日本製鉄、USスチール「買収」の時系列整理

                                                         *出所はすべて日経新聞電子版による要約です



■日鉄、USスチール買収計画を再申請(9月19日)
=外国企業による米企業の買収について審査する対米外国投資委員会(CFIUS)が日鉄の再申請を認めた。これまでは923日までに審査を終える予定だった。審査期間が90日間延び、最終的な判断は115日の大統領選後になる。日鉄は約141億ドル(約2兆円)の買収金額とは別に計27億ドルの追加投資でUSスチールの老朽設備などの更新を公表した。米国での生産能力を維持していく方針だ。

USスチール「買収」の教訓(フィナンシャル タイムズ東京支局長 レオ・ルイス)(918日)=日本製鉄が150億ドル(約2.1兆円)でUSスチールを買収しようとする計画が不首尾に終わりそうな理由は誰にでも分かるのではないだろうか。理由は価格ではない。

条件でもなければ、株主でもない。「選挙イヤーだからだよ、愚か者」と言うべきか。

実際、そうなのかもしれない。選挙を巡る政治判断は論理的には働かない。日鉄はこうした障害を乗り越えるべく様々な努力を重ねてきたが、米国側は度を越す言動を続けてきた。米国の最も緊密な同盟国で、重要な同盟国の一つとしての日本の地位を横柄にも疑うようなルール破りを犯したのだ。

 

■日鉄、米鉄鋼労組と溝深く・買収巡る交渉、異例の公表(914日)USWは鉄鋼業に加え、製紙や林業など広範な産業の85万人の組合員で構成される。うちUSスチールの従業員はわずか1万人。USWには競合の鉄鋼企業も加盟する。クリーブランド・クリフスはその代表で、過去にUSスチール買収で日鉄と競い、USWはクリフスのUSスチール買収を支援した経緯がある。

USWが強硬に拒否する背後にはクリフスの存在があるとの指摘もある。USWの一連の応対について日鉄関係者は「牛歩戦術ではないか」と話す。交渉に時間をかけて日鉄の買収計画を大統領選の渦に巻き込む狙いだったとの見立てだ。

 

■日鉄とUSスチール、大統領に書簡(914日)=両社が、8日付で米大統領に書簡を送っていたことが13日、わかった。日鉄によると、日鉄の橋本英二会長(CEO)とUSスチールのデビッド・ブリットCEOらの署名で送付した。書簡を送った目的や内容は非公表。

 

■米政権、日鉄の買収阻止判断先送りも(914日・夕)=米紙ワシントン・ポストは13日、米鉄鋼大手USスチール買収計画を巡り、米国政府が計画を阻止するかどうかの判断を11月の大統領選後に先送りする可能性が出てきたと報じた。

 

■日鉄が米政府と協議 当局内も意見割れる(913日)=米政府も一枚岩ではない。CFIUSは省庁横断組織で、国家安全保障の観点から米国の企業や事業、技術に対する外国投資を審査する。議長はイエレン米財務長官で、国土安全保障省や商務省、国防総省、国務省、司法省、エネルギー省、科学技術政策局、米通商代表部(USTR)のトップが委員を務める。委員会での承認は、全会一致が原則。懸念が払拭できなかったり、委員の意見が一致したりしなければ、大統領の判断を仰ぐ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は10日、国務省や国防総省は買収阻止に難色を示していると報じた。日米関係への配慮に加え、防衛力を支える産業基盤の強化に向けて同盟国との協力が必要とみるためだ。
また日鉄はCFIUSに対し、買収申請を一旦取り下げ、大統領選後に再申請することを提案したともされる。再申請するにはCFIUSの承認が必要だ。CFIUSの勧告を受けて大統領が買収禁止の行政命令を出せば難しくなる。日鉄は早期に判断をする必要がある。

 

■日鉄、米当局とUSスチール買収で協議(912日・夕)=森高弘副会長兼副社長とUSスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)が、対米外国投資委員会(CFIUS)の事務局である財務省の幹部など数人と面会した。協議の中身は明らかになっていない。

 

USスチール買収審査「政治圧力に懸念」 日米経済界が書簡(912日・夕)=経団連など日米経済団体は11日、USスチール買審査について「政治的圧力に懸念」との書簡を公表。各団体は政治的干渉が拡大すれば「米国の投資環境は大きく損なわれる」と警告した。

 

■日鉄、労組との交渉を公表(912日・夕)11日、全米鉄鋼労働組合(USW)執行部との交渉の過程を公表した。やり取りは32回に及んだ。日鉄はやり取りを詳細には明らかにしてこなかったが、誤った情報が流布されていることなどを受けて公開に踏み切った。

 

USスチール買収、安保リスクで認識にズレ(97日)=ロイター通信は5日、対米外国投資委員会(CFIUS)が831日付で日鉄とUSスチールに書簡を送ったと報じた。17ページの書簡の中で、USスチールの意思決定が「日鉄の影響下に置かれ、日鉄の利益やグローバルな鉄鋼市場の競争上の地位も考慮に入れることになるだろう」と懸念を示した。

 

*日鉄は書簡が送付直前の29日に、USスチールの製鉄所2カ所へ計13億ドル(約1850億円)超を追加で投資すると公表したばかりだった。書簡受領後の4日には買収した後のUSスチールのガバナンス(企業統治)の方針も明らかにした。この中で「国家の支援を受けている中国鉄鋼メーカーに対抗するための競争力を高める」と強調。米当局が懸念する貿易関連の方針についても、米国籍の委員による「通商委員会」を設置し、その意思決定の過程を文書で記録するといった詳細を発表していた。

 

*日鉄はCFIUSの書簡に対する回答文書で、こうした取り組みを強調したもよう。USスチールの買収はむしろ米国の経済安保に資すると主張しているが、米当局の理解は得られていない。
*バイデン氏は中止命令をいつ決断してもおかしくない状況だ。USスチールのお膝元であるペンシルベニア州は米大統領選の激戦区。買収計画に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)の構成員の支持を確かなものにしたい思惑が働く。従来、大統領による中止命令は中国企業が関連する案件がほとんどで、同盟国である日本の企業に対しては初めてとなる。

 

■日鉄、買収後の統治案 USスチール取締役の過半、米国籍に(9月5日)=日本製鉄は4日、USスチールを買収後のガバナンス(企業統治)方針を発表した。USスチールの取締役の過半数は米国籍とする、取締役は少なくとも3人の米国籍の社外取締役を含む、経営の中枢メンバーは米国籍とすることを新たに公表した。通商対策として、米国籍の委員で構成する「通商委員会」を設置する。USスチールの米国での生産を優先し、日本拠点からの競合品の輸出を優先することはないと改めて示した。またUSスチールの既存の生産設備へ14億ドルの投資を実行する、USスチールによる対外通商措置の請求に関与しないことなどを改めて明記した。

 

■買収不成立なら製鉄所閉鎖示唆 USスチールCEO9月5日)USスチールは4日、日本製鉄による買収が成立しなかった場合、製鉄所を閉鎖し、本社をピッツバーグから移転する可能性があると表明した。買収に反対する労働組合との交渉は難航している。業績や雇用に直結する条件を示し、日鉄による買収を成立させる意思を示す狙いがあるとみられる。

 

■バイデン氏、USスチール買収阻止へ(9月5日・夕)=日本製鉄によるUSスチールの買収計画にバイデン米大統領が中止命令を出す方向で最終調整に入った。米ワシントン・ポストや英フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた。買収計画は安全保障上の懸念がないか、対米外国投資委員会(CFIUS)が審査。CFIUSが承認せず、その旨を勧告した場合、米大統領は中止命令を出せる。FTはCFIUSが日鉄に安全保障上の懸念があると伝えたとし、バイデン氏が、数日内に決断する見通しだと報じた。
*CFIUSの審査を含め、決定に至るまでの過程に問題があるとみられる場合に限り、企業は訴訟を起こすことができるが、企業が勝訴した事例は一握りだ。

 

USスチールの株価、急落(9月5日・夕)=4日のUSスチール株は36ドル台で推移していたが、バイデン米大統領がUSスチール買収計画に中止命令を出す方向との報道後に2割安の27ドル程度まで落ち込んだ。23年8月以来1年1カ月ぶりの安値を付けた。

 

日鉄「適正な審査信じる」(9月5日・夕)=5日、米鉄鋼大手USスチールの買収計画に対してバイデン米大統領が中止命令を出す方針とする一部報道について日鉄は「米政府により、法にのっとり、適正に審査されるものと強く信じている」ともコメントした。

 

■ハリス氏、日鉄のUSスチール買収に慎重(93日・夕)=米民主党の大統領候補のハリス副大統領は2日、ピッツバーグでバイデン米大統領とともに演説。USスチールは「米国内で所有され、運営される企業であるべきだ」と述べ、日鉄のUSスチール買収に反対の姿勢を示唆した。民主党は労働組合を支持母体としている。

 

■日鉄のUSスチール買収、トランプ氏「認めず」(830日・夕)=トランプ前大統領は29日、11月の大統領選で再選すれば、日本製鉄によるUSスチール買収を阻止と改めて明言した。

 

■日鉄、1800億円投資発表 USスチール製鉄所2カ所に(829日・夕)=日鉄はUSスチールの製鉄所への追加の投資計画を発表した。ペンシルベニア州のモンバレー製鉄所では熱延設備の新設または補修に10億ドルを投資し、同製鉄所を数十年以上稼働する。インディアナ州のゲイリー製鉄所では約3億ドルを投資して第14高炉を改修し、同高炉の稼働を今後さらに20年ほど延長するとしている。

 

■日鉄副会長、USスチール買収「年内に完了」(82日)=森高弘副会長兼副社長は1日、USスチールの2412月までの買収完了に強い意志を示した。米当局の審査についても「守秘の観点から内容は申し上げられないが、どんどん進んでいる」と話した。

 

USスチール買収、米以外は全て承認(531日・夕)=日鉄は30日、USスチール買収について、欧州など、米国以外の全ての規制当局からの承認を取得したと発表した。

 

■日鉄のUSスチール買収は「歴史的失敗」(424日・夕)=米鉄鋼大手、クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は23日、「日本企業による、アメリカを象徴する鉄鋼メーカーの買収は歴史的な大失敗だ」と述べた。クリフスは以前、1兆円規模の買収額でUSスチールの買収に名乗りを上げていた。

 

■日鉄、米政治リスク「想定内」 USスチール買収(2428日)=日本製鉄は7日、USスチール買収手続きを予定通り進める方針を示した。約140億ドルの買収資金は金融機関から全額借り入れで賄う。日鉄の有利子負債はUSスチール分も含めて23年末時点の約3兆円から5.6兆円に増える。財務の健全性を示すDEレシオは足元の約0.5倍から約0.9倍に悪化する見込み。

 

*破談なら違約金リスク(28日)USスチール買収のハードルを越えられなかったらどうなるか。日鉄はUSスチールに56500万ドル(約836億円)の「リバース・ブレークアップ・フィー(RBF)」と呼ばれる違約金を払う必要がある。RBFの根拠はこうだ。被買収会社は買い手に資産査定などの段階で機密情報を開示したうえ、再び身売り先を探すなど時間も費やさなければいけない。その損害を補償する意味合いがある。

 

■日鉄、USスチール2兆円買収へ(231219日)=日鉄は18日、USスチール株を155ドル(7810円)で全株取得し完全子会社すると発表。15日終値は39ドルで、約4割のプレミアムを付ける。買収総額は141億ドル(約2兆円)。買収資金は金融機関からの借入金で対応。買収後もUSスチールの社名は維持する。かねて日鉄は世界で粗鋼生産能力1億トン目標を掲げてきた。今回の買収で生産能力は現在の6600万㌧から8600万㌧になる。USスチールは高炉を8基、電炉3基持つ。日鉄は粗鋼生産で世界4位から3位になり、1億トンの目標達成に近づく。USスチールは鉄鉱石の鉱山も持っている。原料炭と鉄鉱石の調達を安定化させることができる見通し。


******日鉄の世界戦略――日経特集記事から**********

 

NIPPON STEELへの挑戦() 日鉄、3極で地産地消(810日)=日本製鉄の海外戦略が歴史的な転換点を迎えている。中国・宝山鋼鉄との協力関係を事実上打ち切り、かわって米印、東南アジアの3極で高炉など上工程から一貫生産する「地産地消」の実現に挑む。

 

*日鉄はUSスチール買収に不退転の覚悟で臨む。米国は先進国では例外的に人口増加が続く。製造業の米国回帰も進むなか、今後も堅調な鋼材需要が期待できる。

 

*橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は、社長就任時の19年に15基あった高炉のうち5基の廃止を決めた。国内にもはや成長余地は乏しい。これまでの海外進出は日系自動車メーカーの海外進出と足並みをそろえてきた部分が大きい。日本から輸出した鋼材を海外の下工程の工場でハイテン(高張力鋼板)などに加工し売ってきた。日鉄が新たに目指すのは海外でも高炉や電炉の上工程から一貫生産する地産地消モデルだ。

 

*日鉄の粗鋼生産能力は現在6600万トンだが、1億トンに増やす方針だ。この上積み分は全て海外で達成する。森氏(副社長)は「3極に集中する」と述べ、米国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)を挙げる。米国と並ぶ成長市場と見込むのがインドだ。インドの鋼材需要は23年の1億2000万トンから30年には1億9000万トンに増える見通し。人口の増加とともにインフラ投資が盛んで鋼材需要は増え続ける。

 

*日本製鉄の海外戦略転換を引っ張ってきた橋本氏は常々「総合力世界ナンバーワン」を掲げる。生産規模では中国勢にかなわないが、品質や脱炭素技術で世界をリードし、グローバルでの存在感を高める。USスチールの買収がその目標を大きくたぐり寄せる。

 

NIPPON STEELへの挑戦() 脱炭素へ電炉転換検討 水素製鉄、実用化は遠く(811日)=国内のCO2総排出量の13%――。鉄鋼業は製造業で最も多いCO2排出量を占める。日鉄は「CO2ゼロ」までの設備投資に4兆~5兆円、研究開発費に5000億円が必要とはじく。

 

30年の導入を見込むのが大型電炉だ。検討対象は八幡など2カ所。大型電炉が導入されれば既存高炉は閉じる公算が大きい。脱炭素技術の本命が水素還元製鉄だ。高炉での実証試験を始めるのは26年。CO2半減技術の確立は40年になるとみている。

 

*技術以上のハードルが脱炭素電源の整備だ。日鉄幹部からは「今の橋本氏の関心は米USスチールよりも原子力発電所の動向に移っているようだ」との声も漏れる。

日本政府がエネルギーの脱炭素化に踏み込めない場合、日鉄の脱炭素技術の実用化は海外が先ということになりかねない。脱炭素の実現には、政府も巻き込んだ議論が必要になる。