のヤード内保管等の適正化に関する条例」(chiba.lg.jp)を施行し、自動車解体の違法ヤード対策に全国のトップを切って乗り出した。ついで千葉市は21年(令和3年)11月1日「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例」及び「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例施行規則」を施行した。
解説 1
*鉄スクラップ取引を直接、規制する法律は存在しない。明治以来、金属屑は古物とされたが戦後の49年「古物営業法」は「金属屑は廃品であって古物ではない」として除外したためだ。金属商売は許可なく、誰でも自由に、できることとなった(直接規制はない)。
*戦後の混乱期、金属屑が高騰し、政情不安のなか、盗犯事件も多発した。このためもあってか、国の法律ではなく、地方自治体が独自の制定できる「金属屑営業条例」が登場した。
*条例制定は、第一波(1950~52年。西日本5県制定)、第二波(1956~58年。24道府県制定)と続き、鉄スクラップが逆有償となった後の第三波(1998~2005年。14県廃止)では廃止もしくは規制緩和が大勢となったが、資源高が顕著となった2010年以降。再び規制強化の波が巻き返した。それが第四波(2013年~現在。岐阜県再制定)の現在である。
*千葉県と金属ビジネス規制
関東の神奈川、埼玉(56年10月)が第二波のトップを切った。千葉県はまる1年後の57年11月「金属くず取扱業条例」として制定したが、2005年7月、同条例を廃止した。
1 千葉県 金属くず取扱業条例 (制定 57年11月5日 廃止2005年7月22日)
1条(目的)。・2条(定義)。・3条(届出)。・4条(従業員の行商届出)。・5条(届出事項の変更)。・6条(届出証)。・7条(届出証の返納)・8条(遵守事項)・9条(禁止事項)。・10条(届済の表示)。・11条(未成年者との取引禁止)。・12条(確認申告)。・13条(帳簿)。・14条(品触)。・15条(保管)。・16条(立入及び検査)。・17条(報告の聴取)。・18条(罰則=3条の違反者は6月以下の懲役、又は3万円以下の罰金)。19条(罰則=4条、11条の違反者は3万円以下の罰金)。20条(罰則)。・21条(両罰規定)。・22条(規則の委任)。
2 「千葉県特定自動車部品のヤード内保管等の適正化に関する条例」
その10年後の15年新条例を制定した。新聞報道によれば(一斉立ち入り調査・千葉のヤード180)県内には自動車解体の違法ヤードが多数存在した。その対策を迫られたためだ。
▼ヤード内保管等の適正化に関する条例とは何か=目的は「自動車による汚染並びに不正に取得された自動車部品」の「ヤード内保管等の適正化措置」(1条)である。そのためヤード定義(2条)を行い、氏名や事業概要などの届出(3条)、油等の地下浸透等の防止(4条)、相手方の確認及び不正品の申告(5条)、取引記録の作成(6条)、標識の掲示(7条)、規定違反の場合の知事勧告(8条)、同命令(9条)、同報告(10条)を定め、県職員の立ち入り検査(11条)、本条例が警察条例ではないため知事の警察援助要請(12条)も認め、土地所有者等の努力義務(13条)など広範な規制を盛り込んだ。命令違反の場合は、懲役1年以下または罰金50万円以下を科し、無届けや虚偽報告への罰則も規定した。
*千葉県、「特定自動車部品ヤード保管条例」を施行 2015年12月5日
千葉県、「特定自動車部品ヤード保管条例」を15年4月施行 | STEEL STORY JAPAN
3 千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例
その6年後の21 年11月、千葉市が新条例を制定した。報道によれば、次のとおりである。
■再生資源物の屋外保管・千葉市条例施行(2月16日・日経新聞)=千葉市は21年11月、金属スクラップなどを野積みで保管する「スクラップヤード」の設置を許可制とする条例を施行した。住宅街の中に設置されている保管場所も多く、火災の発生や騒音、振動などが住民生活に支障を来しており問題視されていた。保管場所の立地基準と保管基準を設定し、事業者は市の許可が必要とする。住宅などの敷地から100m以上離れていることを要件とし住宅地に新設できないようにした。保管については、積み上げた山の高さが5m以下、1つの山の最大面積を200㎡以下とし、山同士の間隔を2m以上空けるよう定めた。油や汚水などの浸透防止措置や囲いと掲示板の設置も必要となる。新設の場合は周辺300m以内の居住者らに対し説明会を開くことも義務付けた。許可は5年ごとの更新制。無許可での保管場所の設置や命令違反などには、5月から1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す。既存の事業者は、市に届け出て保管基準に適合していることを確認した上でみなし許可とする。21年7月時点で、市が把握していた保管場所は75カ所だったが、21年12月時点で107カ所の届け出があった。
解説2 (その現状と今後)
*「事業者が外国人のケースも多く、付近の住民との協議なども期待しにくかった」。「そこで市は、住宅などの敷地から100m以上離れていることを要件とし、また新設する場合は周辺300m以内の居住者らに対し説明会を開くことも義務付けた」。「無許可での保管場所の設置や命令違反などには、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す。既存事業者は、市に届け出て保管基準に適合していることを確認した上でみなし許可」とした。市では条例の周知を兼ね21年11月の条例施行後、保管場所を運営する事業者を訪問した。訪問の際には通訳も同行し、日本語が分からない事業者にも周知を徹底した(2月16日・日経新聞)。
*報道では、「千葉市、全国初の条例施行」との見出しのもと「許可制や厳罰を取り入れた全国初の条例で野放図な設置に網を掛け」たとするが、実体は2005年7月に千葉県が廃止した「金属くず取扱業条例」の市独自のリニューアル版と見るべきものかもしれない。
即ち旧例3条(届出)は新例の規則3条(許可の申請)とし、旧例4条(従業員の行商届出)は新例の規則5条(使用人)へ、旧例10条(届済の表示)は新例の規則10条(屋外保管事業場に係る掲示板)とした。ただ旧例の12条(確認申告)、13条(帳簿)、14条(品触)、15条(保管)など確認・記帳・保管義務は、新例では第9条(記録の作成等)だけと簡略化したが、新条例は旧例16条(立入及び検査)、17条(報告の聴取)から、屋外設置規制として14条(許可屋外保管事業場設置者に対する勧告及び命令)、15条(許可の取消し)、16条(報告徴収)、17条(立入検査)、18条(勧告)、第19条(命令)、20条(事故時の措置)、21条(許可等に関する意見聴取)を加え、より厳格化した。
また新たに6条(説明会の開催等)、規則9条(周辺住民とは屋外 保管事業場の境界線からおおむね300m以内の住民)を導入し、7条(屋外保管事業場の保管基準)、8条(屋外保管事業場の立地基準)などの規制を加えた。
*条例であるから、「日本語が分からない事業者」だけが適用対象になるわけではない。
今後は、屋外ヤード設置業者がすべて新条例の対象となり、その規制を受けることとなる。
*金属営業条例に関する過去データ
*千葉県、「特定自動車部品ヤード保管条例」を施行 2015年12月5日
千葉県、「特定自動車部品ヤード保管条例」を15年4月施行 | STEEL STORY JAPAN
*鳥取県「使用済物品放置防止条例」成立 2016年2月10日
鳥取県「使用済物品放置防止条例」案を可決・成立(追加) | STEEL STORY JAPAN
*金属類営業条例とは何か 2016年11月3日
金属類営業条例とは何か | STEEL STORY JAPAN
*復活する金属屑営業条例(1)2016年12月27日
復活する金属屑営業条例(1) | STEEL STORY JAPAN
*復活する金属屑営業条例(2)
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*復活する金属屑営業条例(3)
マーケット分析 | STEEL STORY JAPAN - パート 3
*岐阜県の「使用済金属類営業条例」を考える 2017年2月3日
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*ヤードにおける盗難自動車解体防止条例 2019年8月2日
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