2021年
■炭素税・排出枠取引(21年7月1日)=温暖化ガスの排出量取引や炭素税などカーボンプライシングの導入が進んでいる。
▽排出量に応じて課税する炭素税と、個別企業の排出上限を決め、企業が排出枠を売り買いする排出量取引の2つの手法がある。
▽日本は全国規模の排出量取引は導入されていない。炭素税にあたる温暖化対策税も1トン289円と東欧や東南アジアと並んで低い。北米ではカナダも炭素税を採用し、30年までに1トン135ドル(約1.5万円)に引き上げる。米国はカリフォルニア州が排出量取引を開始。EUは温暖化対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする「国境炭素税」を23年までに導入する方針。
*諸外国における炭素税等の導入状況(2017年3月現在・環境省)intro_situation.pdf
2022年
■脱炭素「スコープ3」が焦点(22年1月7日)=英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のニューズレター「モラル・マネー」1月5日号は「スコープ3」を論じた。
主な内容は以下の通り。22年に企業経営者が絶対に覚えなくてはいけない用語があるとしたら「スコープ3」だろう。自社が事業で排出する分は「スコープ1」、他社から供給された電気やガスの使用に伴う排出は「スコープ2」、サプライチェーンなど取引先の排出分は「スコープ3」と呼ばれる。企業が出す温暖化ガスの65~90%をスコープ3が占め、この削減が急務とされる。
■EU、国境炭素税で合意(22年12月14日)=EUは13日、国境炭素調整措置(CBAM、国境炭素税)の導入で合意した。世界初の取り組みで、鉄鋼とセメント、アルミニウム、肥料、電力、今後拡大を検討する。CBAMはEU域内の企業が環境規制の緩い他国に工場などの拠点を移して規制を逃れる「カーボンリーケージ」を防ぐのが目的。課税によって域内外の負担を同水準にそろえ、他国にも環境対策の強化を促す。23年10月からEUに輸出する企業はその製品の排出量を当局に報告する義務を負う。26~27年にはEUの排出量取引制度の炭素価格に基づき、排出量に相当するお金の支払いが始まる見通し。
*1 諸外国における炭素税等の導入状況(2017年3月現在・環境省)intro_situation.pdf
■EVや炭素税先送り(22年12月17日)=(23年度与党税制改正大綱では)先送りとなった課題は多い。CO2排出量に応じて企業に負担を求める炭素税は22年度改正に続いて棚上げにした。EV税制は走行距離に応じた課税案などに警戒が強く、3年後に枠組みを示す。
■移行期の鉄鋼2 中国も水素製鉄に参戦(22年12月20日)=日本に学んで今や世界の粗鋼生産の5割を握った中国。石炭の代わりに水素を使う「水素製鉄」の早期実用化をめざす。水素製鉄では「現時点で日本に優位性がある」(関係者)が、スウェーデンの鉄鋼メーカー、SSABが世界で先駆け、同国のボルボに出荷した。実用化の速さで追い抜かれた。脱炭素社会が刻一刻と近づいてくるなか、その技術開発で敗北すれば日本の鉄鋼業界は没落しかねない。企業も、そして政府も覚悟が問われる。
*移行期の鉄鋼3 トリレンマと向き合う(22年12月21日)=業界全体では脱炭素へ50年までに10兆円の投資が必要とされる。株主還元や賃上げ、そして巨額投資の全て満たすのが困難なトリレンマに陥りかねない。半導体など電機業界では人材や技術が流出し、競争力を失う憂き目にあってきた。鉄鋼業界は懸念される脱炭素のトリレンマの解を導き出さなければ、電機の二の舞いになりかねない。
*移行期の鉄鋼4 グリーン鋼材、値上げに壁(22年12月22日)=鉄鋼大手は22年度、CO2排出を抑えた「グリーン鋼材」供給を相次ぎ表明した。グリーン鋼材の価値がどの程度なのか議論は世界的にも途上にある。日本全体での合意形成が欠かせない。鉄鋼各社は脱炭素への歩みを始めたが、(値上げの壁など)頂の高さすら測りきれない。
2023年
■脱炭素と金融(上)移行金融、電力や鉄鋼、債券発行や融資で「つなぎ役」の投資後押し(23年3月1日・日経)=国際決済銀行(BIS)は脱炭素化により、経済価値を失う座礁資産が最大18兆ドルとはじく。そうした資産を担保とする銀行にとっては融資返済が滞りかねない事態に直面する。環境負荷の高い産業が事業縮小を迫られることで邦銀には50年までに7兆円程度の与信コストが発生する。電力や鉄鋼、運輸、化学といった排出量の多い企業は資金調達しづらい課題があった。そこで浸透しつつあるのが移行金融だ。温暖化ガスの排出量をゼロにする技術が実用化されるまでの「つなぎ」の資金供給といえる。
■日本製鉄、高炉から電炉プロセスへの転換に向けた本格検討を開始(23年5月10日・同社hp)=日本製鉄は八幡および広畑を候補地とした高炉プロセスから電炉プロセスへの転換の検討を始めると公表した。Hpによれば同社は21 年 3 月「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン 2050」で「高炉水素還元」「水素による還元鉄製造」「大型電炉で高級鋼製造」の実現を目指す。
■海の脱炭素、日本製鉄は藻場に鉄鋼副産物(23年6月3日・日経)=グリーンカーボンは(地上の)植物が吸収、蓄積した炭素を言う。ブルーカーボンは国連環境計画が2009年に命名した海中のワカメやコンブなどの海洋植物は光合成により、海水に溶け込んだ炭素を言う。
鉄鋼スラグは鉄分を豊富に含んでおり、海藻の成長を促す効果がある。日本製鉄は22年秋、全国6カ所で藻場の整備を始めた。JFEスチールも全国の海域で導入するほか広島大学と鉄鋼スラグの海藻の成長効果の研究を進め、ブルーカーボン事業の拡大を図る。
22年度分のブルーカーボンのクレジット(排出枠)平均取引額は1トンあたり7万8063円で、再生可能エネルギー由来のクレジットの22年4月平均取引額の20倍超だ。生物多様性への貢献などの面で付加価値が評価されているとみられる。
2024年
■脱炭素へ銀行に開示義務 主要国で26年にも(24年2月16日)=主要国は気候変動リスクを26年にも銀行に開示を義務づける。脱炭素に伴い価値がなくなる設備は「座礁資産」と呼ばれる。あらかじめ石油・ガスや石炭、自動車、化学など18の業種別の融資規模や不良債権額、貸し倒れに備えた引当金など詳細な情報の開示を求める。
■排出量10万トンから取引義務・電力や鉄鋼、300~400社対象(24年11月20日)=政府は26年度に本格運用を始める排出量取引にCO2が年間10万トン以上の企業に参加を義務づける。電力や鉄鋼をはじめ300~400社が対象となる見込み。排出量取引は炭素に値段をつける「カーボンプライシング」の手法の一つ。政府はカーボンプライシングを10年間で20兆円発行するGX経済移行債の償還財源と見込む。排出量取引は当初は企業に無償で排出枠を割り当てる。
■温暖化ガス新目標、40年度73%減(24年12月25日)=経産、環境の両省は24日、温暖化ガスの排出削減目標を35年度に13年度比60%減、40年度に73%減とする地球温暖化対策計画原案をまとめた。40年度に家庭で7~8割、産業部門で6割程度のCO2排出削減を目指す。「パリ協定」に基づき、25年2月までに新目標を国連に提出する。英国は従来の「35年までに90年比78%減」を「81%減」に引き上げた。米国でもバイデン政権が19日に、35年に05年比で61~66%削減する新目標を発表した。30年目標は同50~52%減としていた。
2025年
■EU、新たなクリーン産業協定を発表(25年2月28日。テックスレポート)=欧州委員会は2月26日、クリーン産業協定を発表し、脱炭素化プロセス補助金の強化、高品質な原材料を回収し、域内再利用を加速させること、CBAM証書の購入義務を2027年へ1年延期などを柱として打ち出した。これを受け欧州鉄鋼協会は、セーフガードを現状の市場に合わせ改定すること、CBAMを自動車やインフラ部品など下流製品にも適用すること、電気料金と化石燃料の価格を切り離し、エネルギーコストを下げること、鉄スクラップ輸出を防ぐため、循環経済法で鉄スクラップを戦略的二次原材料として正式に認めることなどが必要不可欠と訴えている。
■排出量取引、義務化へ(25年5月29日)=CO2排出量が年10万トン以上の企業に排出量取引参加を義務付ける改正グリーントランスフォーメーション(GX)推進法が、28日の参院本会議で成立。26年度から運用を始める。鉄鋼や自動車など300~400社が対象。排出量取引では、経産相が参加企業に1年間の排出枠を無償で割り当て、枠内でのCO2排出を許可する。企業が排出量を大幅に削減し、枠が余れば他社に売却できる。枠以上の排出があれば、その分を買い取る必要が生じる。無償枠は業界ごとに排出量を比較して決める。
■企業のCO2排出 迫る義務化(25年8月30日)=金融庁は温暖化ガス排出量などの開示義務化に向けた工程を公表。時価総額3兆円以上の企業は27年3月期から、1兆円以上3兆円未満は28年3月期から(自社の排出量「スコープ1」、間接的な「スコープ2」、供給網全体で発生する「スコープ3」を記載する)CO2排出開示が必要になる。28年に1兆円以上の約180社、2年後に5000億円以上の約300社と広げ、最終的に東証プライム全社(約1600社)に適用する。企業も対応を急いでいる。
■立ち上がる排出量市場(上)「CO2削減」価格1年で3倍(25年9月30日)=日本で排出量取引が26年4月に本格始動する。東京証券取引所のカーボン・クレジット市場で、省エネで生まれた削減排出量であるJ―クレジット価格が9月中旬1トン5400円を超えた。前年比で3倍超だ。自社で設置した再生可能エネルギー由来の価格も同6100円程度と2倍近くまで上昇。取引参加企業や自治体数は336と当初から約8割増加。累計売買高は2年で100万トンを超えた。
*J―クレジットとは=企業などが再エネを導入したり、森林を整備したりして減らした温暖化ガス排出量について、国が削減効果を認証する制度だ。いわば「認定証」で、企業は自社の排出量の削減に使えるほか、他社に売ることもできる。
*価格上昇の背景=26年4月の排出量取引制度(GX-ETS)の本格導入だ。政府は企業ごとに排出を認める上限量(排出枠)を設定。年10万トン以上の排出企業は参加が義務付けられる。鉄鋼や電力、自動車などを中心に300~400社が含まれ、対象企業の排出量は6億トン程度と国内の総排出量の6割程度を占める。
*企業は毎年、排出量を枠に収めなければならない。排出量が枠を超える場合、J―クレジットを使って排出量を減らす必要がある。それでも枠を超えた分は市場価格より割高な負担金が課される。調査によると26~30年のクレジット需要量は年278万トン以上で、年間に創出されるJ―クレジット(24年度で172万トン)では不足する。
*クレジットや炭素税を含めた炭素価格=EUの排出枠価格は24年平均1トン約65ユーロ(約1万1000円)、中国は95人民元(約2000円)、韓国が9200ウォン(約1000円)などまちまち。
*日本は開設当初から「罰金」を設定するほか、33年度から一部業種を対象枠を有償化する方針。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、50年に排出量実質ゼロにするには炭素価格が先進国で30年に1トン140ドル(約2万1000円)、35年に180ドルにする必要がある。経産省は年内に企業ごとの排出枠の算出方法を決める。企業がJ―クレジットで削減できる量を排出量の10%までとする方向のほか、排出枠価格に上下限を設定する。
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*GX推進法・資源有効利用促進法改正法 経産省・環境省案内=「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました
新旧対照法文=20250225001-4.pdf
* GX推進法・資源有効利用促進法改正法案の概要と実務対応
https://www.businesslawyers.jp/articles/1459
*排出量取引制度(GX-ETS)その概要=https://gx-league.go.jp/action/gxets/
*経産省説明=001_03_00.pdf
*日経BP説明=「クレジット利用は1割まで」排出量取引制度の政府案 排出枠割り当ての指針は秋以降に | ESGグローバルフォーキャスト
*GX-ETS 解説=GX-ETS(排出量取引制度)をわかりやすく解説|仕組み・算定方法・今後の展開 - CARBONIX MEDIA
*専門家が図解=https://franksdgs.com/japan-gx-ets-emission-trading-scheme/
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■脱炭素参加、国内2000社超え 国際組織「SBTi」(25年10月21日・夕)=温暖化ガスの削減目標を促す国際組織「SBTイニシアチブ(SBTi)」に参加企業が急増。SBTiは国連機関などが2015年に設立した。「SBT(科学的根拠に基づく削減目標)」の認定を後押しする組織。SBTの認定を取得した企業(2年以内の取得宣言を含む)は3日時点で2010社に増えた。日本は世界全体(1万1686社)の17%を占め、英国や米国を上回り最多になった。
■EU、温暖化ガス排出削減目標が後退(25年11月6日)=EUは5日、環境相会合で温暖化ガスの排出削減目標で合意した。2040年までに1990年比で90%減らす一方、5%相当分の外国の炭素クレジット購入でまかなうことも認め、目標の達成方法に柔軟性を持たせた。実質的な排出削減量は90%より少なくなる。また35年時点の削減目標も決めた。90年比で66.25~72.5%減らす。日本は35年度に13年度比60%、40年度に同73%の削減をめざしている。EUは50年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標は維持する。