「2030年、鉄鋼資源循環の姿」  東鐵スクラップ研究チーム編についてのコメント

はじめに

東京製鉄の鉄スクラップ研究チームが202511月下旬、「2030年、鉄鋼資源循環の姿」との研究試算をhp上に、ダイジェスト版(2p)と本文(22p)を公開した。

ダイジェスト版 https://www.tokyosteel.co.jp/assets/docs/top/top_20251121-02.pdf

本文 top_20251121-01.pdf。以下は「緒言」要約と本文を閲覧してのコメントである。

 

緒言要約

「スクラップ需給の今後について分析を試みた。契機となったのが『日本のスクラップ発生量(4,400万t)は、粗鋼生産量(8,700万t)の半分程度に留まる』とし、業界団体や各省庁が『電炉の将来の拡大は、スクラップ調達の視点から限界があるだろう』といった『スクラップ不足』を強調している点である。しかしこれは一面的な見方ではないかという疑念が湧く。というのも2023年度の鉄鋼内需量は5,400tであり、それに対してスクラップの発生量は4,400tであるからだ。単純な比較はできないものの、国内 のスクラップ発生量は鉄鋼内需量に対して81%という高い値になる」。

「そこでスクラップが輸出に回らない場合(実際には約 700万tが毎年輸出されている)、すなわち 国内で発生するスクラップをフルに活用する場合、スクラップ需要量に対して十分なスクラップの供給があるか、詳細に検討することとした」。

具体的には「スクラップ需給、電炉内需比率、循環鋼比率(CSR: Circular Steel Ratio)を推計した。循環鋼比率は当社が定義した概念で、国内向けに生産される鉄鋼製品のうち何%が国内発生の鉄スクラップ由来であるか、を表した数字である」。
「その結果、循環鋼比率は67.2%になった。これは日本の鉄鋼製品の67.2%は国内発生の鉄スクラップから作ることが可能であることを意味する」。

「さらに電炉の活用は日本の脱炭素化にとっても大きな意味がある」。「20254月に改定されたグリーン購入法では、共通の判断の基準として鉄鋼が位置付けられたが、スクラップを主原料に生産する電炉鋼材について明示されていないことが、大変遺憾である。「行政省庁は、循環鋼材の積極的な使用方針が打ち出されることを期待したい」。

 

冨高コメント

1 「スクラップ需給の今後について分析を試みた」のであれば、なぜ粗鋼生産の約4割弱を占める海外輸出(外需)生産量と輸出生産用の鉄スクラップ需給を除外するのか。

 これでは外需用生産を含めた鉄スクラップ需給の全体が分からない。

2 「循環鋼比率(CSR: Circular Steel Ratio)を推計した」という。その数式の採用分母は(鉄鋼内需量・対比であるから、当然と言えば当然だが)、鉄鋼内需量である。

しかし鉄スクラップ需給の現場は「鉄鋼内需+外需」総計として動いている。にも拘わらず計算分母を敢えて「鉄鋼内需」に置けば、循環鋼比率が大きくなるのは当然だろう。

3 さらに、当分析は「スクラップが輸出に回らない場合、すなわち国内で発生するスクラップをフルに活用する場合」を前提としている。ところが「実際には約700万tが毎年輸出されている」との断り書きを本文に挿入しているように、世界はカーボンニュートラルの今、鉄スクラップの囲い込みと争奪は必至の状況にある。「輸出に回らない場合」を想定した分析は、現実(貿易ビジネスの定着)を無視した試論としか筆者には見えない。

4 また「本レポートでは『鉄鋼需要』を国内の鉄鋼需要量と定義して、国内の鉄鋼自給の観点から議論を進めることとした」とし、「鉄スクラップを有効に国内循環させることにより、経済的な自立度を高めていく」との「見識」を示す。これは「結論」の電炉生産の効用論と同じく「国内循環」を名目とした海外循環排除論とも、筆者には見える。
                   以上