千葉県特定金属類取扱業規制条例と「囲い込み」を考える Vol.2

 

はじめに

弊紙は先に、上記の標題で、金属屑営業条例の歴史的経緯を踏まえ、かつ団体会活動の本旨に照らして日本鉄リサイクル工業会の最近の活動方針に「強烈な違和感を持つ」との疑義を公表した。https://steelstory.jp/market/5428/いま重ねて、その違和感の内容を精査する。

                                                          スチールストーリーJAPAN 冨高幸雄

 

論点整理

 

その1  警察庁は「盗難防止条例制定を検討する」

 

詳細分析 鉄屑、非鉄金属屑の盗難は、現在よりも1950年代後半の方が現在よりもはるかにすさまじく、電線、グレーチング、マンホール、敷板など特定金属類だけでなく、あらゆる金属類に及んでいた(「金属屑営業条例に関する懇談会速記録」・19572月大阪府資料)。

だからこそ道府県自治体は「金属類の盗犯を防止し、府民の福祉を保持」(大阪府条例。第一条目的)を掲げ、金属類営業規制の波が全国に拡大した。
しかし最大の金属営業関係者を擁する東京都や京都府はこの条例制定には動かず、最盛期(1957年)でも制定は47都道府県の6割強(29道府県)に留まった(その後の1999年以降2005年までの6年間で合計14県が条例を廃止。2024年現在、金属営業条例を現に施行しているのは、全国の約3分の1,16道府県だけである)。

 

東京都では(警視庁は条例制定には動かず)、金属屑3団体が「東京金属防犯連合会」を結成。創設会には時の国家公安委員長国務大臣大久保留次郎以下警視庁幹部が来賓として出席した(東資協二十年史138p)。京都府では府警本部長提案のもと「組合連合会」が結成された(業界紙)」。

 

法律体系から言えば、国会が制定する1949年改正古物営業法は、明治以来「許可制」としていた「金属屑類」を「廃品であって古物ではない」として適用を除外。何人も法的な許可なく、自由に鉄屑業を営む道を開いた。しかし朝鮮戦争が勃発した1950年。米国海軍港がある佐世保市が「条例」を用いて鉄屑営業を「許可」制とした。下位法である条例が、上位法の法律の適用に待ったをかけた。その隠れた動機が「敵性外国人(在日コリアン)」の監視、摘発と目された(第一波)。

 

1956年から57年にかけて、29道府県が一斉に条例制定に動いた(第二波)。この隠れた動機は、554月認可された鉄屑カルテルが日本鉄屑連盟(末端集荷・回収業者が、組織構成の大部分を占めた)との激しい攻防から機能停止(5510月)、再建(56年)を繰り返し、その運営が危ぶまれたための側面援助(集荷・回収業者の身元調査)とも観測された。
ただ同様の目的なら警察管理下の組合結成と組合名簿の作成でこと足りる(だから東京や京都府は、条例制定を回避した)。

 

では、なぜ今、条例復活なのか。弊誌の見るところ「カーボンニュートラル」と「国内・都市鉱山」の囲い込みが、ターゲットに近い。Co2排出が多い高炉各社の設備が、将来の資産価値を失う「座礁資産」と目される(BIS)なか、国と鉄鋼業界は総力を挙げて「脱炭素化」に走り出した。

その当面の足場が、高炉設備に比べCo2排出が4分の1以下の電炉製鋼、その国内資源である「鉄スクラップの囲い込み」、「鉄スクラップの国内循環促進」策が注目された。つまり文字通り、鉄スクラップを国内循環に留め、海外には出さない、との方策である。

 

自治体の「不適正ヤード規制」の後を追うように「金属類営業条例」が事実上復活した。千葉県特定金属類取扱業規制条例は、202479日千葉県議会で可決承認され、20251月から施行される。https://www.pref.chiba.lg.jp/zaisei/gian/documents/202406-02-g-jyourei.pdf

そればかりではない。警察庁は527日の全国警察本部長会議で「金属スクラップの盗難防止条例制定を検討するよう、条例未整備の31の都府県の警察に指示した」(79日。産業新聞)

 

千葉県条例は、目的として「盗品等の売買等を防止し盗品等の速やかな発見を図るため、特定金属類を取り扱う業者について必要な規制を行う。これにより、窃盗等の犯罪の防止を図り、被害の回復に資する」とする。しかしその同じ目的を掲げた条例は、1999年以降相次いで廃止された。

盗品防止が目的ならば、警察本来の仕事である刑事・防犯活動に徹し、かつ業の自由を最大限尊重し業者の協力を求めればよいだけだ。
鉄リサイクル業の全国的許可制拡大に踏み込む、論理的整合性はない。


論点整理 その2  「関東鉄源協 スクラップ流出 水際対策を」(産業新聞)=見出し

詳細分析 金属類営業条例の歴史からみれば、歴史は変奏曲をかなでながら繰り返すと見える。

金属類営業令が制定された大阪でも、条例制定に激しく反対したのは流通末端の零細、集荷・回収業者たちだった(19561218日・抗議陳情デモ、大阪府庁、突入事件)。一次問屋や直納大手が所属する鉄屑懇話会や関西八日会は、むしろ警察単位の「組合」結成には積極的に動いた。

今回もまた同様に、条例制定に向け逸早く動いたのが、関東地区の中堅、大手ヤード業者で組織する「関東鉄源協同組合」だった。https://steelstory.jp/market/3875/

 

新聞報道(23年2月20日・産業新聞)要約によれば

*1 関東地区の鉄スクラップの月間発生量約70万㌧のうち、約25万㌧を外資系鉄リサイクル企業が購入しており、国内企業の取扱量は減っていると指摘。『このままでは工業会の関東支部所属企業の3分の1はなくなるだろう』。

2 「海外の業者が日本で回収、輸出する例が増えている。輸出企業が高値で買うために、集荷価格は国内鉄スクラップ業者よりもおおむね高い」「ただ海外系業者の操業が違法状態にあったり、廃棄物処理法の認可を受けていないケースがしばしばあるという」「有価物とされる鉄スクラップは廃プラスチックと異なり、法律や条例の直接の規制がない」・・・である。

3 工業会の対応は『遅れている。何をやっているんだ』と思う。対策として「『根本的部分(日本の法整備)に切り込む必要がある。若手の力でどんどん上を動かして欲しい』」。

 

論点整理と疑問点

 

1 全体記事内容を要約するリード文は「外資系業者の新規参入への具体的な水際対策を期待する」である。本文によれば月間発生量約70万㌧のうち約25万㌧が外資系企業に渡っており国内企業の取扱量は減っている。その理由は輸出企業が高値で買うためだ。なぜ高値で買うのか。「世界的な鉄スクラップの需要の高まりが背景にある」からだ、という。

 

2 その結果、このままでは関東支部所属企業の3分の1はなくなるだろう(*1)。
ただ海外系業者の操業が違法状態にあったり、廃棄物処理法の認可を受けていないケースがある。鉄スクラップは廃プラスチックと異なり、法律や条例の規制がない(*2)からだ。
対策として『根本的部分(法整備)に切り込む必要がある(*3)・・・という。

 

3 30年前、鉄スクラップ輸出業者は「国賊」扱いされた。その輸出団体が「外資系業者の新規参入への具体的な水際対策を期待する」と主張する。違法ヤードが問題であれば、それは(数は多いだろうが)なにも「外資系業者」だけに限らない(国内、新規参入者業者の存在する)。違法状態があれば、一般法に従い、日系企業、外資系企業を問わず、国の法規制と監督に任せればいい。

 

4 演者は(外資系企業問題と絡めて)『根本的部分(法整備)に切り込む必要がある』という。しかし、これは鉄リサイクル法制への重大な歴史的修正意見である。

「鉄は国家だった」から、戦前の「鉄屑統制令」は鉄屑商売を国の管理下に置き、「金属回収令」は鉄屑業者を手足とした。しかし戦後の「古物営業法」(49年制定)は、鉄屑を「廃品であって古物ではない」として規制の外に置いた。誰でもが自由に商売ができる法体制とした。

 

5 誰でもが自由に商売ができる環境から戦後困窮のなか、その日の糧を求める市民や旧植民地の在日労働者など「新規参入」業者が全国各地で続出し、今日にいたる地盤を築いた。

 

6 さらに大きく事を構えれば、新規参入が業の活力と未来を生むのだ。商売とは、あらゆる工夫・やり方、思いがけないビジネス・モデルから新たな展開が生まれる。たとえそれが先発業者の営業手法、価格設定と激しい摩擦を引き起こすことになり、先発業者の縄張り、既得権益を荒らすことになっても、それこそが切磋琢磨のバネとして、さらに活力ある商売の未来を切り開く。

であれば、排除するのではなく、新たな逞しいパートナー、手強いライバルが出現した。そう見ることで、商売の新たな地平が広がる。それが歴史の教えだろうと私は考える。

 

論点整理 その3  日本鉄リサイクル工業会は「不適正ヤードの新規参入を大きく牽制できるほか、現行の不適正ヤードに対しても撲滅へ向けて相当有効だ」とする。

 

詳細分析 また今一つの変奏が「カーボンニュートラル」に対処する鉄鋼とリサイクル業界の動きである。カーボンニュートラルの動きがにわかに加速したのは224月。バイデン大統領提唱の「気候変動首脳会議」の場で日本も「30年度には13年度比46%削減」を国際公約としたのが契機だ。その年226月、取り組むべき4つの課題を掲げた日本鉄リサイクル工業会は、第3課題として(鉄スクラップ資源としての重要性を踏まえ)「鉄スクラップの国内循環の促進、言い換えると鉄源の安定供給について普電工をはじめ鉄の関連団体、関係省庁とはこれまで以上に議論や協議を始めなければならない(*注)」と表明をした(2271日、テックスレポート)。

 

「最も大きなトピックは、昨年(23年)5月に特別委員会として『適正ヤード推進委員会』を設置したことで、昨年8月以降、今年(24年)5月までに4回開催した。メンバーは工業会役員と各支部で選出された委員で、経済産業省、警察庁、環境省にもオブザーバーとして参加いただいた」(2472日、テックスレポート。「日本鉄リサイクル工業会長インタビュー」)。

 

さらに「当工業会外部の変化として(略)千葉県警が『千葉県特定金属類取扱業の規制に関する条例』の制定へ向け動き出した。同条例は盗難金属の流通抑止という観点が主であり、許可を出したヤードへの立入検査、帳簿の確認、鉄スクラップ受入れ時の身分証明書のコピー取得の確認だけでなく、違反すれば営業停止や許可の取り消しまでできる。警察の指導に従わなければ業を営めなくなる。警察が自由にヤードに立ち入りできるようになれば不適正ヤードの新規参入を大きく牽制できるほか、現行の不適正ヤードに対しても撲滅へ向けて相当有効だ。警察庁が現在、庁内にワーキンググループを設置し、都道府県を超えて水平展開する体制を整えているようなので、今後、全国各地で同様の条例が施行されるようになればと思っている」(同)と続けた。

 

冨高の異論

 

条例は「盗品等の売買等を防止し盗品等の速やかな発見を図るため、特定金属類を取り扱う業者について必要な規制を行う」(千葉県特定金属類取扱業規制条例、第一条・目的)ものであって、制定目的からして「不適正ヤードの新規参入」を直接阻止するものではない。

 警察条例(その対象は、大阪府の場合暴力団排除条例、風俗営業等の規制条例、行商人の押売防止条など)であるから公安風俗を害した「許可を出したヤードへの立入検査、帳簿の確認、鉄スクラップ受入れ時の身分証明書のコピー取得の確認だけでなく、違反すれば営業停止や許可の取り消しまでできる。警察の指導に従わなければ業を営めなくなる」(会長談話)。また何人でも違反した場合(違反が疑われた場合)「警察が自由にヤードに立ち入りできるよう」になる(同)。

 

つまり金属類営業条例の全国拡大は、古物営業法が適用を除外した金属屑を、下位法である条例をもって、明治に遡って、再び「許可」と警察規制の昔に立ち返ることを意味する。

不適正ヤード規制は、金属屑営業条例とは直接には関係しない。
「不適正ヤード」の判定は、地方自治体の認定、裁量に係わり(その認定基準として、先に条例を制定した)警察問題ではない。

盗品や故買の「違法行為」があれば、刑法で処断すべき事案であって、条例の出番ではない。

 

さらに言えば、「不適正ヤード」との取引を許すのは、あくまでもビジネス業界の内部問題である。業界団体が、警察など外部権力を援用してその排除を図るのは(「警察が自由にヤードに立ち入りできるようになれば不適正ヤードの新規参入を大きく牽制できるほか、現行の不適正ヤードに対しても撲滅へ向けて相当有効だ」)、業の自由を守る団体活動の本旨に悖る、と考える。

 

*注=「3つ目の方向性にある『鉄スクラップの国内循環促進』との表現は『鉄スクラップの一層の循環促進』に改めた。理由は、当工業会が輸出に反対するかのような誤解をされる場合があるためだが、私も当工業会本部も輸出規制に賛同したことは一度もない」(2472日、テックスレポート。「日本鉄リサイクル工業会長インタビュー」)。

 

参考資料

「日本鉄スクラップ業者現代史」(鉄屑カルテル、金属営業条例、リサイクル業の現在と将来) 20177月 スチールストーリーJAPAN発行 冨高幸雄著 
その他資料 スチール・ストーリージャパン (steelstory.jp)
第二部 復活する金属屑営業条例(29頁~127頁)
スチールストーリーJAPAN HP「金属屑営業条例(概説)

■金属取扱業を規制する条例(金属くず条例)|一般財団法人 地方自治研究機構 http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/158_kinzoku.htm (2024年7月19日作成)

                     以上